【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス) 作:家葉 テイク
そういうわけで行動開始だ。
俺をはじめとした派閥メンバーは、第一会場から第四会場まで分散して待機していた。まぁ、みんなのヘルプというヤツである。俺たち、個人個人でも高位能力者だからそこそこ強いし。
で、俺は苑内さん&刺鹿さんペアとともに学園都市研究発表会第一会場にて待機していた。第一会場には俺たちのほかに多数の
ぶっちゃけ黒子の能力なら敵の新手が出てきたとしても内部に
『レイシア=ブラックガード』という強力な戦力を即座に飛ばせる能力者は、今回参加している
「…………それはそれとして、眠いのですが……」
「レイシアさん、寝やがってねーんですか?」
「原稿が……原稿が……」
俺は凡人なので、練習しないとかありえないのである。……いやいやいや、それ以上に危険な問題が差し迫ってるんだからそこは寝とけよ、というツッコミがどこからともなく聞こえてくるが……俺からしたら、『この後』も同じくらい大切なイベントなわけで……。
…………まぁ、二徹くらいなら大丈夫。レイシアちゃん、まだ若いし。だって一四歳だもん。
「……そのっ、レイシアさんは、今日は休んでいてもよいのではっ? 生半可な兵器くらいでしたら、我々の中の
「ご安心を。ただ眠いだけで、まだ意識が朦朧としているわけではありませんから」
それに、この感じならまぁあと二、三時間はイケるかなって感じなのである。ギリギリ、学究会の発表の間は持たせられる。珈琲も飲んだし。……その結果乱れた生活リズム的に新学期一発目の授業がキツイかもなって予感はするが。まぁヤバそうだったら体調不良で行こう。
「(燐火さん、万一の時のために、代打の準備をしやがってください)」
「(承知しましたわっ)」
「…………ですから、大丈夫だと言っていますのに……」
信用ないなぁと思ったけど……ううむ、これまでの行いのせいだろうか。今更しょうがないかぁ……。
***
***
「…………しかし、手持無沙汰ですわね」
戦闘が始まってから、しばらく。
まぁ、隠し玉でもある俺が最初から出張るわけにもいかないもんで。現在俺は、
いやぁ、指揮官レベルの方々の分を用意するくらいだったら、余裕も余裕。派閥の力って便利だよね。
…………いやいや。しかし、そういう役回りとはいえ、ほかの子達が頑張っているときに自分一人待機というのは、なんとも居心地が悪い。許されるなら、戦術的な意味合いとか無視して前線に出たいくらいだ。まぁ、許されないからやらないけど……。
敵の『隠し玉』――まぁ、ないに越したことはないし、俺としてはないことを願ってるんだけど、それでもあるなら早く出てきてほしい、と思ってしまうくらいには。
……うぅん。我ながら、本末転倒なことを考えてるなぁ。ひょっとして俺ってワーカホリックのケでもあるんだろうか? いや、自分で言うのもなんだけど俺ってけっこうのんきな性格してるから、それはないか。
「――――ッ! レイシアさん!」
「わひゃっ!? し、白井さんっ!?」
と、そんなことをぼんやりと考えていると、ふと眼前に黒子が現れた。
唐突な登場に、俺は思わず目を丸くしながらよたよたと数歩ほど後ずさりした。……ぎりぎりで、尻餅からのパンモロは回避できた。セーフ。
「……っと、白井さんがやってきたということは」
「ええ! 来ましたわ! 第四会場のようです! 今から、飛びますわよ!」
「慌ただしいですわね……了解です!」
そう言って、俺は黒子の手を握る。黒子の
なんて思っていた俺は、次の瞬間、お姫様抱っこをされて一瞬思考が吹っ飛んだ。
「へっ?」
同時に、景色も吹っ飛んだ。
「しっ、白井さん!?」
「何を慌てていらっしゃるんですか! 女同士で気にすることもないでしょう!」
「そっそれはそうですが……」
ピュンピュンと連続で
目の前に敵も見えてきたことだし、あれこれ言ってもしょうがない。
「では、レイシアさん!」
「――ええ、任せてください。……あの程度に後れを取るなど、どう転んでもあり得ませんわ」
前方に見えるのは、二機の巨大なロボット。
黒を基調にしたカラーリングで、四脚の蜘蛛……あるいはアメンボか何かのようなデザインをしている。足回りは……普通にタイヤか。足自体を自在に動かせるから、方向転換は大丈夫って感じなんだろうが……フッ。自慢じゃないがウチの研究チームの『Hs-O』シリーズの方が使ってるテクノロジーは上な気がするぜ。
と、内心自慢げになりつつ。
「……その前に、少し警告をしましょうか」
黒子の腕から降りて、二本の足で立った俺は、こちらに気付いたらしい二機に向かってひそかに持ってきておいた拡声器を使って言う。
「警告しますわ! 二機とも、今すぐに戦闘をやめて投降なさい! 今ならまだ無事は保証します!」
『貴様は……レイシア=ブラックガードか。病み上がりの能力者風情が、強者ぶっていられるのも今のうちだぞ!!』
聞く耳ゼロである。
いやまぁ、レイシアちゃんのキャラを守りながらだから、降伏勧告としては高圧的なんだけど……正直、トンデモ兵器とか使わない限り
とはいえ、相手も一応無策ではないらしい。
「まったく……悠長にもほどがありますわよ、レイシアさん!」
「……操縦席部分は無傷で鹵獲したいのですが」
ぼやきつつ、俺は前方に『亀裂』を展開する。
