【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス)   作:家葉 テイク

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二五話:革命未明

「今戻りましたわ!」

 

 第四会場に移動すると、既に初春、佐天といった今回の中核をなすメンバーにGMDWの面々が合流していた。美琴はまだ敵のアジトにいるので、俺が事前に支給したバイザーを介したテレビ電話越しだが。

 

「状況は!?」

「おそらくレイシアさんが知ってやがる通りです! 有冨とかゆーヤツがやけを起こして学園都市にミサイルをブチ込んできやがりました。詳しい原理は分かりませんが、学園都市に壊滅的な被害をもたらしやがるそうです」

「その上、上空で五〇〇〇発に弾頭が分裂するので迎撃は困難とか……」

「よろしい。分散前に、御坂さんの超電磁砲(レールガン)で撃墜は?」

 

 即座に情報を共有・確認してくれる夢月さんと燐火さんに満足げに頷きつつ、俺は当然といえば当然な情報を確認する。まぁ、俺が考え付く程度の提案は既にみんなも考えているだろう。

 

『無理よ。超電磁砲(レールガン)の射程は五〇メートル。とてもじゃないけど届かないわ』

 

 当然の提案に、当然といえば当然な回答が美琴から帰ってくる。

 まぁ、そりゃそうだ。美琴のレールガンの弾体はゲーセンのコインを使ってるからな。空気抵抗の関係で、五〇メートルも飛んだら溶けて攻撃力が大幅に軽減される……というのは、俺も知っている情報だ。

 

「……では、わたくしが鹵獲した機体を使えば?」

『それも考えたけど無理。地表から打ち上げると、空気抵抗が高すぎるの。ミサイル迎撃までに、空気の壁と激突した衝撃でバラバラに飛び散っちゃうわ』

「フム……」

 

 やっぱりダメか。

 

 そう考えると……上空まで移動して巨大な弾体でレールガンをぶち込む、というやり方は、俺たちの手札じゃ再現できない。……いや、白黒鋸刃(ジャギドエッジ)の『亀裂』を道にして駆け上がればなんとかって感じだろうが……徒歩で移動しなくちゃいけない分、時間的余裕はないし、何より生身で上空まで移動するのは骨が折れる。

 どうしたものか……。

 

「あの……レイシアさんの、白黒鋸刃(ジャギドエッジ)ってやつならどうでしょ?」

 

 と提案したのは、長い黒髪の少女――佐天だ。

 なるほど、確かに白黒鋸刃(ジャギドエッジ)を使って上空に『亀裂の盾』の道を作ってしまえば、とりあえずミサイルの直撃は防げるが…………。

 

「それも厳しいですわね。今から移動を開始すれば十分間に合う領域ではあると思いますが、高空では酸素の確保が難しい。……まず間違いなく、途中でブラックアウトすると思いますわ。何かしらの対策があれば別です、が……」

 

 そこまで言ったところで、ふと俺は気づいた。

 そういえば、『STUDY』が使ってた兵器、無傷で鹵獲してるじゃん! アレがあれば高空まで一発……いや無理か。流石にマニュアルもなしに操縦なんてできないし。

 

『――それなら、さっきアンタが鹵獲してた機体が使えるでしょ。操縦なら、電子制御は私が操れちゃうし』

 

 ……と勝手に納得していたら、美琴が助け船を出してくれた。

 あれ…………これ、いけるんじゃないか!? 俺が白黒鋸刃(ジャギドエッジ)で道を作り、そのまま高空まで駆け上がり、『亀裂の盾』を展開。

 まぁ、展開できる『亀裂』の長さの問題とかもあることにはあるけど、そのへんは黒子に協力してもらって逐次俺を機体の外に出して『亀裂』を展開、その後また機体の中に戻るという工程を繰り返せば、まぁ大丈夫だろう。かなり地味な作業だけど、安全だ。

 問題は…………。

 

「……そのやり方だと、私、御坂さん、白井さんの三人が搭乗する必要がありますが…………内部のスペースは確保できますか?」

 

 俺が呈した疑問に、その場の全員が沈黙してしまった。

 

***

 

第三章 勝ち逃げなんて許さない (N)ever_Give_Up.

