スピード規制は守る 作:カバ
「私を倒すですか……ほっほっほ! いや~愉快愉快! 今時の若者は随分と自身の力を過信して、出来もしない事を口にするのですなぁ?」
二人の言葉にザルティは不敵に笑う。
「勝手に言ってろ。実際に戦ってみれば、すぐに分かる事だ」
ジェットは右足を少し下げ、体勢を整える。
「まっ! オレ一人でも十分だけどな!」
手に炎を纏わせながらナツがそう告げた。
そんな彼にジェットがジト目で向ける。
「一度は逃げられたくせに、生意気な事を言ってんじゃねぇよ」
「んだとォ!?」
ジェットの言葉に怒りを示す。
「喚くな、事実は言ったまでだ。もし汚名を返上したいなら、この場で
ジェットはナツのやる気を上げる為に軽く挑発する。
「上等だァ! オレ一人で仮面野郎をぶっ飛ばすから、ジェットは手を出さなくていいぞ!」
ナツが挑発に乗せられて気合を上げる。
「ほほぉ? 良いのですかな? その様な暇が貴方達にあるとは思えないのですが?」
ザルティがまたもや意味深な発言をする。
その言葉にジェットが問いかける。
「――それは、どういう意味だ?」
「――こういう意味で御座います」
ザルティは視線をデリオラの頭上へ向ける。
彼に釣られて二人もそこに目を向けると、何やら怪しげな光がデリオラに当たりだす。
そして、光に当てられた部分の氷が解け始める。
――
『オオオオオオオオオォォォォォォォ!! 』
その声は空気を振動させて、島全域に及ぶほどの大音量を響かせる。
「来たァ!!! ついに来たァ!!!」
ザルティはこれまでにない程の興奮をみせる。
「ッ!!? ひ……光!!? えっ!? 誰かが上で儀式やってんのか!!?」
その現象を見たナツが騒ぎ出す。
「……始まったか」
ジェットは冷静に状況を把握する。
「おやおや?
ザルティは意外だと言葉にする。
それに”当然だろ?”とジェットは返す。
「オマエの事だ……儀式を行える人間の一人や二人、確保しているのは容易に理解できた」
「今はそんな話をしてる場合じゃねぇぞ!? 早く上に戻って儀式を止めないと!!」
ナツは悠長に話すジェットに詰め寄る。
そんなナツを宥める様に説明する。
「完全に蘇った訳じゃない。言っただろ、想定内の事だ。いま儀式を止める為に、エルザが現場に向かってる最中だ。オレ達はオレ達のやるべき事をすれば良いんだ」
「……抜け目が無い御方だ」
ジェット達の対応の良さに舌を巻くザルティ。
「
ナツは彼の説明に安堵の溜息を吐く。
「なら、大丈夫なんだな?」
「安心しろ。エルザの凄さなら、オマエが一番よく知ってるだろ?」
ジェットの言葉に”それもそうだ”とナツは考えを改める。
「間に合うと良いですな?」
「……間に合わずとも、結果は同じだと思うがな……」
「……? それは、どういう意味でしょうか?」
ジェットの意味深な発言に今度はザルティが問い掛ける。
彼は告げる。
「アンタの思い通りにはいかないって事さ」
「……負け惜しみを言いますなァ」
二人は視線をぶつけ合う。
「オイ! いつまで話し込んでるつもりなんだ! さっさと始めるぞ!」
「――そうだな。なら、オレから先に行かせてもらう。手早く終わらせるぞ」
「あっ、ちょ、まっ、オレが先に行k……」
蚊帳の外だったナツが騒ぐ。
彼の言葉でジェットは動き出す。
ナツの静止の言葉は当然の様に無視する。
『――
「ッ!? 消えt」
「遅い」
「キャッ!?」
一瞬で背後に回ったジェットに蹴りを入れられる。
その際、ザルティは辛うじて腕での防御が間に合ったが勢いよく吹っ飛ばされる。
「ナツッ!!」
「分かってるッ!!」
ジェットが合図を送る。
拳に炎を纏っているナツがザルティの落下地点に待機する。
「吹っ飛べ、この野郎ォッ!!」
『――火竜の鉄拳ッ!!』
「きゃああああああ!!!!」
二段階で構えていた攻撃に対応できず、為す術もなく吹っ飛ぶ
その姿を見たジェットが呟く。
「……ジジイにしては、随分と可愛らしい悲鳴を上げたな」
「ジェットッ!!」
ナツが叫ぶと同時に、悪魔は完全な形を取り戻す。
『オオオオオオオオオォォォォォォォ!! 』
咆哮を挙げるデリオラの姿を静かに見据えるジェット。
「……エルザは間に合わなかったか」
そんな彼の元にナツが駆け寄る。
「こうなったら、オレ達で
「――オレならここに居るぞ、ナツ」
ナツの言葉を遮り、グレイが姿を現す。
彼の姿を見たナツが告げる。
「グレイッ!! 丁度いい!!
