GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて斯く戦えり ~帝国の逆襲~   作:護衛艦レシピ

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エピソード38:最期の時

 

 戦況はあきらかに帝国軍が優勢だった。

 

 

 城壁には突撃用の攻城櫓がいくつも組み立てられており、帝国兵の大軍がどんどん壁を越えていくのが見える。

 

 城壁の上では熾烈な戦いが繰り広げられており、指揮官自らが先頭にたって剣を振り上げていた。勇猛な帝国の将軍は、殺戮の真っただ中に身を置くことを恐れてはいないようだ。

 

 

 一方の義勇軍とて、みすみす敵の侵入を許すわけがない。

 

 壁上で帝国軍を待ちかまえ、接近する敵兵に松脂と油をまぜたものを敵の頭上に注いで火をつけていく。それでも火だるまになって次々と落ちていく仲間を尻目に、帝国兵は勇敢に梯子を伝い登って行った。

 すさまじい熱気と火炎に包まれ、たちまち戦場は灼熱の地獄と化していく。

 

 

 だが、帝国軍は多方向から同時攻撃をかけており、その全てを防ぎきることは不可能だった。何百人という兵士が防御の穴を縫って浸透しており、アルヌスは陥落寸前の体を見せていた。

         

「報告!第9軍団が傾斜路を確保!」

 

 オプリーチニキを使って強引に突撃させたのが功をなし、昼になってやっとゾルザルの部隊は傾斜路を確保。代償として第9軍団は戦闘能力を喪失した。

 これは戦意の問題ではなく、物理的に軍団を名乗れぬ単位まで戦闘員が減少してしまったのだ。

 

「よし!第9軍団を下がらせろ!代わりに第5軍団を投入する!」

 

 しかし、待望の報告にゾルザルは戦機が熟したことを悟った。損害を省みず総攻撃をかければ、今度こそ勝利は目前であろう。

 

 

 ――やはり、自分の計算に狂いはなかった。損害も許容の範囲内であり、敵を叩き潰すべき戦力は十分である。全てはただ、順番が変わっただけのことに過ぎない。

 

 ゾルザルが下した判断は明快なものであった。

 

「ついに、異世界の軍を撃滅する時が来たのだ」

 

 もとより異世界の軍を討ち取るために練られたのが今回の作戦である。すでに“門”は封鎖しており、敵の増援は現れない。

 

 ならば、この期に及んで作戦を変更する理由は何もない。たとえどれだけの被害が出ようと敵を殲滅し、帝国千年の安泰を勝ち取るのだ。

 

 

「………全軍に総攻撃を命じよ。決戦の時は来た!」

 

 

 ゾルザルは躊躇なく総攻撃を命じた。予備隊にも躊躇なく投入する。ゾルザルの中央方面軍は第9軍団が抑えた傾斜路を抜け、ついに要塞外壁から内部へと突入した。

 

 

 **

 

 

 柳田はマガジンの残っているアサルトライフルを持つ数少ない兵士であったが、期待に反してその射撃は目覚ましい効果を上げてはいなかった

 

(駄目だ……頭痛が酷くて集中できない……!)

 

 連日の戦闘によるストレス、睡眠不足、肉体の酷使による疲労、そして栄養不足などが重なり、柳田の身体は限界を迎えていた。体が、脳が、そして心が「休ませてくれ」と悲鳴をあげている。

 

 それは彼に限ったことではなく、守備隊の兵士が多かれ少なかれ抱えている問題であった。帝国軍の後方で突撃ラッパが鳴って新手の増援が到着すると、義勇兵は総崩れになって監視塔の方へと退却していった。

 

「これ以上、敵を接近させるな! 応戦しろ!」

 

 監視塔にいる守備隊は弓や弩で応戦するも、帝国軍は大胆にもバリスタやオナガ―といった小型の攻城兵器まで持ち出してきた。ライフルを持つ柳田はともかく、他の義勇兵では対抗のしようもない。

 

「いったん、後方の区画まで後退しましょう。あそこなら城壁がある」

 

 さっきの義勇兵から提案され、柳田は了解した。後方陣地まで退却し、体勢を立て直す時間を稼ぐのだ。

 

「退却!退却しろ!」

 

 柳田は城壁に上ると、少しだけ顔を出して眼下の戦場を見渡した。大勢の兵たちが怒号をあげて激突する様は凄絶だった。義勇兵も必死に抵抗しているが、帝国軍の統制された動きに苦戦しているようだった。

 

 激しい戦闘は、何時間も続いた。兵士たちは汗で手が滑って武器を落とし、ぬかるんだ地面に倒れ込んでも戦いをやめない。

 終わりの見えない、泥だらけの肉弾戦がそこかしこ繰り広げられていた。彼らはくんずほぐれつの大乱闘を続け、徐々に収拾がつかなくっている。

 

(指揮官を殺せば、指揮系統を失った敵は崩壊するはず……!)

 

 柳田は目を凝らして、帝国軍の指揮官を探した。そして端の方に他の兵士と少し違った兜をかぶり、大声で叫んでいる兵士を発見した。

 

 柳田はアサルトライフルで狙撃する。初弾は外したが、2発目は命中、3発目で留めを刺した。帝国軍が混乱し、その隙をついて義勇軍が突撃していく。

 

 だがその直後、燃え盛る石が放物弾道を描いて義勇軍に命中した。

 

 直撃した兵士の四肢が吹き飛び、ちぎれた腕が柳田の視界に映った。石は地面に命中すると花火のように炎をまき散らし、それが義勇兵の服に燃え移る。

 

 恐らくは石に油を塗り、その後で火をつけたのだろう。あたりから焼けた肉の異様な匂いが漂い、義勇兵は戦意を喪失して茫然と立ち尽くした。

 

「門を閉めろ!敵の侵入を許すな!」

 

 帝国軍の攻城兵器が次々に投擲を開始し、着弾の衝撃で壁が振動する。敵は増援を受けたらしく、熾烈極まりない砲撃を受けた味方はやっとのことで防衛している状況だ。

 敵は正面突破を目論んでいるようで、正面に狙いを定めて執拗に突撃を加えてくる。

 

「さっさと門を閉鎖しろ!」

 

 ヤオの怒声が響き、ダークエルフたちが全速力で門にかけていく。だが、あと少しで門が閉じるというとき、門番2人が長弓兵の狙撃を受けて倒れ込んだ。

 

 僅かな隙間から帝国軍がなだれ込み、壮絶な攻防戦が展開された。敵の大部隊にダークエルフたちは必死に応戦するものの、門はどんどんこじ開けられていく。柳田の目にも自軍の劣勢は明らかだった。

 

「おのれ帝国軍め!よくも同胞たちを!」

 

 業を煮やしたヤオは剣を引き抜くと、雄叫びをあげて仲間たちに加勢すべく走り出す。

 

 剣を振り回し、帝国兵を圧倒的な剣術で切り倒していく。軽快に立ち回り、鋭利な刃の先端で正確に敵の弱点を切り裂いていく。

 思わぬ反撃にあった帝国兵はたじろぐも、後方から続々と投入される新手が止まることは無かった。

  





 柳田&ヤオ「最近、ずっと頭が痛いんです。体も痛い。夜もよく眠れません食事をしても、吐いてしまう事も多いです。毎朝、目が覚めてから仕事の事を考えると、気分が重くなります」


 医者「過労ですね」

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