魔王の玩具   作:ひーまじん

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日刊ランキング11位……いきなり上がっててびっくりしました。

この作品を読んでくださってくれている方、ありがとうございます!




結局のところ、文実は荒れていく。

文化祭まで二週間を切った頃。

 

ついに予想していた出来事が起きた。

 

俺が会議室に向かった頃、いつも以上にてんやわんやの状態で対応に追われ、隼人くんもいつもの爽やかスマイルが引きつっていた。

 

ここ最近、この人数でも回せていたのに何事かと思えば、いつもと違うところに気がついた。

 

妹ちゃんがいないのだ。

 

接した機会は少なかれど、あの妹ちゃんがサボるわけもない。ともすれば、体調不良か何かだろう。

 

そう思っていると、俺が会議室に入った直後にまたも会議室の扉が開かれた。

 

入ってきたのはスーツの上から白衣を着た綺麗な女性。見た感じ、目つきの鋭さからキツそうな印象を感じさせるが、それも含めてかなりの美人だと思う。

 

「比企谷」

 

「はい?」

 

比企谷くんが返事をすると、その人は近くまで行くと、神妙な面持ちで話し始めた。

 

「雪ノ下なんだが、今日は体調を崩して休みだ。一応学校には連絡があったんだが、文実の方に連絡は来てないんじゃないかと思ってな」

 

やはりというべきか、妹ちゃんは体調を崩しての欠席らしい。

 

と、そこでふと思った。

 

以前、雪ノ下陽乃は妹ちゃんは一人暮らしをしていると言っていた。

 

となると、看病する人間なんているはずもないし、仮に家でぶっ倒れてしまったら、誰も助けてはくれないだろう。

 

そしてそれは隼人くんも同じらしく、はっと気づいたように顔を上げる。

 

「雪ノ下さん、一人暮らしだから誰か様子見に行ったほうが」

 

「そうなんだ……。じゃあ誰か雪ノ下さんの様子、見に行ってあげてくれない?こっちは任せてくれて良いから」

 

めぐりちゃんが比企谷くんと隼人くんに言う。

 

「先輩達だけで大丈夫ですか?」

 

「うーん……うん。私でわかる事なら対処出来ると思うし、はるさんの彼氏さんもいるから大丈夫、と思う」

 

口調こそ自信なさげではあるものの、妙に頼り甲斐のある微笑を見せる。それが俺に全幅の信頼を寄せてでなければ、特に問題はない。

 

まあ、妹ちゃんの事はあの二人のどちらかに任せてしまえばいいだろう。俺が言ったところで何ができるわけでもない上に、あちらも気を使うだろうし。

 

「会長っ!」

 

バンっ!と勢いよく会議室の扉が開かれ、生徒会役員がつかつかと入ってきた。

 

「どうしたの!?」

 

「実は、スローガンの事で問い合わせが来てまして……」

 

「うわぁ!こんな時に!」

 

早速大きな問題が起きたらしい。しかもスローガンか、さては著作権にでも引っかかりそうなものでも引用したのか?

 

「さて、雪乃ちゃんの様子はどっちが見に行く?出来れば、片方は残って手伝って欲しいけど」

 

「俺は行っても構いませんよ」

 

「そっか。なら、比企谷くんはどうする?」

 

「……気が利く奴が行ったほうが良いんじゃないですかね。そっちの方が役に立つでしょうし」

 

成る程、そういう意見か。

 

「なら、比企谷くん。君が行くといい」

 

「そっすね………はい?」

 

まさか自分が指名されると思ってなかったらしく、比企谷くんは素っ頓狂な声をあげた。

 

「なんで俺が……」

 

「気が利く奴が良いと言うなら、そいつはここに残ったほうが良い。理由は……」

 

「気が利く人間には頼りやすい。人手が少ない状況ではより多く事態を捌ける人間がいた方が効率が良い、ですよね?」

 

そう言うと隼人くんは同意を求めるように俺の方を見た。

 

