どれくらい歩いただろうか。時間や距離の感覚が全くないこの世界では、知る余地もない。かなりの距離を進んだ気がする。けれど、振り向いたらそこにはまだ小窓があるかもしれない恐怖に駆られ、前のみ向いて進む。
これだけ自分しか無い世界にいると、嫌でも考えさせられる。もしかしたら、本当は空っぽなのだろうか。俺の中には、何も無いのだろうか。ただ永遠と無の中を彷徨い続けるだけのなのか。
けれど、何かしなくちゃ。唯立ち止まってるだけだと最悪な結末を迎える。何かしないと、ファミリーの一員として。責務と焦りが足を急かす。
ふと、何かが見えた。遠くに、銀色に仄かに光る何かが。何なのか皆目見当がつかないが、初めて見つけた物だ。
暗闇の中を、小さな光へ向かって走り出す。出口だろうか、武器だろうか。下手したら、黄泉への扉かもしれない。どれだろうか。この状況を打開出来るならどれでもいい。
少しずつ大きくなってきた光は、実は小さいだけで余り遠くではなかった。それは出口でも武器でも扉でもなく、戸惑うしかなかった。
何で、俺の中に犬がいるんだよ。いや、犬じゃないのか?細長い頭と堅そうな毛皮は、犬より狼に似ている。走り寄る俺を無視し、只々上を見上げていた狼の隣に辿り着く。
何を見てるのだろうか。俺が見上げても、何も見えない。
「・・・今日は月が出ていませんね。」
唐突に、声がした。それは男性・・・いや、声変わりする前の子供の様な声。驚いて見渡しても、此処にいるのはやっぱり俺と狼だけで。狼は、未だ静かに何かを見上げている。
「僕は、此処の月が一番綺麗で好きなんですが。」
また周りを見回してると、同じ声がした。驚いて発進方向へ振り返ると、凍るような蒼い目と合った。狼はゆっくりと瞬きをし、口元がまるで笑うように上がる。
『えっ!?え、は、え、喋った!?』
「僕が喋るのがそんなに驚きですか?」
『ダメだ。本格的に狂い始めた。』
「まあまあ、落ち着いて。少し話でもしませんか。」
狼はまるで座る事を諭すように、自分の隣を手で叩く。
『いや、動物と呑気に喋ってる時間は無い。早くしないと仲間が・・・!』
「隼人さん達の事ですね。」
自分の精神世界に狼がいて、それが喋れる事でもう驚かないと思った。
『何で・・・?』
「そりゃ、貴方の中にいるんですから知ってますよ。」
狼は笑うように頭を小刻みに振る。グルグル、と喉奥から低い唸り声の様な声を発している。
「時間なら大丈夫ですから、座ってください。」
一通り笑終わった狼は、未だにオロオロしている俺をまた座るように諭す。
時間が大丈夫ってのはどういう意味だ?解らないけど、初めて見つけた俺以外の何かだ。話してみる価値はあるはずだ。
『大丈夫って、どうゆう意味だ?』
とりあえず黒い床?地面?に座り、疑問を投げつけてみる。
「ここは現実と夢の狭間の様な場所です。貴方が時間を止めたければ、好きなだけ止められますよ。」
『何それ超便利。』
「時間が無いと焦れば焦るほど時間は過ぎます。ゆっくり、落ち着いて息抜きです。」
確かに、俺は焦ってた。早く何とかしないとと足だけ動かしていた。一度深呼吸し、落ち着いてみる。本当に時間が止まらないか解らないけど、時間よ止まってくれ。
「・・・止まったようですね。」
『まじか。』
狼は嬉しそうにしっぽを振る。それは案外頑丈に出来ていて、俺の背中に当たるたび鈍痛が溜まる。
「最近月が見えないのですが、どうしましょう。」
『そういえば、月がどうとか言ってたな。』
「えぇ。何時もは綺麗な満月なんですよ。」
今日は新月ですが、と狼は小さな声で呟く。余りにも悲しそうに呟くから、何とか出来ないかと焦ってしまう。自分の精神世界で時間が止められるなら、念じれば月も出てくるかもしれない。月よ出てこいー、月よ出てこいー。
「念じただけでは出てきませんよ。」
『え?』
なぜ分かったし。
「此処にあるものは、全て存在理由があります。無くなったて事は、存在理由が無いって事です。」
『存在理由?』
「ええ。例えばツナさんなら大空が広がってるでしょうね、貴方達を暖かく包み込む為に。」
『ツナが大空・・・俺は月・・・』
確かツナは大空の守護者だったはずだ。それで、俺は月の守護者。月・・・月の理由?
