白菊ほたるの幸福論   作:maron5650

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11.結果と考察

彼女は基本的に、事実に基づかない行動を好まない。

何の根拠も無く他者を慰めることも。

希望を持たせるような言葉を発することもしない。

 

「今日はー、とても良い気が巡っておりましてー。」

 

だから。

依田芳乃がこのような発言を、わざわざ本番の日の朝にしたのも。

事実、彼女がそれを感じ取っていたからだった。

 

 

 

彼女は、自らがそう主張する通り、あらゆるモノに宿る気を視認できる。

そして、それらは互いに少しづつ影響を与え合うものらしい。

それが、十数年の経験を経て、彼女が導き出した法則だった。

 

ただ1人、鷹富士茄子を除いては。

 

茄子だけは、違った。

茄子だけは、特別であった。

茄子だけは、突然に、一方的に、他者の気を変化させた。

他者を、幸福にしていった。

 

彼女の目には、それは実に奇妙に映ったことだろう。

ただ影響を与える「だけ」の存在など、一度たりとも見たことがなかったのだから。

だが彼女は、妙だと感じつつも、それを良しとした。

他人に危害を与えるどころか、その全く逆のことをしていたからだ。

放っておいても問題はなく、放っておいた方が都合がいい。

「困っている人には、力を貸しなさい」。

彼女がばば様と呼ぶ人物の、他者を思いやる教え。

それを素直に受け入れた彼女にとって、目の前の現象はとても好ましいものであり。

他者の幸福を喜ばない趣味は、持ち合わせていなかった。

 

しかし、だからこそ。

白菊ほたるの登場は、彼女の頭を非常に悩ませることとなった。

それこそ、ひと目見た瞬間に「面倒なことになりそう」とひとりごちてしまうほどに。

それほどに、分かりやすかった。

前もって茄子の存在を知っていたからこそ、すぐに理解することができた。

この少女は、茄子と同じだ。

茄子と同じように、一方的に影響だけを与える。

この少女は、茄子と真逆だ。

幸福ではなく、不幸をばら撒いている。

この少女は、放っておいてはならない。

茄子のように放置が許される、そんな存在ではなかった。

 

それから彼女は、出来る限り目を離さず、ほたるを観察することにした。

放置してはならないとはいえ、どう対処すればいいのかすら分からなかったからだ。

影響のみを与える者同士が出会ったら、どんな反応が起こるのか。

それを明らかにするまでは、彼女は安心してお茶をすすることができない。

 

注意深くほたるを見ているうちに、様々なことが分かってきた。

ほたるのことは勿論、茄子のことも。

どうやら、二人が酷似しているのは、その体質だけではないらしい。

二人が抱えている、想い。

それもまた、非常に似通っていた。

 

ほたるは、人を、幸せにしたいと言った。

アイドルは、人を幸せにするものだと。

自分も、そのような存在になりたいと。

そしてそれは、茄子の願いでもあった。

茄子が、アイドルになった理由。

それもまた、ほたると同じものであったことを、彼女は記憶していた。

自分はどうやら、他者を幸せにするらしい。

であれば、より多くの人を幸せにしたい。

より多くの人と、触れ合える存在に、と。

 

そんな茄子の目の前に、不幸な少女が現れた。

茄子が起こす行動は、決まりきっていた。

 

そのおかげで、彼女の観察行動はとてもやりやすいものとなっていた。

数日間に及ぶ彼女の努力によって得られた情報を、結論から言うと。

茄子とほたるは、互いに直接影響を与えることは無い。

ほたるの不幸体質が、茄子以外の何らかに影響を与えたとき、茄子の幸運体質がそれを間接的に相殺する。

しかし、どういうわけか、その逆は起こることはなかった。

茄子の幸福を、ほたるの不幸が間接的に打ち消すようなことは。

結果として、ほたるによって引き起こされる不幸の数は激減。

茄子による幸福は、これまでと変わらず、一定数存在し続けた。

 

そして、最も重要視すべき事柄。

茄子が直接影響を与えてはいないはずのほたるの気が、徐々に改善していったということ。

ほたるの不幸体質が、何故かひとりでに治り始めたということ。

これも、茄子の力によるものなのか。

それは、彼女には判断がつかなかった。

そもそもほたるの体質が、時間とともに緩やかに収まっていくものである可能性も十分にあった。

ただ、1つだけ、はっきりしたことがある。

 

ほたるの不幸体質は、現在の環境を維持できれば、自動的に快方に向かう。

彼女は、ほたるの対処法として、放置することが最善と判断した。

 

懸念が、あるとすれば。

このことを、双葉杏に伝えたときの、その反応であった。

杏は、とても頭の回転が速い。

それは彼女もよく存じており、だからこそ、気がかりであった。

それで、本当にいいのか?

本当に、なんの問題もないのか?

杏がそう繰り返すたびに、彼女の胸にも不安が積もる。

しかし、再び考えてみても、この方法で起こりうる問題なんて、殆ど思いつかない。

唯一頭に浮かんだのも、あくまで確定ではないとはいえ、ほぼあり得ないと言えてしまえるもので。

もし、本当に、これに問題があるとしたら。

その時は、きっと彼女よりも先に、この小さな少女が気付くだろう、と。そう判断して。

彼女はこの懸念を、ひとまず、単なる気のせいとして片付けた。

 

それから、時が流れるにつれ。

ほたるの不幸体質は予想通り、順調に改善されてゆき。

今日、彼女が確認した限りでも。

ライブの、メンバー全員から、恐らくは「ライブを成功させる」という一体感によって生まれた、とても良い気が巡っていて。

だから彼女は、分かりやす過ぎるほどに緊張しているほたるを安心させるために、そのことをそのまま伝えたのだ。

 

客入りは十分。

メンバーの状態も良好。

既にデビューしている3人は勿論、努力家であるほたるも、技量不足によるミスを起こすとは考えづらい。

彼女は、このライブの成功を、誰よりも確信していた。

 

 

 

 

 

彼女の意識が途切れる、その直前まで。

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