【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス) 作:家葉 テイク
「では、今後の方策について話し合いたいと思いますわ」
食蜂さんの『最大派閥』との会談を終えた後。
俺達は、一旦GMDWが最近たまり場にしているカフェテラスへと戻ってきていた。
広めのテラスを貸切っているので、こういう他の人に聞かれたくない話もしやすいのがいいよね。当たり前のように喫茶店一店舗を貸切ってる財力とか、ヤバイと思うけど……。
いやホント、喫茶店ノーアトゥーンさんにはお世話になっております。また後でお礼しとかないと。
「方策っていうと……シレンさんが安請け合いしやがった、例の『陽動』の件ですか?」
「や、安請け合い……」
「そうですねっ、シレンさんが勝手に同意しちゃった例の『陽動』の件ですねっ」
「す、すみません……」
いやいやいやいや、だってさ……食蜂さんが悪事を働くわけないんだし、それなら協力した方が色々と円滑に進むでしょって思うじゃない……? よかれと思ってなんだよ……。
…………うん、勝手にタスクを増やしたことについては反省しないとだな!
「……冗談ですよ。確かに我々の関係性は再構築されて、現状はシレイシアさんの独裁じゃーなくなってやがります。ですが、そういう前提があったとしても、シレイシアさんは我々の
気まずくなって俯いた俺に、夢月さんは苦笑しながら周囲の面々に視線をやった。
視線を受けた派閥のメンバー達も、苦笑しつつも夢月さんの言葉に頷いてくれていた。うう、助かる……。
「それにっ、そんなシレンさんだからこそあたくし達ももう一度集えたという部分もありますしねっ。……というとっ、レイシアさんは拗ねてしまいそうですがっ」
「拗ねませんわよ子どもじゃないんですからっ!!」
……レイシアちゃん、遊ばれてる。遊ばれてるよ……。
「あはははっ。……ですけどっ、陽動と言っても、やれることは限られているのではっ? 食蜂さんの思惑は結局何も分かりませんでしたしっ、競技を頑張る以外は何もっ」
「ええ、そうですわね」
燐火さんの言葉に、俺は素直に同意を返した。
確かに、食蜂さんの思惑は結局大して分からなかった。精々、大覇星祭で何かするってことくらい……。
でも、分かる必要なんてないんだ。だって、俺は食蜂さんを信頼しているからな。途中で何かが起こって、アドリブで対応しなくちゃいけないとかならまだしも、よく分からない食蜂さんの目的を調べるのにリソースを割く必要なんて、どこにもない。
それに──、
「……ですが、その『競技を頑張る』ことが、どれほど大変か──という話でもありますのよ」
この超能力者達が跋扈する一大決戦で、『他の注目を一手に集める』というのは、それだけで大変なことだと思う。俺は、『正史』では上条さんが戦っていた『魔術サイド』の話くらいしか知らないが……そこから垣間見ただけの範囲でも、相当に厳しい戦いなことは想像に難くない。
常盤台中学は学校成績でいつも長点上機学園には負けているというデータもあるのだし……油断していては、勝てる試合も勝てない。
それに、これはみんなには言えない話だけど、俺の場合それに加えて上条さん達のサポートもしたいしね。やっぱりみんなの大覇星祭を、魔術師の陰謀なんかで壊されたくないじゃないか。
「えー、そうですか? 確かに私が二年の頃であれば多少手古摺りもしたでしょうけど、今や大半が
「甘いっ!! 甘いですわっ!!!!」
楽観論を並べる夢月さんを、俺はあらんかぎりの剣幕で否定する。
「確かに──大覇星祭では、選手の希望によって出場競技をある程度調整できます。我々GMDWが出場競技を集中させれば、単純に高位能力者の数としても圧倒的でしょう。しかしっ!!」
ビッ!! と、俺は勢いよく下を指差す。
…………その拍子に人差し指がわりと勢いよくテーブルに当たり、ちょっと痛かった。
《シレン~~っ、痛いですわよ……》
《ごめんレイシアちゃん、ちょっと熱が入りすぎて……》
それはともかく。
「……
俺は知っている。小萌先生を傷つけたからという理由ではあるが、大した能力者がいないはずの上条さんの高校が、高位能力者ばかりの進学校を努力と工夫で薙ぎ倒したあの戦いを。
GMDWの面々は、当然あんなひどいことは言わない。でも、似たようなモチベーションの高校とぶつかったりしたら? 今の慢心しているGMDWでは……押し切られてしまうかもしれない。
少なくとも、上条さんなら……特別なモチベーションがなくたって、きっと倒せると思う。
「……、」
「ではっ……このままではよくないとお考えのシレンさんにはっ、何か……策がおありなのでっ……?」
思うところがあったのだろう。口を噤んだ夢月さんに変わって、燐火さんが話を振ってくれる。
俺は指をさすりながら、それに対し鷹揚に頷いた。
