スピード規制は守る   作:カバ

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シャドウ・ギア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

 今日も賑やかに騒ぐギルドの中で、二人の中年男性が話し合っていた。

 

「オメェ……ナツと新人のルーシィちゃんに助けられたんだってぇ? 情けねえなぁwww」

 

 一人がもう一人を煽る。

 

「うぜぇぞ、ワカバ!! オレだって十九匹までは一人で倒し(やっ)たんだ!! 最後の一匹があんな奇襲紛いの戦法してこなきゃ、こんな傷負わずに済んだのによぉ……!」

 

 そう言って、酒が入ったジョッキをゴクゴクと飲み干す。

 ワカバと呼ばれた男性は相方であるマカオの姿に笑みを浮かべる。

 

「はっはっはっは!! まあ今回の一件で、ナツのヤツに感謝しなくちゃいけないな」

 

 ワカバは先日、無事にハコベ山から帰って来たマカオと酒を酌み交わしながら雑談していた。

 内容は自身を救出してくれたナツ達に関してだった。

 

「――ああ、何時か礼を返さなくちゃいけねぇな……。ロメオにはもう会えないかと思ったぜ」

 

 神妙な表情になる相方にワカバは再度、注意を足す。

 

「……息子(ロメオ)にカッコイイ姿を見たいのは構わねぇが、それでオマエが死んだら話にならないぞ?」

 

「……分かってる。死にそうだった(モン)をこうして拾ったんだ、大事に使わせて貰うさ」

 

 マカオは注意に顔を顰める。

 彼も今回の行動は十分、骨身に染みたのだ。

 軽率な行動はもう起こさないだろう。

 

 ワカバもそれが理解できて、それ以上は何も言わなかった。

 彼も友の無事を密かに思っていた一人なのだ。

 

「――そうか。まあ、オマエも年だから精々体には気ぃつけるこった」

 

「……オマエだってオレと同い年だろ?」

 

「オレはほら……ミラちゃんに告白できる位には若けぇつもりだしよ?」

 

「テメェだって年を考えろや、親父(おっさん)

 

 重かった話も親父達(かれら)に掛かれば、こうして下世話へと早変わりする。

 だが、どちらの表情も穏やかなモノであった。

 

 彼らも魔導士として、いつ何時、死を迎えるか考えない訳じゃない。

 だが、それでも、後悔を残さず己が信念を貫く。

 そんな信条を持ち合わせているだけなのだ、妖精の尻尾の魔導士(かれら)は……

 

「ところで、そのナツとルーシィちゃんの姿が見えねぇが、二人で同じ依頼にでも行ったのか?」

 

 今まで話題に挙げていたナツの姿を探すワカバ達であったが、生憎と見つけられなかった。

 そんな彼らにウェイトレス兼クエストの受付嬢をしているミラが話しかける。

 

「ナツならエバルー屋敷の依頼書を持って出かけて行ったわよ」

 

「エバルー屋敷の依頼って確か……本を一冊盗んでくるだけで二十万J(ジュエル)払うっていう、胡散臭いクエストだっけか?」

 

 マカオの言葉にミラは肯定しながら、補足内容も告げる。

 

「それがその報酬の二十万、依頼主が二百万に引き上げたんですって」

 

「「……ハァ!?!? 二百万!?!?」」

 

 ミラの言葉を聞いて仰天する二人であった。

 その直後に二人は大きな溜息を吐く。

 

「はぁ、マジかよ。あんな簡単な依頼が二百万とはなぁ……勿体ねぇ……」

 

「そんだけありゃあ、アレ(・・)コレ(・・)も買えたのになぁ……」

 

「だよなぁ……」

 

 ミラは話の内容が理解できた為に苦笑いを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、ナツに先を越されちゃったか……」

 

 同時刻、彼等と同じ内容であるが普通の意味で溜息を吐く少女が居た。

 

「仕方ないさ。あんな怪しさ満点の依頼、誰でも警戒するって」

 

「そうそう。それに二百万って言っても、S級に比べたら安いモンだろ?」

 

「……流石にS級と同列に扱ったらダメでしょ?」

 

「そっか?」

 

 そう話しながらレビィ、ドロイ、ジェットの『シャドウ・ギア』は、盗賊退治に赴いていた。

 レビィは依頼に赴く道中、怪しい内容に二の足を踏んで依頼を受けなかった事に後悔していた。

 

「今回の盗賊退治が報酬十六万だから、アッチの方が断然お得だよなぁ」

 

「そうだよね。私もあんまり討伐(コッチ)方面の依頼は苦手だから、アッチが良かったかも……」

 

