GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて斯く戦えり ~帝国の逆襲~   作:護衛艦レシピ

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炎龍編
エピソード18:炎龍、再び


 勝利のために手段を選ばぬ帝国のやり口に、嫌悪感を抱いたのは伊丹だけではなかった。

 

「ふざ……けるなッ!」

 

 狭い地下牢に響く怒りの声。だが、それを発したのは伊丹ではない。

 

「栗林!?」

 

 栗林志乃は突撃銃を構え、その銃口を目の前にいる老人――すなわちモルト皇帝に向ける。

 

「――陛下!」

 

 相手が武器を持ち出したのを見て、地下牢にいた親衛隊兵士が皇帝をかばうように立ちふさがる。中にはすっぽりとフードを被った者もおり、魔術師ではないかと思われた。

 

「ほう、なかなか度胸のある小娘ではないか。命の重さの違いをよく弁えている」

 

 ここで皇帝を撃ち殺せば、捕虜になっている日本人は間違いなく報復に殺されるだろう。だが皇帝にはそれだけの価値があるし、捕虜にはその程度の価値しかない。

 

 さらに言葉を続けるべく皇帝は口を開こうとするが、すでに栗林の自制心は限界を超えていた。

 

「だったら……アンタの両手足を撃ち抜いて、捕虜にするだけよ!」

 

 細い指が銃の引き金を引く。

 

 耳をつんざくような発砲音と共に銃口から飛び出す、鉛の塊。

 

 

 しかしそれが皇帝に直撃する寸前――キィインッと甲高い金属音が響いた。

 

 

 **

 

 

「なっ……!」

 

 驚愕の声をあげたのは、栗林だけではない。伊丹にテュカ、そしてレレイまでもが目を見開いている

 

 

 目の前には、異様な風貌の亜人が立っていた。ボロボロの服をまとう、青い龍人族の少女。

 

 

 銃弾が皇帝を貫く寸前、突如としてフードを着けていた護衛の一人がそれを弾き飛ばしたのだ。その人物こそが、いま目の前にいる龍人の少女。

 

 

「……ジゼル」

 

 

 ロゥリィが苦々しげに呟いた。

 

「どうして、貴方が帝国の人間と一緒にいるのかしら?」

 

「お姉さまこそ、どうしてエルフや魔法使い、それにヘンテコなオッサンと一緒にいるのですか?」

 

 逆に聞き返すジゼル。

 

「主上さんの奥様になろうって人が、汚らわしいヒト種なんかの肌に触れさせるとは不調法が過ぎませんか?」

 

「誰がハーディの嫁なんかになるもんですか」

 

 とても友好的とは言いがたい空気で向き合う両者。伊丹が「どういう関係か説明してくれ」と言わんばかりの視線を向けると、ロゥリィはため息を吐いた。

 

「この子はジゼル――冥王ハーディの使徒よ。ハーディの命令で、私を狙ってるの」

 

 使徒といえば亜神に等しいか、それに近い能力を持っている。どういう理由で帝国側についているのかはまだ不明だが、皇帝はとんでもない隠し玉を用意していたようだ。

 

「でも、変ね……」

 

 ロゥリィの赤いの瞳が深みを増して、ジゼルの方を睨む。

 

(ジゼルはたしかに強い。けど、私に敵わない。それは本人も知ってるはず……)

 

 だとしたら、答えは一つだ。

 

 

 ――ジゼルは何か別の、自分に対抗できる手段を持っている。

 

 

 その推測が正しかったと分かるまで、長い時間はかからなかった。

 

 

 **

 

 

 イタリカの上空を、8機の攻撃ヘリが進んでいく。あと数分も飛行すれば、後退する帝国軍の分隊の真上に到着できるはずだろう。

 万が一に備えてヘリは高高度――敵の弓矢が届かない場所から攻撃を行うよう指示されている。

 

「――ターゲット捕捉。敵は200人ほどの小部隊、機銃掃射を開始します」

 

 ヘリ部隊は標的をロックオン。膨大な数の銃弾が帝国軍残党の頭上に降り注ごうとした――次の瞬間。

 

「――隊長、10時方向から何かが接近しています!レーダーには反応ありません!」

 

(レーダーに反応なし? 帝国のワイバーン隊か?)

 

 自衛隊の保有するレーダー装備は基本的にミサイルや戦車、航空機などの現代兵器を迎え撃つためのものであり、人間を感知するミリ波レーダーなどは基本的に装備されていない。

 

 自衛隊側の武器・兵器として、特地派遣部隊には万一の事態に備えて放棄しても惜しくない廃棄・退役予定の、あるいは書類上は廃棄済みだが手続きの遅れにより保管されていた兵器類が優先的に装備されている。

 

 これら旧型装備が特地で重宝される理由として、使い捨てにできる、敵対勢力にレーダーなどのエレクトロニクス技術が存在しない、自衛隊側も人工衛星がないためにGPSネットワークやデータリンクシステムが一切使えず、最新装備はデッドウェイトにしかならない、という理由もあった。

 

 

 爆音が響く空。その彼方、太陽から何かがこちらに接近している――。

 

(まさか、あれは……!)

