【完結】とある再起の悪役令嬢(ヴィレイネス)   作:家葉 テイク

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  第三章 魂の価値なんて下らない Double(Square)_Faith.
七七話:閉会、それから


 さて、楽しい時ほど過ぎるのは早い──なんてよく言ったもので。

 

 瞬く間に大覇星祭の日程は過ぎ去って、いつの間にか閉会式を終えた最終日になっていた。

 第七学区のとある公園。大きめのキャンプファイアーを囲って、少年少女がフォークダンスを踊っている姿を横目に見ながら俺達は休憩していた。

 

 

「ふいー…………大変だった」

 

「ふふ……お疲れさまでした、当麻さん。手伝ってくださってありがとうございます」

 

 

 自販機で買ったジュースを手渡して、俺はベンチに座る上条さんの前に立つ。

 

 塗替斧令は、犯罪者である。

 俺達のプライバシーを勝手に世間にばらまき、ほかにも色々と不正をしたのがその罪状だ。ただし……その罪状にくっついていた政治犯という名目は、幻生の手によって後付けされた無実の罪だったわけで。

 その塗替の無実の罪をはらし、きちんと罪を償ってもらうために、俺達は今日まで奮闘していた。

 ただ、学園都市としても色々面子とかがあったりするわけで、ミョーな圧力とかがあったりしたわけなんだけども、そのへんは問題なかった。何せ俺達も無力な子どもではないからね! 色んなコネを使わせていただきました! お陰でなんだかちょっとしたたかになれた気がします。GMDWも集団として強くなれた。

 

 ……まぁ、そんなことしてたら向こうが強硬手段に出て来て、結局当麻さんに手伝ってもらったりしたわけなんだけどね。

 

 そんなわけで塗替に余計な罪をくっつけることで『外』の企業を乗っ取ろうと画策していた学園都市の研究所の生臭研究者に雇われたチンピラに襲われていたところを、偶然通りすがった当麻さんに助けてもらい。

 そのままノリで一緒に研究所に殴り込んで、色々と解決した。今はその帰りだ。いやぁホントに助かりました。

 

 

「しっかし、レイシアもシレンもお人好しだよな。アイツ、お前の秘密をバラして嫌がらせしやがった婚約者とかってヤツだったんだろ? 一回ブン殴ってやろうと思ったのにそのまま帰っちゃうし」

 

「おほほ、わたくしが既に一発ブン殴ってましてよ」「お気持ちは嬉しいですが、彼はきちんと正当に裁かれていますもの。これ以上はやりすぎでしてよ」

 

「う~ん、そんなもんかなぁ」

 

 

 ベンチに腰掛けた当麻さんは、そう言って頭をかいた。

 ……しかし、当麻さんがここまで怒るなんて珍しい。いつもは事件が終わったらスッパリ切り替えるタイプなのに。

 

 

「なんつーかさ、悪かったな」

 

 

 と。

 隣に腰を下ろした私に対して、当麻さんは神妙な面持ちをしてそんなことを言い出した。

 

 

「婚約破棄のこと。俺はけっこう前から聞いてたのにさ。結局、何もお前達にしてやれなかった。色んなものから守ってやることもできなかった。……なのによく頑張ったな。二人とも、ホントすげーよ」

 

 

 ……あー、なるほどね。塗替がどうとかというよりは、約束を守れなかったことに対する罪悪感というか……当麻さんの中では、俺が暴露話のゴタゴタで一時的にでも追い詰められてたのが、自分の落ち度としてカウントされてるわけね。

 まぁ確かに、当麻さんってそういうところあるよねぇ。うん。別に塗替さんに特別何か思うところがあるとか、そういうわけではないよね。

 

 

《……シレン?》

 

《いや、別に》

 

 

 俺は気を取り直して、

 

 

「塗替さんとのことなら、気にしないでくださいまし。むしろわたくし達の都合に巻き込んでしまって、申し訳なかったくらいですの」

 

「いやいや! お前らが俺のことを信頼して任せてくれてたってのに、結局あんなことになっちまって……レイシアとシレンが強かったから何とかなったけど、やっぱ何かさせてくれよ!」

 

 

 ああ……そういえば信頼とかそういう話になってたね。なんかもうそれでいいけど……。

 

 

「なら」

 

 

 呆れてぽかんとしていると、レイシアちゃんが口を開く。俺がそれに対して嫌な予感をおぼえて静止するよりも先に、レイシアちゃんはさらにこう続けた。

 

 

「わたくしの、婚約者になってくれませんか?」

 

 

 …………………………………………ゑ?

