【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス)   作:家葉 テイク

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六九話:天使VS天使

《いや…………ま、待て? いやいやいや、なんで俺、今……》

 

《シレン? どうかしたんですの? ……いや、かなりヤバそうというのはなんとなく分かりますが》

 

《……ヤバイなんてもんじゃない、かもしれない》

 

 

 白いような、青いような、銀色のような──言語化できない光を見て、何故俺は『青ざめた輝きのプラチナ』という形容を思いついた?

 まるで最初からその表現が用意されていたかのような感覚。

 

 ……いや、実際にそうなんだ。

 

 その表現は、最初から用意されていた。

 そうだ……なんで忘れていたんだ、俺は。

 

 

《…………()()()使()()()()()…………?》

 

 

 ヤツが『小説』で登場した際に現れた形容が、まさしくそれだったじゃないか!

 

 

《……はぁ!? シレン、ちょっとお待ちなさい。今、エイワスと言ったんですの!? あの、『新約』の時点でも底知れない存在だった、アレイスターの秘密兵器の!?》

 

《でも……でも、あの輝きは、そうとしか思えない……》

 

 

 自分でも、何故そう思うのか分からない。

 でもあの輝きの危険さは、エイワス以外に考えられない。そんな不思議な確信がある。

 

 

「……元より風斬君の奥に潜む『ドラゴン』とやらには手を伸ばすつもりだったが…………これは、どうやらさらに。……ヒョホホ、そうか、アレイスター君は『これ』が欲しかったみたいだねぇ?」

 

 

 そこで。

 今まで貼り付けたような笑みを浮かべるのみだった木原幻生の表情に、初めて本気の愉悦が宿った。

 

 

「ふはっ、見てっ……くく……見ているかね!? アレイスター=クロウリー!! 君が恋焦がれ、(プラン)を弄し、世界を敵に回し、そうまでして追い求めていた『モノ』は……なんと、なんと今、僕の手の中にあるみたいだねぇ!? こんなに愉快なことがあるかなぁ!?」

 

《…………あの様子だと、どうやら間違いないみたいですわね。『ドラゴン』とも言っていますし》

 

 

 ……とにかく、あんなの俺達一人じゃどう考えても太刀打ちできない。

 

 そう考えた俺は、全速力で上条さんの元へと移動する。

 正直、上条さんの幻想殺し(イマジンブレイカー)でもどうにかできるか微妙なところではあるけど……それでも削板さんの能力や俺達の能力も合わせれば、まだなんとかなる可能性はある。

 

 

「レイシア! 急に御坂が動かなくなったんだけど……」

 

 

 合流するなり、上条さんはこちらの方に駆け寄ってくれた。

 上条さんの視線の先には、棒立ちのまま佇んでいる美琴さんの姿がある。顔面の右半分にパキパキと『何か』が集まって、元の異形状態になりつつあるので……おそらく上条さんは動かなくなった隙を突いてなんとか解除できないのか試していたんだろう。

 あの様子だと、『打ち消すことはできるけど、消したそばから再生されてしまって無意味』って感じなんだろうか。そうなるといよいよ厄介だな……。

 

 

「風斬さんも同じですわ。おそらく、幻生さんがああなったから……。でも、多分一時的なものです。今のうちになんとかしないと……」

 

「おう! お前がレイシアってヤツか」

 

 

 そこで、ズドン! とスーパーヒーローみたいな着地を決めて削板さんが合流した。

 相変わらず豪快な人だ……。まぁ、俺達は開会式のときの姿しか知らないんだけども。っていうかこの人、よく開会式に出てくれたよね。

 

 

「上条からちらっと話は聞いてるぜ。大分根性あるヤツらしいじゃねえか。後ろのヤツは根性なさそうだが……ま、俺達の根性を見てれば大丈夫だろ」

 

「…………上条さん?」

 

 

 ちょっとなんかよろしくない感じの印象を持たれてる気がするんですけど?

 

 

「い、いや! いいヤツだって話をしただけだけど……」

 

「ま、そのへんは実戦で見せてもらおうか。さあ、来るぞ!」

 

 

 そう言って、削板さんが構えた瞬間。

 ゴッッッ!!!! と、幻生が帯びた謎の力が、猛威を振るう。

 まるで巨大な手のような形を作り上げた輝きの塊が、俺達を押し流そうと真正面から向かってくるが……、

 

 

「クソッ、させるかよ!!」

 

 

 それに対し、上条さんが対応する。

 

 ゴッギィィィィン!!!! と、凄絶な音が炸裂した。

 

 幻想殺し(イマジンブレイカー)と激突しても、プラチナの輝きは打ち消されない。それどころか、対応していた上条さんの足がじりじりと後ろに押されていく。抑え込もうとしている上条さんの上半身自体が、どんどん後ろにのけ反らされ始めてきた。

 

 

「……上条さん!!」

 

 