 

 驚愕と共にそれを凝視する。噂に聞く、特地最強のモンスター。

 

 特地の言い伝えでは、その姿が上空に瞬いた時、世界は終焉を迎えるとも言われてきた。今、それが自分たちの頭上に出現している――。

 

 

 

「あれが――――炎龍か!!」

 

 

 **

 

 

 炎龍の最初の標的になったのは、編隊飛行をしていたヘリコプター部隊であった。

 

「――隊長! 左40度方向に何か、ドラゴンのようなものが……!」

 

 言い終わらない内に、上空から轟音――やや遅れて副官の絶叫が響く。炎龍の口から放たれる高音のブレスが、ヘリに搭載されていた弾薬と燃料に引火したのだ。

 

「――2号機が……!」

 

「――くそっ!撃て、撃てぇ!」

 

 隊長の号令と共に、各機が機銃の照準を炎龍に合わせて集中射撃を開始する。

 

 だが、炎龍の鱗は頑強で致命傷となるようなダメージを与える事はできなかった。

 

「化けものめぇ……」

 

 指揮官が呻くように呟いた。悔しさに奥歯を噛みしめる。

 

「――隊長、再びブレス来ます!」

 

「散開しろ!最大出力だ!急げぇぇッ!」

 

 ヘリ部隊は炎龍から逃れるべく、方向を転換しようとした。

 

「なっ」

 

 直後、強烈な衝撃が彼らに襲い掛かった。直撃は避けられたが、機体のバランスが崩れる――咄嗟の操縦で姿勢を立て直そうとするも、一機がバランスを失って隣にいた僚機に激突した。

 

(まずい……下手をすれば全滅する)

 

 隊長は己の死を覚悟する。だが、炎龍が彼らに与えた試練はそれより遥かに過酷なものだった。

 

「隊長、炎龍が……市街地へ向かっています!」

 

「しまったっ……!」

 

 地上部隊は分隊単位に分かれて掃討作戦、住民の避難、消防、そして捕虜の監視にあたっている。こうした小部隊での活動は複数のタスクを同時に処理できる反面、まとまった火力の発揮は困難だ。

 

 もちろん帝国軍の敗残兵程度なら何の問題もないが、炎龍となれば話は別である。

 

 空飛ぶ戦車と喩えられる防御力を支える鱗はモース硬度9に相当する硬さを持ち、速力はF-4と同等以上で機動力はハリアーか戦闘ヘリ並、加えて電波の反射率がステルス並みに低くレーダーに映りにくいというインチキ仕様。おまけに初見でパンツァーファウストを回避しようとする知性を持っており、そんな化け物に奇襲を受ければどうなかは、火を見るより明らかであった。

 

「炎龍が来るぞぉ!」

 

「逃げろぉ!」

 

 炎龍がブレスを吐く。自らに抵抗する、鬱陶しい存在を排除するためだ。大きく開けられた口から、禍々しい輝きを伴った炎が伸びる。

 

 まず標的となったのは、最初に炎龍に抵抗した87式自走高射機関砲とM42ダスター自走高射機関砲であった。

 

「ひぃ……ッ」

 

 何百万円もする税金の塊が、一瞬にして爆散した。まるで出来の悪い花火が炸裂でもするように、自衛隊の最新装備がそれを操る隊員の命と共に爆ぜていく。爆散、爆散、また爆散。

 

 だが、炎龍の活動はそれで終わらない。逃げまどう市民たちにも牙を剥いた。逃げる人畜を焼き払い、イタリカの家を燃やしていく。

 

「ぎゃああああああっ……!」

 

 避けることも出来ず、炎と倒壊した櫓によって押し潰されるイタリカの住民たち。血と内臓が飛び散り、地面に濁った染みが出来てゆく。

 

 続いて炎龍のブレスが粉ひき所に引火。炎が噴き上がり、あちこちで誘爆を繰り返す。運悪く横転した車から漏れたガソリンに引火したものまであり、炎は瞬く間に燃え広がった。

 

 炎と絶叫の中、なおも炎龍は活動を止めようとはしない。辺り一面を紅蓮の業火で包み込み、目につく全てのものを次々に破壊する。

 

 

 まさしく地獄絵図であった。

 

 帝国有数の穀倉地帯が、火炎の地によって飲み込まれていく。

 

「おお、神よ……」

 

 轟く爆音と地鳴りの中、神に祈りを捧げる者もいた。燃え盛る炎と煙が、さらにイタリカを破壊しつくしていく。多くの者は無力に逃げまどい、ただ無言でそれを見守る事しかできなかった。

 




皇帝が勝負を仕掛けてきた! 

皇帝「いけ、炎龍! 君に決めた!」

皇帝は炎龍をくりだした!


伊丹はどうする?

▶たたかう
部下
バッグ
にげる


 ジゼルが皇帝と一緒にいる理由はまた今度

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