 

二五話:革命未明 "Scilent_Party".

 

***

 

 会議は難航していた。

 確かに美琴は電子制御の機械は全て支配できる現代戦最強の超能力者(レベル5)なわけだが、それでも工学系には明るくない。操縦席の周辺を弄繰り回せと言われても到底無理な話だ。

 

「レイシアさんの派閥の人たちなら――」

「残念ながら、そいつは難しいでしょーね。私らは確かに精密機械を扱ってはいますが、本職は研究者なんで。メカニックに詳しいのは……桐生さんくらいでしょーかね?」

「むむむ、無理ですよ! わわわ、私はただちょっと機械いじりが好きなだけですし!!」

 

 夢月さんが桐生さんに水を向けてみるも、これもダメ。まぁこれは俺も分かりきっていたことだ。…………ううむ。メカニック系は、専門色が強いせいでこの場に扱えそうな人っていないんだよなぁ…………。

 いっそ、操縦に必要な電子機器類のみ残してあとは全部撤去する、というのも一つの作戦ではあるが…………それだと時間が間に合うかどうか心配だ。

 

「…………おい」

 

 と、そこでそのへんの隅で拘束していた『STUDY』の一人…………確か、小佐古とか言った少年が声を発した。

 …………コイツが協力してくれれば助かるけど、まぁそれは難しいかなぁ。ただでさえあれだけ煽ったわけだし……。

 

「俺に、手伝わせてくれ」

 

 …………さてどうし……んん?

 こいつ今……手伝わせてくれって言ったのか?

 

『……どういう風の吹き回し?』

 

 油断なく問いかけたのは、美琴だ。こういうとき美琴は考え込まずにさくっと行動に移せるあたりがすごいと思う。

 対する小佐古は、目を伏せながら答える。

 

「別に……言われっぱなしは、性に合わないだけだ。そこの性悪女の言う『玩具』遊びだって、バカにできないと……証明するのも、一つの革命だろう」

 

 憮然として、小佐古は言う。

 …………あれ? さっき吐き捨てたアレがトリガーになってたってことか……? 戦闘中の発言だし、相手も聞き流しているものだとばかり思っていたけど……。

 

「おい、小佐古……!」

「……関村。もう駄目だよ。君だって分かっているだろう。革命は……俺たちの革命未明(サイレントパーティ)は失敗した。それどころか、今の俺たちは……憎んでいたはずの能力者たちに命を預けている身だ」

 

 小佐古がそう言うと、関村と呼ばれた少年は何も言えずに押し黙る。小佐古は俺の方を見て、何か憑き物が落ちたみたいな表情で言った。

 

「……能力開発によって敗北するのではない、か。クソ……忌々しいが、こちらの手を読まれていたのは事実だ。……才能だけでのし上がってきた能力者にいいようにされたまま、黙っていられるわけがない、ね」

 

 そう憎まれ口をたたく小佐古だが――その表情に、悪意は見られなかった。カッコ悪いままで終わらせられるかよ、という雰囲気を感じる。

 

「――いいでしょう」

「……ちょっと、レイシアさん?」

 

 黒子は少し不安なようだが、この状況は一蓮托生だ。『STUDY』の中にだって、有冨の意地と心中したいってヤツはいないだろう。そういう意味でも、この状況での彼らの助力の申し出は信じる価値がある。

 

「御坂さんも、それでよろしいですわね?」

『……はぁ、アンタ、ちょっと見ない間に随分とお人好しになったわよね。私でも、コイツらのことを信頼しろって言われたらうなずけるかどうか分からないのに』

「…………なに、あの方ほどではありませんわ」

 

 上条だったら、相手が何か言う間もなく腐ってる二人の胸倉を掴んで説教して立ち上がらせてただろうしなぁ。いやいやいや、ホント、あいつのああいうところは化け物じみてるよ。

 あと、たぶんお前もなんだかんだでOK出してたよ。だって相当のお人よしだもん。

 

「……というかそもそも、ミサイルの弾道計算すらままならない状況なんですけど! あーっもう、風紀委員(ジャッジメント)の機材じゃスペックが足りなさすぎます!」

 

 といったところで、初春の方も悲鳴をあげてきた。

 ……ああ、それについては、なんとなく覚えがある。確か――――、

 