「夜神さんに月の役目を聞かれた時、何と答えましたか?」
夜神・・・もう、何ヶ月前の質問だろう。何て答えたっけ。確か・・・
『闇に隠れた物を暴く、だったはず。』
「もう一つ、重要な事を言いました。」
もう一つ?
「忘れてしまったんですね。最近までは知ってた筈なのに。」
『忘れた?』
何を忘れたんだ?まさか、骸に!
「いえ、純粋に貴方が忘れているだけです。」
『何を忘れたんだよ。』
「〈守る〉事。」
守る事?
「貴方は、月は〈見守る〉存在と言いました。そして、ファミリーを守るために貴方は強くなった。」
『そういえば、雲雀さんから皆を守ろうとしてたなぁ。』
懐かしいな。もう、あんな平和な日々に戻れないのかな。そんなこと願う権利は無いよな。俺が、雲雀さんを殺しかけたから。
「ほら、そうやって。」
『ん?』
「貴方は、何故ここから出たいのですか?」
『そりゃ、早く出ないと皆が!』
「皆さんを傷つけるからですか。」
『当たり前だ!』
狼はしばらく考える様に俯き、やがてまた俺に向く。
「守る為、じゃ無いんですね。」
『は?』
「〈守る〉為では無く〈傷つけない〉為なんですね。」
『同じことだろ?』
傷つけては守れない。傷つけなければ、守れる。
「違います。」
どう違うんだ。
「傷つけない、傷つけたくないの様な負の感情では、貴方の力を最大限に引き出せません。」
『負の感情?』
「貴方は、自分を仲間を殺そうとする怪物の様に描いています。自分を制御する事で、ファミリーを〈守れる〉と思っている。けれど、それならファミリーから抜けて遠く離れた地に居ても〈守れる〉じゃないですか。」
守れる?ツナ達がいないところに居ても同じ?いや、違う。それじゃ守れない。誰かに襲われた時に相手を木っ端微塵に出来ない。
「ファミリーの側にいて、襲い来る災厄を祓う。それが〈守る〉って事じゃないですか?」
そうだ。近くにいないと守れない。
「ファミリーを覆うとする闇を祓う。太陽と違い、昼でも夜でもファミリーを見〈守る〉。それが貴方の役目では無いんですか?」
皆の側で、皆が見えない敵を見つける。今、その敵は俺・・・骸に操られた〈俺〉だ。
「もう一度聞きます。何故、此処から出たいのですか?」
『彼奴らを・・・骸から守る為!』
狼は嬉しそうに頷き、また見上げる。釣られて俺も視線を上げると、前は無かった月が光っていた。
「綺麗な満月ですね。」
『守る為に光る月、か。』
確かに、忘れてたな。思い出せて良かった。
「こんなに光ってれば、探し物を照らしてくれるかもしれませんね。」
『探し物・・・っ!』
見渡すように振り返ると、これまたさっきまで無かった一つの扉が立っていた。
「行ってらっしゃい。」
『行ってきます。』
立ち上がり、質素な木製ドアを開け、広がる真白な空間へ踏み込んだ。
後書き:
こんにちは。最近ずっとお腹が空いている作者です。
今回は少し長かったですね。書いてて楽しかったので、書き終わるまで気づきませんでした^^;
狼さんですが、後々また登場します。正体はそれまでのお楽しみです。
お気に入り数100超えありがとうございます!
これからも楽しく読んで貰える様、無い文才を最大限に使います!
これから更新速度の変更、または休み・休止があった場合、活動報告を通しお知らせします。
もしいつも通り更新されて無い場合、そこをチェックして下さい。
今回も読んでくれてありがとうございました。
次回もよろしくお願いします!