スピード規制は守る 作:カバ
魔法には様々な
その為、魔導士は数ある魔法の中で自分に見合ったモノを習得し、時間を掛けて技量を上げる。中には数多くの魔法を習得しながら、それら全てを熟練者レベルで扱える魔導士も存在する。だが基本的に一つの魔法を習得し、それを高めていく事が強くなる近道だ。
ジェットも自分に合った魔法を習得して、使いこなせる様に日々取り組んでいた。そして今日、彼は自分の力量がどれ程のものかを知る機会を得る。
――――X783年
試験内容は毎年で異なり、合格者が複数人の状況もあれば、一人も現れない場合も存在する。基本的にどの試験も一筋縄ではいかないものばかりである為、複数人が合格する事はまず無い。
故に、選ばれた者達は己が全力を以てこの試験に挑む。
――――妖精の尻尾
妖精の尻尾では、何時にも増してギルドの魔導士たちが騒がしかった。それを見て、納得する者、もうそんな時期かと達観する者、様々な反応が見受けられる。それはこの時期になると、誰もが気になっているS級昇格試験が行われるからだ。関係ないと思っている者達は賭け事をするかの如く、誰が選ばれるのか話し込んでいた。
「今年もこの時期が来たか……」
「誰が選ばれるかな?」
一人が感慨深げに呟く。それに便乗する様に別の誰かが辺りに居る者に語り掛ける。
「ナツやグレイが選ばれる可能性も十分にあるが……」
「でも、アイツら少し前にまた街で大騒ぎを起こしたんだろ?」
「なら今年もアイツらダメか。少し落ち着きを持てば選ばれそうなのにな」
実力がある炎の魔導士と氷の魔導士の名を挙げる。だが別の者が彼らの素行の悪さを指摘する。そして別の奴はナツとグレイは選ばれないだろうと思ってダメだと告げる。
「だな。他にエルフマンとかも居るが……」
「今年は無理っぽいか?」
「リサーナの一件で魔法が不安定になったんだっけ?」
「その話は止めろ。リサーナだって
若いメンバーが口を滑らせるのを見て、別の誰かが声を荒げる。その注意にはっとなり、若いメンバーは表情を歪ませる。
「スマン、口が過ぎた」
「……はぁ、もうこの話は止そう。他に候補になりそうな奴は誰が居たっけ?」
暗い雰囲気になりかけたそれを入れ替える様に、明るく振舞って元の話題を戻す。それに続くように別の誰かがまた新たに名前を挙げる。
「ロキは? アイツもナツやグレイに引けを取らない位凄くないか?」
「えっ? アイツこそダメだろ?」
「無理じゃね?」
「まあ、無いだろうな」
提案したヤツ以外のほぼ全員がないないと即座に首を横に振る。名前を挙げた人物が驚くほどの早さだ。
「アイツ、色んな女を取っ替え引っ替えして最近騒ぎになってなかったか?」
「確か女の子の一人に評議員の孫が居たって噂だろ?」
「アイツも別の意味で落ち着きがないよな」
実力はあるが女性間の問題を度々起こす為、当分は選ばれないだろうというのが見解であった。改めてギルドに所属するメンバーを思い浮かべ、碌なのが居ない事に気付く。
「……はぁ、
「マスターが優しいからじゃねーの?」
「まあその分、エルザとかが厳しくしてるからバランス良く成り立ってんだろ?」
ギルドのメンバーが色物揃いでも、鬼の番長こと
「ビスカ、アルザック、マックス、レビィ、ドロイ。残っている若手の候補はこの位か?」
「そこら辺も、もしかしたら選ばれそうだが……」
「んー、まだ無理なんじゃないか?」
「雷神衆の三人もそろそろ誰かが選ばれそうだけど……」
「あの三人、あんまりギルドに居ないしな」
手当たり次第に名前を挙げるが、実力が伴わなかったり、ギルドにあまり顔を出さなかったりと条件が満たない者ばかりであった。そんな中、選ばれそうな人物を彼らは頭の中で同時に想像する。
「なら、最後に残った砦はアイツと
ギルドであれやこれやと話していたメンバーは、ある二人の人物に視線を向けていた。一人は雷神衆と同じく三人でチームを組んでいる『シャドウ・ギア』のチームメンバーの一人、『
カナは三回も前の試験から昇格試験に選ばれており、十分な実力を備えている。対してジェットはこれまで一度も選ばれた事はなかったが、彼も選ばれる可能性は十分にあると周りの人達は思っている。この二人が今回の昇格試験に選ばれると多くの人は予想を立てた。
