【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス) 作:家葉 テイク
「……上条さん、大丈夫でして?」
「あ、ああ……。大丈夫だ」
それから。
上条は無事ステイルをそげぶし、インデックスを背負ってエレベータで戻って来た。なんかちょっと煤けていたので、ステイルもそれなりに粘ったのだろう。今回は
…………そういえば、これ以降別にルーンを貼らなくても普通に炎剣を使えるようになっていたのは…………多分、敗北を糧にして術式を改良したんだろう。……だとすると、ここで『ルーンを潰されて負ける』経験をさせとかなくて大丈夫だったかな?
…………………………まぁ、そのへんは後で俺が『こういう攻略法もあったぞ』ってことを煽れば、ステイルは頭良いから対応させてくるかな。
その後、このままだと死んでしまうであろうインデックスを治療する為、魔術を使って治療することになったのだが……上条はインデックスのIDがないこととかをなんとかうまくぼかし(たつもりになっ)て説明し、魔術が使える人員――小萌先生のところに向かったのだった。
で、上条は小萌先生にインデックスを預けて、小萌先生に治療魔術を任せて部屋から出て行ったのだった。ちなみに、俺もやることないから出て行った。魔術を使うと能力者の俺は血管破裂して下手したら死ぬからな。
「…………そういえば、結局……レイシア、お前は何者なんだ? 発育が良いことを除けば普通の中学生かと思ったら、常盤台の生徒だし……そもそも何で素性を隠してたりしてたんだよ?」
「…………何者というのはこちらの台詞ですが――……わたくしは普通の常盤台生です。スーパーに常盤台の制服で行ったりしたら、目立つではありませんの」
「じゃあなんで敬語にしてたん?? なんか違和感凄いんだけど」
「いくら外見を取り繕っていたって、この口調じゃ頭隠して尻隠さずでしょう」
「あー…………確かに」
そっちの方が楽だったっていうのもあるんだけどな。未だに、お嬢様言葉で話そうとすると一瞬言葉に詰まってしまう。
「……それより上条さんの方ですわ。あの炎の巨人はいったい? あの女の子もそうですし……。ここまで来たのですから、放り出したりしませんわ。……教えてくださいまし」
「それは……」
「ここは意地を張って助力を跳ね除ける場面……ではありませんわよ」
俺は、諭すようにそう言った。
ここで上条の信頼を勝ち取らないと、俺がここまで同行した意味がない。横にくっついて知っている流れをなぞるだけなら、いない方がマシだ。
「…………わたくしも、以前、思い知りました。強く誇れる自分であろうとして――そのために意地を張って、周囲を遠ざけつづけました。結果、わたくしには何も残りませんでしたわ」
レイシアちゃんは……決して誰かを蹴落とそうとか、そういうことを考えていたわけじゃなかった。理想の自分で在ろうとして、その為に他者を省みなかった。だから逆に他者から排斥されて、自分の理想も壊されて、自分から死を選ぶハメになった。
上条の在り方は、それとは大きくかけ離れているかもしれない。だが、誰かの為にやったことであっても、その為に周りの手を跳ね除けて行けば、最終的に残るのは多分、レイシアちゃんと同じ末路だ。
――たとえば、オティヌスに見せられた無間地獄の末で、自ら死を選んだ上条のように。
「それに…………自分で言うのもなんですが、わたくし、意外と使えますわよ?」
そう言って軽く微笑みながら、俺は上条に右手を差し出す。
上条は同じく小さく笑って、右手で俺の手を掴んだ。
そして、開口一番こう言う。
「――――最初に一つ頼みがある」
「何です?」
「『魔術』の存在を、何も言わずに信じてくれ」
***
***
「……………………なるほど。俄かに信じがたいですが」
正味、五分程度だったか。