『…………ああー、なんというか、うん。そっちについては何とかなりそうだから、心配しないで。任せて』

 

 妹達(シスターズ)が、その演算能力を遺憾なく発揮してくれていたはずだし。

 うん、この美琴のなんか濁すようなへったくそな弁解がそれを物語ってくれてる。

 

「…………これで、全ての障害は解決、でしょうか?」

『そうみたいね』

 

 テレビ電話越しに、俺と美琴は互いに頷き合う。

 ……さぁ、最後のお仕事といきますか。

 

***

 

「…………今更ですけど、なんでお姉様とわたくしの愛の巣に貴方が紛れ込んでおりますの?」

 

 機内。

 小佐古達の助力によって三倍くらいの広さを確保し、余裕をもって空間移動(テレポート)が行えるような場所を確保したそこで、黒子がむすっとしながら文句を垂れていた。

 

「仕方がないではありませんか。わたくしがいなければ、ミサイルを防ぐことはできないのですから」

「あはは、私を運転手扱いできるのなんか、レイシアさんくらいかもね」

「アナタの能力の恐るべき汎用性の高さを呪ってくださいまし」

 

 いやマジで。

 こと機械においては美琴ができないことって、ほとんどないからな。今回出てきた二万体の駆動鎧にしたって、美琴対策に動力部品を全部オミットしてたって話だし。まぁ、結局武器にしていたバールのようなものには鉄が入ってたからそれで蹂躙されたってオチらしいけど。

 と、まぁそんな感じで軽口を叩きつつ。

 

「それでは――――行きますわよ!」

 

 事前に外で展開しておいた『亀裂』を、グッと展開して、高空への道筋とする。道幅は最大で一〇メートルまで広げられる。美琴なら、そこから落下するようなヘマはするまい。

 

「……レイシアさん、『亀裂』、透明で見づらいんだけど、色つけられない?」

「申し訳ありませんが、アレは調子がよくないと出せないみたいで。砂鉄を操作してなんとかカバーしてくださいまし」

「操縦しながら機内から砂鉄操作とか、むちゃくちゃ要求してくれるなぁ……」

 

 それができるから超能力者(レベル5)なんだよね。

 

「……そろそろ展開限界です! 白井さん!」

「お任せあれ! 鼻と口を覆ってくださいまし!」

 

 第四会場へ向かう時のように黒子に横抱きにされた俺は、そのまま瞬時に空間移動(テレポート)して外に出る。急な気温の変化に一瞬全身が痙攣するような感覚に陥るが――気にしない!

 能力を解除。『亀裂』を一旦全解除して、そして即座に機体の真下に『亀裂』を展開しなおす。

 

「白井さん、展開完了ですわ!」

「了解ですわよ! 戻ります!」

 

 ……と言った次の瞬間には、機体の中。わざわざいらない機材や一部内装を変更した甲斐があってか、転移事故の類も起こらない。

 地味な作業ではあるが…………やってるこっちとしては、高山病すれすれなんだよね。一応、酸素ボンベの類も持ってきてはいるけど……。

 

「残り時間は――――四〇分。この分なら、なんとかなりそうですわね」

「これ、けっこうキツイわよ。砂鉄操作しながらマシン運転してるって……。しかも、解除したとき一瞬浮遊感が……」

「頑張ってくださいまし、御坂さん」

 

 まぁ最悪、美琴は落下しても磁力で助かるから。白井も空間移動(テレポート)で助かるし……俺も白黒鋸刃(ジャギドエッジ)で助かるな? なんだ、そう考えると時間内に指定の高さまで到達しさえすれば、別に何の危険もないな。うん。

 ………………いやいや、酸素が薄い、気圧が低いって相当なアレなんだけどもね?

 

「…………それよりわたくしは、眠いですわ……」

「ちょっ、レイシアさん!? 寝てはいけませんよ!? 寝たらみんなして落下ですわ!?」

「こんなとこで寝落ちして作戦失敗とか、冗談じゃないわよ!?」

「もう、疲れましたわ…………」

「レイシアさーん!?!?!?」

 

 いやまぁ、冗談だけど、そろそろいい加減眠いんだよね。


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