【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス)   作:家葉 テイク

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三七話:快刀乱麻

 つまり、ステイルと神裂に電話をかけるのだ。

 

 一応魔術師とはいえ二人も携帯は持っているようで、レイシアちゃんが例の一件の折に連絡先を交換していたらしい。その電話にかけてみて、イギリス清教からの公式判断を仰ぐ、というわけだ。

 まぁ、今回に関してはシェリーの暴走で、イギリス清教はやっちまった側だからな。やられちまった側の学園都市の人間から、『やっちまったそちらさんの人を倒したいんだけど』と言えば、無碍に断れないだろう。

 無許可で攻撃するからダメなのだ。ちゃんと許可をとってからやればよろしい。

 

 ……なんかレイシアちゃんはそわそわしているようだったけど、とくに拒否してないってことはこの作戦に穴らしい穴はないってことだろう。

 とはいえ、まだシェリーを発見してない段階から電話をかけたら、それはそれで問題になってしまうから、電話をかけるのはシェリーを発見してからになるんだけどもね。

 

 というわけで、終業式が終わるまで待ち。

 

「……あれは」

 

 シェリー探そう、という目的のもとに、確か地下街で戦ってたっけというおぼろげな記憶を頼りに街中を散策していると、ふと一人の少女が信号弾を真上に打ち上げているのが見えた。

 

「……白井さん、それと――」

 

 そして、その彼女の視線の先に、一人の女がいた。

 ゴシックロリータ衣装の、褐色肌をした金髪の女。……シェリー=クロムウェル。俺が見る三人目の魔術師だ。

 

 俺がどう介入しようかと考えていると、黒子は空間移動(テレポート)を使って一気にシェリーの眼前に躍り出た。……やっぱあの能力強いよなぁ。

 そのまま黒子はシェリーを空間移動(テレポート)によって地面へ倒し、さらに金属矢を使って地面へ縫い止める――が、次の瞬間に起きた地面の爆裂によってふっとばされてしまう。

 

《レイシアちゃん、動くぞ》

《は、はい……。しょ、しょうがないですね》

 

 なんだか歯切れが悪いのが気になるが、俺は迅速に白黒鋸刃(ジャギドエッジ)――今回は隠密性を鑑みて、透明タイプ――を展開し、俺を含む半径一〇メートル内を球形に隔離する。

 ……地面とかごっそり抉れちゃうことになるけど、まぁそこは許してくれ。

 とりあえずこれでシェリーの逃亡を防ぎつつ、俺は電話でステイルに連絡する。隠密仕様の場合電撃は通り抜けるから、電波も届くのだ。便利便利。

 

「…………あ、もしもし」

『レイシアか。どうした? 忙しい中学園都市に残ってやってるんだ。まさか不測の事態だなんて言うわけじゃ……』

「あ、シレンです。シレンの方です」

『っ!?』

 

 ステイル、学園都市にいるのかぁ……。

 小説だとそんなことなかった気がするけど、まぁ俺達の件でこっちに来たからまだ残ってる、ってことなんだろうな。

 

『そそそそ、そうか。じゃあ今のは忘れてくれ。僕は今イギリスに……、』

「あの、そんな分かりやすい嘘を吐かなくても」

 

 ……ステイルも何か隠してるのか? しかし、レイシアちゃんとステイルが……どういう関連性だ? いや、関連性ないのかもしれないけど。

 疑問には思うが、ステイルがいるなら話は早い。

 

「それより、こっちにいるならちょっとお願いが」

『……なんだ』

「魔術師が襲撃してきたようなので、ちょっと対応をお願いしたいな、と。……わたくしが倒してしまうと、いろいろと問題があるかもしれませんし……」

『……………………なんでこんな時に……』

 

 なんか、ステイルが頭を抱えているのがよくわかる一言だった。何企んでるのか知らないけど、頑張ってね。

 

『分かった。少しだけ待っていろ。とりあえず、僕が到着するまで足止めしておいてくれ』

 

 そう言って、通話は切れた。

 ………………さて、俺達も働くとするか。

 

***

 

終章 とある再起の悪役令嬢 We_are_"a_Villainess".

 

三七話:快刀乱麻 Tool-Assisted_Superplay_Playing.

 

***

 

 通話を終えて意識を戻すと、黒子がシェリーの生み出したゴーレムに拘束されているところだった。

 そうそう、空間移動(テレポート)は強いんだけど、ああいう風にダメージを負ったり追い詰められたりするとすぐ使えなくなるんだよなぁ……。演算が大変だから仕方ないけど、よくバランスがとれてるなぁと思う。

 

《ぷくく、無様ですわね、白井》

《レイシアちゃん、悪趣味》

 

 けっこうピンチなんだからね。

 と、そこでふと、俺が『亀裂』で区切った領域の中に、見知った顔がいるのに気付いた。

 美琴だ。

 美琴はどうやら磁力を使って砂鉄ブレードを作って、ゴーレムを無力化するつもりらしい。『ゴスロリ女の方よろしく』と目で言われたので、俺はこくりと頷いて新規の『亀裂』を展開した。