 

 

「バッ……!! レイシアちゃんな、」「わたくしブラックガード財閥の跡取り娘ですので! この手の縁談話は、これからもどんどん舞い込んでくると思うのですわ! そういうときに既に将来を約束した人がいますという言い訳はとても便利なのです!」

 

「う、お、さ、流石にそれは……」

 

「さっきなんでもするって言いましたわよねぇ!?」

 

 

 言ってない……! 言ってないよレイシアちゃん……! 何かさせてくれとは言ったけどなんでもするとは言ってないよ……!!

 だが、当麻さんはレイシアちゃんのあまりの剣幕に押し流されて思わずうなずいてしまう。ああ、こうして既成事実が生まれてしまった……。

 しかし困ったことに、このレイシアちゃんの一手自体はわりと有難くはあるのだ。これから俺達はブラックガード財閥の跡取りという『外』の有力者の跡継ぎであると同時に、常盤台の一大派閥GMDWのリーダーで超能力者(レベル5)裏第四位(アナザーフォー)という『内』の有力者にもなるわけだから……。そんな俺達のことを利用したい人は、それこそ山ほど出てくる。まぁそんな連中の誰もが婚約なんて迂遠なやり方をしてくるとは思えないけど、でも文字通り『露払い』という意味では、けっこう使えるんじゃないだろうか。

 

 

「上条──いえ、当麻! 前に言いましたわよね? わたくし、ハンパな気持ちでこんなこと言ったりしませんわ。アナタはどうなんですの!? これは婚約がどうとかなんて話ではありませんわ! わたくしと! アナタの! 覚悟の問題なのですわ!! アナタはわたくしの想いに見合う覚悟を見せられまして!?」

 

 

 う……! 上手い……! 一〇〇%婚約がどうとかの話なのに、勢いでうまく問題をすり替えてる! しかも誠意の話に持っていくことで、当麻さんが断りづらい空気を作ってる! あくどい……あくどいよレイシアちゃん!

 

 

「……………………」

 

 

 それに対し、当麻さんは──

 

 

「…………分かった。そうだよな。あのとき果たせなかった約束を守る。お前らの信頼に応える。何も難しいことねえじゃねえか。いいぜ! なってやるよシレン、レイシア────お前らの婚約者ってヤツに!!」

 

 

 凄くカッコイイ顔でそんなことを言って、

 

 

「……………………こ、こん、やく?」

 

 

 そんなとき。

 

 最悪のタイミングで。

 

 

 御坂美琴さんがおいでになられました。

 

 

 


 

 

 

第三章 魂の価値なんて下らない Double(Square)_Faith.

 

 

七七話:閉会、それから Love_is_War.

 

 

 


 

 

 

「……ま、まぁ話は分かったわ」

 

 

 その後。

 テンパる美琴さんに対して、レイシアちゃんの対応は迅速だった。悪びれもせず、かといって焦りも慌てもせず、淡々と『建前』を説明。『当麻さんだからこそお願いした』というアピールもして、まだ素直になれない美琴さんは勢いに呑まれて普通に頷いてしまっていた。

 ちなみにその場には美琴さんの他に白井さんとか佐天さんとか初春さんとかもいたのだが、アレは完全にレイシアちゃんの『建前』には気づいてたね。その上で顔色一つ変えずに話を進めるレイシアちゃんの強かさに圧されてた。

 

 

「で、でもアンタもよくオッケーしたわね? 婚約者って言ったらそりゃ……こ、こ、恋人……ってことに……」

 

「あ? あー! あっはっは、そりゃねーよ御坂」

 

「へ……?」

 

「レイシアとシレンはな、今回みたいなゴタゴタがまた起きるのが嫌だから、その為に婚約者に俺を指名したんだよ。そういうんじゃないって。まぁ、先輩として俺のことを信頼してくれてはいると思うけどな? 御坂、お前もいい加減生意気ビリビリじゃなくてシレイシアみたいに俺の事──、」