「おいおい、レビィ……それを補う為にチーム組んでるんだろ?」

 

 ジェットは不満を漏らす二人を見て呆れる。

 そんな彼にドロイは文句を言う。

 

「だって、盗賊退治ならオマエ一人で十分足りるだろ?」

 

 ドロイに続き、レビィも不満を告げる。

 

「そうだよ! ジェットったら、S級魔導士になってちょっと連携が疎かになってきてるよ?」

 

「ウッ……!」

 

 ジェットは二人の言葉に言葉を詰まらせる。

 

「いや、だって盗賊達(アイツら)……遅いし、弱いし、臭いしの三拍子だから秒殺するの簡単なんだよ」

 

「オマエ、臭いは余計だろ……」

 

 ジェットの言葉に呆れるドロイ。

 

「んー、やっぱりジェットには盗賊レベルじゃ簡単過ぎるかな?」

 

「やっぱり弱いと張り合いがなぁ……まあ、偶に強いヤツも居るから楽しいけど」

 

 レビィの言葉にジェットは申し訳無さそうに頷く。

 

「ジェットにしてみれば大抵のヤツは雑魚だからなぁ」

 

「私とドロイの二人が手こずる相手を瞬殺する光景は何度見ても悔しいよねぇ……」

 

 何気に痛い処を突いてくるレビィとドロイ。

 

「オレ達はラクが出来て良いけど、偶にはチームで連携も決めたいんだよ」

 

「……本当にスマン」

 

「でも、やっぱりジェットが居てくれると安心して戦えるよね?」

 

「そりゃあ、オレだってジェットには感謝してる。危ない所を何度も助けられたんだからさ」

 

 でも、と言葉を続ける。

 

「オレもジェットの手助けをしたいんだよ!」

 

「ドロイ……!」

 

 ジェットは友の姿に感激した。

 やはり、持つべきものは友だと。

 

「そして――――女の子(主にレビィ)にモテたいんだよ!」

 

「ドロイ…………」

 

 ジェットは友の姿に涙を流す。

 色んな意味で……切実な、男の叫びに……

 

「あっ! 依頼主が話してた盗賊の隠れ家って此処じゃない?」

 

 レビィはジェットとドロイの寸劇など視界に入れず目的地へ進む。

 そんな彼女の無関心さに泣く親友(ドロイ)、彼の姿にまた涙が零れる主人公(ジェット)であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレ達は、泣く子も黙る盗賊団! その名も……!」

 

「……バンク海賊団」

 

「アホ!? 海賊団じゃなくて、盗賊団だ!! 海はねぇ!!」

 

「……ほにゃら賊団?」

 

「オイ!? 二文字だよ!? 何で文字数が増えてんの!?」

 

「……うっさいハゲ」

 

「あー! 言っちゃった! この子、オレが一番気にしてる事を、ストレートに言っちゃったよ!! 酷いわー傷つくわー泣いちゃうわー」

 

 そう言って地面に塞ぎ込んでしまう中年男性。

 彼に暴言を吐いたのは、男性の隣に立っている見た目十歳ちょっとの女の子。

 

 その状況に……

 

「……えっ? 何コレ? 親子漫才?」

 

 ジェットは訳が分からず困惑する。

 

「レビィ、盗賊団の名前って確かバンクで合ってたっけ……?」

 

 ドロイは情報に照らし合わせて確認を取る。

 

「う、うん。その筈なんだけど……?」

 

 記憶に不備は無かった筈とレビィは戸惑う。

 『シャドウ・ギア』の面々は見事、困惑していた。

 

 彼等は目的の隠れ家まで無事に到着する。

 だが隠れ家から出て来たのは、薄毛が気になっている中年男性とまだ小さな女の子。

 

 初め、子供が居る事に戸惑ったが魔導士なら油断は出来ないと戦闘態勢に入る。

 だが突然、男がポーズを決めながら名乗りを挙げ始める。

 そこから冒頭の漫才が始まった。

 

 とにかく現状を理解する為に、ジェットは三人を代表して男性へ話し掛ける。

 

「オイ、アンタ。盗賊団の一味なら、事情を詳しく説明して貰おうか?」

 

 ジェットの要求に不貞腐れていた男は身体を起こし、又もやポーズを決めながら宣言する。

 

「はっ! 俺様は泣く子も黙る盗賊団! 魔導士(オマエら)には屈しないぜ!」

 

 清々しい笑顔……ムカつく笑顔で告げられる。

 

