GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて斯く戦えり ~帝国の逆襲~   作:異世界満州国

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エピソード41:侵入者

 栗林ら地上部隊の苦戦は、断続的に入る無線から伊丹たちの耳にも届いていた。

 

 

「さすが、武力で何百年も支配を続けてきた軍事国家なだけはある。敵が新兵器を使えば、すぐに対策をとれる柔軟性が奴らの強みか」

 

 帝国兵は頑強に抵抗し、建物を完全に占拠しても地下道や下水道を使って逆襲をかけている。地下壕は発見されるや、負傷兵や避難民ごと手りゅう弾で破壊されたが、後方の建物や窪地、瓦礫の中には帝国の弓兵がいつの間にか入り込んでくるという始末だ。

 

 すでに地上部隊は至る所で分断され、数と地の利で勝る帝国軍に翻弄されつつある。最新兵器をもってしても、建物一つ、部屋一つを奪い合う市街戦は自衛隊に大きな消耗を強いていた。

 

 

「――でも、ちょっとばかり足元への警戒を怠ったようね」

 

 

 ロウリィがにやりと笑う。暗い通路に、わずかに光と風が漏れ始めていた。

 

 

「亜神の力、じっくりと見せてあげるわ」

 

 

 目的地まであと少し……ロウリィはある地点でハルバードを握りしめると、一気に跳躍した。

 

 

「はああああああっ」

 

 

 ハルバードを地下通路の天井に向けて振りかぶり、それを力任せに天井へ叩きつけるロゥロィ。瓦礫が吹き飛び、通路の一部が崩落する。

 

 彼女はそれを何度も繰り返す。徐々に穴は大きくなり、やがて人が2人ぐらいなら十分に通れる大きさになった。

 

「よし、幅はこのぐらいでいいだろう。後は、このまま地上まで穴をあけるぞ」

 

 

 これが、伊丹たちの策――いや、策と呼べるのかすら怪しい腕力勝負だった。

 

 

(俺たちが地下通路を利用してくることは、恐らく帝国軍も想定しているはず……)

 

 実際、外に通じる通路という通路は帝国軍によって埋め立てられていた。爆薬は量が足りず、かといって重機を持ち込むなど論外。だが――。

 

 

 

 だったら、神様に穴を掘らせればいい。

 

 

(重機がなくたって、俺たちには神様がいるんだ……!)

 

 

 掘削から20分後、ついに視界を支配していた闇の世界が終わりを迎える。再び跳躍して地上に出たロウリィの目の前には、宮殿厨房のゴミ処理施設があった。

 

「行くぞ」

 

 そう口に出してから、伊丹はロゥリィにテュカ、そしてレレイの方を見やる。3人とも覚悟は出来ているようだ。

 

「目的は囚われている魔術師たちの解放………そして暗殺」

 

 

 標的は口に出すまでもなかった。帝国の第一市民にして至高の存在、皇帝モルト・ソル・アウグストスその人に他ならない。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 伊丹達の侵入を受けて、宮殿にある玉座の間は恐慌状態になっていた。食事を用意していた料理人の一人が、ゴミ処理施設の付近に大穴を発見したのだ。

 

 状況が状況なだけに、偶然ではない。何者かが、意図をもって宮殿に潜入したのだ。

 

「バカな!宮殿に敵の侵入を許しただと!」

 

 マルクス内務相が信じかねるように叫ぶ。市街地の敵はこちらの消耗戦に引きずられて身動きが取れない状態にある。それなのに、なぜ――。

 

「警備担当者は何をやっていたのだ! どうして今まで気付かなかった!」

 

「それ見たことか。だから私は全ての通路を塞げといったんだ」

 

「それは結果論に過ぎんだろ!」

 

 突如として現出した敵に誰もが愕然とする中、皇帝は低い声で答えた。

 

「敵も我々と同じことを考えていた――それだけだ」

 

 可能性として一番高いのは、帝都中に張り巡らされている地下通路だろう。敵が地下通路を利用してくるという可能性は、事前の作戦会議においても議論されていた。

 

 そのため帝国軍は地下通路に繋がる全ての侵入経路――井戸、ゴミ処理施設、下水溝を埋め立てていた。

 

 だが、さすがの帝国軍も自衛隊が亜神を使ってくるとは想像もしなかった。亜神の人間離れした腕力によって、自衛隊は文字通り「力づく」で穴をぶち開けたのだ。

 

 

「陛下!脱出を……」

 

「馬鹿を申すな。我らが役目は、一秒でも長く時間を稼ぐこと」

 

 たしかに宮殿に侵入されはしたが、まだ“門”の封鎖が解けたわけではない。先に遠征軍がアルヌスを制圧できれば、こちらの勝利は確定する。

 魔術を使って封鎖するなどという小細工ではなく、“門”を維持しているアルヌス神殿ごと物理的に破壊する手はずになっているからだ。

 

 

「マルクス内務相」

 

 皇帝はすっくと立ち上がった。片手をあげ、家臣と衛兵についてくるよう指示する。

 

「陛下、どちらへ?」

 

「魔術師たちのところへ向かう。――皆殺しだ」

 

 敵に狙いがあるとすれば、おそらく魔術師たちの確保であろう。

 

 彼らさえ押さえれば、“門”の開閉は思うが儘。スパイが情報を漏らしたか、分析の結果かは知らないが、自衛隊はどうにかしてこちらのカラクリを理解したらしい。

 

 であれば、殺すしかなかった。敵に奪われるぐらいなら、魔術師を皆殺しにして開閉する術を永遠に封印する。

 

 

(万が一に備えて、魔術師たちの杖を取り上げて正解だった)

 

 部屋の前に立ったモルト皇帝は剣を抜き放ち、顎で部下に突入の指示を出す。一人が扉を蹴破り、一斉に衛兵があ突入する。

 

 

 中には、誰もいなかった。

                         




 大軍で敵を引き付けて、その間にこっそり敵地に侵入しちゃえばいいじゃない。古典でいえば「指輪物語」あたりからの由緒正しき方法。

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