 流石にヤバイと判断し、俺も暴風を応用した音波による念動能力(テレキネシス)でサポートする。これは暴風同様に超能力の『余波』なので、上条さんの近くで作用させても打ち消されないという長所がある。……が。

 

 

《……やっぱ出力が足りないか!!》

 

《というか、生身の上条がいる以上どうしても威力を抑えめにしないといけませんからね……》

 

《だね。削板さんも、そのへんはさっきから分かってるっぽくて、上条さんの右手に打ち消されないように、あるいは上条さんの生身を巻き込まないように留意はしているっぽいし》

 

裏第四位(アナザーフォー)! それだ!! それをツンツン頭の盾に使え!」

 

 

 そこで、馬場さんの声が届いてきた。

 …………そ、そうか!! 削板さんが上条さんを巻き込まないように、あるいは右手に打ち消されないように能力を使っているなら……幻想殺し(イマジンブレイカー)に打ち消される心配のない俺達の音波で、二人の間を隔てればいいじゃないか!!

 

 

「承知しましたわ、馬場さん!」

 

 

 ヴ……と、上条さんの周囲に音波による防護壁を展開する。

 ともすれば人体なんかめちゃくちゃになってしまいそうな代物だが……生憎、そこは超能力者(レベル5)の制御力。人体を傷つけない微妙な塩梅くらい、余裕でなんとかできるのだ。

 

 

『うおっ!? ……レイシアとシレンがやったのか?』

 

 

 欠点として、声も音波で弾かれてしまうのだが、そのへんは俺達の能力による知覚で分かる。意思疎通には問題ない。

 

 

「上条さん。我々の能力で防護壁を展開しました。もう少し踏ん張ってください!」

 

 

 しかも、この防護壁は上条さんの姿勢制御も担っている。少しくらいは踏ん張れるはずだ。

 あとは────

 

 

「削板さん!! 全力でぶちかましちゃってくださいまし!!」

 

「おう! 任せろ!!」

 

 

 ひゅうん、と。

 

 空気が吸いこまれるような錯覚があった。

 そう、それは錯覚だ。実際には、削板さんは空気を動かすような何かをしたわけじゃない。にも拘らず……()()()()()()()()()()()()()()()()()が、削板さんの方へ吸い込まれている、そんな妙な感覚があった。

 

 

「超────ウルトラハイパーミラクルギガンテックアドミラル──」

 

 

 輝き。

 それは、『黒い輝き』だ。光すら呑み込む圧倒的な光。これは…………『強力な重力』……か?

 ……いや、重力だとしたら俺達も吸い込まれてないとおかしいんだけど……というかやっぱり空気も吸い込まれてるはずなんだけど……。……いやいや、マジでなんなのこれ……?

 

 

「────グラビティカル凄いパァァあああああああああああンチッッッ!!!!」

 

 

 ドバオッ!!!! と。

 黒い輝きは幻生の放った輝きと衝突すると、その軌道を捻じ曲げて空中で爆裂する。

 それによってプラチナの輝きも空の彼方へと吹っ飛び、どこかのビルの側面を焼き溶かして消えた。……うわぁ。

 

 

 …………っていうか。

 

 

《おかしいね》

 

 

 なんとか乗り切った直後だが……俺には一つ違和感があった。

 

 

《エイワスの攻撃って、こんな、なんとか乗り切れる程度のモンなのか?》

 

 

 ()()エイワスだぞ?

 黒翼を扱える一方通行(アクセラレータ)さんが、なんとか死力を尽くして、それでも変形機能だかなんだかで一矢報いることすらできなかった存在。

 そんな存在が、この時点の右手一本と『拮抗』するか?

 エイワスの力をそのまま使えているなら、どう少なく見積もっても天使の一撃並の威力はあるはず。……削板さんについてはホントもうわけがわからないので置いておくとしても、幻想殺し(イマジンブレイカー)なら一時的な拮抗すらできないはずだ。

 それなのに、実際には俺達があれこれ小細工をする時間すらあった。……威力的には、インデックスの竜王の殺息(ドラゴンブレス)みたいに、処理限界ぎりぎりってところだろうか?

 対面するととてもそうは見えない圧力だが……しかし、事実をきちんと見れば、オリジナルのそれよりも大分格落ちしていると評価せざるを得ない。

 

 エイワスの形をとっていないからか?

 

 あるいは、総量が足りていないのか?

 

 どちらにせよ……敵は、本物のエイワスなんかじゃない。

 俺は、上条さんにかけた音波の防壁を解除しながら(地味に集中力がいるのだ)、

 

 

「いける。勝てない相手じゃないですわ。我々なら、」

 

 

 その、次の瞬間だった。

 

 

 

 


 

 

 

第二章 二者択一なんて選ばない PHASE-NEXT.

 

 

六九話:天使VS天使 White_Wing.

