GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて斯く戦えり ~帝国の逆襲~   作:護衛艦レシピ

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エピソード20:炎龍との戦い2

 

 

 目も眩むような閃光と轟音――伊丹はとっさに地面に伏せることで爆風から身を守る。

 

「やったか……?」

 

 初めてとは思えないテュカとレレイの連携攻撃。それは確かに炎龍に命中した。

 

 どうか死んでいてくれ……両手を合わせて相手の不幸を祈る伊丹。

 

 やがて戦場の霧が晴れるとそこには――。

 

 

 

 炎龍の顔があった。

 

 

 

 片腕を失い、怒り心頭の炎龍と目が合ってしまう。

 

(こっち見んな……!)

 

 伊丹は慌てて炎龍に背を向け、後ろ向きに全力で走り出す。そのまま壊れた車両の脇をすり抜け、それを盾にすべく隠れようと――。

 

「あ、やば……」

 

 直後、呼吸すら困難になるほどの強烈な火炎放射が閃光と轟音を伴って襲い掛かる。盾にしていた車両の残骸が吹き飛び、地面に叩きつけられる。

 

(ぐ……これが炎龍の威力……!)

 

 肌が焼けるような激痛に表情を歪める。直撃は回避したものの、火炎放射によって周囲の温度は急上昇――伊丹は歯を食いしばりながら必死に息を止めた。もし今、息を吸おうとすれば肺が焼けてしまうだろう。

 

 もう少し第3偵察隊の援護射撃が遅ければ、恐らく伊丹は肺をやられていただろう。桑原の撃ったライフルグレネードが運よく炎龍に命中し、炎龍は体勢を立て直すべく飛翔する。

 

「ど、どうしようイタミ! 効いてないみたい!」

 

 背後から焦ったようなテュカの声が聞こえる。伊丹はゴホゴホとせき込みながら、無線で答えた。

 

「落ち着けテュカ! 今の攻撃、だいぶ効いてると思うぞ! 死ぬほどじゃないみたいだけど!」

 

 背後から「フォローになってない」と栗林の厳しいツッコミが入るも敢えて気にしないことにする。

 

「ああ、くそ! テュカ、レレイ――もう一回やるぞ!」

 

 失敗したものは仕方がない。気持ちを切り替え、炎龍を倒すべく再び伊丹は武器を取った。

 

「ここで諦めるわけにはいかない!次は絶対に成功させる!」

 

 頷く二人を後目に、伊丹は炎龍めがけて発砲を開始。

 

「第3偵察隊は右手の住宅街を壁にしつつ、援護射撃を展開する!そこならブレスから隠れられる場所も多い!」

 

「「了解!」」

 

 応答と同時に、発砲しながら移動を開始する隊員たち。伊丹も後退しながら、ちらりと横目でロゥリィが戦っている方角を一瞥する。

 

(頑張れってくれ、ロゥリィ……)

 

 単純な実力ではロゥリィの方が上だが、流石にジゼルに新生龍2匹では分が悪いのか苦戦しているようだった。ロゥリィはハルバードを振りかざして突進するも、3匹は紙一重で回避しつつ、後方や側面に回り込もうとする。

 

 それでも彼女は回避の隙に生じる一瞬の隙を狙ってハルバードを叩きつけようとするが、3匹は強引な方向転換でそれを回避――宙を切ったハルバードの刃が地面に叩きつけられ、土砂を吹き飛ばす。

 

 3匹は翼が生えているのをいいことに、機動力を生かして空中戦に徹する構えのようだ。

 

 

 **

 

 

「隊長に、近づくなぁっッ!」

 

 栗林の雄たけび――振り返ると、こちらに爆走してくる二台の高機動車が見えた。誰かが車両を見つけて支援に駆けつけてくれたのだ。同時に銃声が連続し、炎龍は翼を翻して通り過ぎていく。

 

「よくやった!全員、射撃準備!目標は炎龍、眼を狙うぞ!――撃てぇっ!」

 

 伊丹の号令と共に高機動車はその場で停止、精密射撃を開始する。しかし彼らの努力をあざ笑うかのように、7.62mm弾は炎龍の鱗にあっさりと弾き返しされてしまう。

 

(やっぱり駄目か……さっき避けたのは、ただ単に驚いただけ……)

 

 やはり、火力が足りない。もっと強力な火力が欲しい。

 

「隊長、乗って下さい!」

 

 キィーッと車輪がドリフトする高い音が響き、伊丹の目の前に高機動車が停車する。黒川が開けたドアから伊丹が乗り込むと、高機動車はそのままアクセル全開で走り出した。

 

「伊丹……?」

 

 レレイが不安そうに尋ねた。伊丹は大きく息を吸うと、無線で早口に告げた。

 

「――みんな聞いてくれ。俺にいい考えがある」

 

 

 **

 

 

 伊丹が考えた作戦は単純なものだった。

 

 

 ――とにかく、ありったけの火力を新生龍に叩き込む。

 

 

 

 しかし大型の重火器で、飛翔する目標である炎龍を捉える事は容易ではない。

 

