GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて斯く戦えり ~帝国の逆襲~   作:異世界満州国

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イタリカ編
エピソード13:イタリカへ


     

 難民数の増加に危機感を抱いたのは、伊丹ら自衛隊だけでは無かった。

 

 

 夜も更けた頃、ホドリューやテュカ、コダ村の村長といった面々は駐屯地近くに作られた仮設住宅に集まっていた。

 

「さて、始めるとするか……」

 

 最初に口を開いたのは、ホドリューだった。現在、アルヌスにいる難民たちは彼とコダ村の村長がまとめ役となって取り仕切っている。一応は『アルヌス協同生活組合』という名前もついており、事実上の自治組織として機能していた。

 

 

 この日は彼の要請で、難民たちの中でもリーダー的な立ち位置にいる者たちが集められていた。

 

「夜遅くに済まない。今回みんなに集まってもらった理由は、他でもない――俺たち難民数の増加の件についてだ」

 

 今のところ、自衛隊と難民の間では目立って大きなトラブルは起こっていない。自衛隊側はなんとか本国に請け合って食糧などの配給を続けてくれているし、ホドリューら組合幹部も難民同士の諍いを仲裁したり、様々な不満に対して対策を打っている。

 

 

「テュカの話では、『緑の人』たちの受け入れ能力もそろそろ限界らしい。これ以上難民の数が増えれば、今まで通りの配給を受けることは難しくなる」

 

「しかしホドリューよ、我々もギリギリのところまで切り詰めているのだ。この上さらに生活環境が悪化すれば、住民の不満は爆発するぞ?」

 

 主な問題は、食糧と住居の2つだ。

 

 現在、アルヌス生活協同組合で面倒を見ている難民の数は1,000人ほど。しかし自衛隊から配給される食料と仮設住宅で養える数は、せいぜいその半分程度でしかない。

 

 つまるところ、明らかに配給される量が足りていないのだ。

 

 

 だが、これに対して自衛隊を責めるのは筋違いというものだろう。

 

 そもそも「アルヌス付近はほぼ無人」との調査結果を受けていた自衛隊では難民の保護を想定しておらず、むしろ一ヶ月も経たない内に膨れ上がった難民に対して「よく500人分も揃えられたものだ」という状況だったのだ。

 

 

 しかし難民たちからしてみれば、堪ったものではない。食事は一日2回(おまけに少量)、しかも慣れない米食は小麦文化の特地住民にストレスを与えていた。ベッドも病人や怪我人に優先されるため、多くの難民はぎゅうぎゅう詰めにされた状態で床に雑魚寝といった有様だ。

 

「ホドリュー、お前さんもここ数日だけで治安が悪くなっているのは知っているじゃろう? このままでは、いずれワシらだけでは、抑えきれくなる」

 

 堪った不満は、治安の悪化となって表れる。食料や睡眠スペースを巡る争いはまだ可愛いほうで、盗みやレイプ、果ては殺人未遂にまで発展することもあるのだ。

 

 ホドリューたちも対策として自警団を結成してはいるが、後手に回っているのが現状。このまま事情が悪化すれば、最悪、自警団員が悪事に手を染める恐れもある。

 

「でも、これ以上『緑の人』たちに頼むわけには……」

 

 ティカの言葉に、コダ村の村長も苦悩の表情を浮かべて頷いた。

 

 組合の受けている配給は、いわば圧倒的な強者である自衛隊からの施しなのだ。自衛隊の機嫌を損ねて見捨てられたが最後、難民たちはアルヌスで飢え死にするしかない。

 

「荒れ地を耕して畑の開墾もやってはいるが、まだ時間がかかりそうだしな。どうしたものか」

 

「せめて緑の人たちから仕事でも貰えればいいんだが、『関係者以外立ち入り禁止』だかで基地の中には入れてもらえないし……」

 

「戦場跡に放置されてる、龍の死骸なんかはどうだ? たしか龍の鱗や牙は高く売れるはず……」

 