まあ、その通りだな。見ていて思ったが、比企谷くんは仕事はできるが、それは頼られているというよりも押し付けられているといった感じだ。そしてそれでは違うところで仕事が滞っているだけで、何の解決にもなっていない。

 

だが、隼人くんなら本当の意味で頼られる。押し付けでも、委託でもない。皆から必要とされている存在だ。

 

「……わかりました。俺が行きます」

 

そして比企谷くんもそれに納得したようで頷いてからさっきの女性ーー女教師のところに向かった。

 

「……どう思います?」

 

「何が?」

 

「比企谷の事です」

 

あまりにも唐突に隼人くんは問うてきた。

 

質問の意味がいまいちわからないが、訊かれた以上答えるほかない。

 

「俺は彼の事をあまり知らないけどね。とりあえず、社畜っぽいって思った」

 

寧ろ、この文実とやらでは社畜を一人体現していた。他人に仕事を投げられ、嫌がりながらも淡々とこなし、こなせばこなした分だけ、また投げられる。彼ほど社蓄を体現している人間はこの場にいないだろう。

 

しかしながら、それを作り出したのは他でもない雪ノ下陽乃だ。そして遠因として俺も。それらを考慮して、彼には妹ちゃんのところに行って欲しかった。

 

「隼人くん。君はどう思う?」

 

「優秀だと思います。しなくて良い事もして、雑務という名目で全ての役職に触れてきた彼を役立たずなんて誰も言えないはずだ」

 

「優秀か。俺は君の方が有能だし、優秀だとは思う。皆からも信頼されているし」

 

「そう言われると悪い気はしませんよ……その言葉に裏がないのなら」

 

目を細めてそう言う隼人くんに俺はどこか納得してしまった。

 

ああ、やはりこいつも雪ノ下陽乃に影響を受けた人間なのだと。

 

隼人くんはさっき俺が褒めていない(・・・・・・)事を悟った。そう言う風に言ったつもりではあったが、こんなにもあっさりと悟られるとは思ってもみなかった。まあ、元々雪ノ下陽乃のように真意を隠して話すのは得意じゃないから、彼からしてみればかなり露骨だっただろうけど。

 

なら、隠す必要もないか。

 

「正直同情するよ。君みたいな人間ほど、世の中ってのは生き辛いもんだ。羨ましいだろ?比企谷くんみたいな人間は」

 

俺が問いかけても、隼人くんは苦笑するだけで答えない。

 

これが彼の生き方ということか。誰からも頼りにされ、必要とされ、それに応じ、いつしか常態化されてしまう。そしていずれは末端の人間にまで手を差し伸べ、最後には一番大事なものを選ぶ権利さえも奪われ、全てを掬えと強要される。取り零しなど許さないと。果たしてこれほど残酷な生き方などあるのだろうか。何かを捨てなければ、何かを得ることのできないのが人間で、彼は今現在自己というものを捨てているのではないだろうか、誰もが求める存在であるが為に。

 

「悪い。踏み込み過ぎた。妹ちゃんが来る前にちゃちゃっと片付けようか」

 

「そうしましょう」

 

これ以上は気まずくなるだけだと思い、話はそこで終わらせる。彼としても都合が良いだろう。今の彼の仮面を壊す事は誰も求めていない……ただ一人を除いては。

 

そしてそれをすべきは俺じゃない。それは彼自身の役目なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、妹ちゃんは無事文実の方に顔を出すようになった。

 

本当にただの体調不良だったらしく、次の日からはまたいつものように顔を出し、黙々と仕事をしていた。

 

そして今は昨日問題となったスローガンについてだが……

 

『面白い!面白すぎる!~潮風の音が聞こえます。総武高校文化祭~』

 

誰だ、こんなの採用したやつ。埼玉じゃん。饅頭じゃん。まんま流用じゃん。

 

そんなわけで今日はオブザーバーとして俺も出席。そして隼人くんと魔王も。

 

ここまで俺がいるからという理由で何もしてこなかった魔王、雪ノ下陽乃だが、今日はめぐりちゃんからのお願いで参加するらしい。因みに俺がお願いするには土下座してでないと駄目なんだと。誰がするか。

