問題児たちが異世界から来るそうですよ?~誰も知らぬ死物の物語~ 作:shin-Ex-
どのような終を迎えるか・・・・・・その目でお確かめを
それでは本編どうぞ
「それで?俺に伝えたいことっていうのは?」
洞窟から外に出て、月明かりの下でシナナが飛鳥に尋ねる。
「ええ・・・・・その・・・・・・」
やはりいざ伝えるとなると恥ずかしいのか、言い淀む飛鳥。
それでも伝えなければならない・・・・・・伝えなければいけない。胸に抱いたシナナへの想いを。シナナへの恋心を。
どんな言葉で伝えるのかはもう決まっている・・・・・・そのためにわざわざ外に出てきたのだから。
しばし目を閉る飛鳥・・・・・・そして意を決したように目を開け、その言葉を口にする。
「シナナくん・・・・・・月が綺麗ね」
「!?」
それは、かつてシナナが飛鳥に送った言葉だった。
当時の飛鳥はその言葉が真に意味することはわからなかった。だが今は違うと・・・・・シナナにはすぐに理解できた。
淡く紅に染まる頬、上目遣い気味に見つめる目。飛鳥の今の言葉は、かつてシナナが口にしたのと同じ意味の愛の告白であるのは明白だった。
「その言葉の意味・・・・・・わかってるんだな」
「ええ。確かに今夜は月の綺麗な夜だけれど・・・・・・意味は前にシナナくんが私に言った言葉と同じよ」
「・・・・・いつ知った?」
「ゲームの休止期間中に・・・・・偶然瑠々とそういう話になって知ったわ。その言葉の本当の意味を。シナナくんが私のことどう思っているのか。そして・・・・・私のシナナくんへの想いを」
「・・・・・そうか」
飛鳥からの愛の告白・・・・・・それはシナナを最も喜ばせるものであると同時に、もっとも悲しませるものであった。
飛鳥に好意を抱いているシナナにとってはその言葉は確かに嬉しいものだ。だが、それでも・・・・・・シナナは間もなく消滅してしまうのだ。この愛の告白の意義は・・・・・・もうすぐ無くなってしまう。
それ故に・・・・・悲しいのだ。
だが・・・・・・
(なんでよりによってこのタイミングなんだよ。でも・・・・・ああ、くそっ。なんで悲しさよりも・・・・・嬉しさが上回る?)
それでも・・・・・・悲しいと思う気持ちよりも嬉しいと思う気持ちの方が上回ってしまっていた。
(・・・・・この告白には応えるべきではないのかもしれない。でも・・・・・これは最期のわがまま)
「・・・・・月は確かに綺麗だ」
「え?」
「でも・・・・・月は太陽がなければ輝くことはない。だから俺は月と同じように太陽が好きだ。そして・・・・・俺にとっての太陽はお前だ飛鳥」
シナナは飛鳥の手をとり、飛鳥のことを真っ直ぐに見つめる。
「愛してるよ飛鳥。何よりも・・・・・誰よりも。俺は君のことを愛している」
「シナナくん・・・・・私も。あなたのことを愛しているわ」
互いに相手に対して愛していると伝え合うシナナと飛鳥。そして二人は見つめあったまま顔を近づけ・・・・唇が重なる。
重なっていたのはほんの僅かな間。それでも二人にとっては永遠とも感じられる幸福な時であった。そして唇が離れてもなお、飛鳥の心は幸福で埋め尽くされていた。
しかし・・・・・・その幸福は一瞬のものにすぎない。
「飛鳥・・・・・ごめんな」
「え?」
シナナは飛鳥の額を人差し指で軽くつく。すると、飛鳥の意識は急激に沈んでいってしまう。
「シナナ・・・・・くん?」
意識を完全に手放してしまう直前・・・・・飛鳥が見たシナナは酷く儚げな笑顔を浮かべていた。
「本当にごめん飛鳥・・・・・・でも大丈夫。君が悲しむことはないから」
意識を失って倒れないようにと飛鳥を抱きかかえるシナナは、飛鳥の身体をそっと地面に下ろしながら言う。
「しなな?」
飛鳥と共にいたメルンは、不思議そうにシナナのことを見つめる。
「メルン・・・・・飛鳥のことをよろしく頼むな。といってもこれも覚えてはいられないんだろうけれど」
飛鳥にしたのと同じように、メルンの額をついて眠らせながら飛鳥のことを頼むシナナ。
だが・・・・・それも無意味なものになるであろう。
「・・・・・箱庭に来て一ヶ月。本当に楽しかった。楽しくて楽しくて・・・・・未練ができてしまうほどに」
本当はもっと箱庭に、"ノーネーム"に、飛鳥の隣に居たかった。日に日にその思いは大きくなっていた。
だが・・・・・そんな思いとは関係なしに、とうとうこの時が訪れてしまった。
