「……あ、石貯まった。」
事務所のソファに寝転がり、スマホをいじること、数十分。
運営からのプレゼントが、何度目かの10連一回分まで到達した。
「茄子ー、居るー?」
何故オフの日にわざわざこんなところでソーシャルゲームに興じていたかといえば。
圧倒的に、効率がいいからだ。
ソーシャルゲームに限らず、確率に左右されるものは、全て。
「は〜い、ナスじゃなくてカコですよ~♪」
何故効率がいいかといえば、彼女が。
鷹富士茄子が居るからだ。
「またガシャ引くからさ、いい結果が出るようにと。」
いつもの決まり文句と、お茶と共に給湯室から出てきた彼女に、早速願掛けを。
「はい、お任せくださいっ♪」
茄子はソファの前のテーブルに急須と三人分の湯呑を置き、私の隣に座る。
これで、準備は完了。
「さて……ポチッ、と。」
ガシャを引く、と書かれたボタンをタップし、画面を眺める。
派手に点滅したのち、ガシャの結果の一覧が表示される。
今回はどのSSRが当たったか、と、一枚ずつ確認していくと。
「……え?」
明らかに、異常であることが、分かった。
いつもと同じならば。
そこには2〜3枚程度の最高レア、SSRがあるはずだ。
だが、今回。
いつもと同じように、茄子の隣で引いた、今回は。
SSRが、1枚もない。
次点のSRも、たったの3枚。
これでは、私が一人で家で引いたのと変わらない。
あまりにも、普通の結果だった。
たまたまだとか、偶然だとか、そういうのではないのだ。
彼女の幸福は、そんな生易しいものではないのだ。
彼女が歩く道は必ず信号が青で。
彼女が乗る電車は必ず一人分の席が空いていて。
彼女が起きなければならない時間に、必ず自然と目が覚める。
そんな、絶対的なものなのだ。
だから。
こんな「まあ悪くはないんじゃないか」とでも言いたげな結果、出るわけがないのだ。
彼女が近くに居る今、あり得ないことなのだ。
しかし。
画面の前の現実は、何度見ても変わることはなく。
今この瞬間が、限りなく異常であることを警告し続けていた。
「……茄子。今日何か、おかしいことはなかった?」
「おかしいこと、ですか?」
「赤信号を見たとか、ちょっと寝坊しかけたとか。」
「……いえ、いつも通りだったと思いますよ?」
少しだけ考えた後、やはり心当たりはないと首を振る。
彼女自身に変化はない。なら後は……
「あ、そういえば。」
ポン、と手を叩き、彼女は笑顔で言った。
「今日から、アイドルが一人増えるみたいですよ♪」
「……うーわ。」
確定じゃん。
「その子、どこに居るか分かる?」
私はそのことを聞いていないし、きっと茄子もそうだろう。
にも関わらず「増えるみたい」と言ったということは、既に事務所に居るその子を直接見たに違いない。
「応接室で、プロデューサーとお話していました。
そろそろ終わる頃だと思いますよ♪」
「ん、ありがと。」
そう言って立ち上がり、応接室の扉へと歩く。
不安の種は、早めに何とかしておかなければ。
扉の前に立ち、ドアノブに手をかける。
……よりも前に、それはひとりでに回った。
黒を基調とした、全体的に暗い雰囲気を纏う服装。
幼いながらも服の雰囲気とマッチした、どこか悲しげな顔。
私は確信した。
間違いなく、彼女が元凶だ。
「……ごめんなさいっ!」
お互いに「予想外」と顔に書くこと、数秒。
こちらがなにか言うよりも前に、いきなり彼女は頭を下げて謝罪した。
「あの、ガシャを引くみたいだったので、終わるまでは入らないようにしたんですけど……。
やっぱりダメでしたよね?全然いい結果じゃなかったですよね?」
「あー、いや、うん……思っていたよりは。」
SRが1枚だけ、というのが最悪のパターンだから、そこまでではないのだが。
「……ごめんなさいっ!」
再び、彼女が頭を下げる。
「いや、なんで謝るのさ。
杏が自分でガシャ引いただけだよ?」
……この反応からして、自覚はある、ということだろうか。
恐らくは、茄子と反対の。
「……私、不幸なんです……。
それも、近くに居ると……その、伝染るみたいで……。」
俯きながら、心底申し訳なさそうに彼女は言う。
やっぱりか、と溜息をつきたくなるのを、ぐっと堪える。
「まあ、そういうことだ。」
奥から、プロデューサーがにゅっと顔を出す。
「彼女が、新しくウチに所属することになった、白菊ほたるだ。
サポートしてやってくれ。……色々と。」
その含んだ言い方の中には、きっと彼女の体質があるのだろう。
プロデューサーの顔を見上げると、彼は茄子の方を向いていた。
彼女はプロデューサーとほたるを交互に見る。
そして。
「はい、お任せくださいっ♪」
幸福はそう言って、幸せそうに笑うのだった。
がちゃり。
「……これはー、面倒なことになりそうなのでしてー。」