 

 

 


 

 

 

 ──一瞬だった。

 

 俺が希望を見出した、そしてその発言を聞いた、その直後。一瞬、ほんの少しだけ発言に意識を向けた、そんな隙とも呼べない一瞬の戦意の空白に。

 

 

「ひょほ」

 

 

 ズガ!!!! と、幻生さんは魔手を差し入れてきた。

 完全なる、意識の外。そこを突かれた俺達は、一瞬だが動作が遅れ──

 

 

《全速力で逃げますわよ!! わたくし達の位置ならまだ回避可能です!》

 

《ダメだ!! 上条さんは躱せない! あの体勢じゃ踏ん張りも利かない! モロに食らう!!》

 

《アナタ……ええい! このお人好しめ!!》

 

 

 俺達は回避を放棄して、先程修得したばかりのAIMすら切断する『亀裂』で防御を試みる。

 演算を練り上げ、十分に間に合う速度でそれを振るおうとし、

 

 

「よお、随分ナメた真似してくれやがったなあ」

 

 

 ゴッッッ!!!! と、プラチナの輝きが薙ぎ払われた。

 いや、薙ぎ払ったわけじゃない。これは、ほんの少しだけ軌道をズラしただけだ。それでも十分、俺達は守られたけど……。……でも多分、この人は俺達を守ったつもりないんだろうなあ。

 

 

「テメェがそのつもりなら本気で潰すが、構わねえな?」

 

 

 垣根帝督。

 ……どういう技を使ったのか、さっきまで膝を突いていた状態からは最低限回復しているようだった。

 まぁ、本当に怪我が治っているわけではないと思うけど、ベクトル操作で怪我の治癒を促進できる一方通行(アクセラレータ)さん同様、似たように回復することはできるんだろうな。

 

 

「望むところだよー、第二候補(スぺアプラン)

 

「……どうやらよほど叩き潰されてえと見える」

 

「第二位さん!」

 

 

 キレ気味の垣根さんを繋ぎ止めるように、俺は呼び掛ける。

 名前はまだ教えてもらってないので順位呼びだ。垣根さんは不機嫌そうな表情を浮かべながらも、俺の方に応対してくれる程度の冷静さは残っていたようだ。

 

 

裏第四位(アナザーフォー)か。なんだ、テメェも俺の捨て駒になってくれるってか?」

 

「それでもかまいません」

 

 

 うんうん、知ってるよ。とりあえずジャブのノリで憎まれ口を叩くのが暗部クオリティなんだよね。さっきから馬場さんと共闘してるからいい加減そのノリは慣れた。

 

 

「……、」

 

「人手が足りないのですわ。我々だけでは幻生さんは抑えきれない。力を貸してください!」

 

「………………ちったあ落差ってモンを考えてくれねえか?」

 

「へ?」

 

 

 え? 何の話だ……?

 

 

「チッ。調子狂うんだよ、お前……。まぁいい。精々利用し甲斐のあるところを見せてくれよ」

 

 

 垣根さんは何やら一人で納得した様子で、翼を振るう。

 三対の翼は羽根を散らしながら無数の風を生み、その気流が幻生さんを四方八方から襲っていく。

 

 散る羽根の一つ一つが、曇天であるにも関わらず虹色の輝きを放って辺りを照らす。多分、それらにも俺の想像もつかないえげつない攻撃力が秘められているんだろうが……。

 そのことに対する脅威や頼もしさよりも、不思議と俺は一つの感動を覚えていた。

 

 

「……綺麗ですわね」

 

 

 レイシアちゃんもまた、同じことを思っていたらしい。

 いやほんとうに、この世のモノとは思えない光景だよこれ。……能力研究でこの景色を人工的に生み出せる、というだけでも、十分第二位として成立するよ。

 

 

「……ガキどもには受けるヴィジュアル、ね」

 

「?」

 

()()を見てもそう言えるなら大したタマだが」

 

 

 何も見えなかった。

 ……というのも、垣根さんがそう言った次の瞬間、羽根の一枚一枚が眩い光を放ったのだ。

 俺達は咄嗟に『亀裂』を盾にして目を守ったが……、

 

 ……『亀裂』の向こう側では、熱による空気の膨張が確認できた。十中八九、レーザーのような光線による攻撃だ。

 

 

「いいだろう。手ぇ貸してやる。有難く思えよ、テメェら」

 

「いけすかねぇ野郎だが、大した根性してるな。よーし一緒に根性入れてあのジジイを倒すぞ!!」

 

「……えーと、いよいよ上条さん場違いになってきてるような気がするのでせうが……」

 

「気を引き締めなさい上条。もうこの戦場は、いつ仲間の攻撃の余波で死んでもおかしくない状況になっているんですわよ」

 

 

 レイシアちゃんの冷ややかな台詞に『ええ!?』と目を剥いている上条さんに、俺は慌てて言う。

 

 

「そんなことないですわ! お二人とも超能力者(レベル5)ですし……。ただ、相手の方はそうも言ってられない()()()ですが」

 

 

 上条さんに、垣根さんに、削板さんに、俺達。

 

 相手は、エイワスの力の一端を振るう木原幻生。

 

 ……やるしかない。いや、やってやろうじゃないか!


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