GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて斯く戦えり ~帝国の逆襲~   作:護衛艦レシピ

40 / 46
決戦編
エピソード40:暗闇の中で


                              

 

 アルヌスが陥落するより少し前、帝都にて――。

 

 

 宮殿がそびえる丘のふもとに、巨大な石造建築物がある。円形闘技場(コロセウム)と呼ばれるそれは、剣闘士競技などの見世物が行われる巨大な娯楽施設だった。

 

 当然ながら戦時中の現在ではほとんど使われておらず、代わりに巨大な収容能力を活かした牢獄として利用されていた。

 通常の犯罪者もいるが、帝権擁護委員部「オプリーチニキ」が捕えた政治犯や奴隷などの多くも収容されている。

 

「それは、素晴らしい提案です。貴女にその気がおありでしたら、我々は全力で支援いたしますわ」

 

 闘技場の地下にある一室には、一人の女性がいた。ただの女性では無い。表面的にはよく似ているが、ウサギに似た耳や尻尾を持つ姿は帝国で迫害されている亜人のもの。

 

「ご心配なさらず。我らヴォ―リアバニーは約束を破りません」

 

 警戒をあらわにする相手の様子を見て、女はふっと頬を緩めて見せた。美しいが、どこか寒気を覚えるような微笑。

 

 ヴォーリアバニーといえば、非常に戦闘能力に長けた狩猟種族だ。それゆえ危険視した帝国に攻め込まれ、ほとんどが殺されるか奴隷として各地に売られたという過去を持つ。

 

「不満を持っている者は大勢います。我々は長い時間をかけて彼らを一人づつ説得し、仲間に引き入れ準備を進めてきました」

 

 彼女は極め穏やかに口すさぶ。有名女優といっても通じるような端正な顔立ち。肌は色白で、その切れ長の瞳は多くの男性を虜にしてきたに違いない。

 

「もちろん事が事なだけに、慎重になられるのも無理はありません。ですが……これならいかがでしょうか?」

 

 じゃらり、と金属同士が擦れる音。ヴォ―リアバニーの女が懐から出したそれは、鎖で繋がれた黄金の紋章――その表面に刻まれていたのは。

 

 十数本の棒を巻いた斧……示すは権力の象徴としての斧と、その周囲に団結する人々。帝権の象徴とされ、それをかたどったシンボルを持つことは皇帝直属の機関にしか許されていない。

 

 相手の表情がさっと変わった。

 

「ゾルザル殿下に近づいて正解でしたわ。そのおかげで、今やオプリーチニキは私のもの」

 

 ふわっと優しげに笑って、ヴォ―リアバニーの女……テューレは胸に右手をあてて紡いだ。

 

 

「女王の名にかけて誓いましょう。すべては、勝利のために」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 既に日は暮れ、帝国の首都『ウラ・ビアンカ』は夜の闇に包まれようとしていた。

 

 市街地では自衛隊と帝都警備隊の攻防が続いており、一般人のほとんどは家の扉に鍵をかけてこの嵐が過ぎ去るのを待つしかない。

 

 

 物陰に隠れていた倉田の耳に、金属同士が触れ合うガシャンガシャンという音が響く。帝国兵だ。

 

「こっちに近づいてくるわ……」

 

 息を飲む音が耳元で聞こえてくる。隣にいる黒川二等陸曹のものだ。

 

「ホント、しつこいんだから。もう勘弁してよ……」

 

 栗林二等陸曹が苛立ったように呻く。元気が取り柄の栗林でさえ、顔には隠しきれない疲れがにじんでいた。

 

 

「確認します」

 

 慎重に顔だけ出して確認する倉田。思った以上に数が多い、2,30人はいるだろう。密集隊形を組んで、大盾――スクトゥムを掲げながら慎重に進んでくる。

 

「おい、あれは……!」

 

 倉田が息をのむ。帝国兵の前方には、一人の自衛官がいたからだ。別の部隊に所属していた隊員で、顔に見覚えはある。

 

「――くそぉッ!死ねっ、死ねぇッ!」

 

 どこかのタイミングで隊からはぐれたらしく、そこを帝国兵に囲まれたようだった。既に小銃は無くしたか弾が切れたらしく、拳銃を乱射している。

 

「じゅ、銃弾が効かない――!?」

 

 戸惑うような声が、彼の最期の言葉となった。

 

 9mm拳銃に装填されている9発の弾を全て撃ち尽くしたタイミングで、帝国軍は密集隊形を解除――何本もの投槍が彼の全身を貫いた。

 

 

「おい、嘘だろ……前は簡単に貫通したのに」

 

 動揺する倉田の隣で、黒川は悔しそうに唇を噛む。

 

「たぶん、帝国は盾にも全面的な改修を施したのよ……」

 

 

 結論からいうと、黒川の推測は正しかった。

 

 

 本来のスクトゥムは子牛の革や木材で作られ、縁を鉄の補強した程度の簡易な構造だった。

 

 しかし帝国はこれを完全な金属製に改良し、防弾性能の増加を図ったのだ。さらに盾を湾曲させることで、角度によっては弾丸を左右に逸らす事も可能となっている。

 

 

「じゃあ、――これならどう!」

 

 栗林が叫んだ次の瞬間、ちょうど後方にいた兵士たちの足元で耳をつんざく轟音が響く。栗林が手りゅう弾を投げたのだ。

 

「くたばれ!」

 

 栗林はそう吐き捨てると、持っていた突撃銃を乱射する。地面に倒れたまま苦しみもがく帝国兵が、次々に動かぬ躯へと変わっていった。20人以上の兵士たちが物言わぬ肉の塊になるまで、3分とかからない。

 

「この、このおッ!」

 

 興奮した栗林は、死肉と化した帝国兵にも執拗に銃弾を撃ち込んでいく。まだ熱い血渋きが上がり、骨が砕ける音がした。

 

「落ち着いて!もう死んでるわ!」

 

 黒川が叫ぶと、栗林もようやく頭が冷えたようだった。荒い息を吐く彼女に倉田が近づき、そっと耳打ちした。

 

 

「今の銃声で気付かれたみたいだ。もっと来るぞ」

   




裏ヒロイン・テューレさん登場。

ゾルザルの性奴隷だったはずが、気付けばオプリーチニキを仕切って人。アニメでも回が進むごとにいい服に着替えていたのが何とも。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。