スピード規制は守る   作:カバ

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神の槍

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――マグノリア(ここ)で戦うのはオレにとって不本意だ。戦場を他の場所に移すぞ」

 

 ジェットの提案にガジルは”ハッ”と鼻で笑う。

 

「オイオイ!? 何でオレ様がオマエなんかに指図されなくちゃなんねーんだァ!! こんなクズの集まりで出来た街が幾ら壊れようが、オレ様の知ったことじゃねェ!!」

 

 その言葉にジェットは少し足を下げ、

 

「――そうか。なら、オレがオマエを……連れて行ってやろう」

 

 その姿をガジルの眼前から消す。

 次の瞬間、ガジルは浮遊感を感じる。

 

「グッ!?!?」

 

 首に奔る痛み、呼吸が出来ない程の風圧、視界に入る景色が街から郊外へと移る。

 

「――ほら、着いたぞ」

 

「ガッ!!」

 

 ジェットは掴んでいたガジルの首筋から手を放す。

 その際、地面に叩き付ける様に打ち捨てられる。

 

「ガハッゴホッ!! テ、テメェ……!? 一体、オレに何をしやがった!!」

 

 ガジルはジェットへ鋭い視線を送る。

 そんな敵に今度は彼が”ハッ”と鼻で笑う。

 

「おいおい? 何でオレがオマエにそんな事を教えなくちゃなんねぇんだ? てか見たまんまの事が起こっただけだろ……赤子でも理解出来るぞ?」

 

「――この野郎ォ……!!」

 

 ガジルはジェットへ腕を向ける。

 

「鉄竜棍!!」

 

 自身の腕を鉄の棒に変化させて攻撃する。

 

「――――――――」

 

 その攻撃をジェットは身体を捻る事で回避する。

 ガジルは相手に反撃の隙を与える暇なく、鉄に変えた腕や足で打撃の連打を放つ。

 その間、ジェットは回避に専念する。

 

「ギヒヒッ!! 避けるだけで精一杯かァ!! オイッ!!」

 

 攻勢を緩めずにガジルはジェットを追い立て、更に技を繰り出す。

 

「鉄竜槍・鬼薪!!」

 

 槍に変化させた腕で高速の連続攻撃をお見舞いする。

 だが、ジェットには当たらない。当たる気配が存在しない。

 

「……クソがァ!! 当たりやがれェッ!!」

 

 思い通りの成果が出ない事にガジルが苛立つ。

 ジェットはそんな敵を少し見据え、

 

「――それだけか?」

 

 口数少なく告げる。

 ガジルは相手の余裕そうな表情に顔を顰める。

 

「……チッ! 逃げるだけが取り柄の雑魚の分際で、随分と余裕かましてんじゃねぇか?」

 

 ガジルは攻撃を止め、相手を迎え入れる様に手を広げる。

 ジェットが怪訝になる。

 

「……それは、一体何の真似だ?」

 

「分かんねーか? 心優しいオレ様が、オマエの為に攻撃の機会(チャンス)を与えてやるっていってんだよ」

 

 ガジルは自身が攻撃を当てるより、相手に攻撃させる事を選んだ。

 ジェットは相手の考えを理解する。

 

「自身が攻撃を繰り出す労力より、逆に攻撃をさせて相手を疲弊させる方針に切り替えたか……」

 

「グダグダ言わずにさっさとかかって来い。オレにクズの攻撃なんて痛くも痒くもないって事を、折角だからこの場で証明してやるよ」

 

 ガジルは腕を組みながら厭らしく嗤う。

 ジェットはその挑発を素直に受け入れる事にする。

 

「……なら、お言葉通り一発入れさせて貰おうかな?」

 

 ジェットは足を下げる。

 

「――ギヒヒッ!!」

 

 ガジルは自身の防御力に絶対の自信を持つ。

 相手の攻撃が自身の身体を傷つけられない事を理解しているから不敵に笑う。

 

 滅竜魔法とはそのドラゴンの性質を身体に宿して戦う、『失われた魔法(ロスト・マジック)』。

 ガジルが宿す性質は”鉄”、鋼鉄の鱗は全ての攻撃を無力化する。

 

 ガジルは油断していた。

 噂で聞いて力量を分析した結果、相手を見誤ったのだ。

 『神槍のジェット』とは、その速さを活かして逃げるだけのただの脆弱な魔導士だと……

 

 しかし、妖精の尻尾(フェアリーテイル)が誇るS級魔導士がその程度で終わる筈はない。

 神槍(ジェット)もギルドが誇る最高戦力の一人だ。

 鋼鉄(ガジル)を打倒する事は、彼にとって造作もない。

 

 

 

 

 

「――三十六式 衝撃(インパクト)

 

 

 

 

 

