GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて斯く戦えり ~帝国の逆襲~   作:異世界満州国

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エピソード31:墜ちた黒鷹

 やられた――栗林は唇を噛む。

 

 

 やはり、罠だった。主力をアルヌスに向けることで、帝国が自ら作り出した隙。それに自衛隊は見事突っ込んでいったのだ。

 

(こいつら、強い――!)

 

 少数だが精鋭を集めたのだろう。栗林がイタリカで遭遇した帝国兵に比べると、帝都に残っている守備隊は明らかに練度が高い。小部隊に分散しても、各々の部隊長が独自の判断を下せるほどに。

 

 

 もっとも、自衛隊もただやられるがままでいた訳ではない。護衛の攻撃ヘリ1機が空中から機銃掃射を行い、見つけ次第バリスタを破壊していく。

 

 

 だが、帝国軍もバリスタを分散配置していたため、掃射に手間取っていた。おまけに藁や布で巧みに偽装しているため、気付かず撃ち漏らしてしまう事も多い。

 

 

 指揮官クラスならここで戦況分析と対策立案に追われるであろうタイミング。しかし悲しいかな、兵卒でしかない栗林志乃にそんな贅沢は許されなかった。

 

 

『――イーグル3の降下を支援せよ」

 

 

 無線を通じて新たな命令を告げられ、栗林は舌打ちした。

 

(こっちだって怪我人が出てるのに……!)

 

 だが命令は命令だ。地図でイーグル3の降下ポイントを確認し、次に降下地点をよく狙えるような射撃ポイントまで移動する。

 

 

「攻撃ヘリの連中は何やってんだ? 目でも悪いのか?」

 

 

 後ろからついてきている、倉田3等陸曹が愚痴をこぼした。

 

 

 ――降下部隊だって数はそう多くない。わざわざ分割して支援させるより、攻撃ヘリを向かわせた方が効率的ではないのか。

 

 

 倉田の問いに対する答えが出たのは、辿り着いた射撃ポイントから皇宮を見下ろした時だった。

 

 

 自分たちが降下する時には無かった、大量の煙幕が空に向かって焚き出されている。あれが攻撃ヘリの目を塞いでいるのだ。

 

 

 もちろん帝国軍も視界が限られてしまうが、屋上で身動きの取れなくなっているホバリング中の機体に全ての砲撃を集中し、確率で当てればいいという考えのようだ。

 

 これなら、煙幕を焚く前に屋敷の屋上に狙いをつけておけば、後は視界が塞がれていてもさほど問題にはならない。

 

 

『――こちらAH-1S、聞こえるか?』

 

 

 不意に攻撃ヘリから通信が届く。

 

『――状況は見ての通りだ。煙で見えないのはもちろん、ほとんど宮殿に火を放っているも同然の状態では、頼みの赤外線画像監視装置の効果も半減だ』

 

 だからアンタたちには「撃ち漏らし」を潰して欲しい、コブラのパイロットはそう言うと掃射のために機体を傾けた。

 

『――これより掃射を開始する』

 

 間もなく機首に備え付けられた20mmガトリング砲が唸り声をあげながら旋回する。空薬莢の雨が降り注ぎ、帝国兵がバタバタとなぎ倒されていく。

 

 このまま無限に撃ち続ければそれだけで全滅させられただろうが、そうするには弾が不足していた。だからこその、歩兵による精密射撃が必要となる。

 

 

 

 機銃掃射が終わって栗林が顔を上げると、弾丸の荒らしが過ぎ去った建物で運よく生き残った兵士たちが反撃の準備をしているのが見えた。

 

 ほとんどの者は弩や弓、投げ槍をヘリ向かって投げるという自殺行為をしているだけだが、それに紛れて注意深く狙撃のタイミングを狙っている者もいた。

 

 一部の囮部隊がこちらの注意を引きつけている間に、残りが降下中のブラックホークを狙うという算段なのだろう。

 

 

「倉田!5時の方向にバリスタ!」

 

 

 栗林は迫りくる帝国兵を射殺しながら、同僚に向かって声を張り上げた。

 

 「おう」という返事と共に倉田は建物の屋上でバリスタを構える敵兵に銃口を向けて発砲。敵兵のうち一人が後方へ大きく仰け反る。

 

 だが、兵力は帝国が優越していた。殺しても殺しても、次から次へと湧いてくる。とてもじゃないが、殺し切れない。

 

「ッ……数が多すぎる!」

 

 

 その時、誰かが大声で叫んだ。

 

 

『――イーグル3!9時方向に敵バリスタ!』

 

 

 それは一瞬の事だった。

 

 時をおかず、1mを超すボルトが高速でブラックホークに向かって飛んでいった。直後、ブラックホークが炎に包まれ、黒煙が機内を覆い尽くす――。

 

 ヘリとバリスタとの距離は直線にして約40メートル程で、本来ならなんら問題ないような距離。

 

 だが、今は状況が違う。ホバリング中なのだ。

 

 ヘリが狙われている間に栗林たちが敵兵を始末していったが、あまりに敵の数が多すぎた。

 

 

『――こちらイーグル3、被弾した!繰り返す、こちらイーグル3被弾した!』

 

 

 続けて、さらにもう一発が命中。機内に燃え盛るアルコールがぶちまけられ、操縦士の一人がゲホゲホとせき込む。

 

 

「おいッ! 火が移った!早く消火器を!」

 

「今探してる! クソッ!煙で何も見えない!」

 

 

 ヘリは尚も前進していたが、やがて機体を震わせてきりもみ状に回転を始めた。最初はゆっくり、そして次第に速く。

 

 

「おい……ブラックホークが墜落するぞ」

 

 

 後ろを守っていた倉田が栗林の肩を叩き、きりもみを始めたイーグル3を指差す。

 

 

『――イーグル3聞こえるか!このままだと墜落するぞ!』

 

『――ダメだ! 制御を戻せない!』

 

 

 バランスを失ったイーグル3は、クルクルと回転しながら宮殿の外にある広場に墜落。爆発こそしなかったが、多くの兵士が宙に投げ出され、機内にいた兵士も墜落の衝撃で無事では済まないだろう。

 

 

 

『――ブラックホークの撃墜を確認、ブラックホークの墜落を確認』

 

 

 

 この無慈悲な通信を、栗林2等陸曹は信じられない思いで聞いていた。最新装備に身を固めた自衛隊が、古代兵器にしてやられたのだ。

 

 

「嘘でしょ……?」

 

「ブラックホークダウンってか? ……ふざけんな!」

 

 怒れる倉田の声が、虚しく宙に響き渡る。この時、誰もが共通の現実を叩きつけられた。

 

 

 ――すでに主導権は失われた。今やそれは、敵の手の中にある、と。

  




前回に引き続き、タイトルの圧倒的ネタバレ感

「レッドウィング作戦」と「モガデシュの戦闘」について詳しく知りたい方は映画「ローン・サバイバー」と「ブラックホーク・ダウン」を観よう! どちらもおススメです。

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