スピード規制は守る   作:カバ

10 / 20
ジェットの苛立ち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 

 

(……あれ? この状況って、何かデジャヴじゃね?)

 

 

 

 そう心中で呟くジェットであった。

 

 彼はミストガンが来た日に依頼を受けるが、嫌な予感を感じて仕事を手早く済ませ三日で戻る。

 その道中、同じく依頼を達成して帰宅するエルザと遭遇。

 ジェットは彼女と共にギルドへ帰還する。

 

 ギルドに帰ってみれば、皆の間に流れる雰囲気がいつもと若干異なる事に気付く。

 その訳をレビィに聞いてみれば、ナツとルーシィが無断でS級クエストに赴いたとの事らしい。

 

(……バカだな。ホントに、心の底から思う……バカだ)

 

 ジェットは自身でも驚くほど冷徹にそう彼等を評した。

 彼がS級魔導士となって、早一年。

 S級がどれ程のモノか身に染みて理解できる、彼だからこそ言えるセリフだった。

 

 一瞬の判断が生死を左右する。

 ミラがルーシィに話していた内容そのままの事実が、S級クエストには当て嵌まる。

 

 正直、彼はこの一件でナツ達に破門の処置が下ったとしても、弁護する気は一切無かった。

 それ程までに、彼らの行動は身勝手なのだ。

 

 そんな中、一緒に戻って来たエルザもナツ達の一件をマスターから聞いたらしい。

 完全に目が据わっていた。

 

「――マスター」

 

「……なっ、何じゃ?」

 

「私に、ヤツ等を連れ戻す役目を任せては貰えないでしょうか?」

 

 怒りを通り越して、殺意満々の瞳でマスターに承諾を得ようとする。

 いや、寧ろアレは確定事項を確認を告げている様なモノだった。

 エルザに向き合っているマスターの表情に、冷や汗が滲み出ていた。

 

「う、うむ! エルザよ、ナツ達を連れ戻す役目、しかと果たしてみせよ!」

 

「はっ!」

 

「そして今回オマエの供には、ジェットを付ける!」

 

「了解しました、マスター!」

 

「……………………はっ?」

 

 ジェットは自分の耳を疑った。

 正誤の確認を取る為にマスターへと視線を向ける。

 そこには、

 

(エルザがやり過ぎないように( ゚д゚)ノ ヨロ)

 

 こんな感じの視線を返された。

 ジェットはマスターの丸投げに焦った。

 

(はっ、ちょ……おま、ふざけんな!? 何でオレが……)

 

 言葉に出掛かった文句は、目の前に仁王立ちするエルザの姿に止められる。

 

「――そういう訳だ。ジェット、私と来てもらおうか?」

 

「えっ? あっ、いや……オレは……」

 

 何とか言い訳を考えようとするが、エルザの鋭い視線を浴びる。

 

「行・く・ぞ・?」

 

「アッハイ」

 

 こうして、ジェットとエルザはナツ達を連れ戻す為、悪魔の島『ガルナ島』へと旅立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタら……あんな島に何しに行くつもりでぇ……」

 

「いいから舵を取れ」

 

「ひっ!」

 

 エルザは口答えする男性を睨む。

 それだけで男性は恐怖に慄き、必死に舵を取る。

 

(……”今のエルザに逆らうと痛い目に合うぞ”と心の中で言っておく)

 

 ジェットは殺気の余波をビシビシ当てられてる海賊にエールを送る。

 

 エルザ達の現在地はガルナ島付近の海域であり、島に行くまでの移動手段としてこの辺り一帯を縄張りとする海賊一派の船を強奪する。

 無論、船を動かす人手として海賊を使っている。

 

 二人に瞬殺された海賊は必要最低限の人手だけを残し、残りはそこらの甲板に倒れている。

 舵を取っているのは海賊達の船長であった。

 そんな哀れな船長は、ガルナ島へ行こうとするエルザ達をどうにか説得しようと頑張っていた。

 