「それなら前にも試したが、どうした訳か『緑の人』は全く興味を示さないんだ」

 

 他のリーダーたちも、八方ふさがりの状況に嘆息する。漂う重苦しい空気に呑まれ、ティカも重苦しい表情のままポツリと呟いた。

 

「丘の兵隊に身売りするしかないかも……」

 

 次の瞬間、ホドリューの顔から血の気が引いた。

 

「ダメだ! お父さんは許さんぞ!」

 

 両目をバッテンにして、嫌だ駄目だ反対だと繰り返す。絵にすると物凄く間抜けである。

 

「でもお父さん、他に方法が……」

 

 娘の言葉に、ホドリューはぐっと詰まった。パパにとって、娘の貞操は命の次ぐらいに大事なのだ。振り上げた拳が力なく項垂れ、通夜状態の沈んだ顔になる。

 

 

「……待てよ」

 

 

 その時、コダ村の村長が何かを閃いたようだった。

 

「お主、先ほど自衛隊に竜の牙を売ろうとして失敗した、と言っておったな?」

 

「あ、ああ。射撃の的にしかならんと言われて門前払いされたよ」

 

「つまり、ワシらが竜の死骸をどう扱おうと文句は無い訳じゃな?」

 

 村長の言葉に、他のメンバーもハッとしたように顔を上げる。

 

 

「そうか……! 竜の牙が『緑の人』たちに売れないのなら、売れるところまで持っていけばいいのか!」

 

 

「それなら、イタリカに俺の知り合いがいるぞ。あそこなら人も多いし、帝国軍の新しい駐屯地ができたって話も聞くから無事だろう」

 

「そうと決まれば、明日の朝にでも皆に知らせねば。これから忙しくなるぞ」

 

 こうして話はトントン拍子で進み、今後の方針が定まった。

 

 

 まずは皆で戦場跡から、金になりそうなものを採取する。それをイタリカまで運んで売りさばき、売り上げを食料や日用品などの不足分に充てるのだ。

 

 うまくいけば農機具や織機など、今後の町づくりに役立ちそうな機器の購入費用も捻出できるかもしれない。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 イタリカ――テッサリア街道とアッピア街道の交点に発展した帝国有数の交易都市である。

 

 

 この領地は代々フォルマル伯爵家が収めていたのだが、前当主とその妻が事故で急死したために残された三姉妹の間で後継者争いが発生。

 

 泥沼化すると思われたお家騒動だったが、最終的にこれを制したのは当時まだ11歳であった三女・ミュイであった。

 

 

「結局のところ、やはり最後にモノをいうのは力だな。そう思わないか、ハミルトン」

 

 

 イタリカ南門にある城壁にもたれるようながら、第三皇女ピニャ・コ・ラーダは己の侍従武官に問いかける。

 

「帝国が三女ミュイに味方すると宣言した途端、長女も次女も兵を引っ込めた。帝国という力が、この街に平和をもたらしたのだ」

 

「まぁ、タダじゃないんですけどね」

 

 ハミルトン・ウノ・ローは書類を片手に、苦笑しつつ頷いた。

 

 現在、イタリカにはピニャの薔薇騎士団を含む5000の帝国兵が睨みをきかせている。三女ミュイの要請を受けて「治安維持」のために駐屯している、というのが表向きの理由だった。

 

 

 表向き、というのは帝国には別の思惑があったからだ。

 

 帝国はミュイの擁立と引き換えに、イタリカに新しい駐屯地を建設することを要求。ミュイがこれを認めたためイタリカの北門付近を増築する形で、帝国軍駐屯地が急ピッチで建造されている。

 

 

 ピニャたちが派遣されてた理由も、イタリカ駐屯地建造の監督と現当主の警護の両方を兼ねての事だった。

 

「しかし陛下は何故、今この時期に駐屯地を造ろうとなさったのでしょうか。たしかにアルヌスに異世界の軍が現れてからというもの、この地域の治安は極度に悪化していますが……」

