問題児たちが異世界から来るそうですよ?~誰も知らぬ死物の物語~ 作:shin-Ex-
まあ、苦手ではありますが嫌っているわけではありませんが
それでは本編どうぞ
5人が居住区を通り抜け、貯水池にやってきた。十六夜が手に入れた水樹の苗を設置するために訪れたのだ。
「あ、皆さん!水路と貯水池の準備は整ってますよ!」
貯水池には先客がおり、ジンとコミュニティの子供達が清掃道具を持って水路の掃除をしていた。
「ご苦労さまですジン坊っちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」
「黒ウサのねーちゃんお帰り!」
「眠たいけどお掃除手伝ったよ!」
ワイワイと騒ぎながら黒ウサギの元に駆け寄ってくる子供達。
「ねえねえ、新しい人達って誰!?」
「強いの!?カッコいい!?」
「YES!とても強くて可愛い人達ですよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいね」
パチン、と黒ウサギが指を鳴らす。するとさっきまで黒ウサギに群がっていた子供達はテキパキと移動して横一列に並んだ。
数は20人前後といったところか。中には猫耳や狐耳の少年少女もいた。
(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)
(じ、実際目の当たりにすると想像以上に多いわ。これで六分の一?)
(・・・・・私子供嫌いなのに大丈夫かなぁ)
十六夜、飛鳥、耀は三者三様に感想を心の中で呟く。そんな中・・・・
「・・・・・・シナナくん?あなた何やってるのよ?」
やたらと子供達から距離をとっていたシナナに、飛鳥が声を掛けた。
「いや、俺子供は・・・・・・」
「苦手なの?」
「苦手というか・・・・・子供自体は好きなんだ。ただ・・・・・・純粋すぎて眩しいっていうか・・・・・・」
シナナは死物・・・・・既に死んだ人間だ。故にそんな自分がこんなにも純粋な子供に関わるのは良くないと考えてしまっているようだ。
「あのね・・・・・・気持ちはわからないでもないけどこれからこのコミュニティでやっていくならそれじゃあダメだと思うわよ?ちゃんと前に出てきなさい」
「ちょ・・・・待て飛鳥」
そんなシナナを良しとしない飛鳥は、腕を引っ張ってシナナを子供達の前に突き出した。
・・・・・自分は子供が苦手だというのは完全に棚に上げてるようだ。
「ほら、挨拶」
「わ、わかったよ・・・・・・えっと、こんばんは。俺はシナナって言うんだ。よろしくね」
シナナはしゃがんで子供達と目線を合わせ、少々ぎこちない笑顔で自己紹介した。
「「「よろしく!シナナお兄ちゃん!!」」」
(・・・・・・ごめん飛鳥、やっぱ無理。眩しすぎる)
(わかるけど・・・・・・もう少し頑張りなさい)
(そんなこと言われても・・・)
子供達に満面の笑顔を向けられたシナナは飛鳥とアイコンタクトで会話する。
・・・・・会って僅か1日だというのにここまで通じ合えるとは驚きである。
「シナナさんの隣にいるのが久遠飛鳥さん。残り二人は右から逆廻十六夜さん、春日部耀さんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」
「あら、別にそんなの必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても」
「駄目です。それでは組織は成り立ちません」
飛鳥の申し出を黒ウサギが今までで一番厳しい声音で断じた。それは今日一日の中で一番真剣な表情と声であった。
「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きていく以上、避ける事が出来ない掟。子供のうちから甘やかせばこの子供達の将来の為になりません」
「・・・・そう」
黒ウサギの有無を許さぬ気迫によって飛鳥は黙ってしまった。
今日までの三年間もの間、実質コミュニティを支えてきたのは黒ウサギだった。この言葉はコミュニティを存続させていく上で大切なことを正しく理解している彼女だからこそ言えるものであった。
「・・・・・わかった。つまり支えてくれるこの子達のためにも俺達は頑張らなきゃいけないってことだな。これは責任重大だ」
シナナはふっと笑顔を浮かべながらすぐ近くにいた子供の頭を優しく撫でた。
触れることさえ彼にしてみれば恐れ多いはずだが、それでも子供自体は好きなのだ。
そうしなければならないと判断したのであろう。
「シナナさん・・・・・此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから何か用事を言いつける時はこの子達を使ってくださいな。皆も、それでいいですね?」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
耳鳴りがするほどの大声で20人前後のの子供達が同時に叫んだ。
四人は音の爆弾ともいえるそれを耳に受けた。特にすぐ近くに居たシナナ、飛鳥のダメージは甚大であったが二人はそれを一切表情に出さずにいる。
「ハハ、元気がいいじゃねえか」
「うん、よろしくな」
「そ、そうね」
(・・・・・本当にやってけるかな私?)