上条の話を黙って聞き、ある程度の説明が終わった後で、俺は興味深そうに頷いていた。
いや、『興味深そう』というか、まぁ、実際知っていても興味深い話ではあるんだけどな。魔術の話って。
「だけど…………」
「ええ、信じがたい話ですが……、信じましょう」
「…………信じてくれるのか?」
言っている上条の方が意外そうな表情だった。
「アナタが頼んだのではありませんか。……それに、学園都市にIDなしの何者かが侵入できている時点でおかしな話ですし」
「…………ありがとう」
「礼には、及びませんわよ」
よし。これで上条からの魔術情報は大体得た。これで、『ショートカット』することができる。この事件の顛末をカンニングで知っている俺だからこそできる、ショートカットを。
「…………しかし、妙ですわね」
「何がだ?」
「インデックスさんの『管理』……ですわよ」
俺の口から『管理』という言葉が出ると、上条の表情があからさまにムッとしたが……俺は気にせず話を進めていく。
「インデックスさんは、頭の中に一〇万三〇〇〇冊の魔道書を詰め込んだ人間魔導図書館なのでしょう? しかも、その気になればその知識を自由に教えてくれる。そんなの、魔術師からしたら
「らーにんぐこあ?」
「…………え? マジで言ってますの……?」
俺は思わず、軽く引いていた。
レイシアちゃんの知識によると――というか、俺も『読んだ』ので知っているが、
小説では、フレメアが粗製濫造ヒーロー達に追い掛け回されてた(?)ときに登場してたと思う。多分。
レイシアちゃんの知識によると、
「ともあれ。……わたくしが彼女の
「………………あ」
上条は、やっとその可能性に思い至ったかのようにマヌケな声を上げる。
「にも拘わらず……、わたくしが主戦力を足止めをしていたとはいえ
このへんは小説でも言及されてなかったが、ぶっちゃけ俺はこれについてもアレイスターとかローラの工作だとにらんでいる。真意についてはさっぱりだが……。
「た、確かに……でもだとすると、一体あの魔術師達は何者なんだよ!?」
「………………色々考えられますが、あの二人がイギリス清教とやらに何らかの影響力を持った人物であるというのはほぼ間違いないかと」
実際、イギリス清教が仕組んだマッチポンプだからね、これ。
「ってことは何だよ……アイツをイギリス清教に送り込んでも、何の問題も解決しないってのかよ!?」
「あの二人の行動がイギリス清教の本意と反している可能性までは否定できませんが、……何も調べないうちにイギリス清教に送ってしまうのはかなりリスキーですわね」
「クッソ…………!!」
ガッ!! と上条は廊下の手すりを苛立ち任せに殴りつける。金属の反響音が、上条の憤りを表すみたいにして響いた。
無理もない。ゴールだと思っていた場所が、実は絶対に連れて行っちゃいけない場所だったんだからな。絶望感もハンパないと思うよ。
「じゃあどうすれば良いってんだ……!? 相手が組織だったら、俺達がいくら頑張ったって限界が来るぞ!」
「落ち着いてください、上条さん」
「これが落ち着いていられるか!?」
「そこをおして、落ち着いてください」
軽くパニックになっている上条にそう言うと、頭から血が下りた上条はふう、と小さく溜息を吐いて平静に戻った。切り替え早いなー……。流石、伊達に修羅場はくぐってないって感じだ。
「わたくしに、考えがあります。ですが、それを行うにはインデックスさんの助力が必要です。いいですか? ――――」
そうして、俺は上条に策を開陳していく。
これで、エフ×ガもびっくりのショートカットが決められるはずだ。
***
翌日。
俺と上条は、小萌先生の家にお世話になっていた。
「で、何でお前下ぱんつなの……?」
「うー……」
インデックスはというと、背中の傷は治ったらしいが、頭痛と発熱により絶賛ダウン中である。身体が体力を取り戻そうと必死なのだろう。つまり、薬とか効かないから熱が下がるまで絶対安静ということなのだが。
