スピード規制は守る   作:カバ

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策略家との遭遇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”ドスンッ!”と大きな音と共に地を揺らす振動がルーシィ達に伝わる。

 

「なっ、何ナニ!? 一体何が起こったの!?」

 

 ルーシィは敵の新たな襲撃かと勘違いし驚きの声を上げる。

 

「この振動は……ジェットの仕業か?」

 

 ルーシィと同じ付近で戦っていたエルザが音の発信源を探って、ジェットの仕業と判断する。

 

「何をやったらこんな振動が伝わってくるのよ!?」

 

 ルーシィが声を荒げる。

 

「何をやったのかは分からない。私がジェットと共に任務を熟したのは随分と前になる。まさか、この数年でこれ程までに腕を上げていたのか……」

 

 エルザはルーシィの言葉に答えられなかった。彼女は純粋にジェットの力量を見誤っていた。

 彼は自身の実力を極端に卑下するが、その力はS級魔導士として文句ないモノを持っている。

 

 今のギルドで正確に彼の実力を把握している者は、同じチームメンバーであるドロイとレビィ、他にはカナとマスター、後はミストガン程度であろう。

 エルザの印象では攻撃の分野においてナツ達の方が、ジェットより優れていると感じていた。

 だが実際にはその予想を大きく裏切り、計り知れないほどの力を秘めていた。

 

 この事実はエルザにとって嬉しい誤算だと言える。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)を支える者が育っているのは、彼女にとって喜ばしい事なのだ。

 だからこそ、ナツ達の勝手な振る舞いに怒りを感じる。

 

 エルザの心中で様々な感情が巡る中、”ゴゴゴゴ”と大きな音が辺りに響く。

 

「……何の音だ?」

 

「もぉ! 今度は何なの!?」

 

 エルザとルーシィは音の発信源である遺跡に目を向ける。

 彼女達の視線の先には傾いた遺跡がある筈だったが、

 

「バカな……」

 

「遺跡が、元に……戻ってる……?」

 

 最初に見た時の様に遺跡は真っ直ぐに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遺跡が元通りになった原理は分からないが、これじゃあ儀式が行われちまうか……厄介だな」

 

 同時刻、ルーシィ達と少し離れた所で遺跡の状態を見ていたジェットは考えを纏める。

 彼は足元に転がっている敵の一人を叩き起こす。

 

「おい、ちょっと確認したい事があるんだが……」

 

「ひぃっ! 化け物!?」

 

 ジェットと今まで対峙していた敵は恐怖に怯える。

 彼は今までの敵が毎度見せてきた情けない姿に呆れながら、情報を得ようとする。

 

「助けてくれ! 何でもするから命だけは勘弁してくれぇ!」

 

「……毎度の定番なセリフ、ありがとう三下君。これからオレが言う事に素直に答えてくれれば、オレからはもう何もしない」

 

 その内容に相手は喜びの表情を浮かべる。

 

「ほっ、ホントか! もうホントに何もしないのか!?」

 

「ああ、ただし嘘をついたら……どうなるか分かってるよな?」

 

 ジェットは表情に笑みを浮かべながら相手を脅す。

 脅された相手は首を”ブンブン”と勢いよく縦に振る。

 

「良し。ならまず、オマエ達の様な装束を着た連中は全員この場に居るのか?」

 

「あ、ああ。オレが知る限り、この場には儀式を行っていた全員で来た」

 

「なら次だ。オマエ達の中でまともに戦えるヤツは殆ど居ないな?」

 

「……よく分かったな? 確かにアンタが言った通り、魔導士と戦える様なヤツは、オレを含めて此処には数人しか居ない。後の戦力は零帝リオンと幹部の三人だけだ」

 

(確か、村の跡地でナツが一人倒してたな。オレ達が到着した時にもルーシィが一人倒してたか。なら後はリオンと情報にあった幹部の犬?野郎だけか……)

 

「他に戦力になりそうなヤツは居ないんだな?」

 

 ジェットの言葉に相手は頭を捻る。

 

「ん~……あっ! そう言えば、幹部みたいなヤツがもう一人居たな」

 

「――どんなヤツだ?」

 

