スピード規制は守る   作:カバ

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ジェットの信条

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

 

 

(…………………………き、気まずい。何なんだ、この状況は……?)

 

 

 

 ジェットがカナを見つけて、かれこれ三十分が経過。

 その間に彼らが交わした言葉は、遭遇した時に名前を呼び合った際の一回だけ。

 

 カナは黙々と手に持った酒瓶を消費していく。

 ジェットはそんな彼女に声を掛けようと試みたが、今は話しかけんなというオーラを感じ取り、暫しの間は黙って静観する。

 だが五分、十分、二十分と経過する内にいつまでこの状態が続くのかと思い悩み、このままではダメだと考え、意を決して自分から話しかけようとする。

 

「……で? 私に何か用があるんだろ?」

 

 しかしカナが、それを遮る様に話を切り出す。

 今まで黙っていた彼女が先に話を切り出した事に多少驚いたが、特に気にしなかった。

 それより今は、彼女の違和感を探る事に集中したかった。

 

「……ああ、カナに対して少し気になる事があってな」

 

「……気になる事、ねぇ?」

 

 ジェットの言葉にカナは素っ気無い反応を返す。

 大方、こちらが告げる内容を理解しているからだろう。

 彼は少し迷ったが言葉を続けた。

 

「……カナは、S級昇格試験がイヤなのか?」

 

「…………………………」

 

 カナはジェットの言葉に返事をせず、黙って酒を煽る。

 その様子に"失敗したか?"と少し後悔する。

 そこからまた、無言の時が続く。

 

「……何でそう思う?」

 

 暫くするとカナは酒を飲むのを止め、先程より鋭くなった視線をこちらへと向けてくる。

 ジェットはその視線に目を反らさず告げる。

 

「――カナは初め、S級昇格試験の出場者に選ばれた時、凄く喜んだよな? 二回目に選ばれた時も最初程じゃなかったが、それなりに喜んでた筈だ。けど三回目に選ばれた時、一瞬だけどオマエは表情を曇らせた……アレ(・・)って、そういう事なんだろ?」

 

「……アンタが私に一体、何を伝えたいのか理解出来ないね。それに私がそんな事を一々覚えてる訳ないだろ?」

 

 カナは恍ける様に返す。

 しかしジェットは気付く、微かだが彼女の表情に変化が見て取れた。

 そこでもう少し、彼女に踏み込もうと言葉を続ける。

 

「――カナにとって、S級昇格試験ってのはどんなもの何だ? そんなに、大切な事(・・・・)なのか?」

 

 人は誰しも、踏み込んで欲しくない境界線が存在する。

 それを承知して踏み込む。自分が嫌われても良い、彼女の悪い原因を取り除く為にと。

 

「――――――――――」

 

 ジェットの言葉に、カナは先程まで浮かべていた僅かな笑みも消して、言葉を告げる。

 その声は普段の彼女を知っている者では想像できない程の重い口調であった。

 

「……ジェット、アンタってそんなデリカシーに疎いヤツだったっけ? 記憶に残ってるアンタは少なくとも、ナツやグレイよりかはそういう気遣いが出来てたと思ったんだけど?」

 

 言葉にトゲがある物言いで告げられる。

 誰の目から見ても怒っているのは明らかだった。

 だがジェットは、言葉を止めない。

 "今の彼女を放置してはいけない"と自身の心が訴える故に。

 

「そういう反応をするのは、オレが言った事に多少なりとも想うモノがあるって事だよな?」

 

 カナは苛立ちを表情に出しながら声を荒げる。

 

「……アンタ、いい加減にしないと温厚な私でもキレるよ?」

 

「なら、やってみろ。カナの中で燻ってる想い(きもち)、全て(オレ)に吐き出しちまえ。溜め込むだけじゃあ、人間って面倒な生き物(ヤツ)は疲れるだけだぞ?」

 

 そうジェットに言われて、カナは惚ける。

 なぜ彼が自分の元まで来たか、その訳をここで漸く理解する。

 

「もしかしてアンタ……私を心配してここまで探しに来たのかい?」

 

 彼はカナの指摘に気恥ずかしさから頬が熱くなるのを理解しながら、その指摘を否定する。

 

「ばっ、違うぞ!? ただ、カナが何処に行くのか不思議に思って後を追っただけだ!! 他に訳は無い!! 無いからな!?」

 

「――――――――――」

 

 カナはジェットが自身に対して、何を告げに来たのか今一つ理解出来ていなかった。

 最初は自分の想い(ちかい)をバカにしに来たと勘違いし、無性に怒った。

 酒が入っていた所為でそこら辺の思考が鈍っていたらしい。

 

 ただジェットは不器用なりに心配して、後をつけて来ただけなのだ。

 カナはただの勘違いだと分かり、警戒していた自分をバカらしく思った。

 そして張りつめた表情を緩め、今度はいつもの調子で彼にダメ出しをする。

 

「ジェット、男のツンデレは気色悪いだけ何だから止めときな。後アンタの気遣いは分かり辛い。私を怒らせたいのか、慰めたいのか、一体どっちなんだ?」

 

 ジェットはカナの突然の変化に驚きを現す。

 

「えっ? あっ、いや、その……えっ?」

 

 言葉に詰まる彼の姿にカナは雷を落とす。

 

「あぁ、もう! 煮えたぎらない返事はなし! 答えはハイかYes! 分かった!?」

 

「いや、それどっちも同じ意味なんじゃあ……?」

 

「あぁ?」

 

「アッハイ、承知しました」

 

 "時代や世界が違っても、女性が怒ると怖い"とジェットは過去の記憶に思いを馳せる。

 そんな彼の心境など知った事かとばかりに説教は続いていく。

 

