GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて斯く戦えり ~帝国の逆襲~   作:護衛艦レシピ

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エピソード3:諸王国連合軍、アルヌスに立つ!

      

その日、アルヌスの丘付近には帝国の召集に応じた、連合諸王国軍が勢揃いしていた。約二十ヵ国の連合軍で、兵力を合算すれば約30万近くに達する大軍勢だ。

 

 中世あたりの文明レベルであるフォルマート大陸において、10万を超す大軍が組織される事はめったにない。ほとんど一国を滅ぼしうる大軍に対して、敵はたったの2,3万足らず。

 

ゆえに多くの諸侯は、戦いの行く末を楽観視していた。

 

 

「デュラン殿、此度の戦だが、我らはいかように攻めるべきか?」

 

 エルベ藩王デュランに声をかけたのは、リィグゥ公国のリィグゥ公だ。

 

「帝国によれば異世界の兵は穴や溝を掘り、アルヌスにて野戦陣地を造っている模様。もっとも、これほどの大軍の前では悪足掻きに過ぎぬでだろうが」

 

「たしかに。兵力では我らが圧倒的に上回っておる」

 

 リィグゥ公の発言を認め、頷くデュラン王。敵の野戦陣地は厄介だが、それを補って余りある兵力差だ。

 

(それだけに腑に落ちん……帝国はなぜ、わざわざ我らを招集してまで大部隊を集結させたのだろうか)

 

 この戦いに勝利すれば、帝国は功績に応じた報酬を各諸侯に与えなければならない。というより、諸侯の大部分はそれを目当てに集まっている。

 

(この程度の敵ならば、帝国軍だけでも打ち破れるだろうに……)

 

「ではデュラン王、また後で会いましょうぞ! 敵は多く見積もっても3万、されど我らにはその3倍の兵士がいる。すぐに勝敗は決しましょう」

 

 「ハハハハハ」と上機嫌に笑った後、去って行くリィグゥ公。自信に満ち溢れたその顔が真っ青になったのは、それから3時間後のことであった―—。

 

 

 **

 

 

 昼が過ぎた頃になって、連合諸王国軍は全軍がアルヌスの丘に向かって進軍を開始する。

 

デュラン王もまた馬上の人となり、他の諸侯に後れを取るまいと兵を前へ進めていた。

 

「状況を報告せよ」

 

「はッ! アルグナ王国軍、モゥドワン王国軍、リィグゥ公国軍、共にアルヌスへの前進を開始。我らよりわずかに先行しているようです」

 

「うむ。それで帝国軍はどうなっている?」

 

 デュラン王が問うと、伝令は困った表情をした。

 

「それが……先ほどから陣地を一歩も動こうとしないのです」

 

「……何?」

 

 デュランがまず最初に考えたのは、帝国軍が自分たちを弾除けに使おうとしている、という事だった。

 

(しかし敵はたったの2万、押しつぶせぬ数ではない。むしろ一番槍の名誉や、諸侯の反発を買う事による不利益の方が大きいのではないか……?)

 

 デュラン王の頭に浮かんだ疑問が解けるまで、そう長い時間はかからなかった。

 甲高い飛翔音が聞こえてきたかと思うと、いきなり地面が爆発したのである。

 

「な、何事だッ!? アルヌスが噴火したのかッ!?」

 

 何が起きたのか全く分からず、デュランはただ叫ぶ事しか出来なかった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 帝国軍が突撃すると、自衛隊は猛然と反撃してきた。信号弾を確認すると同時に、一斉に砲撃を開始。あらかじめ設定された砲撃区域に、ありったけの砲弾を叩き込む。

 

 一瞬のち、土嚢が崩れ、帝国兵が吹き飛ばされた。抗う術のない暴力、中には反撃しようと弓矢を放つ者もいるが効果はゼロに等しい。

 

 

 200発以上の榴弾があちこちに穴をうがった後、さらに接近してくる帝国軍に対し迫撃砲の一斉射撃が始まった。大気をたたき割る様な砲声が連鎖する。

 

 まもなく弾着が生じ、大量の土砂が吹き上げられた。続々と爆発が生じ、兵士が吹き飛ばされていく。

なにもかも、全てが吹き飛ばされていくような感覚。至近弾を食らったが最後、帝国兵の身体はぐしゃぐしゃの肉塊へと変貌した。

 

 

 砲撃はさらに勢いを増し、アルヌス基地の周辺はまるで無数の煙と炎で燻されているようだった。

運の良い者は砲撃で抉られた穴に退避することで、鼠のように震えてひたすら砲撃が終わるのを待つしかなかった。

 

 

「どうしたッ!! 敵の魔法攻撃か!?」

 

 混乱は前衛を務めていたリィグゥ公国軍でも起こっていた。生まれて初めて体験する砲撃に、公国軍は恐慌状態に陥る。

 