 

 ズザザザ!! と真っ白な『亀裂』がまるで繭のように、シェリーの周囲を取り囲む。……今頃シェリーはこの中で訳も分からず声を上げているんだろうけど、それは俺には聞こえない。白黒鋸刃(ジャギドエッジ)は音も反射するからね。

 さて、これでシェリーは逃げられないし、最初に張った半径一〇メートルの『亀裂』の方は解除しておくか。

 と、

 

 爆裂音を響かせ、ゴーレムが倒壊した。どうやら美琴がレールガンをぶっ放して破壊したらしい。

 

「お疲れ様でした、お二人がた」

「……レイシアさん? 貴女がいったいどうして……いやお姉様もですけど」

「通りすがりですわ。それより、一応捕縛しておきましたが、さきほどの女性は?」

「テロリストですわ。…………助けていただいたこと、それと被疑者確保の協力に感謝します」

「なぁに。助けたのは御坂さんです。わたくしは、ただサポートをしただけですわ」

 

 にっこりと微笑んで白井に答えていると、横に美琴が近づいてきた。

 

「(……アンタ、シレンさんの方よね?)」

「(そうですけど……よく分かりましたわね)」

「(物腰を見れば一発っていうか……その様子だと平気みたいね。よしよし)」

 

 美琴は何やら納得した風になって離れていった。

 ……美琴もなんか隠してるのかなぁ。なんだろう、こうなってくるとほかの人たちも俺に何か隠しているんじゃないだろうか? ……なんだ?

 

「……警備員(アンチスキル)との連絡がまだつながりませんわね。通信が混雑しているのでしょうか。レイシアさん、お姉様。悪いですけど、直接本部に連絡してきますので、此処をお願いしてもらってもいいでしょうか?」

「ん? 珍しいこともあるもんね。了解、任せときなさい。つか、下手なヤツより私らの方が安心だろうし」

「然りですわね。お任せくださいまし」

 

 と言って見送ると、黒子は空間移動(テレポート)を使ってどこかへ飛び去ってしまった。

 …………うーん、多分通信が混雑してるって、学園都市サイドの根回しだよなぁ。ステイルにシェリーを引き渡すのに、黒子がいたら困るし。

 美琴は――まぁ、ステイルとはほんのり面識があるから、そういう意味ではあんまり突っかかったりはしないだろ。

 

「――大丈夫か!」

 

 なんてことを考えていたら、ちょうど入れ違いになって警備員(アンチスキル)の人たちが到着した。……あれ? ステイルに引き渡すんじゃないの? なんで到着してるの? 学園都市サイドの根回しは??

 

「君たちがテロリストの捕縛を? 無茶をする……。それで、問題のテロリストは?」

「あ、あっちですが……」

 

 俺は白い繭のようになっている『亀裂』を指さしておく。

 

《ど、どうしようレイシアちゃん》

《現場が有能すぎるのも問題ですわねぇ……。……ですが、引き渡さないという選択肢はないのでは? やるとしても引き延ばすくらいかと》

《だよねぇ……》

 

 普通の警備員(アンチスキル)なんかにシェリーを渡してしまったら、それこそ大問題だ。上条が倒すよりずっと面倒なことになってしまう。

 そんなことを考えてまごまごしていた俺だが、無情にも警備員(アンチスキル)は話を進めてしまう。

 

「……ふむ。ご苦労だった。後は私達が始末をつける。離れておいてくれ」

「で、ですが…………」

 

 ……こうなったら、このもごもごモードでもってなんとか話を伸ばすしかない! いざとなれば敵はなんかの能力を使うからとか言っておいて装備を固めさせて時間を稼ごう!

 

「心配はいらない」

 

 と思っていたら、ふいにそんな声が届いた。

 

「……ステイルさん」

 

 後ろを見ると、ステイルがちょうど到着していた。問題ないって……ああ、そっか。もしかしてこの警備員(アンチスキル)の人って、そういう風に偽装してるだけで実は暗部の人とかなのかな。

 そう考えると、黒子をわざわざ外させてから入れ違いに合流したのも納得がいく。

 

 

 そのあとは、まぁ消化試合だった。

 俺が白黒鋸刃(ジャギドエッジ)を解除したら、当然解放されたシェリーは暴れようとしたが、すぐに警備員(アンチスキル)が数人がかりで取り押さえ。

 そんなシェリーにステイルが何事かを言ったら、シェリーはすっかり項垂れてそのまま連行されてしまった。あの様子じゃあ、抵抗したりとかはないだろうなぁ。

 よかったよかった。とりあえずこれで六巻の事件は終了だ。……確か、シェリーのせいで風斬が自分が人間じゃないことに気づくって一幕があったと思うけど……まぁ、そのへんは別にあんな形でなくてもよかっただろうし。うん。

 この後上条一行に混ざって、俺がそれとなく風斬に自分が人間じゃないってことに気づかせて、そして傷つかないようにフォローをすればいい。

 

