白菊ほたるの幸福論   作:maron5650

2 / 30
1. 1-1=?

「……あ、石貯まった。」

 

事務所のソファに寝転がり、スマホをいじること、数十分。

運営からのプレゼントが、何度目かの10連一回分まで到達した。

 

「茄子ー、居るー?」

 

何故オフの日にわざわざこんなところでソーシャルゲームに興じていたかといえば。

圧倒的に、効率がいいからだ。

ソーシャルゲームに限らず、確率に左右されるものは、全て。

 

「は〜い、ナスじゃなくてカコですよ~♪」

 

何故効率がいいかといえば、彼女が。

鷹富士茄子が居るからだ。

 

「またガシャ引くからさ、いい結果が出るようにと。」

 

いつもの決まり文句と、お茶と共に給湯室から出てきた彼女に、早速願掛けを。

 

「はい、お任せくださいっ♪」

 

茄子はソファの前のテーブルに急須と三人分の湯呑を置き、私の隣に座る。

これで、準備は完了。

 

「さて……ポチッ、と。」

 

ガシャを引く、と書かれたボタンをタップし、画面を眺める。

派手に点滅したのち、ガシャの結果の一覧が表示される。

今回はどのSSRが当たったか、と、一枚ずつ確認していくと。

 

「……え?」

 

明らかに、異常であることが、分かった。

 

いつもと同じならば。

そこには2〜3枚程度の最高レア、SSRがあるはずだ。

だが、今回。

いつもと同じように、茄子の隣で引いた、今回は。

SSRが、1枚もない。

次点のSRも、たったの3枚。

これでは、私が一人で家で引いたのと変わらない。

あまりにも、普通の結果だった。

 

たまたまだとか、偶然だとか、そういうのではないのだ。

彼女の幸福は、そんな生易しいものではないのだ。

彼女が歩く道は必ず信号が青で。

彼女が乗る電車は必ず一人分の席が空いていて。

彼女が起きなければならない時間に、必ず自然と目が覚める。

そんな、絶対的なものなのだ。

 

だから。

こんな「まあ悪くはないんじゃないか」とでも言いたげな結果、出るわけがないのだ。

彼女が近くに居る今、あり得ないことなのだ。

 

しかし。

画面の前の現実は、何度見ても変わることはなく。

今この瞬間が、限りなく異常であることを警告し続けていた。

 

「……茄子。今日何か、おかしいことはなかった?」

 

「おかしいこと、ですか?」

 

「赤信号を見たとか、ちょっと寝坊しかけたとか。」

 

「……いえ、いつも通りだったと思いますよ?」

 

少しだけ考えた後、やはり心当たりはないと首を振る。

彼女自身に変化はない。なら後は……

 

「あ、そういえば。」

 

ポン、と手を叩き、彼女は笑顔で言った。

 

「今日から、アイドルが一人増えるみたいですよ♪」

 

「……うーわ。」

 

確定じゃん。

 

「その子、どこに居るか分かる?」

 

私はそのことを聞いていないし、きっと茄子もそうだろう。

にも関わらず「増えるみたい」と言ったということは、既に事務所に居るその子を直接見たに違いない。

 

「応接室で、プロデューサーとお話していました。

そろそろ終わる頃だと思いますよ♪」

 

「ん、ありがと。」

 

そう言って立ち上がり、応接室の扉へと歩く。

不安の種は、早めに何とかしておかなければ。

 

扉の前に立ち、ドアノブに手をかける。

……よりも前に、それはひとりでに回った。

 

黒を基調とした、全体的に暗い雰囲気を纏う服装。

幼いながらも服の雰囲気とマッチした、どこか悲しげな顔。

私は確信した。

間違いなく、彼女が元凶だ。

 

「……ごめんなさいっ!」

 

お互いに「予想外」と顔に書くこと、数秒。

こちらがなにか言うよりも前に、いきなり彼女は頭を下げて謝罪した。

 

「あの、ガシャを引くみたいだったので、終わるまでは入らないようにしたんですけど……。

やっぱりダメでしたよね?全然いい結果じゃなかったですよね?」

 

「あー、いや、うん……思っていたよりは。」

 

SRが1枚だけ、というのが最悪のパターンだから、そこまでではないのだが。

 

「……ごめんなさいっ!」

 

再び、彼女が頭を下げる。

 

「いや、なんで謝るのさ。

杏が自分でガシャ引いただけだよ?」

 

……この反応からして、自覚はある、ということだろうか。

恐らくは、茄子と反対の。

 

「……私、不幸なんです……。

それも、近くに居ると……その、伝染るみたいで……。」

 

俯きながら、心底申し訳なさそうに彼女は言う。

やっぱりか、と溜息をつきたくなるのを、ぐっと堪える。

 

「まあ、そういうことだ。」

 

奥から、プロデューサーがにゅっと顔を出す。

 

「彼女が、新しくウチに所属することになった、白菊ほたるだ。

サポートしてやってくれ。……色々と。」

 

その含んだ言い方の中には、きっと彼女の体質があるのだろう。

プロデューサーの顔を見上げると、彼は茄子の方を向いていた。

 

彼女はプロデューサーとほたるを交互に見る。

そして。

 

「はい、お任せくださいっ♪」

 

幸福はそう言って、幸せそうに笑うのだった。

 

 

 

がちゃり。

 

「……これはー、面倒なことになりそうなのでしてー。」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。