GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて斯く戦えり ~帝国の逆襲~ 作:異世界満州国
ついに“その時”が来たという予感は、ピニャたちの北部方面軍でも確信へと変わっていた。このときピニャもまた、ほとんど自軍の勝利を疑っていなかった。
「ボーゼス、敵の反応は?」
ピニャが尋ねると、ボーゼスは逸る気持ちを抑えきれずにまくしたてた。
「目に見えて勢いが失われております。姫様、今が好機です!」
ヴィフィータやシャンディ―といった、他の薔薇騎士団員も次々と口を開く。
「敵の魔法攻撃は明らかに衰えています。おかげで被害も以前に比べれば減少し、兵の士気は上がっています!」
「同意見です。おそらく連日の長時間労働による酷使で、敵の魔術師も過労で倒れたのでしょう」
誰もかれもが、敵の士気が下がっていること、そして味方は意気軒昂であることを報告する。
やがて部下たちの言葉が尽きた頃合を見計らって、ピニャは小さく笑みを浮かべた。
「皆、ここまでよく耐えてくれた。だが、それも今日までだ! 今までのうっ憤を、連中に存分に叩きつけてやれ!」
それは明確な言葉ではなかったが、「総攻撃の許可」以外の何物でもない。
ついに待ちに待った、戦功を立てる時が来た。もはや遠慮はいらぬ。己が武勇を頼りに、首級をあげよ――。
「アルヌスの魔法は尽き、鋼鉄の塊はもはや動かぬ! 機は熟したのだ! 」
帝国兵は大きな歓呼とともにピニャに応えた。歓喜の声だった。
「全軍、アルヌスに向かって突撃せよ! その手で栄光を掴みとれ! 名誉と褒美は諸君らを待っている!」
雷のような大歓声と共に、薔薇騎士団が先陣を切って勢いよく走り出す。決壊寸前までたまったフラストレーションを晴らすかのように、帝国軍は怒涛の勢いで自衛隊へと襲い掛かった。
「おおおおおおおおお〜〜〜〜〜っ!!!」
先陣を切ったのは、薔薇騎士団随一の武闘派として知られる、ボーゼス・コ・パレスティー。彼女の猛獣の咆哮の如き雄叫びは、アルヌス側の兵士たちが思わず足をすくませるほどであった。
その後ろに、彼女が率いる黄薔薇騎士団の騎士や従者たちが続く。
突然の猛攻に驚いたアルヌス義勇兵たちだったが、すぐに自分たちの所が激戦区になったと考え、いつものように他所からの援軍を要請した。
だが返ってきた言葉は『帝国軍の猛攻を受けており、当方に援軍を送る余裕なし』だった。
他の部署も余裕はない。示し合わせたように、ゾルザル、ディアボの軍団も総攻撃をかけているのだ。
「遠慮はいらん! 今までの鬱憤を連中に叩きつけろ!」
「他の部隊に遅れをとるな! 目の前の敵を斬って斬って斬りまくれ!」
ボーゼスたちの檄に呼応して、帝国軍の士気が爆発的に上昇する。その熱量はアルヌスを覆い尽くさんばかりだった。
末端の兵士すら、今回ばかりは血眼になって手柄を立てようと血気逸っている。なにせ、これほどの大戦なのだ。戦功をたてれば、農民から貴族に叙される事も夢ではない。
そんな彼らの様子を見て、アルヌスの義勇兵たちはようやく理解する――ついに帝国軍は、全力全開の総攻撃を仕掛けてきたのだと。
やんぬるかな、アルヌス義勇兵は効果的に反撃することが出来なかった。
昼夜問わず繰り返される波状攻撃は、素人の寄せ集めに過ぎない義勇軍兵士を心身ともに大きく疲弊させている。
数の少ないアルヌス側は帝国軍のように3交替シフトを組むことが出来ず、長時間勤務と睡眠不足は集中力・記憶力・情緒・反応速度を目に見える形で低下させていた。
そこに帝国軍の総攻撃である。しかも先陣を切っているのは、ボーゼスら『騎士』である。
帝国軍の中でも選りすぐりのエリート兵士である『騎士』の戦闘能力は、帝国一般兵を遥に凌ぐ。
自衛隊風にいえば特殊作戦群とヒラ隊員ぐらいの差があるのだ。
そんな人間が甲冑を着込んで完全武装の上、剣を振りかざしながら騎乗突撃してくるのだから堪ったものではない。
騎兵という自分より巨大な物体が高速で突っ込んでくるという恐怖に、義勇兵たちは完全に瓦解してしまった。
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第3皇女ピニャ・コ・ラーダはもはや後方の本陣で観戦などしていなかった。自ら馬を駆り、眼前を通過していく騎士団や軍団兵に向かって叱咤激励を始めたのだ。
「アルヌスは、もはや我々のものだ!」
帝国兵の様子が一変した。全員が一丸となって城壁に突撃する。
もう撃退はされなかった。バリケードを越えた者は、休む間もなく奥へと突っ込んでいく。
ここに至り、守備側はついに敗走を始めた。逃げ出す義勇兵や自衛官の背中を、帝国兵の投槍が貫いていった。
破壊された箇所から侵入する帝国兵は、もはや押し戻すには不可能な勢いになっていた。
総崩れになっている。大量の帝国兵がなだれ込み、形成は完全に絶望的だった。
それでも戦っていた自衛官は、櫓の上に立っていた日の丸が落とされ、代わりにドラゴンの翼が描かれた帝国旗が翻ったのを見て、ついに打つ手が尽きたのを悟るしかなかった。
最後のシーンは硫黄島かベルリンのイメージで