 

「うるっっっ、さいっっっ!!!!!!」

 

 

 バヂヂヂヂヂ!! と。

 乙女の心を迂闊に逆撫でした当麻さんは、電撃を食らってひっくり返っていた。うん、まぁそのくらい痛い目は見た方がいいと思うよ。人の気も知らないで。

 ……あ。今の人の気っていうのは美琴さんの恋心のことだが……。

 

 

「……でも、ちょっと意外でした」

 

 

 そこで、佐天さんがふと俺の後ろに立って話しかけてきた。

 

 

「意外、ですの?」

 

「なんかこう……レイシアさんって穏やか~な感じで。こんな風に強引に男の人と距離を詰めるような感じには見えなかったな~って……」

 

「ふふふ……それはまぁ、」「アナタ、()()をモノにするのにそんな及び腰でいられると思いまして?」

 

 

 ここはのほほんと躱そうと思っていたら、レイシアちゃんはピッと絶賛突っかかられ中の上条さんを指差す。

 

 

「それは……」

 

「まぁ、アナタが美琴を手助けすることは止めませんわ」

 

 

 ……あれ。

 てっきり俺は、レイシアちゃんが佐天さんに『美琴の恋路なんだから余計な手出しをするな』くらいは言外に釘を刺すと思ってたけど……そしてそれやろうとしたら止めようと思ってたけど。

 

 

「た・だ・し。わたくしも遠慮はしませんわ。妨害なんてまどろっこしいことはせず、真正面から戦うと約束しましたもの。そうしたらきっと……あの子とだって、『そのあと』も後腐れなく付き合っていけるはずですわ」

 

 

 …………。

 レイシアちゃんは、俺の話を真面目に汲んでくれたんだな。そしてきっと、今、俺の背中を押してくれてる。これは佐天さんへの言葉であると同時に、俺への言葉でもあるんだ。

 

 俺の意思から離れて、身体が動き出す。

 今だに美琴さんにギャーギャー言われている当麻さんの手をスッと手に取ったところで、俺は意識して体の操縦権をとる。

 うんまぁ、恋愛ごととかは未だによく分かんないし。当麻さんへの感情も、正直信愛とか尊敬とかそういうタイプだとは思うし、そもそも恋愛感情というものがいまいち分かんなくはあるんだけど……。

 

 でも、分かろうと努力はしてみようと思う。

 

 そんな決意を込めて、俺は自分の意志で口を開いた。

 

 

「そこのお方。わたくしと一曲、踊ってくださいませんこと?」

 

 

 ──なお、この誘い文句はこのあとレイシアちゃんに『いくらなんでも芝居がかりすぎ』『上条が童貞じゃなければ笑われていた』『あれでムードぶち壊しにならなかったのが奇跡』など、散々に言われた。

 

 フォークダンスの記憶?

 

 恥ずかしくて覚えてないよっっっ!!

 

 

 


 

 

 

 その後。

 フォークダンスを終え、そろそろ人もハケてくるしということで解散となった俺達は、そのままホテルには帰らず、二四時間営業の喫茶店へとやってきていた。

 本来であればお父様とお母様水入らずの最後の時間になる予定だったのだが、ほかならぬお父様からの『用事』ということである。

 まぁ、この件については俺達も仔細は既に聞いているのだが……。

 

 

「お、レイシア! よく来たね。一人で大丈夫だったかい? すまないね、護衛の一人でも寄越そうかと思ったんだけど、あまり物々しいのは嫌いかなと思ってね……」

 

「お気遣いありがとうございます、お父様。でも途中まで当麻さんに送ってもらったので大丈夫ですわ」

 

「…………………………………………そうか……………………」

 

 

 うわ! お父様のテンションが一気にがた落ちに!?