「ガアッ!?」

 

 ガジルの身体に強い衝撃が奔り、彼の身体は後方へ吹っ飛んでいく。

 彼は痛みを感じる腹部を抑えながら喘ぐ。

 

「グッ!? なっ、何でだ!? オマエは、走るだけしか出来ないクズ魔導士なんじゃ……!?」

 

 彼は驚愕した面持ちで告げる。

 ジェットは拳を握りしめる。

 

「――確かに、オレの取り柄なんて走る事ぐらいだろう。だからってオレが強力な一撃を放てないなんて、オマエに一言でも言ったか?」

 

「それでも……何故、これ程の威力をオレ様が受ける……!?」

 

 敵が零すお馴染みのセリフに彼は答える。

 

「――オマエには、見えなかったのか?」

 

「……何? 見えた? 一体……何の話だ?」

 

 敵の何時もの返しにジェットは笑う。

 

「――三十六発。今の攻撃でオレがオマエに打ち込んだ、拳の数だ」

 

 ジェットの発言にガジルが吠える。

 

「バカな、そんなの在り得ねえ!? そんなに打ち込まれて、オレが気付かない筈がねぇだろう! 仮に攻撃を打ち込まれたとしても、オマエの脆弱な打撃じゃオレの鋼鉄(からだ)に傷は付かねェ筈だァ!! 逆に傷を負うのはテメェだッ!!」

 

 彼の言葉にジェットは答える。

 

「オマエの言った事は概ね正解だ。本来、オレに鋼鉄(オマエ)を打ち砕く拳なんか持ち合わせちゃいねぇ。だが、オレ達は何だ? ――魔導士……魔力(ちから)を持つ者だろう? なら、やりようは幾らでもある」

 

 ジェットは右手に肉眼で知覚できる程の魔力を集める。

 彼は話を続ける。

 

「身体に魔力を纏わせれば、通常より丈夫になる。魔力を纏わせた上に、更に魔力を纏わせたらもっと丈夫になる。丈夫になった身体は転じて、強力な武具へ変貌する。鋼鉄を殴っても、オレの身体に損傷を与えない程の武具(モノ)にな。……ここまで説明してやれば理解できるだろう?」

 

「……魔力(ちから)を自在にコントロールして、テメェはあの威力を出したのか」

 

「言葉が足りねぇぞ。そこに速さ(スピード)が加わって、神槍(オレ)鋼鉄(オマエ)を越えたんだよ」

 

「……ハッ、くだらねぇ。要するにオマエは小細工をしてやっと戦える雑魚って事か?」

 

 説明を受けたガジルは嗤う。

 ジェットはそんな彼を告げる。

 

「まっ、オマエはその雑魚に今からやられるんだがな?」

 

「――そう易々とオレ様がやられると思うのか?」

 

 ガジルのその言葉に”んー”とジェットは考え込む。

 

「――何かオマエ……オレが手の内を明かしてやった意味を勘違いしてないか?」

 

「…………あっ?」

 

 ジェットの言葉にガジルが疑問を感じる。

 彼は清々しい笑顔で答える。

 

「――オレは、今からボロ雑巾の様にやられるオマエに同情して、手の内を明かしてやったんだ。自分がどんな風にやられるか知っておいた方が安心できるだろ?」

 

「……テメェ、笑えねぇジョークが好きなのか? それとも自殺願望者なのか? あ゛っ?」

 

 鉄竜(ガジル)が彼の発言に本気でキレる。

 だがジェットは、

 

「いや、事実さ。それを今から実践してみせよう」

 

 気楽な感じでそう言い切る。

 それは、自身が勝つ未来に絶対の自信を持つが故に……

 

 

 

 

 

「――これから先、オマエは何も出来ない。それは確定事項であり――定められた運命だ」

 

 強者(ジェット)は告げる、終わりの宣言を。

 

 

 

 

 

「――故、最後に問おう。オマエは……自身の罪を悔い改めるか?」

 

「――ギヒヒヒヒッッ!!! クズがァ!! 地に朽ちろッ!! オレ様に壊されろォ!!」

 

 強者(ジェット)慈悲(ことば)を、弱者(ガジル)は踏み躙る。

 

 

 

 

 

「――そうか……それは、残念だ……」

 

「滅びろォォォ!!! 妖精の尻尾(フェアリーテイル)ゥゥゥ!!!」

 

 弱者(ガジル)強者(ジェット)に飛び掛かる。

 両者を阻むモノは存在しない。

 

 鉄の拳が吸い込まれる様に強者(ジェット)へ伸びる。

 十……五……一、mm単位の距離まで攻撃(それ)は迫る。

 

 

 

 

 

 ――神の槍(ジェット)が、世界を(つく)る――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――疾風迅雷』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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