 そこで伊丹はあらかじめ決めた地域に重火器を配置し、待ち伏せを行う事にした。双眼鏡で周囲を見回し、待ち伏せに適した場所を探す。

 

「あっちの方に教会みたいな建物がある。そこへ行って、ありったけの対戦車ロケット弾を準備してくれ」

 

 キルゾーンまでの誘導には、二台の高機動車を使う。二台を囮とするのは、どちらかが撃破されても作戦を継続できるようにするためだ。

 

「運転手は俺と黒川、射手は栗林と富田だ。残りの皆は桑原のおやっさんの指示に従って、待ち伏せの準備をしてくれ」

 

 伊丹の提案に、第三偵察隊のメンバーは視線を交わした。確かにそれなら、炎龍に打撃を与えられるかもしれない。

 全員の合意を確認した後、伊丹は号令を放った。

 

「よし、作戦開始だ!」

 

 アクセルを全開に踏み込み、最大出力で走り出す二台の高機動車。後方では待ち伏せ班がキルゾーンの設置準備に動く。

 

「富田、栗林、敵を引き付けるぞ――撃てぇ!」

 

 伊丹の命令で二人が発砲――命中弾を食らった新生龍が自分たちに視線を合わせた。直後、新生龍の開いた口元に輝きが生じる。

 

 それでも伊丹たちは焦らず、事前の打ち合わせ通り即座に距離を確保。敵が攻撃して来れば逃げ、敵が退けば再び攻撃――ヒット&アウェイを繰り返すことで、徐々に炎龍を目的の場所へと誘導してゆく。

 

 だが、新生龍の方もそう都合よくは動いてくれなかった。もう少し、という所で方向転換をして離れていってしまう。

 

(野生の勘って奴か……それとも)

 

 単なる偶然か。いずれにせよ、このままじゃ埒が明かない。

 

(あとひとつ、角を曲がるだけだってのに……!)

 

「こっちを向けぇぇぇ!」

 

 もどかしさに悶々としていると、栗林の怒号と突撃銃の銃声が聞こえてきた。直後に放たれるブレスをぎりぎりのタイミングで避け、炎龍の注意を再び引き付ける。

 

 

「――作戦変更!栗林はそのままドラゴンを牽制しろ!待ち伏せ班は左手の尖塔の基部に射撃を集中!」

 

 

「――隊長、何を言って……?」

 

 待ち伏せ班のリーダー・桑原は最初こそ戸惑ったものの、伊丹の指定した鐘塔を視界にすると即座に了解した。

 

 「鐘塔」とは文字通り鐘を設置してある塔のことであり、教会が祈りの時刻などを信者に伝達するためにある。こうした建築物は街のシンボルとしての意味合いもあり、豪華に作られる傾向があった。

 イタリカも例外ではなく、その高さは軽く30mを凌駕している。

 

 

「――隊長、もう限界です!」

 

 栗林の焦った声が無線から聞こえる。

 

「あと少しだ栗林! ――桑原、準備できたら撃ちまくれぇッ!」

 

 了解です、と桑原の答える声が聞こえた直後、機銃を連射する甲高い音とロケット弾の命中する爆発音が連続する。

 

「――笹川 、装填急げ!」

 

 無線越しに、発射準備を命じる桑原の怒声が聞こえる。

 

「てぇッ!」

 

  発射された対戦車ロケット弾は、直線状の軌跡を描きつつ尖塔に突き進み、狙い通り基礎部分に命中――爆発を発生させる。

 

 大量の鉄とコンクリートの破片が四散し、度重なる打撃に耐えかねたように櫓の基礎部分が粉砕――炎龍へと伸し掛かるように倒壊し始める。

 

 

 崩落と共に想像を絶する衝撃と地鳴りが響き、炎龍の悲鳴がそれに混じった。膨大な量の粉塵が舞い上がり、それが晴れると半ば瓦礫に埋もれるようにして動きを止めた炎龍の姿が見えた。

 

 

「撃てぇぇぇぇッ!」

 

 

 伊丹の号令と共に、再び発砲を開始する第三偵察隊。炎龍は瓦礫の中から退避しようとするも、折れた翼が思うように動かず、文字通り集中砲火を食らってしまう。

 

 やがて辛うじて形を保っていた建物も崩壊。炎龍は絶叫しながら逃げ出そうともがくも、奮戦むなしく崩れ落ちる瓦礫に飲み込まれていく――。

 

 

 **

 

 

(やった……のか……?)

 

 車を止め、銃口を瓦礫の山に向けて警戒態勢をとる伊丹。遠くではロゥリィとジゼル、そして残り一匹の新生龍が戦っているのか、時折、連続した爆発音が聞こえてくる。

 

(念のため、手りゅう弾でも投げてみるか……?)

 

 伊丹が殺気を感じたのは次の瞬間だった。瓦礫の山が爆発したように吹き飛び、反射的に腕で顔をかばう。

 

 再び目を開けると、そこには再び炎龍が現出していた。翼は折れ、尻尾を失っているが、その怒り狂った瞳から闘志が全く衰えていない事が感じられた。

 

  




伊丹「私にいい考えがある」

なお

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