【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス)   作:家葉 テイク

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  第二章 失敗なんて気にしない  Crazy_Princess.
一〇話:蚊帳の外


 三日間に及ぶ事後承諾外泊の代償は、それなりに重かった。

 

 腹をくくって学生寮に帰還した俺を待ち受けていたのは、寮監による制裁という名のサブミッションだった。

 首を捻り、肩を捻り、腰を捻り、膝を捻り、踝まで捻られた時には流石にレイシアちゃんのキャラとか忘れて泣き叫んでしまった。なんか素で喋っちゃってたような気がするんだけど、大丈夫かな、中身おかしいとかバレてないかな…………? まぁ、特に何も言われてなかったから大丈夫なんだろうけども。

 

 で、王者の技の数々を喰らった俺に寮監は続けて、一五日間の出張罰掃除プログラムを言い渡した。

 出張罰掃除プログラムとは、外部寮、内部寮、校舎の三つにあるあらゆる水場を掃除する、というものである。ちょっと冗談じゃないよね。

 しかもここまで全部、大勢の生徒の目の前である。いわゆる一つの公開処刑、『校則を破ればコイツでもこうなるぞ』という見せしめだ。

 でも校則の厳しい常盤台で事後承諾外泊三日間という暴挙に対してサブミッションと罰掃除程度で諸々の問題を庇ってくれるというのだから、寮監様はマジで優しい人だと思う。本当なら停学的なペナルティがついてきそうなものだし。夏休み中だけど。

 ともかくありがとう寮監。凄く反省しました。今度からは無茶をするにしてもちゃんと正しい手順を踏んでからにします。マジで。

 

 ちなみに、全てが終わった後、公衆の面前で大絶叫とかいうキャラ崩壊の憂き目に遭ってすすり泣いていた俺に、寮監様が『……成長したな、ブラックガード』と感慨深そうな感じで話しかけて来てくれた。……まぁ、レイシアちゃんだったら多分公衆の面前でサブミッション食らって絶叫とか耐えられないしねぇ。

 ギャグ耐性がついたのを成長と呼んでいいのかについては、甚だ疑問ではあるけど。

 

「…………うぐぅ、筋肉痛が酷いですわぁ…………」

 

 で、昨日が約束の一五日目。

 俺がレイシアちゃんの身体に乗り移ってから、一か月以上が経過している。具体的には今日で俺の意識が覚醒した日から数えて三七日目だ。もう、随分お嬢様言葉も板についてきたんじゃないかなあと思う。少なくとも、咄嗟にお嬢様言葉が出なくて言葉に詰まるってことはなくなってきた。

 

 ちなみに、魔術側からの接触というか、干渉は一切なかった。一応俺もインデックスの件の関係者なのだし、三沢塾へのお誘いがかかるだろう――と思って罰掃除しながらスタンバイしていたのだが、スタンバイしているうちに一日が終了しそうになっていて慌てて外に出ようとしたら寮監に見つかって物理的に拘束された。

 ……………………そういえば、あの一件って上条以外の能力者が関与しちゃうとマズイんだったっけ? ……それはオリアナの一件か?

 

 ……まぁ、そんな感じで出張罰掃除プログラムを終えた俺は、久方ぶりに噛み締める『何もない日』の有難味に浸っていた。

 ああ…………布団の上でゴロゴロする休日、素晴らしい。常盤台中学は夏休みの課題がない(日記情報)から、宿題やらなくちゃーという後ろから壁が迫ってくるようなプレッシャーとも無縁だ。

 …………そういえば上条、大丈夫だったかなー……。小説の通りなら腕とかも切断されちゃったんだろうか? まぁどうせすぐくっつくんだけど、かなりきつい戦いだっただろうし、アウレオルスも記憶なくなっちゃったし…………だからといってどうすればよかったというのも思いつかないけど。

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

 ……………………ハッ!? 今転寝してた!?

 いかん、いかんぞ俺。過去を振り返るのはいいが二度寝はまずい。そうやって生活リズムを乱していたら、俺の経験上、気付いたら夏休みが全部吹っ飛んでる。

 思索にふけりすぎて生活リズムを乱していては元も子もない。

 

 そんな訳で、俺は疲れた体に鞭を打って立ち上がり、眠気を払う為に一通り身支度を整えてから、部屋から出る。

 ガチャリ、という音が隣室からしてきたのは、それと全く同じタイミングだった。

 

「あ」

「おや」

 

「…………あら」

 

 ………………なんかこんな感じのシチュエーション、前にもあったよな。

 今回は、ちゃんと反応できてると思うんだけども。

 

***

 

第二章 失敗なんて気にしない Crazy_Princess.

一〇話:蚊帳の外 Out_Of_The_Loop.

 

***

 

 ちなみに、後で知ったことだが俺が寮監宛に出した手紙は、何の役にも立っていなかったそうだ。

 そりゃそうだ。『八月には戻るから探さないで』って言って本当に探さないとしたら、常盤台中学の警備はガバガバである。ただ、レイシアの所有するプライベートリゾートとかそういうのをチェックしていて、小萌先生の家にまでは捜査の手が回っていなかったんだとか。

 ステイル達の襲撃を警戒してあんまり外に出なかったのが功を奏したのだろう。あと、ステイル達がバラ撒いてた人払いのルーンとかもか。

 

 で、それを教えてくれたのが。

 

「…………なんか久しぶりって感じね」

 

 目の前の少女、御坂美琴だ。

 