「……つかアンタ、一体何者なのよ? 昨日は聞く機会なかったけど、警備員(アンチスキル)と一緒に来るとか普通じゃないわよ」

「フン。それを言ったらお前も、あの能力者も普通じゃないだろう」

「そりゃそうだけど……」

「それより、だ。問題はないのか? いくらなんでもイレギュラーが……」

「そっちの方は大丈夫よ。つか、声が大きい!」

「お前だって人のことは言えないだろう!」

 

 なんてことを考えていたら、美琴とステイルが何やら言い争っていた。

 ……………………何を隠してるのかなぁ。すっごい気になるなぁ。でも聞いちゃダメなんだろうなぁ。

 

「そんで、アンタ達この後どうするの? 私はこのまま黒子を待つけど」

「僕がここに残る理由はないな。まだやることが残っているからね」

「わたくしは上条さんを探そうかと。昨日の御礼のこともありますし」

 

 と言うと、二人は一気に微妙な顔をした。

 ついでにレイシアちゃんも微妙な顔をした。おいだから現実の顔にまで出るって。

 

「……あの男はやめておいた方がいいと思うぞ? ほら……あれだ。ヤツの周りは騒がしいし」

「そうねそうね。それにアイツ、宿題が終わってなくていろいろと忙しいんじゃない? 後にしてあげた方が……」

「………………なるほど、上条さんが中心、と」

 

 俺がそう呟くと、二人は一気にぎょっとした顔をした。

 ついでにレイシアちゃんもぎょっとした顔をした。……だからすごい奇妙なことになってるんだけどさ。

 

「な、なにを、」

「いや……さすがにわたくしでも、みなさんが何かを隠していることくらいは分かりますし。何を隠しているのか知りませんけど…………そういうことなら分かりましたわ」

「あ、あのねシレンさん? 別にそういうことじゃなくってね? 特に何か悪いことじゃなくて、どーでもいいようなことで、ね……?」

「そういうことなら、まぁ、放置しておくことにします」

「そうだシレン、心にゆとりをもって……は?」

 

 俺が矛を収めると、二人は一様にきょとんとした顔をした。

 ついでにレイシアちゃんも――いや、さすがにさせん! 今回は俺が真顔で上書きした!

 

「ですから、何を企んでいるのか知りませんけど……レイシアさんや御坂さん、ステイルさんに上条さんまで絡んでいるのでしたら、悪いことではなさそうですし……放っておきますわ」

 

 そう付け加えると、二人は目に見えて脱力した。

 

 しかし、みんな隠し事が下手だなぁ……と思ったけど、そういえばみんな一四歳だっけ。それならしょうがないかぁ。

 

***

 

 その後は、上条のところに行くわけにもいかないので、常盤台中学の校舎まで戻ってきていた。

 今日はおやすみなんだけど、まぁ、派閥の集まりもあるだろうしね。さすがに散策も飽きてきたから、こっちに行こうかってレイシアちゃんと話をしていたのだ。

 それに、二乗人格の件の報告もまだしっかりしてなかったし。

 

「れ、レイシアさんっ!? なんでこっちに!? 今日はおやすみのはずでは!?」

 

 …………と思っていたのだが、開口一番夢月さんにそんなことを言われてしまった。彼女たちも絡んでるのかぁ、この一件。

 ……………………なんかもう、いい加減に予想がついてきたけど、みなまで言うまい。そこまで無粋じゃないよ。

 

「シレンの方ですわ。暇だったので遊びに来ちゃいました」

「そそそ、そーなんですか! 熱心なことはいいことでやがりますね! (……ちょっと! 何してやがるんですか! さっさと片付けやがってください!)」

 

 後ろ手に扉をガッチリと押さえているその姿は、その奥に隠しているものがありますと何より雄弁に語っていたけど、俺はしっかりとそこを無視するのだ。俺は大人なので。

 

「しかし、もう動きやがって大丈夫なんですか? 確か安静って話でしたが……」

「ええ。一応、先生のお墨付きはいただいていますわよ。今日も特に問題はありませんでしたし。――ですが、今日はやめておきましょうか。なんだか、取り込み中みたいですし」

 

 そう言って、俺は夢月さんが現在進行形で塞いでいる部屋の扉に視線を向ける。

 それを受けて、だらー……と夢月さんが思いっきり冷や汗をかいていた。分かりやすすぎるだろ……。

 

《くっ……刺鹿のバカ。もう少しポーカーフェイスを心掛けなさい……!》

 

 いやレイシアちゃん、人のこと言えないからね?

 

「……では、これにて。準備頑張ってくださいましね、夢月さん」

「へ? 今、シレンさん私のこと夢月って……」

 

 ぽかんとした夢月さんをスルーして、俺は踵を返す。

 晴れて別人格ってことになったんだから、呼び方も合わせる必要ないからね。あとレイシアちゃん、夢月さんのこと刺鹿って呼んでるし。

 

 なーんか隠し事されている意趣返し、ってわけではないけど、呆気に取られた夢月さんを残して、俺はその場を後にした。


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