問題児たちが異世界から来るそうですよ?~誰も知らぬ死物の物語~   作:shin-Ex-

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今回でようやく箱庭1日目終了

話の内容はシナナと飛鳥、二人の会話です

それでは本編どうぞ


流れる涙、流れぬ涙

「やはり月は本物に限るな」

 

中庭にて、シナナは自らの真上に昇る月に向かって手を伸ばす。

 

(そういやさっきなんかデカイ音したな・・・・・・子供拐いに来たガルドの手下共に十六夜がなんかしたってとこかな?)

 

先ほど耳にした音の正体に関してそう推察するシナナ。ほぼほぼ当たっていることから彼の能力の高さが伺える。

 

「シナナくん」

 

「ん?」

 

背後から自身の名を呼ぶ声を耳にするシナナ。振り返るとそこには・・・・・飛鳥がいた。

 

「飛鳥・・・・どうしたこんな時間に?」

 

「それはこちらのセリフよ。こんなところで何をしているの?」

 

「何って・・・・・見ての通り月光浴だよ。なにせ10年も幽閉されてたから月なんて見るの久しぶりなんだ」

 

「久しぶりって・・・・・もう箱庭に来てから二回も見てるじゃない」

 

飛鳥が言うのはシナナが具現した月のことであろう。よくよく考えれば夜でもないのにはっきりとした月を二度も見ているとは中々に異常なことである。

 

「アレは俺が出した偽物だ。見た目やポテンシャルが同じでも本物の美しさに及ばない」

 

「私は本物と遜色ないと思ったわよ?それにあなただって私に月が綺麗だって言ったじゃない」

 

「あれはそういうのとは違うっていうか実際月が綺麗かどうかは問題ないというか・・・・いやまあ綺麗じゃなきゃ意味ないんだが」

 

「どういうこと?」

 

シナナの言ってることが理解できずに首を傾げる飛鳥。『月が綺麗ですね』は口説き文句であるため実際月の綺麗さはあの場面ではあまり考慮されていないのであるが、そんなことは飛鳥は知らないようだ。

 

「まあわからないならいいさ。それよりも本当にこんな時間にどうしたんだよ?」

 

「・・・・その前にシナナくんと話がしたかったの」

 

「俺と?」

 

「ええ。色々と聞きたいことがあったから。まあ迷惑なら部屋に戻らせてもらうけれど」

 

「いいえ、可憐なお嬢様とお話できるなど光栄でございますよ?」

 

「可憐って・・・・・もうそういうのいいわよ」

 

呆れたような表情で言う飛鳥。しかし照れもあるようで、顔はほんのり赤い。

 

「ごめんごめん。でもまあ話をするのはいいけど長話はパスな。今日は色々とあったから飛鳥は疲れてるだろ?早めに休んだほうがいい。明日はガルドとのゲームもあるんだしな」

 

「ガルドとのゲームがあるのはシナナくんも同じじゃない。むしろ白夜叉との決闘もあったぶん私よりも疲れてるでしょうし、早めに休んだほうがいいのはシナナくんの方だと思うけれど?」

 

「はははっ、大丈夫だよ。こんな体のおかげで俺は文字通り疲れ知らずなんでね。それにもう休みたくても休めない体でもあるしな」

 

「!?」

 

さもなんでも無いように言うシナナであったが、対照的に飛鳥の表情は驚愕に染められていた。

 

「シナナくん・・・・・あなたもしかして眠ることができないの?」

 

「ああ。死物兵器になってから一睡もできなくなった。必要がなくなったからだろうな。おかげで使える時間が増えて便利だけどな」

 

「・・・・・・」

 

10年も幽閉されていたのに?・・・・・・飛鳥は口から漏れそうになったその言葉を飲み込んだ。

 

微笑みを浮かべながら言うシナナであるが・・・・・眠ることができないのに10年もの間幽閉されていたのだ。そんなの苦痛以外の何者でもないのは明白だ。

 

ただ・・・・・それを口にするのはあまりにも野暮だと飛鳥は思ったのであろう。

 

「ねえ・・・・・他にもあるの?その・・・・・失っているものは?」

 

聞きづらそうにだが・・・・・飛鳥はしっかりとシナナに尋ねる。

 

その表情はどこか影を帯びており・・・・・悲しそうだった。

 