「ええ。──しかし、策というのは少し違うかもしれませんわね。その言い方だと、我々が敵の戦力を分析したりする必要があるでしょう?」
「ちちち、違うのですか? 相手がこちらの戦力を分析するなら、同じように我々も戦力分析をして相手を戦術で上回る必要があるのでは……?」
俺の言葉に疑問を投げかけたのは、二年の桐生さんだ。
うむ、セオリー通りならそうなる。そうすれば結局は立案能力の高さで勝負が決まるから、手札が多くとれる作戦の幅が広い俺達が勝つのは常道となる。
だが──それは違う。それは、弱者の戦い方だ。未だに自称するのは面映ゆいけど、俺達は、立派な『強者』なのだから。
強者が弱者の戦い方をしたところで、上手くかみ合うはずがない。強者には、強者に適した戦い方がある。
「『強く』なるのです」
そしてこれは、大覇星祭に限らず、今後の俺達にとってはとても重要な話でもあった。
「今のわたくし達は、確かに強いです。
……もし、俺達の能力を利用しようとする人間が、GMDWに接触してきたら。
能力は強くても、彼女達はただのお嬢様だ。人質に取られたりすれば、驚くほどガタガタになってしまう。組織としての体裁をなさなくなってしまう。……それでは、ただただ的がデカいだけの木偶でしかない。
「……組織としての、強度を上げる。相手が我々の弱点を突こうとしても、その追随を許さないくらい、遥か高みまで、『集団としての強さ』を上げるのです。一+一を一〇にも、一〇〇にもできるように」
軍隊のように──とまでは、流石に言わない。
でも、組織戦闘ができるようになれば、もしも俺の能力を狙う悪いヤツがGMDWの面々を狙ったとしても、十二分に対抗できると思うのだ。そこに俺達自身の力が加われば、大抵の脅威では揺らぐまい。
発端は食蜂さんからの頼みだったが、これは元々俺とレイシアちゃんが考えていた既定路線でもある。
「──食蜂についてのアレコレはシレンの独断ですが、こちらについてはわたくしも元々同意見でしたわ」
そして、最後に総括するようにして、レイシアちゃんが口を開く。……うぐ。相変わらずそこについてはつつかれるのね……。
「本来は大覇星祭が終わった後に進めていく予定でしたが、
レイシアちゃんは顎に人差し指を当てながら、思案するようにしてこう続けた。
「教えを、乞いましょう。我々には実力があります。あとは──それを正しく振るう知恵さえあれば、向かうところ怖いものなしですわ」
と、いうわけで。
その後、寮に戻った俺は早速講師役に協力の打診をお願いしにいった。お願いする相手はもちろん────
「どうです? お願いできないかしら」
「…………何故、わたくしですの?」
八の字型のタイヤをした車椅子に乗った、亜麻色の髪をしたツインテールの少女。
白井黒子その人なのであった。
「もちろん、わたくしの知っている中でアナタに教えを乞うのが一番いいと、わたくしが判断したからですわ!」
「理由になっていませんわよ。アナタがそう判断した理由を聞いているのですわ」
「いえ、その、正直なところ、大覇星祭まで日数が足りないというのが大きく……」
カッコつかない理由なのでなるべく伏せたかったのだが、白井さんにはあっさりと看破されてしまったため、俺は気まずい思いをしつつも答える。
何せ、大覇星祭の開幕は明後日に迫っているのだ。今から修行をしようといったって、大した変化など望むべくもない。
だから、分かりやすいトレーニングをやったりするつもりはあんまりない。
俺がやりたいのはあくまでも作戦行動がしやすくなるためのとっかかりであり、求めているのはその為のアドバイザーである。
「だから
「構いません。ウチの子達は優秀ですので、理論だけでも聞ければかなり違うはずですわ」
正直、今のGMDW……っていうか俺達含む全員は、その『一般論の範疇』すらよく分かってないのが現状なんだよ。
いや、普通の学生レベルなら十分及第点だと思うけどね? でも、今欲しいのは『その先』なんだ。そうなるとやっぱり、たとえ理屈の話を説明してもらえるだけでも、白井さんの力を貸してもらえるのは凄まじいアドバンテージになると思うんだ。
「了解しましたわ。まぁ、わたくしはご覧の有様なので大覇星祭の練習もありませんし……明日の放課後でよろしければ、お付き合いしますわよ。それでもよろしくて?」
「ええ、もちろんですわ! よろしくお願いします」
「………………本当に、変わりましたわねぇ、貴方……」
変わってはいないよ。まぁ、憑依した俺の動向をレイシアちゃんの性格とごっちゃにしていれば、変わったようには見えるのかもしれないけれど。
「これからもっと、変わりますわよ」
と。
俺ではなくレイシアちゃんが、そこで口を開いた。
口元に笑みを浮かべたレイシアちゃんは、そのままこう続ける。
「わたくしの求める未来には、必要なものがいっぱいあるのです。欲しいものを、自儘に、残さず手に入れる――――そんな