「さようなら皆。さようなら飛鳥・・・・・・どうか幸せに」
間もなくタイムリミットになるという瞬間・・・・・シナナは"
自らの魂と引換に永遠となる理・・・・・・その内容は・・・・・
(俺は死物・・・・・・本来なら存在しない存在。本来なら存在し得ない存在。故に・・・・・・『シナナ』という存在とそれに関連した記憶を全て・・・・・・・無かったことにする)
自らの魂と引換に永遠となる理は・・・・・・『シナナ』と、それにまつわる記憶が元々無かったこととなるものであった。
(これでいいんだ・・・・・これで誰も悲しまない)
シナナにまつわる記憶はシナナの魂と共に消滅し、シナナの肉体は・・・・塵となった
「おい、お嬢様」
「しっかりして飛鳥」
「う・・・・ん。春日部・・・・さん?十六夜・・くん?」
飛鳥が目を覚ますと、目の前には十六夜と耀が居た。
「あ・・・れ?私どうして・・・・・」
「それはこっちのセリフだ。中々帰ってこないと思って探しに来たらそいつと一緒にこんなところで寝てるんだからよ」
十六夜は飛鳥の傍らで眠るメルンを指差しながら言う。
「心配したよ?」
「そ、そう。ごめんなさい二人共・・・・・・あら?」
心配していた十六夜と耀に謝罪した飛鳥は、何かに気がついたように声を漏らす。
「どうしたの飛鳥?」
「い、いえ。なんでもないわ」
(・・・・・なにかしら?心に穴があいたようなこの感覚は一体・・・・・)
まるで大切な何かを喪失してしまったかのような感覚に陥る飛鳥。だがそれが何が原因で、なぜそんな感覚に陥っているのか飛鳥にはわからなかった。
「ともかく早く帰ろうぜ。黒ウサギ達も待ってる・・・・って、なんだありゃ?」
飛鳥を連れて帰ろうとする十六夜は、それを・・・・・飛鳥のすぐ傍で山なりに積もった塵を見つける。
「これって・・・・・塵?」
「なんでこんなところに山なりに積もってんだ?」
「・・・・・・」
なぜこんなところに塵が積もってるのかと疑問を抱く耀と十六夜。だが飛鳥だけが・・・・・物憂げにその塵を見つめていた。
そんな飛鳥の目の前で・・・・・・風が吹いて塵が舞う。
「あ・・・・・」
ほとんど無意識に塵に向かって手を伸ばす飛鳥。だが、その手に塵が握られることはなく、塵は風に乗って去っていってしまった。
「何やってんだお嬢・・・・様?」
「あす・・・・か?」
塵を掴もうとした飛鳥に視線を向けた十六夜と耀は驚いていた。
なぜなら・・・・・飛鳥の目からは大粒の涙が流れていたからだ。
「飛鳥?どうして泣いてるの・・・・?」
「・・・・わからない。でも・・・・・なぜだかわからないけれど悲しいの。すごくすごく・・・・・悲しいの」
自分でもどうしてこんなに悲しい気持ちになっているのかわからない飛鳥。ただただ涙を流し、ただただ悲しみにとらわれてしまっていた。
「・・・・・飛鳥」
「・・・・・お嬢様」
そんな飛鳥を見ていられなかったのか、耀は飛鳥の頭に、十六夜は飛鳥の肩に優しく手を置く。
「・・・・・あすか」
飛鳥と同じように眠っていたメルンもいつの間にか目を覚まし、飛鳥の涙を手ですくう。
それでも・・・・・・飛鳥が泣き止むことはなかった。
「うっ・・・・うぅ・・・・」
とめどなく溢れる涙。それは存在したはずの感情の現れ。
記憶などない・・・・・・『彼』のことなど覚えていない。それでも飛鳥の心は『彼』の喪失を理解し、飛鳥に涙を流させる。
飛鳥の涙は・・・・・・しばらくの間止むことはなかった。
これは死物の物語
誰も知らない・・・・・誰も覚えていない
悲しき死物・・・・・・『シナナ』の物語
これにて・・・・・・御終い
ここまでお付き合い頂きありがとうございます
最期にシナナが理の強制執行を使って作った理は『自分とそれにまつわる記憶、痕跡の消失』
これこそタイトルの『誰も知らない死物の物語』を意味することであり、そうすることで誰にも悲しみを与えずに消えようと願ったのです
もっとも、結果的に飛鳥は悲しみにくれてしまったわけですが・・・・・
なお、シナナとそれに関する記憶が消えると、彼らの記憶は改竄されます
そして記憶が改竄された結果が『原作』ということになると私は考えております
重ねて、ここまでお付き合い頂きありがとうございます
読者の皆様には心から感謝しております
それではこれにて・・・・・どうかこの優しい死物の物語を記憶の片隅に留めておいて頂けることを願います