 ……イラッ。

 ジェットは近くの岩に高速移動で接近し、足で岩を粉々に蹴り砕き、元の立ち位置に戻る。

 

 その間、男性は瞬きをしていなかった。

 だが、何も見えなかった。

 

 男が理解した事といえば、背後にあった全長十m近くの大岩が一瞬で粉粒になった事。

 それを目の前に立っている青年が多分やった事。

 

 その二つだけを理解できた。

 だが、それだけ分かれば十分だった。 

 

「事情を、説明して、貰おうか?」

 

「アッハイ」

 

 世の中、素直な人間が好まれるのだと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、要するにアンタは盗賊団に入った新人で、お嬢ちゃんは盗賊団に食料を恵んで貰った恩を返す為に用心棒をしてるって訳か?」

 

「ああ、その、通り、だ!」

 

「……分かったから、そのウザいポーズは止めろ」

 

 ジェットはバンク(おっさんがコレに改名)が語った事を纏める。

 ドロイも話を聞いて納得する。

 

「昨夜の時点で、盗賊団が流れの魔導士に全員やられてたってのは驚いたけどなぁ」

 

「ああ、オレも驚きだ!」

 

「……オレは敵襲中も呑気に寝てて、朝起きて漸く現状に気付いたアンタに驚いてんだけど?」

 

 ジェットは頭が痛かった。

 彼は視線をレビィと一緒にいる女の子に向ける。

 彼女たちの方でも仲良く会話をしている最中であった。

 

「そういえば、どうして用心棒のアヤちゃんは襲撃に気付かなかったの?」

 

「……夜は、寝る時間」

 

「あははっ、そうだね。子供はオネムの時間だね」

 

「……寝る子は、良く育つ」

 

 レビィが膝の上に見た目可愛らしい少女(アヤ)を乗せて談笑していた。

 それを見てドロイは……

 

「………………どっちも天使だ」

 

 変態染みた感想を述べていた。

 

「さて、どうするかねぇ?」

 

 ジェットは思考する。

 盗賊団であるおっさんとその用心棒のアヤは、彼等からしたら依頼対象の敵だ。

 

「おっさんは盗賊団として何もしてない上に殆ど無害だし……アヤに至っては子供だしなぁ」

 

 ジェットが考えかねていると、レビィがアヤに提案する。

 

「ねぇ、アヤちゃん? もし良かったら、私達のギルドに来ない?」

 

「……ギルド?」

 

 アヤは首を傾げる。

 

「そっ! 私はアヤちゃんよりも小さい頃から居たんだけど、そこで色んな物を貰ったんだ」

 

 レビィは胸に手を当てて、一つ一つ今まであった事を思い出していた。

 

「嬉しさも温かさもギルドで教えてもらった。そこに居る二人ともギルドで出会えたんだよ?」

 

 レビィの指す方向に視線を送り、アヤはジェットとドロイを視界に収める。

 

「アヤちゃん、ギルドに来れば美味しい食べ物が食べられるよ?」

 

 ドロイはここぞとばかりに彼女を勧誘する。

 そんな彼にジェットは注意する。

 

「オイ、その誘い方は流石にダメだ。犯罪染みてるぞ」

 

 だがジェットもレビィの意見が一番丸く収めると思って、彼女に便乗する。

 

「アヤ、来るか来ないかは自分自身で決めろ? 二人だって強制してる訳じゃないんだ」

 

 当たり障りの言葉で告げる。

 カナは三人をそれぞれ眺めて、考える様に頭を抱える。

 そして彼女は、一言呟いた。

 

「……ギルド、楽しい?」

 

 彼女の言葉に三人は同時に告げる。

 

 

 

 

 

「「「――――ああ(うん)!!」」」

 

 

 

 

 

 アヤはそんな三人の言葉を聞いて、表情を綻ばせる。

 

「……なら、入る」

 

 彼女の言葉に三人が喜びを表す。

 

「やったぁ! なら、今後ともヨロシクね! アヤちゃん!」

 

 レビィは可愛らしい仲間(かぞく)が増える事に喜ぶ。

 

「ヨッシャ! 可愛い子がまた増えるぜ!」

 

 ドロイは口から欲望がダダ漏れだった。

 

「……ドロイ、だからオマエはダメなんだ」

 

 そんな親友の行く末を心配するジェット。

 

 こうして今回、彼らの盗賊退治は幕を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ? オジサンの存在は最後まで無視なの?」

 

「「「……あっ」」」

 

(チッ! 面倒だからこのままスルーしようと思ったのに……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが、ジェットの舌打ちがバンクに聞こえて一悶着があったりなかったり……

 

 

 

 

 

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