「・・・・・聞きたかったことっていうのはそれなのか?」

 

「・・・・・ええ」

 

浴場で黒ウサギから聞いた飛鳥は、シナナが何を失っているのかが気になってしまったようだ。それで聞きに来たのだ。

 

「嗅覚、痛覚、それと呼吸器官に消化器官・・・・・睡眠の他に失ってるのはこんなところだ。あと気配も消えているんだった」

 

「そんなに・・・・・・消化器官がないということは食べることも・・・・」

 

「できないな。幸い飲み物は飲めるが。味覚も消えてないから味もわかる」

 

「・・・・・・辛くないの?」

 

「もう慣れたよ」

 

彼とて辛くなかったわけではない。ただ・・・・・・そんな辛さはもう慣れてしまったこと。故にいまさら気にしていないのだろう。

 

それを察したからだろうか?飛鳥は・・・・・悲しさから涙を流していた。

 

「飛鳥?なんで泣いている?」

 

「・・・・・わからないわ。でも・・・・悲しいのよ。どうしようもなく・・・・・・悲しいの」

 

(飛鳥・・・・・なんでこの子はそこまで・・・・?)

 

飛鳥の目からとめどなく溢れる涙。シナナはそれを指でそっと掬う。

 

「ああ・・・・思い出した。俺・・・・・もう涙も流れないんだった」

 

飛鳥の涙を見て、思い出したように言うシナナ。

 

今になって思い出したのは・・・・・これまでに涙を流すようなことがなかったからだ。

 

「飛鳥・・・・・ごめんな。心配かけさせて・・・・・ごめん」

 

飛鳥の涙・・・・・それはシナナにとっても辛いものだった。その辛さから、飛鳥に対して申し訳ない気持ちで一杯になる。

 

「本当よ。もう・・・・私を悲しませないで」

 

「・・・・・ああ。約束するよ飛鳥」

 

飛鳥を優しく抱きとめながら返事を返すシナナ。

 

飛鳥はそのまましばらくシナナの腕の中で涙を流し続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みっともないところを見せてしまってごめんなさい」

 

泣き止んだ飛鳥はシナナに謝罪する。頬が赤く、目線を少し逸しているのは愛嬌か。

 

「いやいや。こんなこと言うと不謹慎かもしれないけど・・・・・嬉しかったよ」

 

「え?」

 

「俺のために泣いてくれる人がいるっていうのが・・・・・嬉しかった。ありがとう飛鳥」

 

「べ、別にお礼を言うことじゃ・・・・・・それじゃあ私はもう行くわね」

 

「ああ。おやすみ飛鳥」

 

「おやすみなさいシナナくん」

 

挨拶を交わして、飛鳥は屋敷の中へと戻っていった。

 

「・・・・・はあ、まったく。まさかこんなにも嬉しくなるなんてな」

 

顔を手で覆い隠すシナナ。隙間から見えるその顔は少々赤くなっているように見える。

 

「会って一日でこんなにも・・・・・いや、それは初めて見た時からか」

 

初めて飛鳥を目にしたとき・・・・・・その時からシナナは飛鳥に心を奪われてしまった。

 

自分は死物で本来ならそんな感情許されないと理解しつつも・・・・・シナナは飛鳥に好意を抱いてしまったのだ。

 

だが・・・・・それ故に・・・・・

 

「約束か・・・・・・我ながら呆れるな。そんなもの・・・・・守れないっていうのに」

 

シナナは心を痛めてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛鳥と交わした約束・・・・・・・それは決して守ることができないもの

 

時が経つにつれ、身体機能は徐々に失われてゆくのだから

 

そうでなくとも・・・・・・

 

5年先か2年先か・・・・・あるいは1年、あるいは半年・・・・・

 

シナナに残された時間は・・・・・・・決して長くはないのだから

 

その時が来れば・・・・飛鳥が悲しむのは必然

 

故にシナナは・・・・・・・




シナナが失ったものについて

現在、シナナは消化器官、嗅覚、痛覚、睡眠を失っています

さらに、心臓がないことから血液の循環はなされていません

普通の人間でしたら当然行動不能になるわけですが、死物であるシナナにとっては関係ありません

まら、今後タイムリミットが短くなるにつれて失われていく感覚は増えていきます


それでは今回はここまで

次回もまたお楽しみに
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