GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて斯く戦えり ~帝国の逆襲~   作:護衛艦レシピ

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エピソード2:嵐を待ちながら

    

「当然の事ですが、その土地は地図に載ってはいない。“門”の向こう側はどうなっているのか?何があるのか?それについては一切不明です。

 

 今回の事件では多くの犯人を逮捕しました。現在、彼らは法を犯した犯罪者、もしくはテロリストに過ぎないのであります。

 

 “門”を破壊しても事態は解決しません。また日本国内のどこかに、門が現れるという不安を抱えることになります。

 

 

 ならば、門の向こう、特別地域を日本国内と考える事にしました。

 

 

 そしてわれわれは向こう側を知り、そこにいる勢力を交渉のテーブルに着かせるために、赴く必要があると判断したのです。たとえ危険を覚悟してでもです。

 

 我が日本国政府は特別地域の調査と銀座事件の犯人の逮捕、補償獲得の強制執行のために、門の向こうに自衛隊を派遣することに決定いたしました」

 

 

    ―――銀座事件直後、当時の首相・北条重則の演説より

 

 

 ◇

 

 

 門の内側に繋がる世界、『特別地域』略称"特地"からの侵略を退け門を占拠する事に成功した自衛隊は特地での実態調査及び事件の再発防止を兼ねて門へと進出した。

 

 これに対してアメリカ及びEUは協力を惜しまないと表明。一方でロシアや中国等は門は国際的な管理下にと表明するも、首相はこれを黙殺。

 

 最終的に幹部、三曹以上を中心に編成された3個師団、およそ2万人もの大部隊が派遣される事になる。

その中には『二重橋の英雄』こと、伊丹耀司の姿もあった。

 

 彼は多くの一般市民を皇居へと避難させてその命を救い、銀座事件終結への糸口を切り開いた立役者でもある。

 

 こうして紆余曲折を経て、特地派遣部隊―—通称:特派はゲートに入ったのであった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 場所は変わって帝都『ウラ・ビアンカ』――フォルマート大陸にある超大国・通称『帝国』の首都であり、アルヌスの丘より東に約600km離れた場所に位置する。

 

 その中央に位置する帝国元老院議場では、この超大国を統べる有力者たちが異世界からの侵略者への対応を話し合っていた。

 

 

「率直に言って、今度の遠征は大失態でしたな。帝国の保有する総戦力の約6割が喪失。皇帝陛下は如何なる対策をご講じられますかな?」

 

 元老院の中央では、元老議員の一人・カーゼル侯爵が演説を振っていた。その批判の矛先は、目の前にいる人物――現皇帝モルトだ。

 

 皇帝モルト・ソル・アウグスタス……若き頃は自ら騎士団を率いて敵を退け、領土の拡大と支配の強化に成功した。文武の両面で辣腕を揮い、帝国史上最大の版図をを作り上げた英傑。今は前線から退いているものの、その威厳はいっこうに衰えを知らない。

 

「カーゼル侯爵、卿の心中は察する。外国や諸侯達が一斉に反旗を翻し、一斉に帝都に攻め込んでくるのではないかと不安なのであろう?」

 

 帝国始まって以来の大事件なのだが、皇帝の顔に悲壮感は見られない。むしろ余裕しゃくしゃくといった表情である。

 

「しかし我らが帝国は危機のたび皇帝、元老院、そして民衆が一つとなって切り抜けてきたではないか。250年前のアクテク戦役のように」

 

 信じてもいない台詞が、皇帝の口からすらすらと流れるように飛び出す。

 

「如何なる精強な軍勢であろうと百戦百勝は存在せん。故に此度の敗北の責任は問わぬ。だが、まさか他国の軍勢が帝都を包囲するまで“裁判ごっこ”に明け暮れようとする者はおらぬな?」

 

 皇帝が言い放つと、周りの議員からどっと笑い声が起きる。

 

 してやられたカーゼル侯爵は苦々し気な表情になるも、それ以上の追及は諦めた。変に問題を大きくすれば、多くの議員を敵に回しかねないからだ。

 皇帝は失敗の責任うやむやにする事で、何人かの議員に恩を売りつつ自分の責任をも不問にしたのだった。

 

 

「ですが陛下、敵は見たことも無い魔術を使う模様。遠くで音がしたかと思えば、次の瞬間には兵がなぎ倒されている……儂も長年魔導師をしておりますが、あんな魔術は見たこともございません」

 

