スピード規制は守る   作:カバ

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身勝手な行動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりシャバの空気はうめえ!! 最高にうめえ!! 自由って素晴らしいっ!!」

 

「喧しいぞ、ナツ!」

 

「大人しく食っとけ!」

 

「フリーダァーッム!!」

 

『うるせぇ!!!』

 

 ……ウザい。非常にウザい。

 ギルド内で騒ぐナツを見て、それ以外の言葉が思い付かないジェットであった。

 

 

 

 

 

 ナツとエルザの決闘の最中、評議員から送り込まれた使者によりエルザは連行された。

 その結果に誰もが異議を唱えたが、マスターであるマカロフの言葉に止められる。

 

 だがナツはその決定に従わず、評議会が裁判を行っている現場へと乗り込んでしまう。

 しかし彼の行動は徒労に終わる。

 

 それはこの裁判が形式上だけのモノであり、その日に釈放される予定でモノであったのだ。

 だがナツの乱入により、その日に釈放される筈だったエルザは牢に一日収容される。

 勿論、ナツも一緒にだ。

 

 そして現在、無事にナツとエルザの両名はギルドに帰還していた。

 ナツが釈放されたのを喜んでいる事以外はいつも通りの風景であった。

 

「もう少し入っていれば良かったのに……」

 

 騒ぐナツにルーシィがそう述べて、幾人かのメンバーは首を縦に振っていた。

 ジェットも彼女の意見に同意する。

 

「はぁ~、結局"形式だけ"の逮捕だったなんてね……心配して損しちゃった」

 

 ルーシィはエルザが捕まった際にナツの次に心配していた為、余計に疲れていた。

 

「寧ろ、何で皆がその考えに至らなかったのか、オレには不思議でしょうがなかったんだが?」

 

 ジェットはエルザが捕まった際に別段騒ぐ事も無く、大人しくしていた。

 ルーシィはそんな彼の姿を見て薄情なヤツと考えていたが、結果を見ればコチラ側が恥ずかしい思いをしただけだった。

 彼女はジェットに恨みがましい視線を送る。

 

「ジェットも、結果を知ってたなら教えてくれても良かったじゃない……」

 

「ルーシィはエルザ達に同行してたんだからちゃんと考えれば分かる事だろ? それにオレだって自分の考えに絶対の自信があった訳じゃない。まあ、マスターが動かなかったから、自分の答えに確信を持てたんだけどな」

 

 ジェットはマスターがエルザを救出しないとは考えていなかったので、策があるか或いは無事な理由を知っているのかのどちらかだと考えた。

 なので、特に慌てる様子を見せなかったのだ。

 

「……で? エルザとの漢の勝負はどうなったんだよ、ナツ」

 

「そうだ!! 忘れてたっ!!」

 

 エルフマンの言葉に今まで騒いでいたナツはハッとした表情となる。

 

「エルザ!! この前の続きだーっ!!!」

 

 ナツは静かに座るエルザの元に駆け寄る。

 だが彼女は溜息を吐き、首を横に振る。

 

「よせ……疲れてるんだ」

 

「行くぞーーーっ!!!」

 

 ナツは知った事かとばかりに突撃する。

 そんな姿にエルザはやれやれと呆れながら、立ち上がると同時にハンマーでナツを吹き飛ばす。

 その光景に周りの皆は唖然とする。

 

「仕方ない、始めようか」

 

「終ーーー了ーーー!!」

 

 エルザは吹き飛ばした事など無かったかの様に開始を告げるが、その時既にナツは壁にめり込み気絶していた。

 ハッピーが元気よく終了を宣言する。

 皆はナツの姿に爆笑する。

 

「ぎゃはははっ!! だせーぞ、ナツ!!」

 

「やっぱりエルザは(つえ)ェ!!」

 

「おい、この間の賭けは有効なのか?」

 

「あ~あ……またお店壊しちゃってぇ……」

 

 ギルドの笑顔を見ていたミラは優しい笑みを浮かべる。

 彼女は何気なしにマスターの顔色を窺おうとするが、様子がおかしい事に気付く。

 

「どうしました? マスター」

 

「いや……眠い……」

 

「……?」

 

 ミラはそれだけでは分からなかった。

 

「奴じゃ」

 

「……あっ」

 

 マスターの発言に漸く心当たりを見つけて理解する。

 しかし、理解すると同時に意識が遠のく。

 ミラがその場に倒れると同じく、皆も理解が及ぶ。

 

「っ!」

 

「これは!!」

 

「くっ!」

 

「眠っ!」

 

 数秒後には大半の者がその場に身体を倒す。

 そんな混沌としたギルド内に一人の人物が歩みを進める。

 マスターがその人物の名を口にする。

 

「――ミストガン」

 

 マスターにミストガンと呼ばれた人物は全身を覆い隠す黒のマント、迷彩柄のマスクと布で顔を覆う等の正直怪しさ満点の格好であった。

 彼はマスターの言葉に答えず、依頼板(リクエストボード)の前まで歩く。

 一通り見て、どの依頼に赴くか多少考える彼にマスター以外の人物が話しかける。

 