「何だか薄気味悪いヤツで、変な仮面付けたジジイの幹部だ。最近入ったヤツだから忘れてた」

 

(……薄気味悪いヤツ……か、気になるな……ソイツ)

 

 リーダーの傍に居る、怪しげな輩の存在が気になるジェット。

 

「ソイツが今、何処に居るか分かるか?」

 

「んー……オレ達に着いて来なかったから、零帝にくっ付いてんじゃないのか?」

 

「そうか、情報提供に感謝する」

 

「おっ! ならオレはこれでお暇させてもらうとするぜ!」

 

 男性はジェットから離れる。

 

「待て」

 

 ジェットは逃げ出そうとする男性を捕まえる。

 彼に捉まれた男性は過敏に反応する。

 

「なっ! 何だよ! 見逃がしてくれるんじゃなかったのかよ!?」

 

「誰も逃げるのは許可してないだろ? 危害を加えないだけで」

 

「横暴だ! 詐欺だ!」

 

「武力行使に出ないだけ有り難く思え」

 

 騒ぐ男性を留めながら指示を出す。

 

「オマエにはオレ等に倒された装束服の連中を纏めてる役目を与えよう。光栄に思え」

 

「……いや、何でオレがそんな事しなくちゃならないんだよ?」

 

 ジェットの言葉に怪訝な表情をとる男性。

 

「だってオマエ、他の装束服の連中とはあんまり関係ないだろ? オレが見立てた予想では雇われ魔導士って所か?」

 

「……アンタどんだけ勘が鋭いんだよ?」

 

 別の意味で恐怖を感じ始める男性。

 ジェットは簡単に話し出す。

 

「いや、見てれば結構分かりやすかったと思うぞ? 他の連中は零帝リオンに何か縋ってる印象を感じたが、オマエからは我欲を押し通してる印象を感じたからな」

 

 ジェットの言葉に男性『ガウロ』は、大きな溜息を吐きながらガシガシと髪の毛を掻き毟る。

 

「はぁ……アンタの言う通り、オレは零帝達ってよりかは装束服の連中に雇われた魔導士だよ」

 

「やっぱりそうか……他の連中は、デリオラ関係の……被害者辺りか?」

 

「正解。デリオラに村や町を壊されたり、大切な家族をあの悪魔に殺されたりした連中さ……」

 

 ガウロは遣る瀬無い感情を含ませて語る。

 その様子にジェットは考える。

 

「……ひょっとして、オマエも何か別の悪魔関係の被害者か?」

 

「……感が良すぎるってのは、厄介だねぇ」

 

 ジェットは自分が地雷を踏み抜いたのを理解し、ばつが悪そうにする。

 

「……スマン」

 

「いいさ、過去の話だ。それより、オレにアイツ等を拘束させてどうしようってんだ? 評議員にでも突き出すつもりか?」

 

「いや、別にそこまで大事にはしない。ただ、一カ所に居てもらった方が何かと手間が省ける」

 

「……そっか」

 

 ガウロはどこか安心した表情をみせる。

 ジェットはふと、疑問に感じた事を聞く。

 

「そう言えばオマエ、何か口調がさっきと違くないか? 戦闘中は、私達とか我々とかだったり。何かとかっこつけた喋り方してなかったっけ?」

 

 ジェットの指摘に顔を赤らめるガウロ。

 

「うっ、うるせぇよ!? 口調(アレ)で少しでも威厳を醸し出そうとしてんだよ!! 分かれよ!!」

 

 命乞いをしていた時より必死だった。

 ジェットは善意でアドバイスする。

 

口調(アレ)、聞いてるコッチが恥ずかしいから止めた方が良いって、絶対」

 

「……やっぱり恥ずかしいか?」

 

 ジェットの指摘にガウロも思い悩む。

 苦悩する彼にジェットは冗談が本気か分からない事を口走っていく。

 

「やるんならもっと徹底してやろうぜ! 『我が漆黒の輝き』とか『闇を切り裂く聖なる者』とか色んなフレーズを会話に混ぜるとかさ!」

 

「……何かソレ、違うモノになってないか?」

 