インデックスが上にパジャマ、下はパンツだけというスタイルなのも宜なるかな。身体を温めなくても良いというのに熱が勝手に出るのだから、当人としては熱くてやってられないということなのだろう。
「上条ちゃん、先生、あの安全ピン丸出しのアイアンメイデンは正直どうかと思ったのですー」
「あ、あれは仕方なかったんですよ。不可抗力というか……」
「というか、本当に先生なんですのね……。そのわりに、インデックスさんの身体にピッタリ服が合っていますが」
「む。ピッタリは言いすぎかも。流石に私も胸のあたりがちょっとキツイ」
「そんなバカなぁ!!」
インデックスの台詞に、小萌先生は頭を抱えて蹲った。
「…………というか、上条ちゃん。そろそろいい加減先生にも事情を説明してくれませんかー? 常盤台の学生さんまでいるって、なんだか先生不安になってきちゃったんですけど……。というか、そちらの方は大丈夫なんですー? 無断外泊はキツイお仕置きがあるって先生聞いたことがあるのですー」
「諦めましたわ」
人命に比べれば寮監のお仕置きなど安いものである。
ちなみに寮監宛てに手紙(携帯類はGPSから居場所を特定されかねないので電源は切ってある)を送っておいたので、誘拐とかだと思われて騒ぎが起こることはない。
『八月までには帰ります。探さないでください』と書いてあるので、まぁ戻って来たら半殺しくらいで済むはずだ。
「……そういえばお二人にはまだ名乗っておりませんでしたわね。わたくしはレイシア=ブラックガード。常盤台中学の二年生ですわ。上条さんとは……そうですわね、戦友、といった間柄でしょうか」
いい機会だったので、俺は小萌先生とインデックスにそう言って自己紹介する。戦友というのは、主に特売を共に切り抜ける仲的な意味でだ。
インデックスは、いまいち常盤台中学のネームバリューが理解できていなかったようだが……まぁ、凄そうなヤツということくらいは理解してくれたと思う。
「…………レイシアは、とうまの彼女なの?」
「ブッッッッ!!!!」
噴き出したのは上条だ。俺はお淑やかにこらえた。
……コイツ、俺の話ちゃんと聞いてたのか!? よりによって気にするところがそこかよ! 既に色ボケかこのシスターは!?
「で、ですから戦友ですと言っているでしょう……!?」
「…………? でもとうまは普通の学生なんだよね? どこから戦友って間柄が出てきたから分からなかったから、ひょっとして私に気を遣って誤魔化そうとしてるのかなって」
「テメェが気を遣いすぎだ馬鹿!!」
べしい! とインデックスが上条にツッコまれた。
あのね、主人公にフラグを
「青春ですねー」
おい先生、その一言で片づけるな。
***
で、まぁ……その後いろいろあった。色々というか、まぁ起こったことを簡潔にまとめると、
・小萌先生、上条に事情を聞こうとするも、教えてくれないと分かるや素直に諦めてくれる。
・小萌先生、一旦買い物に行く。席を外した後はこの件について追及しないと暗に宣言。
・インデックス、身の上話をする。頭の中の魔道書を全部使うと魔神になれるから、狙う魔術師が大勢いる。
・上条、インデックスを口説く。
……こんな感じだ。要するに、インデックスが上条のことを明確に好きになった。俺の出る幕はあんまりないので、途中で空気を読んで退席した。
すると、出かけたはずの小萌先生が外でスタンバっていた。
…………考えることは同じか。
「青春、ですわね」
「ですねー」
俺と小萌先生は、互いに頷き合う。
あれで本人たちはラヴコメの自覚がないんだから、鈍感って罪だよな…………。
タイトル通り。原作とあんまり変わらないシーンについては、積極的に端折って行くつもりです。大体同じことが起こったんだな~、と察していただけると。
中の人も展開的に端折れそうなところは積極的に端折れるよう努力します。