 

しかしながら、これ自体が文実としての秩序が失われていることの何よりの証であると言える。

 

実際、人は集まったもののら会議は一向に始まる気配を見せず、挙げ句の果て、取り仕切るはずの相模ちゃんは書記の子とくっちゃべっている。

 

やる気あんのかと言いたいところだったが、その前に見かねためぐりちゃんが声をかけた。

 

「相模さん、雪ノ下さん。みんな揃ったけど」

 

言われて相模ちゃんはお喋りを中断し、妹ちゃんを見た。

 

すると、必然的に全員の視線が妹ちゃんに集まるのだが、それでも妹ちゃんの視線は議事録をぼーっと見つめたままだった。

 

「雪ノ下さん?」

 

相模ちゃんに声をかけられて、ようやく妹ちゃんははっと顔を上げる。

 

「……それでは委員会を始めます。本日の議題ですが、城廻会長から連絡があった通り、文化祭のスローガンについてです」

 

 

気を張った様子の妹ちゃんが整然と議事進行を始める。

 

まずは挙手でアイデアを求めるものの、積極性のない集団ではそれも大した意味を持たない。誰もやる気などないのだから、真剣な会議もお喋りのネタ程度だ。

 

すると、比企谷くんの隣に座っていた隼人くんが挙手をする。

 

「いきなり発表っていうのも難しいだろうし、紙に書いてもらったら?説明は後でしてもらうとしてね」

 

「そうね……少し時間をとります」

 

俺と隼人くん、そして雪ノ下陽乃を除く各自に白紙が回される。ちゃんと行き渡ってはいるが、書いているのは数えるほどで、ネタを書いてもそれは本当にネタで真剣なものじゃない上に提出もしない。ようは戦力外だ。

 

しかし、弛緩しきった集団でも表には出さない真面目な子もいる。人前には出たくないが、頼まれればするし、意見を求められれば発表でさえなければする。そういう子もいるのだ。

 

回収された紙のうち、スローガンが記入されているものはホワイトボードに板書される。

 

『友情・努力・勝利』

 

んん?ジャンプの鉄板ですか?俺はマガジン派です。

 

『八紘一宇』

 

いや、言いたい事はわかるし、大体そんな感じだろうけど、堅すぎるなぁ……多分妹ちゃん辺りだな。

 

『ONE FOR ALL』

 

「お、ああいうの、ちょっと良いよな」

 

どうやら隼人くんはお気に召したらしい。ああ、隼人くんみたいなタイプは好きそうだし、横文字だと高校生は受けるよな。

 

しかしながら、この状態の文実を皮肉ってるとしか思えないような内容だな。

 

「一人はみんなの為に。結構好きなんだ、ああいうの」

 

「なんだ、そんなことか。簡単だろ」

 

「え?」

 

「一人に傷を負わせてそいつを排除する……一人はみんなの為に。よくやってることだろ」

 

わーお、凄い感性の持ちだった、比企谷くんは。

 

これには俺も目から鱗だった。そういった立場になったことのない人間にはわからず、行き着けない答えだ。

 

少しの間、比企谷くんと隼人くんは睨み合うかのように互いを見つめるが、すぐに比企谷くんの方が視線を逸らした。

 

というのも、次は相模ちゃんの番であるからだ。

 

「じゃあ、最後。うちらの方から『絆~共に助け合う文化祭~』っていうのを……」

 

どのツラ下げてそんな事を言ってんだ、てめえ。

 

相模ちゃんのスローガンを見た瞬間、反射的に言いかけたが言葉を飲み込む。

 

人は怒りが大きすぎると呆れてものも言えなくなるが、それを超えるとやはり怒りが来るらしい。

 

「うわぁ……」

 

そして比企谷くんもまた彼女の口から発せられたそれに「何言ってんだ、こいつ」となったらしく、その反応に周囲がざわついた。

 

「……何かな?なんか変だった?」

 