そして、発表の時がくる。
今日のギルド内には多くのメンバーが押しかけて来ており、ステージの前には今か今かと発表を待ち侘びている者達で賑わっていた。皆が待つ中、ステージのカーテンが開かれそこに居るメンバーが姿を現す。ステージにはマスターマカロフ、エルザ、ミラの姿が見受けられた。マスター達の登場に皆が騒ぎ立てる。
「皆の者、静粛に! ……えー、ゴホン。これより妖精の尻尾の古くから伝わるしきたりによる、
S級魔導士 昇格試験の出場者を発表する!!」
『ウォオオォォォオオオオォオーーーーー!!!』
「待ってましたーーー!!」
「マスター早く発表してくれ!!」
「今年は一体"誰"なんだ!?」
「ええい! 落ち着け! 今からそれを発表するんじゃろうが!」
騒ぎ立てるギルドのメンバーに喝を入れながら、マスターは続きを話す。
「まず、今年の試験会場に選んだのは、ハラサ砂漠じゃ」
『ゲッ!?』
試験会場を告げた途端、多くの者が嫌そうな顔つきになった。それもそうだろう。その砂漠には数多くの危険生物が住み着き、実力が無い者は決して訪れてはいけないと言われている危険地区なのだ。
「そして、今回ワシがこの一年で見極めた参加者は二名じゃ」
『……………ゴクッ』
皆は誰が選ばれるかは薄々理解していたが、もしかしたらと考えてしまい無意識に喉が鳴る。
「『ジェット』、『カナ・アルベローナ』。この二人を今回のS級昇格試験の出場者とする」
その瞬間、ギルド内で様々な声が上がる。
「かーっ! やっぱり分かってたけど、選ばれないってのはキツイなー!」
「でも、今回は選ばれなくて正解だったかな?」
「そうだな、オマエじゃ死んじまうんじゃねーか?」
「フザケんな!? オマエだって同じようなモンだろ!!」
「やっぱり皆、今回の試験は外されて嬉しいようだな」
「まあ、好き好んであんな死地に足を踏み込みたくないだろ?」
「でもS級魔導士ってのはやっぱり、
「……オレ、一生S級に上がらなくて良いかも」
「安心しろ、オマエがS級に上がる事は今後も無いから」
「……オマエもな」
「……それを言うなよ」
辺りからは悔しむ声や安堵の声など様々なものが飛び交っていた。それを気にせずにマスターは話を進める。
「今回は二人とも合格できる可能性がある為、全力を出すが良い。試験は一週間後、パートナーもその間に選んでおけ。二人とも体調は確りと整えるがよい」
マスターが話す中、桜色の髪をした少年がマスターに詰め寄る。
「じっちゃん!! オレは納得できねーぞ!? 今年こそ俺が選ばれるんじゃねえのかよ!!」
そんな彼にマスターは溜息を吐きながら言葉を告げる。
「……ナツ。お主、今年に入ってから幾つ
「ゔっ!?」
その事を言われると少年、ナツは言葉が出なかった。
「お主にはまだ、S級に上がる心構えが出来ておらん。もう一年、精進する事じゃな」
マスターは話は終わりだとその場を後にする。その後姿を悔しそうに眺めるナツに、また別の少年が声を掛ける。因みのその少年の格好は上半身が裸であった。
「まあオレが選ばれてないのに、
「あ゛あ゛? 何か言ったか、
「オイ。オマエ、今なんつった?」
この時既に両者は至近距離でメンチを切っていた。
「聞こえなかったか?
「……ああ、済まねえなぁ。口から火を吐く『変態』なんかに『変態』って言われたもんだから、一瞬聞き間違えたのかと思っちまったぜ」
「……………」
「……………」
「「やんのかゴラァァァ!!!!」」
「うわぁ!! ナツとグレイが暴れだしたぞ!?」
「オイ、誰か止めろよ!?」
「無茶言うなよ!!」
「皆、安心しろ。どうせ、エルザに瞬殺されるのがオチだから」
その言葉の数秒後、ナツとグレイが二人仲良く地に伏せる姿が多くの者に目撃された。
皆が思い思いに騒ぐ中、ジェットは同じ参加者であるカナが、暗い表情を浮かべながらギルドを後にする姿を見かけて、気になり後を付けて同じくギルドを後にする。
皆が騒いで二人の参加者が居なくなった事に気付いたのは、その後すぐだった。