 二人は何だかんだと仲良くなり、エルザ達に合流するべく並んで歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、ジェットとガウロの二人はエルザ達の元へ到着する。

 彼等が着いた際、彼女達に刃向かっていた装束服の一団は鎮圧された後だった。

 

 エルザはジェットが引き連れて来たガウロに視線が向く。

 その際、彼がエルザに対して余計な事を口走った所為で、調きょ……制裁を加えられる。

 

 その結果……

 

「なら、後の事は全て君に任せるぞ、ガウロ」

 

「了解しました! 姐さん!」

 

 今ではエルザの従順な犬と化していた。

 

「……ねぇ、ジェット? あの人、大丈夫なの?」

 

「……大丈夫じゃね? あんなに幸せそうな顔してんなら」

 

「……オイラには、ペットがご主人様に尻尾を振ってる姿にしか見えないよ」

 

 エルザとガウロの会話にジェット、ルーシィ、ハッピーの三名は口を揃えて不安がる。

 そんな背後のやり取りなど知らずにエルザは号令を掛ける。

 

「では皆、遺跡へと急ぐぞ!」

 

「お気を付けて下さい! 姐さん!」

 

『……不安だなぁ』

 

 エルザ以外の三名は後ろの下僕(ガウロ)をチラチラと見据えながら、遺跡へと向かう。

 彼等が遺跡に到着するとジェットがエルザに提案する。

 

「エルザ、オマエはルーシィ達と一緒に儀式を行っていた場所に向かってくれないか?」 

 

「それは構わないが、オマエはどうするんだ?」

 

「オレはガウロから聞いた、ザルティって名前の幹部を探す。ソイツの存在が気になってな……」

 

 ジェットの言葉にエルザは思考する様に黙り込む。

 

「……良いだろう。遺跡が元に戻った以上、再び儀式が行われる可能性は高い。残りのメンバーを皆で即座に倒した方がより安全を保障できる」

 

「リオンはグレイが倒して、オレがザルティを倒す。残りの一人をエルザ達が倒してくれれば、今回の敵はもう居ない筈だ」

 

 エルザは彼の案に賛成し、行動に移す。

 

「ルーシィ、私達は儀式が行われる場所へ急ぐぞ」

 

「道案内は私とハッピーに任せて!」

 

「あい!」

 

 エルザ達は儀式場へ向かった。

 

「……オレも(ザルティ)を探すか」

 

 ジェットもその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――遺跡の地下空間

 

「ほっほっほ」

 

 一人で奇妙な笑い声を上げる老人の名は『ザルティ』。

 

「漸く……デリオラの……悪魔の力が、我が物となる……」

 

 ザルティは己が願望を口にする。

 そんな彼の言葉に反応を返す者が居た。

 

「――やはり、そんな事を企んでいたのか……」

 

「ッ!? 誰だ!!」

 

 この場には自身しかいないと考えていたザルティはその声に反応する。

 ザルティの言葉にジェットは身を潜めていた岩陰から姿を現す。

 

「アンタがザルティで間違いないな? まあ、聞いた情報と一致するから確認するまでもないか」

 

 ジェットの姿を見たザルティは多少の驚きはしたが、直ぐに胡散臭い笑みへと表情を変える。

 

「貴方は、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の『神槍(ジェット)』殿ですかな?」

 

 彼は敵の動揺が少ない事に違和感を感じるが想定内の事である為、気に留めなかった。

 それより、こちらの情報を知っている事に興味を覚える。

 

「なんだ、オレの事を知ってるのか?」

 

「はい。貴方のギルドは色々と面白い方々が多いので、良く知っているのですよ」

 

 愉快そうに語るザルティの姿に多少の苛立ちを感じる。

 

「……良くない意味で知られてるんだな」

 

「滅相も無い。貴方達の活躍は、国内(フィオーレ)で大きく取り上げられているではありませんか?」

 

「……話を振ったのはオレからだが、もうこの話題は止めないか?」

 

 ジェットは疲れた様に告げる。

 彼の哀愁漂う姿にザルティも口を閉ざす。

 

「少々尋ねますが、どうやって私の居所を掴んだのですかな? 貴方とは初対面だったと私の中で記憶してますが?」

 