 

 

「それより! そちらの────」

 

 

 そう言って、俺はちょうどお父様の陰に隠れる位置に座っている少女を見ながら言う。

 

 お父様の話はこうだ。

 

 『今回の件で、君達は急ぎすぎた』。

 

 本来、超能力者(レベル5)の公表はGMDWが組織として強くなり、外野からの攻撃を受けても耐えられるくらいに練度を上げてからの予定だった。

 でも、今回はそうもいかない事情があったせいで、予定を前倒しして公表した。つまりどういうことかというと、GMDWはまだ組織力が足りていないのである。

 お父様はそのことを危惧して、GMDWの足りない組織力を補うために学園都市内部に存在する傭兵集団を雇うことを提案してくれたのだった。

 俺達としてもこれは渡りに船な話なので、お父様が準備してくれるというお言葉に甘え、準備を丸投げにし──そして今日、雇われた傭兵集団との顔合わせなのであった。

 

 

「──徒花(あだばな)だ」

 

 

 立ち上がった少女を見て、俺は思わずぎょっとした。

 何故なら少女が、丈の長いエプロンドレスーーいわゆるメイド服を身に纏っている、ガッチガチのメイドさんだったから。

 りょ、繚乱家政女学校の生徒さんなのかな……? しかし、普通の学生さんがこう……なんというか依頼して雇われるプロの『傭兵』をやってるもんなのか……?

 

 

「学園都市公式の治安維持部隊に所属している。この格好は、そちらのオーダーで身に纏っているだけだ。……気にしないでいい」

 

 

 少女──徒花さんはそう言うと、恥ずかしそうにぷいと視線を逸らした。

 色白で、長身の女性だ。茶色がかった黒髪をおさげにして、両肩に垂らしている。その一言で、ぶっきらぼうだけど真面目な人なんだなぁということがよく分かった。だからプロの人なのにお父様が平然としているわけなんだね。

 

 

「護衛にはチームであたるが、護衛対象が常盤台中学に在学の令嬢という事情を考慮し、四六時中近くにいても不審に思われない立場として、メイドという役職を選択した。これからは、護衛チームの窓口としては主に私が貴方と接することになる」

 

「承知しましたわ。わたくし、レイシア=ブラックガードと申します」

 

 

 そう言って、俺達はお互いに握手を交わす。

 ほっそりとした、綺麗な手だった。なんというか、喧嘩とかもしたことなさそうな感じだ。窓口って言ってたし、徒花さん自身は戦闘職というよりはメッセンジャーとか管制官みたいな役回りなのかもな。そもそも今回の護衛って俺個人の護衛というよりはGMDWという組織全体の防御力の底上げだし。

 

 

「では、早速寮に向かうぞ」

 

 

 手を離すと、徒花さんはそう言って一歩進む。

 もう? と思ったのだが、徒花さん的にはもう顔合わせは済んだ認識なのかもしれないな。お父様の方をちらりと見ると『もう行っていいよ』と目線で合図されたので、大人しく徒花さんの先導に従うことにした。

 

 歩きながら、徒花さんは世間話をするような自然さで言う。

 

 

「私は繚乱家政女学校の外部寮及び本校実地実習担当で泊まり込みをしているということになっているから、誰かに聞かれたらそう答えておいてくれ」

 

「…………今更ですけど、大丈夫ですの? メイドは本職ではないのでしょう?」

 

 

 席から立ち上がって隣に並びながら、心配になって、俺は問いかけてみた。

 多分、こんな風に護衛の傭兵を任されるような人だし、ゴリッゴリにプロの人ではあると思うんだけど……。それだけに、お嬢様~な世界にちゃんとついていけるのか、不安だ。

 なんかこう……よく漫画やアニメとかである、殺し屋が平穏な日常にいることで逆にポンコツみたいになっちゃう展開を思い出す流れだし。

 

 

「心配は要らん。細かな所作については外部から補助を受ける。護衛の片手間で取り繕う程度は容易だ」

 

 

 そう言って、徒花さんは片耳に指を当てた。ああ、通信機を耳に仕込んでるのね。常時カンニング可能なら確かに所作については心配いらないか。流石プロ、潜入の為の心得もしっかりしている。

 

 

「これは失礼しました。では、これからよろしくお願いしますわ、徒花さん」

 

「…………ああ、宜しく頼む。裏第四位(アナザーフォー)

 

 

 お父様と別れて改めて挨拶をした俺は、徒花さんが年代の近そうな少女ということもあって、なんだか上手くやっていけそうな感じがして嬉しかった。多分、レイシアちゃんも同じような思いだったのだと思う。

 

 だからその時の俺は気付かなかったのだ。

 

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今回のメイドさんですが、オリキャラではありません。バッチバチに原作キャラです。名前はオリジナルです。

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