 カーゼル侯爵の隣にいた、ゴダセン議員が恐怖を顔に滲ませながら発言する。彼が1週間前に行われた“門”防衛戦で僅か2日足らずの内に潰走し、命からがら帝都に帰還したのは記憶に新しい。

 

 

「何を弱気なことを! 我らには戦いあるのみ!兵が足りぬなら属国の兵を根こそぎかき集めればよいッ!!」

 

 がっしりとした体格のポタワン議員が、ゴダセン議員の弱気な発言を遮る。

 

「窮地だからこそ、こちらから攻めこむのだ!先手必勝という言葉もある!」

 

 威勢のいいポタワン議員の発言を受けて、賛成・反対の意見が共に方々から沸き上がった。

 

 

「然り!敵が我らの領土を侵略しているのですぞ!?座して国土が蹂躙されるのを見ているおつもりか!」

 

「しかし我らは二度も敗走しているのだ。兵力も不足しているし、財政的な余裕も……」

 

「ここは防御を固めて持久戦に持ち込み、しかる後に反転攻勢をかけるべきだ。兵站の利は我らにある」

 

「敵は異世界の軍だけではない。遠征の失敗を聞いて、各地の不満分子が勢いづいている。奴らに連合の機会を与えぬためにも、短期決戦に持ち込むべきだ」

 

 

 正論と野次の飛びあいが玉座に響き渡る中、それを制するように皇帝が立ち上がる。

 

「余はこのまま座視する事を望まぬ。なぜなら民を侵略者の手から守る事もまた、帝国の義務だからだ。諸国に使節を派遣し、援軍を求めよ」

 

 議員たちから「おおっ」とどよめきの声が漏れる中、皇帝は両手をあげて高らかに宣言した。

 

 

 

「我等は連合諸王国軍(コドゥ・リノ・グワバン)を糾合し、アルヌスの丘を奪還するッ!!」

 

 

 

 議会は拍手と歓声に包まれ、主戦論が大勢を占める。カーゼル侯爵に出来たことは、せいぜい「アルヌスの丘は人馬の骸で埋まりましょうぞ」と吐き捨てるぐらいだった。

 

「陛下!」

 

 そしてもう一人の反対派、ゴダセン議員も血相を変えて叫ぶ。

 

「おやめくださいッ! 彼らと戦えば、帝国は破滅しますッ!!」

 

 

「――何を言うか」

 

 

 皇帝はゴダセン議員を睨み付け、威厳のある声でハッキリと告げた。

 

 

 

「逆だ。 ――いま戦わねば、帝国は滅ぶのだ」

 

 

 

 **

 

 

 やがて議員たちが退出していき、広い会議場には皇帝だけが残された。

 

 

「……」

 

 会議が終わってから、皇帝はずっと無言のままだった。その額には、深い皺が刻まれている。

 

 

(ついに来たか……)

 

 3か月――決して早くは無いが、充分な戦力を揃えた上での侵攻ならば遅くは無い。

 

(欲を言えばあと1週間……いや、せめて5日間だけでもあれば)

 

 帝国は安泰だったというのに――少しばかり悔しそうに、皇帝は唇を噛む。

 

 

 自衛隊がそうであったように、帝国もまた3か月という時間を利用して様々な対策を打っていた。

失った兵数を埋めるための徴兵、その軍資金を集めるための特別税、諸王国への根回しと懐柔工作……その甲斐あってか、なんとか現時点で諸王国が離反するという最悪の事態は免れた。

 

 そして何より――。

 

 

「……陛下」

 

 

 静寂を破るように、澄んだ声が会議場に響いた。まだ女性というには若い、少女の声。

 

 皇帝が振り返ると、そこには青髪を短く切った少女が立っていた。ややもすれば無表情になりがちな顔が特徴で、足まであるローブを羽織っている。

 

 

「師匠がお呼びです」

 

「そなたは確か……カトー老師の弟子、だったか?」

 

 皇帝の問いに少女――レレイ・ラ・レレーナはこくんと頷く。

 

 3か月前、コダ村で魔法を学んでいた彼女と師匠であるカト―老師宛てに、一通の封筒が届けられた。やたら豪華な装飾が施された封筒を興味津々で開けると、中には皇帝の名義で「帝都まで来てほしい」との旨が書かれた手紙が入っていた。 

 

 

 そして突然の事に面喰らいながら帝都まで来た2人の子弟に、皇帝は「ある計画」を持ち掛けたのだった――。

  

   




帝国サイドで登場するレレイさん。
なんせ帝国始まって以来の危機ですからね。お国のために尽くすのが(ry

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