「ええ。わたくしはここのところずっと出張罰掃除プログラムでしたし……御坂さん達も、どうやら寮を空けることが多かったようですし」

「そのプログラムもよくよくわたくし達を馬鹿にしていますわよね。あの鬼ババァは規則を盾に生徒達を抑圧しすぎですわ…………」

「あら、白井さん。そんなこと言って良いのかしら?」

「何のことですの。寮監でしたらこの近くにはいないはずですが」

「いえ、噂によると、常盤台の外部寮は建材内部にパイプが張り巡らされていて、伝声管のように生徒の世間話を寮監が収集する機能があるとか…………」

「………………………………なん…………ですって……………………!?!?!?」

「冗談ですわ」

「こ、この女ァァッ…………………………!!!!」

 

 小粋なジョークを挟むと、黒子は真っ青にしていた顔を真っ赤にして唸り出した。

 憤死しかねないほどのキャラ崩壊を引き起こした黒子の横で、美琴が耐えきれずに吹き出す。

 

「あはは、でも、アンタも変わったわよね」

 

 目元を指先で拭いながらの美琴の言葉に、自分が蒔いた種でありながら思わずギョッとしてしまう。そんな俺の内心など気にせず、美琴は話を続ける。

 

「つい一か月前くらいまでは、寮監に締め上げられる姿なんて想像もつかなかったもん。あの人あれで『可愛がる』人間は選んでやってるし」

「それ、頻繁に捻られているわたくしは寮監に気に入られているということになりません?」

 

 嫌な顔の黒子は無視して、

 

「今だって、そんな風に冗談を言うようになっている。……凄い変化だと思うわよ。本当に」

「…………ありがとうございます、そう言ってもらえると、励みになりますわ」

 

 まぁ、肝心の派閥の子達にはまだノータッチなんだけどな…………。

 と、そう言っていると、ふと美琴と黒子の体に細かい傷があることに気付いた。話を逸らす意味も込めて、美琴に言う。

 

「……あの、御坂さん、白井さん、お怪我をされているようですが?」

「ああ、これね…………」

 

 美琴は頬を掻きながら、

 

「まぁ、ちょっと色々とあったのよ。アンタが無断外泊したのと同じように、ね?」

「…………なるほど、厄介事を抱え込んでいたのはお互い様というわけですわね」

 

 そういえば、思い出した。

 美琴はこの時期、乱雑解放(ポルターガイスト)の一件に巻き込まれていたんだったか。そういえば罰掃除プログラムで東奔西走している時、最近地震が多いなーとか思っていたような記憶がある。日本だしってことで普通に流していたけど……。

 そうか、ってことは昨日までは美琴達は乱雑解放(ポルターガイスト)事件の処理をしていたってわけなんだな。

 ………………この世界、アニメ基準じゃないから婚后さんがいないんだけど、どうやって婚后さんパートをこなしたのだろう? ……詳しい内容は覚えてないけど、確か婚后さんが頑張って助かったみたいなパートあったよな?

 

「……何か困ったことがあったなら、遠慮なく言ってくださいましね?」

「ええ、ありがとう」

「お姉様、早く行きますわよ!」

 

 多分、婚后さんがいない分誰かしらが無茶したんだろうな……(黒妻が脱獄して駆けつけたとか)と思いつつ、そんなことを話していると、復活した黒子が美琴の腕を引っ張っていた。

 

「お急ぎの用事があったんですのね。引き止めてしまって申し訳ありませんわ」

「いいのよ。どうせ旅行用の小物を買おうってだけだし」

「…………旅行用?」

「ほら、九月の頭に『広域社会見学』があるでしょ? まだどこに行くか決まってないけど」

「ああ」

 

 言われて、俺も得心が行った。

 

 広域社会見学。

 九月三日から一〇日までの一週間、学園都市からランダムで選ばれた学生達が世界各地へ遠征する、言ってみれば勉強会のようなものらしい。規模がワールドワイドだけどな。

 人数は大体一つの都市につき二〇人一組のグループで、引率の警備員(アンチスキル)もいるらしいが、概ね修学旅行みたいなモノと考えていいらしい。

 ちなみに、『世界各地に遠征』と銘打ってはいるが、実際には学園都市設立時に協力関係にあったアメリカさんの各都市にちらほら向かう程度なんだとか。せっかくだし同盟国のイギリスにでも行けばいいのにね。

 で、どうやらその広域社会見学に美琴と黒子は参加するらしい。

 なお、レイシアちゃんの方は参加しない。日記の方に『わたくしは選ばれなかったのにあの電撃女とその腰巾着が選ばれるなんて上層部の依怙贔屓ですわ』と不平不満が連ねられていたし。

 

「それは楽しそうですわね。お土産、今から期待していますわよ」

 

 まぁ、俺としては別に行っても行かなくても…………という感じなのだが。

 

「まだあと二〇日あるし、ちょっと気が早いわよ」

「二〇日なんてすぐですわよ。特に長期休暇なんて……。わたくしはこの一五日間、気が付いたら終わってましたわ……。この頃はもう何だか一週間経つのもあっという間で…………」

「あ、あの、レイシアさん? ちょっと何か変なものに取り憑かれてやしませんか?」

 

 美琴が、ちょっと引き気味で問いかけて来る。敬語になりかけているあたりわりとマジだ。

 ……俺としたことがついうっかりおじさんくさいことを言ってしまったようだな。

 いやでもほんと、歳とると時の流れって早くなるのよ、マジで。これについては、生きてきた期間が長くなると一瞬一瞬の時間が()()()()()()()()からって話を聞いたことがあるけども。

 

「ま、まぁ良いわ。それじゃ、私達はこれで」

「ええ。また」

 

 そう言い合って、俺達は互いに別れていく。

 ………………罰掃除も終わったし、ようやく、俺も『本題』に入れる。


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