頬を引きつらせながら、相模ちゃんは元凶である比企谷くんに問いかける。

 

「いや、別に……」

 

彼は悟っている。言うだけ無駄だし、本人に自覚がないなら怒りを煽るだけだ。話にもならない。

 

だからこそ、比企谷くんは会話以外の意思疎通の方法をとった。

 

言いかけてやめるというのは、とても気になる行為だ。

 

どんなにくだらないことでも、それがどうかをわからなければ、好奇心が煽られる。

 

「何か言いたいことあるんじゃないの?」

 

「いや、まぁ別に」

 

「ふーん、そう。嫌なら何か案出してね」

 

不機嫌そうに相模ちゃんが言うと、待ってましたと言わんばかりに比企谷くんは提出した。

 

彼は一体どんなスローガンを出してくるのか、そう期待していたら……

 

「『人~よく見たら片方楽してる文化祭~』とか」

 

度肝を抜かれた。

 

世界が凍った。

 

先程の『ONE FOR ALL』の比ではない。あれ以上の皮肉をわかりやすい形でぶっこんできた。

 

だ、だめだ……が、我慢しないと……。

 

「あっははははっ!バカだ、バカがいる!もう最っ高!ひ、ひぃ~、あー。ダメだお腹痛い」

 

静寂を打ち破ったのは雪ノ下陽乃の大爆笑だった。ば、馬鹿野郎……!

 

「は、ははははっ!てめえ、ハル!笑ってんじゃねえよ!我慢できねえだろうが!げほげほっ!はははは!」

 

「だってしょうがないじゃん!あははっ!あんなの、あんなの笑うしかないよ!」

 

雪ノ下陽乃の大爆笑で俺の方も決壊した。

 

だって無理だろう。あんなネタをぶっこんできたら、笑うしかない。

 

雪ノ下陽乃と違って空気が凍ってるのを理解しているのに笑いが我慢できない。

 

「陽乃。笑いすぎだ。陽乃の連れ合いもだ」

 

「んんっ!すいません」

 

いかん。流石に笑いすぎた。

 

「あははは、は。……ん、んんっ」

 

雪ノ下陽乃もまた咳払いをして笑いを納めた。

 

「いやぁ、私はなかなか良いと思うけどね、うん。面白ければOK」

 

「文化祭的にはダメだと思うけど、一周回って有りかもな。一発ネタにしてはかなり笑える」

 

「比企谷……、説明を」

 

「いや、人という字は人と人とが支えあってとか言ってますけど、片方寄りかかってんじゃないっすか。誰か犠牲になる事を容認してるのが『人』って概念だと思うんですよね。だから、この文化祭に、文実に、相応しいんじゃないかと」

 

呆れて問いかけた女教師も、その一言で全てを察したような表情になった。

 

全くその通りだ、としか言いようがなかった。

 

もし、この文化祭に相応しいスローガンを決めるとなれば、今の比企谷くん以上に良い答えを出せる人間なんて、一人もいない。文実というものに参加した人間の殆どが誰かの犠牲を容認し、そして自らを肯定しているのだから。

 

「犠牲というのは具体的に何を指す」

 

「俺とか超犠牲でしょ。アホみたいに仕事させられてるし、ていうか人の仕事押し付けられてるし。それともこれが委員長言うところの『共に助け合う』って事なんですかね。助け合った事がないのでよく知らないんですけど」

 

駄目押しとばかりに付け足された言葉によって、全員の視線が相模ちゃんに集中する。

 

わなわなと震える相模ちゃんを確認して、それぞれ今度は横を向き、ざわつきが駆け巡る。

 

隣から隣へと、小さな声が伝播し、寄せては返す波のように中央へと帰って、そして断絶した。

 

中央にいるのは今までその実力を遺憾なく発揮し、専制政治を貫いてきた雪ノ下雪乃の姿。

 

一体、比企谷くんの話した真実(戯言)にどんな罰を下すのか、期待を込めた視線が雪乃ちゃんに集まった。

 

彼女が比企谷くんのスローガンを断ずれば、彼らは比企谷くんを悪として自らを正当化できる。

 