その大声に十六夜とシナナは笑顔で応えるが、飛鳥と耀は慣れていないためか何とも複雑そうな表情を浮かべていた。
「さて!皆さんの紹介も終わりましたので水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」
「あいよ」
十六夜はギフトカードを取り出し水樹の苗を発現させ黒ウサギに渡した。
水路は骨格は立派に残っていたが所々ひび割れが目立ち要所に砂利もたまっていた。相当の年季が感じられる。
「大きい貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ」
『そやな。門を通ってからあっちこっち水路があったけど、もしあれに全部水が通ったら壮観やろうなあ。けど使ってたのは随分前になるんちゃうか?ウサ耳の姉ちゃん』
「はいな、最後に使ったのは三年前ですよ三毛猫さん。元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました」
水樹の苗を大事そうに抱える黒ウサギが振り返り答えた。
「龍の瞳?何それカッコいい超欲しい。何処に行けば手に入る?」
十六夜はキラリと瞳を輝かせて黒ウサギに尋ねた。
「さて、何処でしょうね?知っていても十六夜さんには絶対に教えません」
黒ウサギは適当に・・・・しかしきっぱりとはぐらかした。十六夜に教えれば、確実に挑みにいくであろうことは容易に想像できたからだ。さすがに龍を相手に一人で挑まれれば助けようがない。そんな中・・・・・
(龍の瞳・・・・・時間があれば白夜叉あたりに詳細聞いていつか取りに行ってみたいな?)
シナナはそんな不穏なことを考えていたりした。
「シナナくん・・・・・あなた取りに行こうって考えてるわね」
「あ?バレた?」
「なぜだかあなたの考えてることはわかるのよね・・・・・その時は私も連れて行ってちょうだいよ?」
「了解いたしましたレディ」
黒ウサギに聞こえないように小声で相談し合うシナナと飛鳥・・・・・・黒ウサギが聞いたら確実に激怒していたであろう。
「水路も時々は整備していたのですけどあくまで最低限です。それにこの水樹じゃまだこの貯水池と水路を全て埋めるのは不可能でしょう。ですから居住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけを開けます。此方は皆で川の水を汲んできたときに時々使っていたので問題ありません」
「数kmも向こうの川から水を運ぶ方法があるの?」
「はい。みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました」
「半分くらいはコケて無くなっちゃうんだけどねー」
「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外で水を汲んでいいなら、貯水池をいっぱいにしてくれるのになあ」
忙しい黒ウサギに代わってジンと子供達が答えていく。
「・・・・・大変なんだね」
耀はちょっとガッカリした顔をする。もっと画期的で幻想的なものを期待していたんだろう。だがそんなものがあれば水不足で頭をかかることなどなく、水樹であそこまで歓喜することもなかったであろう。
「それでは苗の紐を解いて水門を開けます!十六夜さんは屋敷への水門を開けてください!」
「おう」
十六夜が貯水池に下り、水門を開ける。そして黒ウサギが苗の紐を解くと根を包んでいた布からまるで大波のような水が溢れ返り激流になり貯水池を埋めていく。
「ちょ、ちょっと待てやゴラァ!!流石に今日はこれ以上濡れたくないぞオイ!」
水門の鍵を開けていた十六夜はモロに水を被りながら跳躍して水路から戻って来た。今日一日、散々ずぶぬれになったというのに・・・・・
「うわ!この子は想像以上に元気ですね♪」
そんな十六夜の様子などいざ知らず、黒ウサギは水樹の出す水の勢いを見て喜んでいる。
「たくっ・・・・・またびしょ濡れじゃねえか」
十六夜は不機嫌そうに服を絞った。
「凄い!これなら生活以外にも水が使えるかも・・・・!」