…………発現されるのは、いつも通りのそれ。透明な、俺にしか視認することのできない亀裂だ。性能や取り回しやすさが若干向上してはいるものの、あの一件で見せた形とは違うが……まぁ、あの時は火事場の馬鹿力のような状態だったし、できる方がおかしかったということなんだろう。
とはいえ。
ただのガトリング砲くらいであれば、この程度でもなんら問題はない。
ドガガガガガガガ!!!! と銃撃音が連続した。
しかし、ガトリング砲の直撃を受けても『亀裂の盾』はびくともしない。…………これまでなら、まぁ突き抜けないにしてもビリビリっていう衝撃くらいは貫通しかねなかったけど……ん~、やっぱり微妙に能力が成長してるのか? 素直に喜べないんだけど……。
『…………ば、バカな…………』
目の前の機体から、信じられないとでも言うような声が聞こえてくる。たぶん、こっちへのレスポンスを返す通話機能をOFFにし忘れているのだろう。それくらい、衝撃的な出来事ということだ。
「気は済みましたか? 分かったなら投降なさい!」
…………まぁ、今更投降するとは思えないんだけども。……と思いつつ、俺は相手の次の手を予想しつつ『亀裂の盾』を展開しておく。
『…………ッッ!! 能力者が、見下しやがってッ!!』
ギギギ、と二機の機体のガトリング砲の向きが俺から、大きく変更される。……そう、まだ他の人たちが残っている第四会場の施設の方に、だ。
傍らにいた黒子の目の色が、明確に変化する。
「貴方がた…………!!」
『調子に乗っているからこうなるんだよっ!! 能力者、お前たちは指を咥えてお仲間が蹂躙されているのを見ているがいい!!』
吐き捨てるようにそう言って。
『STUDY』の二機の砲が、一気に火を噴いた。
物理的に。
『…………な、あ……? な、んだこれは!!』
『クソ、ガトリング砲の発射部分が大破している! どういうことだ!?
「……まだ分からないんですの?」
よし、これで武器はつぶしたな。
被害状況の把握に努めるので精一杯らしい二機に拡声器で種明かしをしてやりながら、俺は二機のうち一機の胴体部分をバラバラに刻む。もちろん『亀裂』は表層にとどめてあるから、操縦席にいるであろう下手人が怪我をする心配はないけどな。
「アナタがたの
………………まぁ、この手の人たちが追いつめられたら何をするかなんて、考えればすぐ分かるわけで。
それが分かるなら、
簡単に言うと、ガトリング砲の砲口近くに『亀裂』を展開してやった。するとガトリング砲は『亀裂の盾』に阻まれて弾丸を放てず、砲身内部に運動エネルギーがたまってお釈迦になる、という寸法である。
操縦席部分はなるべく無傷で鹵獲しておきたかったからな。戦闘不能にならないと投降はしないだろうし、そのためにはガトリング砲を潰すのが必須だったので、どうしようかなぁと思っていたのだが……挑発して攻撃を誘えばいけるだろうということで、あえて挑発的な言動をとって、それによって『外野への攻撃』を誘発させれば、『亀裂』の先読みでガトリング砲を壊せるなと思ったのである。
「怠慢。怠慢ですわ! 自身の持つ武力の強大さに酔い、慢心し、その挙句がこのざまです! アナタ方の忌み嫌う『愚かな能力者』と、この有様のどこが違いますか!? 理解しなさい! アナタがたは能力開発によって負けるのではありません。この! レイシア=ブラックガードの! 知略に!! 発想に!! 無様に屈するのですわ!!」
結果は大成功。
…………趣味の悪いやり方だと思うけど、まぁ、ウチの連中の努力を手前勝手な都合で踏みにじろうとする連中だ。少しくらいはこう、完全敗北というのを味わわせてやってもいいと思う。
……俺だって、ちょっとは怒ってるんだよ。せっかくみんながあんなに頑張った研究の発表会に、こんな形で水差されたんだもの。少しは自分を省みろってことだよ。
「――――それで。まだ続けるようでしたら、アナタの方もバラバラにして差し上げますが?」
拡声器で以て無事な方の機体に呼びかけると、徹底的に敗北したからか、特に抵抗もなく機体は沈黙した。
「…………ふぅ」
俺はこれ見よがしにため息をついて、
「この程度の
と、はっきりと吐き捨てた。拡声器を通して。
***
「…………レイシアさん! 大変です!!」
で、完全敗北させた二機の操縦室から下手人を引っ張り出した後。
持ち場に戻って、お仕事終わったーと思ってうとうとしていた俺のもとに、黒子が再び現れた。
「……はっ!? もっ、もう開会の時間ですか?」
「時間? それどころじゃありませんわよ! 『STUDY』のリーダー、有冨がまたやらかしてくれましたわ! あと一時間半後には学園都市にミサイルの雨が降ってきますの!」
そ、そういえば……そんなのあったな……! なんだっけ? 確か、AIM拡散力場がどうのって話だったような…………。
「……事態は呑み込めました。それで、どうしますの!?」
……あれ。なんか嫌な予感がする。
そういえばこの後、美琴と黒子は婚后さんが用意したロボットに乗って、婚后さんの能力で宇宙まで送ってもらうんじゃなかったっけ。
……んで、婚后さん、いねぇじゃん!!
どうすんだよ、一応風なら俺でも起こせるけど……起こせるけど、役割が違う! 俺の起こす風は一発限りの突風で、威力だけなら俺の方が上かもしれないけど、持続力じゃ流石に勝ち目がない。でっかい鉄の塊を浮かせるほどの力はない。その上、そもそも鉄の塊がない!
……いや、一応胴体部分を無傷で鹵獲している機体があるから、それを使えばそこは何とかなるけども。
「それを今から考えますの! レイシアさんも来てください!」
………………なんだか、俺って毎回追いつめられているような気がする。