「ミストガン、S級の依頼には行かないのか?」

 

 それは皆が眠る中、平然と起きていたジェットであった。

 

「……今は時間が取れない」

 

「そっか。時間が取れたらで良いんだが、また魔法を教えてくれないか?」

 

「……多少なら構わない」

 

「良し! なら今度、何か奢るよ」

 

 ジェットの言葉にミストガンは頷きで返し、決めた依頼書をマスターの前にまで持ってくる。

 

「行ってくる」

 

「これっ!! 眠りの魔法を解かんかっ!!!」

 

 ミストガンは返答の代わりにカウントを数える。

 

「伍」

 

 そう呟き、歩き出す。

 

「四」

 

 ジェットが彼に手を振る。

 

「参」

 

 ミストガンも小さく振り返す。

 

「弐」

 

 彼が玄関に近づくにつれ、その姿が薄れる。

 

「壱」

 

 そして蜃気楼の如く、"スウ……"と消え失せる。

 同時にギルドの全員が一斉に目を覚ます。

 ナツはぐーぐーと眠ったままだったが……

 

「こ、この感じはミストガンか!?」

 

「あんにゃろォ!」

 

「相変わらず、スゲェ強力な眠りの魔法だ!!」

 

「ミストガン?」

 

 ルーシィが疑問を口にする。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)、最強の男候補の1人だよ」

 

 彼女の疑問にロキが答えるが、何故か答えた後に驚いて逃げる。

 その先をグレイが引き継ぐ。

 

「どういう訳か、誰にも姿を見られたくないらしくて、仕事を取る時は全員を眠らせちまうのさ」

 

「何それっ!! 怪しすぎ!!」

 

「だからマスター以外、誰もミストガンの顔を知らねぇんだ」

 

 ルーシィはグレイの説明に怪しむ。

 皆がミストガンの話題で場が盛り上がる中、

 

「いんや・・・俺は知ってっぞ?」

 

 ギルドの二階から声が響き、全員がソチラに視線を向ける。

 

「ラクサス!!」

 

「居たのか」

 

「珍しいなっ!!」

 

 ルーシィの視界に二階の手摺へ身体を預ける、大柄な男性の姿が映った。

 

「――もう1人の最強候補だ」

 

「!!」

 

 グレイが告げた事実に驚くルーシィ。

 

「ミストガンはシャイなんだ。あんまり詮索してやるな」

 

「ラクサスー!! 俺と勝負しろーっ!!」

 

 いつの間にか目を覚ましたナツが勝負を申し込む。

 

「さっきエルザに負けたばっかじゃねぇか」

 

 その姿にウォーレンが呆れる。

 

「そうそう。エルザやジェット如きに勝てねぇようじゃオレには勝てねぇよ」

 

 同調する様にナツを煽るラクサス。

 

「それはどういう意味だ」

 

「オイ……落ち着けよ、エルザ」

 

 ラクサスの言葉に反応し、怒るエルザをマックスが宥める。

 

「まっ、ラクサスの方が強いってのはホントの事だからなぁ」

 

「オマエは相変わらず、速さ(スピード)に関係ねぇ話には無頓着だよな……」

 

 ジェットのスタンスにグレイは呆れる。

 そんな中、ラクサスが告げる。

 

「ジェットのヤツは分かってる様だが、オレが最強って事さ」

 

「降りて来い!! コノヤロウ!!」

 

 ナツは話をぶった切りながらラクサスに食って掛かる。

 

「お前が上がって来い」

 

 ラクサスはニヤリと笑う。

 

「上等だ!!」

 

 ナツは二階へと駆け上がろうと走り出す。

 だが、マスターの魔法『巨人(ジャイアント)』で巨大化された腕がナツを押し潰す形で止める。

 

「二階には上がってはならん。まだな」

 

「ははっ! 怒られてやんの」

 

「ふぬぅ……!」

 

 ラクサスにバカにされ、悔しむナツ。

 

「ラクサスも止さんか」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル) 最強の座は誰にも渡さねぇよ。エルザにもミストガンにもあのオヤジにもな」

 

 ラクサスはギルドに宣言する様に声高らかに告げる。

 

「――オレが……最強だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼間にあった騒動の後、ルーシィは精霊(プルー)を伴ってカウンターに居るミラと会話していた。

 

「さっきマスターが言ってた、二階には上がっちゃいけないってどういう意味ですか?」

 

 マスターの発言が気になっていたルーシィはミラに尋ねた。

 ミラは”まだルーシィには早い”と告げながら語る。

 

「二階の依頼板(リクエストボード)には一階とは比べ物にならない位、難しい仕事が貼ってあるの。レビィが確か、ナツとエルザの決闘があった日にルーシィに教えてたんじゃないかしら?」

 

 ルーシィはあの日の会話で出てきた内容を思い出す。

 

「……それって、S級クエストって呼ばれるモノですか?」

 

 ミラは”正解”と告げて、話を続ける。

 