 

 原因は、アルヌスで敗北した諸王国軍の元兵士たちにある。敗戦によって周辺諸国は兵士たちに払う金が無くなり、生きるために盗賊に身をやつす他なくなった敗残兵たちが、手当たり次第に略奪するようになっていたからだ。

 

 かくいうイタリカも一度は盗賊団の襲撃を受けている。しかし一個軍団もの帝国兵に勝てるはずも無く、あっさりと返り討ちにあって追い散らされていたのだが。

 

 

 しばらくピニャがハミルトンの報告を聞いていると、不意に鋭い声が飛んできた。

 

 

「――姫様! 物見櫓へ来てください!」

 

 

 声の主はグレイ・コ・アルド。スキンヘッドの男性侍従武官で、実戦でたたき上げたベテランの騎士でもある。

 

「グレイ、どうした! 敵襲か!?」

 

「いえ。 ですが、正体不明の集団がこちらに近づいてきています!」

 

 グレイの報告を受けて、ピニャはハミルトンと共に急いで南門の櫓へと向かう。既に櫓で待機していたグレイの指さす方向を見ると、たしかに見慣れない集団が接近してくるのが見えた。

 

「見慣れない集団だな。それにエルフだと? 急いで腕のいい弓手を……」

 

 言いかけたところで、ピニャの顔が驚愕に染まった。

 

 

「あ、あれは……ロゥリィ・マーキュリー!?」

 

 

「えぇ!?」

 

「ほぉ、あれが噂の死神ロゥリィですか」

 

 ピニャの驚愕の絶叫にハミルトンも驚愕し、グレイは冷静にロゥリィを観察している。

 

「ピ、ピピっ、ピニャ殿下! あれ、あれです!あれを見て下さい!!」

 

「落ち着けハミルトン。気持ちは分かるが………っ!?」

 

 ハミルトンの取り乱した様子にピニャは諫めようとするがロゥリィの背後から現れた存在に息を呑み、グレイも戦場で見せた気を張り詰めた表情となった。

 

 『馬無し馬車』――ガソリン自動車のことなど知る由もないピニャたちは、高機動車のことをそう呼んでいた。いや、より正確には「そう聞いていた」というのが正しい。

 

「姫様、あれが噂の……」

 

「ああ。私もこの目で見るのは初めてだが、アルヌスの生き残りから聞いた証言にあった特徴とよく似ている。間違いない、あれが噂の――」

 

 

 

 異世界の軍隊だ。

 

 

 

 ぞくり、と寒気がした。噂に聞く、異世界の軍。遠征に出かけた帝国軍を壊滅させ、諸王国軍10万でも敵わなかった強大な敵。

 それが今、目の前にいるのだ。

 

「ひ、姫さま!ど、どうしましょう!?」

 

 

「――総員、戦闘配置につけ」

 

 

 ピニャが低い声で命じると、全員に緊張が走る。

 

「戦うおつもりで?」

 

 グレイが尋ねると、ピニャは首を横に振った。

 

「陛下からは、機が熟すまで戦闘は避けろと厳命されている。向こうに総攻撃の意思がなければこの場は穏便にやり過ごす」

 

 ただし念のため油断はするな―—ピニャはそう言うと、ハミルトンに近くに来るよう手招きする。顔を近づけ、小声で要件を告げた。

 

「急いでフォルマル家の者を呼べ。それから、彼らにはこう伝えろ」

 

 それを聞いたハミルトンの表情が変わる。彼女はコクコクと頷くと、弾けるように走り去っていった。

 




 ここら辺はほぼ原作準拠です。ただしイタリカにいる帝国軍は増強されている模様。

 帝国軍ですが、兵士の付けている鎧がロリカ・セグメンタタ(板札鎧)であることから、帝政ローマ初期の軍団をモデルとし、1個軍団5000名ほどとしました。
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