しかしながら、その期待はお門違いだろう。

 

普通に考えれば、彼女はそれを肯定し、比企谷くんの言う寄りかかっている存在達を断ずる。殆ど話した事もないが、雪乃ちゃんはどこまでも真っ直ぐだ。その場の空気に合わせて、なんて事はしないだろう。

 

だが、雪乃ちゃんは俺の想像でもなく、皆の期待に応えるでもなく、すすすっと議事録を上にあげて顔を隠し、机に突っ伏すように背中を丸めて、肩を上下に震わせていた。

 

わ、笑ってるのか……?あの堅物の妹ちゃんが?

 

ひとしきり奇異な光景を見守る時間が過ぎ、ふっと短い吐息の後に、雪乃ちゃんは顔をあげた。

 

「比企谷くん」

 

名前を呼び、比企谷くんを真っ直ぐに見つめると、雪乃ちゃんは、それはもう晴れがましく、花が咲き誇るような笑顔で告げた。

 

「却下」

 

そう言って、雪乃ちゃんは真顔に戻ると、すっと背筋を伸ばし、咳払いを一つした。

 

「相模さん。今日は解散にしましょう。どの道碌な案が出そうにないもの」

 

「え、でも……」

 

「これで一日消費するのは愚かな選択よ。実行委員全員各自で考え、明日決めましょう。以降の作業については全員全日参加にすれば、この遅れも十分取り返せる……異議はありませんね」

 

有無を言わせない迫力に、誰も異論を唱えない。いや、唱えたとしても、それが不可能である事を悟っている。

 

「そう、だね。じゃあ、みんな明日からまたお願いします。お疲れ様でした」

 

不満そうな相模ちゃんの号令のもと、三々五々がめいめいに立つ。

 

誰もが比企谷くんの近くを通る時に睨むようにしてその背中を一瞥していく。民主主義のこの世の中では、きっと比企谷くんが悪で、図星を突かれて何も言えないだけの彼等が正義なのだろう。実にくだらない。

 

「残念だな……。真面目な子だと思ってたよ……」

 

そして、おでこちゃんさえも、いつものほんわかした笑顔を潜め、悲しそうに呟くだけだった。

 

対して彼も弁明はしない。まるでその通りだと言わんばかりだ。

 

「比企谷くん」

 

溜息を吐いて立ち上がる彼を俺は呼び止める。

 

「そのやり方、嫌いじゃないんだけどな。いつか痛い目みるぞ」

 

「はぁ……ご忠告ありがとうございます」

 

理解したのか、していないのかわからない曖昧な返事をして、比企谷くんは去っていった。

 

そしてそれと入れ違いに雪ノ下陽乃がやって来る。

 

「いやぁ、本っ当に面白いね、比企谷くん」

 

「あれには度肝を抜かれたけどな。彼、メンタル強すぎだろ」

 

普通の人間ならわかっていても、あんなスローガンぶっこめない。それが出来るとすれば、彼か、或いは目の前にいる魔王ぐらいだ。まあ、出した人間次第では賛否が分かれるが。

 

「ただ、お前が気に入った理由はわかった気がする。比企谷くんは想像以上に面白い人間だ」

 

「へぇ〜、だからさっきあんな事言ったの?」

 

「余計な事するなって言いてえのか?」

 

「別にー。景虎の意見一つで変わるような子なら、私が興味持つわけないでしょ」

 

ごもっともだ。

 

忠告はしてみたものの、きっと比企谷くんには届いていないだろう。俺は所詮他人だ。よくて顔見知り程度の人間の忠告を馬鹿正直に聞いていたら、彼はこんなにも捻くれ者になっていないだろう。それが彼の持ち味だし、良いところといえばそうなんだが、誤解を受けやすい性格だ。

 

しかし、まあ。

 

理解してくれる人間がいるなら、それはそれでいいのかもしれないな。

 

入り口で話す比企谷くんと雪乃ちゃんを見て、なんとなくそう思った。

 


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