「勘弁してくれよ……ガルナ島は呪いの島だ。噂じゃ、人間が悪魔になっちまうって……」

 

「興味がない」

 

 そんな彼の説得は当然、却下される。

 エルザはもう視界に入ってきた島を鋭く見据えながら話を続ける。

 

「私は掟を破った者どもへ仕置きに行く、それだけだ」

 

(……殺傷沙汰だけは、何とか避けようかな? まっ、ナツには重い一撃を与えるつもりだけど)

 

 ジェットは彼女を止める気なの更々無かったが、流石に死にそうになったら止める気だった。

 だがその対象がナツだった場合、半殺し一歩手前で止めてやろうと物騒な事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 島に到着するとエルザは視界に収めていたルーシィの元へと急ぐ。

 その際に邪魔となる大きなネズミを瞬時に切り裂く。

 ネズミにやられそうだったルーシィは、エルザの助けに歓声の声を上げる。

 

「エルザ!!!」

 

 だがエルザは、ルーシィの返答に”ギロッ”と鋭い視線だけを返す。

 

「…………さん」

 

 エルザに睨みつけられたルーシィは自身の発言を正す。

 その混沌とした場にジェットも駆けつける。

 

「……随分と勝手な事を仕出かしてくれたな、ルーシィ?」

 

「ジェットも来てたの!?」

 

 エルザに遅れる形で登場したジェットの姿にルーシィは目を見張る。

 そんな彼にエルザは怒る。

 

「ジェット。私達は無駄話をしに来たのではない。マスターの命を受けて来ているのだぞ」

 

「ああ、スマン。オレも今回の一件には、多少なりとも怒りを感じてるもんでね……」

 

「……まあいい」

 

 ジェットの感情を汲み取って、エルザはそれ以上の注意を足そうとはしなかった。

 そして彼に向けていた意識をルーシィへと戻す。

 

「私が何故、ここに居るかは分かっているな?」

 

「あ、いや……その……連れ戻しに……ですよね?」

 

 エルザの前で正座するルーシィはどもりながら告げる。

 

「良かったー!! ルーシィ無事だったぁ?」

 

 そこに運悪くハッピーがやって来る。

 だが視界にエルザを収めた瞬間、逃亡を図った。

 

 その逃亡をジェットが余裕で捕まえる。

 エルザは視線をルーシィから外さずに言葉を続ける。

 

「ナツはどこだ」

 

「ちょっと聞いて!! 勝手に来ちゃったのは謝るけど、今この島で大変な事になってるの!!」

 

 エルザが冷徹に物事を進めるが、そこにルーシィは割って入り自分達の状況を話し出す。

 ジェットはエルザの後ろからその話を聞いていたが、正直呆れていた。

 全くと言って良い程、彼女は自身の状況を理解していないと思ったからだ。

 

「興味がないな」

 

 そして案の定、エルザはルーシィの言葉をバッサリと切る。

 ルーシィはその対応に驚くが、自身の要求を通そうとする。

 

「じゃ……じゃあせめて、最後まで仕事を「シャキィン」……!!?」

 

 ルーシィが言葉を最後まで告げる前に、エルザが首元に剣を突き立てる。

 

「仕事? 違うぞ、ルーシィ。貴様等はマスターを裏切った。――ただで済むと思うなよ」

 

 ジェットは恐怖で震えるルーシィを見て哀れに感じたが、助けるつもりは無かった。

 彼女達の行いは正に自業自得であり、弁解の余地などないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッピー。何でS級の依頼書を盗んだ?」

 

「ナツに頼まれて……」

 

「ルーシィ。オマエは多分、報酬の鍵が目当てでナツ達の誘いに乗ったな?」

 

「はい……その通りです……」

 

「……ホント、バカばっかりだな」

 

「「申し訳ありません」」

 

 エルザ達はその後、ルーシィとハッピーを使って島の住人の居場所を探し出しその場を訪れた。

 グレイは住人達の介護を受けて、今は眠っている状態だ。

 