「敵はどこにいるんだ!? こんな攻撃魔法は見たことないぞ!?」

 

 慌てふためく兵士たちの前で、リィグゥ公が檄を飛ばす。

 

「全部隊、亀甲隊形に移れッ!!」

 

 『亀甲隊形』とはその名の通り、盾を掲げた歩兵が重なり合って亀のような外観になった密集隊形の事を指す。矢などの飛び道具に対して絶大な防御力を発揮し、主に攻城戦での突撃に用いられている。

 

(とにかく、少しでも防御力を上げて敵の攻撃を凌げば……)

 

 そんなリィグゥ公の甘い期待を打ち破るように、再び爆発が起きた。今度は至近距離で砲弾が炸裂し、その衝撃でリィグゥ公もで吹き飛ばされる。

 

「うぅ……」

 

 傷だらけで立ち上がったリィグゥ公が見たのものは、自軍の兵士達が為す術もなく吹き飛ばされていく様子であった。

アルヌスの丘は砲弾が爆ぜる音と諸王国連合軍の断末魔の合唱が響く、阿鼻叫喚の地獄と化していた。

 

「……これは戦ではないッ!! こんなものが……こんなものが戦であってたまるかッ!!」

 

 それが、リィグゥ公の最後の言葉となった。彼の真横に砲弾が直撃し、リィグゥ公は帰らぬ人となった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 『それは戦争と呼べるようなものではなく、ジエイタイによる一方的な虐殺であったーー』

 

 後に刊行された、帝国年代記の最初に一説にはこのような記述がある。恐るべきはそれが歴史書にありがちな誇張でもなんでもなく、事実だという事にあった。

 

 0対10万――ギネス新記録を樹立した、自衛隊と諸王国連合軍のキルレシオが打ち立てられたのもこの日である。

これには当の防衛省ですら初めは信じられず、わざわざ外部から調査団を派遣という逸話が残るほど圧倒的な戦果であった。

 

 最初の一日でアルグナ国王、モゥドワン国王、リィグゥ公王の3人は行方が知れず、辛うじてリィグゥ公王の兜のみが破損した状態で発見された。

 

30万を超えた諸王国連合軍は3日もしない内に10万を超える死者を出し、それと同数の傷病者を抱えることになるーー。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「今夜、敵に夜襲をしかける」

 

 次の日の夜、デュラン王は家臣たちを集めてそう告げた。

 

「敵がどんな魔法を使っているかわからぬが、飛び道具である以上は視界の確保できぬ夜戦には弱いはず。我らは夜戦に勝機を見出す他あるまい」

 

 曲がりなりにも軍としての体裁を維持しているのは、今やエルベ藩王国のみ。そこデュラン王は残り少ない兵力をかき集め、一縷の望みをかけて全軍を夜戦に投入する事にした。

 

 

 

「このまま敵が気付いていなければよいが………」

 

 祈るようにひとりごちるデュラン王。昼間の地獄が嘘であるかのように、夜のアルヌスは静まり返っていた。

 

「今回の敵は強大だが、我らとて負けるわけにはいかん。アルグナ王にモゥドワン王、リィグゥ侯……彼らの死を無駄にはせんぞ」

 

 その決意を示すように、デュラン王は拳を握りしめる。

 

「それはさておき……」

 

 デュランが振り返る。彼の背後には、帝国の軍装をした兵士の一団が付いてきていた。

 

「今度こそ昼間のような失態は犯してくれるな。我らの忠義を仇で返すような真似をすれば、帝国は末代まで恥をさらすことになろう」

 

 デュラン王が帝国の百人隊長を睨み付けると、相手は実に申し訳なさそうな顔をした。

 

「昼間のご無礼はお許しください。今後は二度とそのような事がないよう……」

 

 果たしてこの百人隊長の言葉が本音から来るものなのか、それとも場を誤魔化すための出まかせなのか、ついぞデュラン王は知る事が出来なかった。

 

 なぜなら次の瞬間、誰もが驚愕するような異常事態が発生したからだ。

 

(光……だと!?)

 

 月明かりのない闇夜が、突如として昼間の如く照らされる。デュラン達が空を見上げると、複数の眩い光を放つ球体が空に浮かんでいた。

 

「いかん!ーー全軍、敵に向かって突撃せよ!」

 

 デュラン王がそう命じた直後、アルヌスから飛翔物が高速で飛んでくる。

それが地上に落ちると、昼間の地獄が再現された。

 

「「「オオォォォ―—ッ!!!」」」

 

 昼間の死体を踏み越えて前進を続ける諸王国連合軍。

 

「足を止めてはならぬ! 生き延びたくば、前に向かって走り続けよ!」

 

 デュランは自ら先頭に立ち、兵士を鼓舞して走り続けた。今の彼には、そうするしか手がなかったのだ。




帝国軍、死亡フラグ乱立問題

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