「ジェットはもう少し女心を勉強しときな。女のレビィとチームを組んでんだから絶対だよ!」

 

「ハイ。肝に銘じておきます」

 

「あと、無暗に女性の後を追わない。ストーカーと間違われても知らないよ?」

 

「ハイ。この度は不快な思いをさせて、大変申し訳ございませんでした」

 

(…………まぁ、その気持ちは嬉しかったんだけどね。――心配してくれて、ありがとう)

 

 彼女は心の中だけで感謝の言葉を述べる。

 目の前で頭を下げる青年に今の心境ではお礼の言葉を言い辛かった。

 

「で? 何でアンタが私の心配なんかしてんのさ? 私とは一週間後の試験で争い合うんだよ?」

 

 カナは今の気持ちを切り替える為、さっきの話題に戻そうとする。

 ジェットは彼女の言葉に間を置かず告げる。

 

「えっ? だってカナは、ギルドの仲間(かぞく)だろ? なら心配しても良いじゃないか?」

 

 カナは耳を疑う。

 

「……………………はっ? それだけ?」

 

「んっ? それだけだけど?」

 

 ジェットはカナの再確認に臆する事無く言葉を返す。

 そして、彼女はそんな彼に一言こう呟く。

 

「……………………アンタって、ひょっとしてバカ?」

 

「失敬な! これでもナツより頭は良いと自負してるぞ! でもドロイが、偶にオレの事バカだって言うんだ、酷くないか?」

 

「えっ? まぁ、酷いのかな……?」

 

 カナは返事が曖昧になる。

 そんな彼女に気付かずにジェットは言葉を続ける。

 

「でもオレは分かってるんだ……アレは、相棒ならではの絆の表現方法だと!」

 

 

(……………………ああ、単純なヤツ(ナツ)と同じでジェット(コイツ)もバカだわ)

 

 

 本格的に頭が痛くなってくるカナであった。

 

 

(でも、こんなヤツだからこそ……話しても良いのかな?)

 

 

 カナはジェットに自分が秘めている願いを明かしてみようかなと考え始めていた。

 そして、――――

 

「ねぇ、ジェット? 私の話、聞いてくれる?」

 

「――カナが話してくれるなら、是非聞かせてくれ。オレに解決できる事なら全力で力になる」

 

「……ありがとう。私ね、――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これが私がS級昇格試験に拘る理由」

 

「そっか、だからカナはS級を目指すのか……」

 

 カナは話し終わった後から考え込むジェットを見据えながら、気持ちが楽になるのを感じる。

 願いが叶った訳でもない。でも、心配してくれる仲間(かぞく)に打ち明けられた。

 その事実が、彼女の胸の内を軽くしていた。

 

「良し! カナ、オレとどっちがS級になるか勝負しよう!」

 

「……まあ、一週間後に試験があるから勝負する事にはなるよ?」

 

 カナは嫌な予感を感じる。

 何かとんでもない事態を招いたような、そんな感じの予感だ。

 

「オレがS級になったら、オマエの事情をアイツに暴露する!」

 

 耳を疑った。

 

「……はぁ!?!? ちょ、おま、マジふざけんな!? 何でそうなるんだよ!! てか私が勝ったら如何するんだ!!」

 

 カナの言葉にジェットは殴りたくなる様な笑みを浮かべながら告げる。

 

「その時は、カナが自分の事情を暴露する!!」

 

「結果が変わってないじゃない!! そんなの私が許さないよ!!」

 

 カナの怒りを受けてもジェットは考えを改める気は無かった。

 

「……でも、こうしないとカナは勇気を持てないだろ?」

 

「ッ!? そんなの勝手すぎるだろ!!」

 

 ジェットに図星を突かれて言葉に詰まる。

 

「ああ、オレの勝手さ。自己満足でもある。だから恨んでくれて構わない。これは、お前の長年の気持ちを踏みにじる行為でもあるしな」

 

 彼の決意を垣間見て、説得は無駄だと感じ取る。

 今更ながらにカナはジェットに相談した事を後悔する。

 

「……アンタ、最低だね」

 

「ああ、自覚してる」

 

 カナは口に出しながらも最初程の怒りは感じなかった。

 それはジェットの表情があまりにも真剣だった為だ。

 

 彼はカナの為になるなら本気で嫌われても良いと考えている。

 その考えが、彼女には理解出来なかった。"何故?"、"どうして?"と。

 

「……何でそこまで私に関わろうとするのさ? アンタにメリット何て一つも無いじゃないか?」

 

「――さっきも言っただろ? カナはギルドの仲間(かぞく)だって。オレに解決できる事なら、全力で力になるって。例えその結果、家族(カナ)に嫌われる事になったとしても、オレは自分の考えを貫き通す」

 

「…………………………ホント、アンタってバカだね」

 

 力無く呟くカナにジェットは自身の想いを告げる。

 

 

 

「――ホントはさ、カナにはいつものカナでただ居て欲しいだけなんだ。オレ……いや、俺達にとってのカナは、頼りがいがある姉ちゃん(あねき)なんだよ。オレはそんなカナを――ずっと見ていたい。だからオレは、オレがカナに出来る事を全力でやり遂げたいんだ」

 

 

 

「――――――――――」

 

 彼女の惚けた表情を見て、彼は自分が告げた言葉の内容に意識が向く。

 

(……あれ? 今オレ、スッゲー恥ずかしい事言っちゃった?)

 

 こうしてまた、ジェットは黒歴史(きおく)を刻んでいくのだった。

 

 

 

 

 

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