「――オレは……」
ナツに返事をしようとするグレイだったが、地面を引きずる様な音が聞こえてくる。
音の発信源を見たジェットは、一人の男がうつ伏せの状態で移動するのを発見する。
ジェットはそれが今回の首謀者『リオン』だと判断した。
リオンは己が野望を口にする。
「クククッ……! オマエ等、には……無理だ……! アレは……オレが……ウルを超える為に……オレが……ハハハッ……!」
「リオン!!」
「オメーの方が無理だよ!! 引っ込んでろ!!」
リオンにグレイ達が声を掛けるが、それらが聞こえていないかの様にデリオラに近づいていく。
「やっと……会えたな……デリオラ……!」
リオンの脳裏に幼き日の記憶が甦る。
(最強の魔導士?)
(ああ、ここらでいったらウルかな……やっぱ)
(何年か前に娘を失ったショックで山に引きこもっちまったが……)
(この辺じゃ、ウルに敵う魔導士は居なかったなぁ)
(ウル……か、弟子にしてくれるかな…………!)
リオンはやっと……やっと、ここまで自分は来たのだと、自身を奮い立たせる。
「あの、ウルが……唯一……勝てなかった怪物……! 今、オレが……この、手で……倒す……! オレは……アンタを……超え……る……!」
リオンがボロボロの状態で立ち上がるが、
「――もういいよ、リオン」
「ッ!!?」
グレイが彼を止める為に軽い一撃を入れる。
それだけで弱っていたリオンの身体は地面へ崩れ落ちる。
それを見届けたグレイが両腕を交差する様に構える。
「――後はオレに任せろ……デリオラは、オレが封じる!!」
「
グレイの構えにリオンが声を震わせる。
彼は声を荒げた。
「止せ!! グレイ!! あの氷を溶かす為にどれ程の時間が掛かったと思ってるんだ!? 同じ事の繰り返しだぞ!! いずれ氷は溶け……再びこのオレが挑む!!」
「コレしかねぇんだ。今……ヤツを止められるのはコレしかねぇ」
その発言にナツがグレイの前へ躍り出ようとするが、それをジェットが止める。
ナツがジェットを睨みつける。
「ッ!? ジェット!! オマエ、邪魔すんn」
「――グレイ、その魔法はもう使わなくて良い」
ナツを無視してジェットはグレイに語り掛ける。
グレイが驚きの表情で彼を見やる。
「ッ!!? ジェット!! オマエ……自分が一体、何を言ってんのか分かってんのか!!? ここでデリオラを止めなきゃ……」
グレイがジェットの正気を疑うが、彼は至ってまともだった。
ただ、真実だけを告げる。
「――まだ気付かないのか?
「……………………えっ?」
グレイがジェットの言葉の意味を理解すると同時に、
身体全体に無数の罅が入り、手や足の先から徐々に塵屑と化す。
この場に居る人間に魅せつけるかの様に、ゆっくりと
ジェット以外の三名がその光景に目を奪われている中、彼は一人静かに語る。
「――
独り言の様に呟くジェットだったが、これを使用したグレイ達の師『ウル』に尊敬の念を抱く。
この魔法は、術者の命を代価に使用する魔法。
まだ何とか使用可能な
だが、一度きりのコレの強力さは
弟子の為に命を費やした魔導士に、同じ人間として彼は尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
だがその涙は、決して悲しみの涙ではない。
互いの過去を思い出し、二人の違えてしまった道は、今……再び交差する。
倒れる
そこに険悪な雰囲気は流れず、寧ろ穏やかなモノが流れていく。
二人の表情には下手糞な笑みが浮かぶ。
そんな二人を見てジェットは、今回の件が一段落したのを理解する。