――速さとは、何か?
俺はふとした拍子に、そんな事を考える様になった。一日が経ち十日が過ぎても、俺の脳裏からその疑問が消える事はない。まるで俺という人間に課せられた命題……或いは、自分にとってこの疑問を解消する事こそが一つの人生なのかも知れない。
唐突だが自分には前世の記憶がある。前世の自分は極々普通の生活を送っていたが、交通事故に巻き込まれて敢え無く他界。気付いた時には二度目の生を授かり、この異世界に一つの生命として誕生していた。さっきも言ったが前世の自分は正常だ。間違っても冒頭の疑問を真剣に考える様な思考回路など持ち合わせていなかった……一体、何時からこんな事を考える様になったのだろう。
速さを実感するなど生きていれば誰しもが経験する事だ。子供ならスポーツ等の運動、大人なら自動車の運転、といった具合の物理的な速さを一度は経験する。だが多くの人間は速さという物を理解しながら当たり前の事だと気にも留めない。実際、自分もその内の一人だった。
そんな中、自分は速さという物を身体で直に体感する出来事が存在した事に今更ながら気付く。いや、気付く気付かないレベルの話ではなかった。何故これ程の出来事を忘れていたのか自分でも不思議で仕方ない。今の自分を形作り、前世と今生を遮る境界線の如くその記憶は存在していた。
――猛スピードの車に撥ねられた、交通事故と言う名の出来事として
自身が知り得る最後の記憶であり、一番印象に残った出来事。別段、恐怖を感じる訳ではない。ただ疑問に感じた……切欠など些細なモノ。白紙に少量の黒点が存在する程度の違和感。
しかし、一度気になってしまったら疑問を懐かずにはいられない。故に俺は疑問を解消する為に多くの者に問い掛けた。だがそれは、安易に知ろうとする愚者の行いだった。返ってくる答えには単調なモノばかり。子供に問えば足が速い奴と言われ、大人に問えば速度の話を聞かされた。
(――違う。そうじゃない。俺が欲するモノは、一般論ではない)
その他にも聞いて回ったが、納得させられる解答は終始得られなかった。でも、諦めたくない。そこで逃げたら負けだと、その時の俺は誰に吹き込まれたのか解らない戯言に囚われる。
(――自分の手で、答えを見つけ出そう)
俺という人間は何処か壊れていたのだろう。気付くべきだったんだ。自身の最期を飾った正体を知りたい……そんな願いの先に続く道は途方も無い道だと。そして、こんなどうしようもない事を知る為に、俺は人生を十年以上費やしてしまった。
他人が観れば、笑い話のネタだろう。それでも当時の俺は、その道を歩む事に迷いは無かった。その選択が間違いなど決して認めなかった筈。運命が敷いた道を我武者羅に駆け上がった。
そして、一つの答えに辿り着く。
――俺は、最強に至った――
ここでもう一度、自分について話をしよう。俺の前世は極々平凡が当たり前の人生。悪く言えば面白みが無い男だった。だがその人生に不満などなかった。逆に好ましくすら想っていた。そんな俺が最強に至ったから何だというのか? 寧ろ、今まで我武者羅に目指してきた目標が無くなった事で喪失感すらあった。……分からない……解らない……判らない。
自分が本当に何をしたかったのか理解できなくなり、今更になって迷う。前世の年齢も含めればイイ歳をしたオッサンが無様極まりない。しかし……そんな自分に手を伸ばしてくる存在が居た。それが、妖精の尻尾の仲間達だった。喪失感や戸惑いが存在した事は事実……でもその穴を埋めて余りある程の宝物を得た。それが仲間達の存在だ。
だから俺は、前を向いて歩んで行ける。仲間の存在が俺の存在を肯定してくれる。情けない姿を叱咤する……共に涙を流す……お互いに笑い合える、そんな存在が居てくれるから進んで行ける。目標は無くなったが、また新たな疑問を探せばいい。今度は心から納得できる答えを求めて。
――今日も彼は、仲間と共に歩んで行く――