 ザルティは場に流れる雰囲気を変えるべく、自身の気になる事を尋ねる。

 その問いにジェットは答える。

 

「アンタの情報を得た時、オレはアンタが愉快犯か策略家のどっちかだと直感で思った。だから、絶対に悪魔(デリオラ)が置いてある地下(ココ)に姿を現すと考えただけだ」

 

 その言葉にザルティは愉快気な笑みを浮かべる。

 

「――おやおや、随分と自分の勘に自信がおありの様ですね?」

 

 ジェットは得意げに告げる。

 

「結果として、アンタを見つけられたんだ。強ち間違っちゃいなかったと思うが?」

 

「運が良かっただけです」

 

 ザルティの言葉に”まっ、そうだな”と返す。

 

「ところでアンタが立ってる場所、危ないぞ?」

 

「おおっ?!」

 

 ザルティはジェットが告げるとほぼ同時にその場を離れる。

 彼がつい先程まで立っていた場に、

 

「見つけたぞ、この野郎ー!!」

 

 物凄い勢いで何かが突っ込む。

 ザルティはやれやれと呆れる。

 

「また貴方ですか、火竜(サラマンダー)君?」

 

「この仮面野郎! オレがぶっ飛ばすまで逃げんなよ!」

 

 いきなり現れたナツはザルティを睨みつけながら告げる。

 

「はぁ……私はこれでも多忙の身。貴方達の相手を何時までもする訳にはいかないのですよ」

 

 この状況に不敵な態度を取っていたザルティも面倒くさく感じる。

 

「オマエをぶっ飛ばさねぇと気が済まねぇんだよ! って、何でジェットが此処に居るんだよ!?」

 

 目の前しか見えていなかったナツが、ここに来て漸くジェットの存在に気付く。

 ナツの反応にジェットの額に青筋が浮かび上がる。

 

「いや、反応が遅せーよ。先に気付けや、後オレ以外にエルザも来てるぞ」

 

「はっ!? エルザ!? 何で!?!?」

 

 心底分からないと表情で告げるナツの姿にジェットがキレる。

 

 

 

「――全部……オマエの所為だろうが……このバカ野郎がァ!!」

 

 

 

 ジェットは重い拳骨をナツの頭に叩き付ける。

 

「ぐぁ!? 何すんだよ!?」

 

 ナツは殴りつけたジェットを睨む。

 

「はっ! オマエ達の勝手な行動で、ギルドにどれだけの迷惑を被るのか理解できないのか?」

 

「ゔゔっ……!」

 

 ジェットの言葉にナツは顔を顰める。

 その表情に若干怒りが消える。

 

「……どうやら、後ろめたい感情程度はあるらしいな。なら後で、エルザに絞られて来い」

 

「なっ!? 死ぬ!? ホントにオレが死んじまう!?」

 

「オマエの遺骨は、カルディア大聖堂の近くに埋葬してやるさ」

 

「オレが死ぬ前提で話を進めんな!?」

 

 ナツは必死に自身の生死に関して語る。

 そんな彼の姿を見てジェットはニヤニヤと楽しむ。

 

「……漫才なら余所でやって頂けないでしょうか?」

 

 蚊帳の外に追いやられたザルティが呟く。

 

「「あっ、忘れてた」」

 

 ザルティの存在をすっかり忘れてた二人は、その呟きに漸く存在を思い出す。

 

「ホントに、愉快で面白い方々ですねぇ……! いつまで、その余裕が続きますかな?」

 

 その対応に若干キレながら語るザルティ。

 彼の言葉にジェットとナツが口にする。

 

「オレが余裕なのは、ナツがこの場に現れたからだ」

 

「だってもう、終わった様なモンだろ?」

 

「……一体、貴方達は何を言っているのですか?」

 

 二人の態度に疑問を感じるザルティ。

 

「オレなりに分かり易く言ったつもりだったんだがなぁ……」

 

 ジェットは笑みを浮かべる。

 

「オレ達が言いたい事ってのはな……」

 

 ナツがニカッと笑う。

 二人は口を揃えて告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――オマエの負けが確定したって事だァ!

 

 

 

 

 

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