「向日葵ちゃん、このチョコレートはこの間のお返しだよー」
お昼休みの教室で、赤座さんが丁寧にラッピングされたお菓子を私にくれました。
きっとバレンタインデーの時に上げたクッキーのお返しに違いありませんわ。
「あら、別によろしかったですのに。ですが、ありがたく頂きますわね」
「うんっ、受け取ってー!」
「はいっ、私からも〜。この間のマフラー作りのお手伝い、とっても助かったから!」
赤座さんの隣に立つ吉川さんからもお返しを頂きました。
「吉川さんも、ありがとうございます」
こんなに貰えるなんて嬉しいですわ。
「ぶーっ……向日葵ばっかりズルいぞ!」
二人に比べて隣席の櫻子と来ましたら、この態度のデカさです。
「ちょっと櫻子、あなたは二人に何もあげてないでしょう?」
「あれ、そうだったっけー……。えへへっ、気持ちはイッパイ上げたんだけどなぁ〜」
「全く……とんでもない横暴野郎ね」
「とにかく私もお菓子食べたいのー! 食べたい食べたい! 向日葵ばっかり贔屓だー!」
ああ、また始まってしまいましたわ。
赤座さんは困り果て、吉川さんは呆れてますし。
「櫻子っ、ちょっと静かになさい!」
「だ、大丈夫だよ櫻子ちゃん! ちゃんと櫻子ちゃんの分も用意してるから!」
赤座さんは慌てて鞄の中からラッピングされたお菓子を取り出し、櫻子に差し出しました。
「えっ——いいのあかりちゃん!?」
「う、うんっ。み、みんなにあげようと思ってたからぁ……」
赤座さんの事ですから残りのお菓子はきっと、船見さんと歳納さんに差し上げるつもりだったのでしょう。
これは櫻子の暴走を食い止めなければ可哀想な事に。
「わーいっ! ありがと、あかりちゃーん!」
「あははぁ……はうぅ……」
櫻子ったら全く察してくれませんのね。
「櫻子、帰ったらあなたの好きなプリンを作ってあげますから、その包みを赤座さんに返してあげなさい」
「ひ、向日葵ちゃん。別にあかりは——」
「えーっ、向日葵のプリンかあ……あかりちゃんのお菓子と悩むなぁ〜」
こいつ、何様ですの。
「あなたねぇ……分かりました。櫻子には今後一切お菓子を作ってあげませんから」
「えっ——なんでそうなるわけ!? 食べないなんて一言も言ってないだろ!」
「櫻子が我儘だからいけないんですわ!」
怒りのあまり、思わず私は机を両手で叩いてしまいました。
「なんだよ、このおっぱい魔神め!」
「またそれですの!?」
頭に来た私は、思わず櫻子の脳天をチョップしましたの。
「痛った! やったなー!」
「きゃあっ!?」
そのお返しか分かりませんが、櫻子が私の胸を強く鷲掴みしてくるのですから堪ったものではありません。
「何するんですの!」
「あだっ——先に手を出して来たのはそっちだろ!」
「櫻子が喧嘩を売って来たからでしょう!?」
こうして私達は取っ組み合いの喧嘩を始めてしまったのです。
「さ、櫻子ちゃん、向日葵ちゃんっ——喧嘩は駄目だよぉ!」
「あははー、また始まったぁ。ホント仲良いねぇ二人とも」
「よくありません!」
「よくないから!」
櫻子とセリフが被って尚のことムカつきますわ!
学校の帰り道、私は櫻子と顔を合わせないよう一緒に帰宅しておりました。
それは櫻子も同じようですけれど。
お昼休みのとき、最終的に櫻子は赤座さんに謝りながらお菓子を返したので丸く収まりましたけど、喧嘩した怒りは未だに治まりません。
もう10分も歩いてますが、私達は一言も口にしておりませんでした。
本当でしたら少しでもお話をしたかったのですが、とてもそんな気分にはなれませんわね。
「……ひまわり、お昼はゴメン」
そんなとき櫻子が唐突に謝ってきたものですから、思わず振り返ってしまいました。
「どうしましたの、いきなり?」
「だって、もうお菓子作ってくれないんでしょ……謝っとかなきゃ損じゃん」
相変わらず余計な言葉が多いですが、櫻子が謝ってくれて嬉しいです。
「ふふっ……櫻子がそこまで謝ってくれるのでしたら、許してさしあげますわよ?」
「なんだよっ、向日葵の癖に生意気だなー!」
「あなたが言いますの……」
もっと素直になればよろしいのに。
「と言うかあなた、まだ喧嘩を売る気?」
「あぁ違う違うっ! そのさ……えっとぉ……」
櫻子が自分のカバンをゴソゴソと漁っております。
何をする気なのでしょうか。
「どうしましたの?」
「ちょっと待ってよ——あった! ほれ、ありがたく受け取りやがれ!」
「あっ、はい……」
櫻子がくれましたのは、ごてごてにラッピングされた小袋でした。
「それ、この前のお返しだから!」
「ええと……斬新な包み方ですわね」
「ムカッ——文句あるなら返せー!」
「ああいえっ……櫻子、ありがとう!」
呆気に取られて気の利いたお礼は言えませんでしたが、心の底から温まるほど嬉しく、笑顔があふれて止まりません。
「あ、うん……。へへっ、早速開けてよー」
「えっ、帰り道で? まあ構いませんけれど……」
袋を破かないよう気を付けながら開けますと、その中にはプリンの形をした市販のチョコが10個入っておりました。
この間の当たれのチョコと違って大丈夫そうな物ですので、ホッとしてしまいます。
「ふふ……櫻子らしいですわね」
「へへーんっ、もっと褒めるが良いぞ! 早く食べてー!」
「ええ——はむっ」
早速一口頬張りますと、やはりただのプリン味のチョコなのですが、櫻子の思いが籠っていて甘美なものでした。
「もぐもぐ——とっても美味しいですわっ」
「よしっ、じゃあ私にもくれー!」
だけどもしかしたら、この子が食べたかっただけなのかもしれませんわね。
「はあ……ほら、口を開けなさいな」
「あーん——ぱくっ! もぐもぐ……」
ですが美味しそうに食べる櫻子の顔を見ていると妙に安心しますので、些細な事は気にしません。
「うめーっ!」
「ふふっ……ほら、2つ目あげるわ」
「わーいっ、向日葵ありがとー!」
結局私が2つ食べたのに対して櫻子が8個も食べてしまいました。
これではお返しなのか怪しいですが別に構いませんわ。
こんなに楽しそうにはしゃぐ櫻子を、すぐ隣で見ていられるんですもの。
「向日葵〜、帰ったら本物のプリン作ってー!」
「ええ、構いませんわよっ」
「わーい! やったーっ!」
今ならどんな櫻子の我儘でも喜んで受けてしまいそうで恐いですわ。
だって、今日はこんなにも嬉しくて温かい3月14日なのですから。