 ここに着いてからの状況は、ルーシィとハッピーの二人に聞き出して大方理解する。

 今は島の住人から仮設テントを借り受け、二人を縄で拘束して身動きが取れない様にしていた。

 

 エルザは監視をジェットに任せて、一旦ナツを探しに出掛ける。

 監視役として残ったジェットは、情報整理 兼 尋問をルーシィ達に対して行っていた。

 

「……破門されるのが怖くないのか?」

 

「破門って、まさか……ホントに?」

 

 ルーシィは表情を強張らせながら訪ねる。

 ジェットは何を今さらと思う。

 

「当たり前だ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)にだってちゃんとした(ルール)は存在する。それを無暗に破る者には当然の報いが在るべきだ」

 

「そんな……!」

 

 ルーシィは今更ながらに怯え始める。

 そんな彼女をハッピーが励ます。

 

「大丈夫だよ、ルーシィ! マスターならきっと許してくれる筈だよ!」

 

「いや、今回の一件はオレから破門をマスターに推奨するつもりだ」

 

「何で!? どうしてそんな事をするのさ、ジェット!?」

 

 ハッピーが驚きの声を上げる。

 ジェットは苛立ちを感じ始める。

 

 彼等は、今回の一件を甘く見ている。

 その事実にジェットは怒りの感情が沸きあがってくる。

 

「――(ルール)ってのは、ただその身を縛る為に存在するモンじゃねぇ。逆にその身を守る為のモノでもある。今回の一件は、まだ大事に至っていないだけで助かってる訳じゃない。現に、オマエ達の所為で村が消滅した」

 

「違うよ! 全部、あの零帝ってヤツの所為だよ!」

 

 ジェットの言葉にハッピーが否定する。

 その解答にジェットは冷たく返す。

 

「違わねぇ。オマエ達が敵に見つかった所為で、島の人達に被害が及んだ。記憶をすり替えるな」

 

「でも! アイツらを止めないとデリオラが復活して、島の皆に危険が及ぶのよ!?」

 

 ルーシィも声を荒げる。

 だが、そんな彼女の叫びにも動じなかった。

 

「それこそ管轄外だ」

 

 ジェットの発言にルーシィがキレる。

 

「村の人達がどうなっても良いの!?」

 

「耳元で喚くな。魔導士は”正義の味方”じゃねぇんだ。助けられない人達だって存在する」

 

「あたしは、今、目の前に居る人達の事について、話しをしてるの!!!」

 

 ルーシィの発言を聞いて、ジェットは少し考えを巡らす。

 この場で無駄な問答を繰り返すより、要求を呑めばスムーズに事が運ぶと彼は合理的に思う。

 

「……なら、この島の問題を解決したら、罰を受けるんだな?」

 

「っ!? 受ける! 破門でも、罰でも、今、この場の問題を解決できるなら、何だって良い!!」

 

「……そんなに覚悟があるなら、オレがエルザを説得してやる」

 

「ホント!?」

 

「ただし! ギルドに帰ったら、罰は受けてもらうぞ」

 

「ありがとう!! ジェット!!」

 

 ルーシィの返答に、ジェットはまぁいっかと軽い感じで返す。

 彼女はまだギルドに入って日が浅い、それを考慮した上で彼は判断を下す。

 だが、ハッピーは別だった。

 

「――ハッピー。何でオレがこんなにも怒ってるかは、オマエなら理解できるよな?」

 

「……あい」

 

 ハッピーは力無く答える。

 そんなハッピーの様子を気にする事無く、ジェットは話しを続ける。

 

「正直、主犯であるナツとオマエに対しての怒りは、どうにも抑えきれねぇ。だから今回の一件が終わり次第、マスターへ報告する。つまりこの依頼が妖精の尻尾(フェアリーテイル)でやる最後の仕事かも知れねぇ。だがその紋章を一度掲げた以上、最後まで妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士として仕事をやり通せ、いいな?」

 

「……あい」

 

 ジェットは落ち込むハッピーを冷たく見据えた後、エルザが戻るのを大人しく待つのだった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。