「S級は一瞬の判断ミスが死を招くような危険な仕事よ。その分、報酬もいいけどね」

 

「うわぁ……」

 

「S級はマスターに認められた魔導士しか受けられないの。資格があるのはエルザ、ミストガン、ラクサス、ジェットも含めて、まだ六人しか居ないのよ。S級なんて、目指すものじゃないわよ。本当に命がいくつあっても足りない仕事ばかりなんだから♡」

 

「……みたいですね」

 

 笑顔で告げながらも迫力あるミラに対し、乾いた笑みを浮かべるルーシィ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミラとの会話を終えて、ギルドを後にするルーシィはいつもの運河沿いを歩いていた。

 

「ミストガンもラクサスも聞いた事ある名前だったなぁ。やっぱ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)って凄い所よね」

 

 ルーシィは自身が所属したギルドが、如何に凄いのかを再確認しながら帰宅する。

 

「明日からも仕事がんばろー!!」

 

 ルーシィは気合を入れ直しながら自室へと入る。

 

「おかえり」

 

「おかー」

 

 そこには、我が物顔で腹筋するナツとダンベルで筋トレを行うハッピーの姿があった。

 

「きゃああああああっ!! 汗臭ーい!!」

 

「ふんごっ!?」

 

 ルーシィはナツの腹部にキックを決め込む。

 

「筋トレなんか自分家でやりなさいよ!」

 

「何言ってんだ。オレ達はチームだろ、ホラ、オマエの分」

 

「ルーシィ、ピンク好きでしょ?」

 

「それ以前に鉄アレイに興味ないですからっ!!」

 

 ルーシィは差し出された鉄アレイに鋭いツッコミを入れる。

 

「エルザやジェット、ラクサスを倒すにはもっと力をつけねぇとな!」

 

「あいさー!」

 

「あたし関係ないし……帰ってよ!」

 

 そんなルーシィの言葉に、

 

「今日は修行でオールだ」

 

「誰か助けてぇぇっ!!」

 

 涙が溢れてくる。

 

「オレ、決めたんだ」

 

「?」

 

 筋トレを行っていたナツが中断して、ニカッと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「S級クエスト行くぞ!! ルーシィ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たいへーーーん!!」

 

 朝のギルドに、ミラの叫び声が響く。

 二階に上がっていた彼女は、声を上げた後すぐに一階へ降りてくる。

 

「マスター!! 二階の依頼書が一枚なくなっています!!」

 

「ぶふぅ!!?」

 

 飲んでいた酒を盛大に喉へ詰まらせて吐き出すマスター。

 今日ギルドに顔を出していた他のメンバーにも動揺が走る。

 

「おう……それなら昨日の夜、どろぼう猫が千切って行ったのを見たぞ? 羽のはえた……な」

 

 二階で寛いでいたラクサスが何気なく告げる。

 彼の言葉で下手人が判別し、

 

「ハッピー!?」

 

「つー事はナツとルーシィも一緒か!?」

 

「何考えてんだ、アイツ等!!」

 

「バカだとは思ってたけどここまでとはね……」

 

「S級クエストに勝手に行っちまったのか!?」

 

 状況を理解した皆が騒ぎ立てる。

 

「これは重大なルール違反だ。じじい!! 奴等は帰り次第、破門……だよな? てか、あの程度の実力でS級に挑むたァ……帰っちゃ来ねぇだろうがな。ははっ!」

 

 ラクサスがナツの蛮行に笑う。

 ミラが彼を睨みつける。

 

「ラクサス! 知ってて何で止めなかったの!?」

 

「オレにはどろぼう猫が紙キレくわえて逃げてった風にしか見えなかったんだよ。まさか、アレがハッピーでナツがS級行っちまった、なんて思いもよらなかったなァ?」

 

 ミラはラクサスの行動を咎めるが、彼は白々しく自身は悪くないのだと宣う。

 

「――――――――」

 

 そんないい加減な態度にミラは怒りの表情を示す。

 

「お? アンタのそんな顔、久しぶりだなァ」

 

 ()S級魔導士を前にしてもラクサスは動じる事はなかった。

 マスターは状況をミラに聞き出す。

 

「マズイのう……消えた紙は?」

 

「呪われた島、ガルナ島です」

 

「――悪魔の島か!!?」

 

 更なる情報に辺りの騒がしさが増す。

 

「ラクサス! 連れ戻して来い!!」

 

 マスターの言葉に”冗談”とラクサスは返す。

 

「オレはこれから仕事なんだ。テメェのケツを拭けねぇ魔導士はこのギルドには居ねぇ、だろ?」

 

「今ここに居る中でオマエ以外、誰がナツを力ずくで連れ戻せる!!?」

 

 マスターの発言を聞いて、立ち上がる者が居た。

 

「じーさん……そりゃあ、聞き捨てならねえなァ」

 

 グレイ・フルバスターが名乗りを挙げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――嫌な予感がする。何かギルドで物凄く悪い事が起こりそうだ……」

 

 胸騒ぎを感じるジェットだったが、受注したS級クエストを完遂させる為に、目的地へ向かって歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

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