水門を勢い良く潜った激流は一直線に屋敷への水路を通り満たしていく。水樹から溢れ出た水の量は想像以上であり、かつてのように並々と満ちていく水源を見てジンは感動的に呟いた。
「なんだ、農作業でもするのか?」
「近いです。たとえば水仙卵華などの花のギフトを繁殖させればギフトゲームに参加できずともコミュニティの収益になります。これならみんなにもできるし・・・・・」
「ふぅん。で、水仙卵華ってなんだ御チビ?」
え?とジンは何の前触れもなく『御チビ』という尊敬と嘲笑の交わった愛称で呼ばれたことに驚いた。
「す、水仙卵華とは別名・アクアフランと呼ばれ、浄水効能のある亜麻色の花の事です。薬湯に使われることもありますし観賞用にも取引されています。確か噴水広場にもあったはずです」
「ああ、あの卵っぽい蕾のことか?そんな高級品なら一個ぐらいとっとけばよかったな」
「な、何を言い出すのですか十六夜さん!水仙卵華は南区画や北区画でもギフトゲームのチップとしても使われるものですから、採ってしまえば犯罪です!」
「十六夜・・・・公共の場に咲いてる花を毟ろうだなんて流石に引くぞ」
十六夜の言い分にシナナはわざとらしいジト目を向ける。
「冗談だよ冗談。お前も間に受けんなよな御チビ」
「なっ!?僕は・・・・」
カチン、とジンは癪に障ったように言い返そうとする。
「悪いが、俺は俺が認めない限りは"リーダー"なんて呼ばないぜ?この水樹だって気が向いたからもらってきただけだ。コミュニティの為なんてつもりはさらさらない」
しかし十六夜は真剣な顔と凄味のある声でそれを遮り、そう続けた。
「・・・・え?」
「黒ウサギにも言ったが、召喚された分の義理は返してやる。だがもし、義理を果たした時にこのコミュニティがつまらねえことになっていたら・・・・・・どうなるかわかるな?」
ジンは十六夜のその言葉に衝撃を受けた。紳士とも威圧的とも取れる不思議な言葉で語った十六夜。軽薄そうな態度に気が取られていたがどうやらこの男こそが四人の中で最も問題児であるのだろうとジンは悟った。
だが・・・・・
「まあ十六夜の言うとおりだな」
シナナもまた、十六夜の言っていることに賛同した。
「シナナさん?」
「ガルドと口論になったときは子供なんだから助けてもらうのは当たり前だって言ったけど・・・・・だからってずっと助けられっぱなしってのはいただけない。俺達を呼んだからにはジンにもリーダーとしての責務は果たしてもらわないと俺も納得いかないんでね。しばらくは様子を見てやるが・・・・・・できるだけ早いとこしゃんとしてもらわないと困る」
ジンはシナナ達を召喚したコミュニティのリーダー。たとえ11歳の子供であろうと、リーダーならばその覚悟と自覚を持って欲しいとシナナは考えているようだ。
今はまだ経験不足で周りに支えられるのは仕方がないであろうがいずれはその責を果たすことができるようにならねばならない。それが果たせないということはすなわち、コミュニティの崩壊と同義なのだから。
「・・・・・僕たちは"打倒魔王"を掲げたコミュニティです。いつまでも黒ウサギに頼りっきりでいるつもりはありません。次のギフトゲームで・・・・それを証明します」
十六夜の指す"つまらないこと"や、シナナの言うリーダーとしての責務が何かはわからないが、ジンは彼なりの覚悟をもって頷いて返した。
「そうか。期待してるぜ御チビ様」
さっきとは一転し、ケラケラと軽薄な笑いを滲ませる十六夜。ジンとしてはイラッとくる呼び名だが、それでも今は仕方のないことだと言葉を飲み込んだ。
黒ウサギに依存しきっていたジンとは違い水樹を手に入れた十六夜の方が確実にコミュニティに貢献できてているのだから。
「初めてのギフトゲーム・・・・・僕が頑張らないと」
水面に浮かぶ十六夜の月を見降ろしジンは一人呟いた。
(あ~あ・・・・・これはわかってないな)
そんなジンの様子を見ながら、シナナは溜息を吐いた。
ジンの頑張りが無駄だとは思っていないが・・・・・・そうではないのだから。
(まあ、今はまだ誰かがフォローすればいいか。今はまだ・・・・な)
未熟なるリーダーを支える必要があると、シナナはそう思った。
今回は説明は特になしです
それでは次回もお楽しみに