お待たせして申し訳ありません。
戦士たちは飛び出していた。
光太郎と違い普通の人間である自分たちが怪人と戦う時、それも幹部である神官と戦う時に後手に回ってはそのまま押し切られてしまう。それ程人間と怪人の身体能力には差があるのだ。
目の前の神官は既に怪人の様相だ。
その中でもイヴは翼を持つ大怪人に向かっていた。仲間たちの中で紛いなりにも空中戦が可能なのは自分だけなのだ。そんなイヴの覚悟を受け止めたのか、翼竜の大怪人となったビシュムは空中という生身の人間では不可能なバトルステージへ飛翔した。
トランス・天使
イヴの背中に天使の羽が光り輝いて出現する。そして空中に飛翔したビシュムを追って天空に昇る。光太郎を追っている間、自分の無力さを痛感したイヴは何もしていなかった訳ではない。トランス能力を常に磨いていたのだ。そしてイヴはその真価をこの戦いで発現させる。
「そこっ!」
空中で羽ばたくイヴはビシュムに対し、その美しい金髪をトランスさせたナノスライサーで先制攻撃を仕掛ける。分子レベルまで細分化され、超振動された極薄の刃。その刃がビシュムの体を僅かであるが裂いた。
『強くなりたい』
その思いからたくさんの本を読んだ。どうすれば自分はもっと強くなれるのか。どうすれば光太郎と一緒に戦う事ができるのか。そしてイヴの中の知識とナノマシンが噛み合い、ナノスライサーの切れ味を更に向上させたのだ。ナノスライサーに超振動を加える事で大怪人の肉体すらも容易く切り裂く。
「小娘が!」
矮小と侮っていた人間に肉体に傷をつけられたこと、それは自らのプライドを傷つけられたと同意。ビシュムの両目が光り、灼熱光線が放たれる。
「…くっ」
それを間一髪避けるイヴだが、灼熱光線は消えることなく大地を焼き、山が炎に包まれる。眼下で戦いを繰り広げているであろう仲間たちを案じ、刹那の時間、イヴはビシュムから目を離してしまった。だがビシュムはそのほんの僅かな隙を見逃さない。自らの体を回転させ、竜巻を起こしてイヴを襲ったのだ。その規模と威力は、同じ竜巻を扱うリオンのそれと比べても雲泥の差だ。その広範囲の竜巻から逃れる術はなく、イヴが気付いた時にはもう遅い。竜巻に体を裂かれ、大地に叩きつけられた。
灼熱の炎が周りの空気を焼く。
その中でキョーコとシャルデン、ジパングマンはサーベルジャガーの大怪人となったバラオムと対峙していた。何度か攻撃を仕掛けているが、キョーコたちの攻撃がバラオムにダメージを与えることはなかった。キョーコの炎も、シャルデンの血も、ジパングマンの重力も、そのどれもがバラオムにとって蟻がつつくような痒みを与えるだけであった。
「どうした、その程度か! その程度の力でゴルゴムに刃向かうとは身の程知らずが。その罪、万死に値する!」
バラオムは確信している。目の前の塵のような存在の人間に、自身を倒す術はない。これは傲慢でも油断でもなく、歴然とした事実である。ゆっくりと痛ぶり、そしてゴルゴムへ刃向かったことを後悔させながら死なせてくれよう。そんな笑みを零し、一歩、また一歩キョーコ達に近付く。
「シャルデン、何か策はないのかよ!?」
「身体能力に差があり過ぎマス。私たちの攻撃力では怪人の肉体を傷つける事ができません」
「おいおい、それじゃこのまま殺されるのを待てってか? 冗談じゃないぜ」
「キョーコは諦めません! それでも攻撃をし続けます!」
「…私が迎え討ちマス。お二人には援護をお願い致しマス」
シャルデンはそう告げて前に出る。それを見たジパングマンは慌ててシャルデンの肩を掴む。
「待てよ、シャルデン! 策も無しにどうするつもりだ! 下手に向かっても殺されるだけだぜ?」
「シャルデンさん…変な事を考えてませんよね?」
「………」
キョーコにそう問い詰められるシャルデンはその答えを返せなかった。それを言ってしまえば、キョーコならきっと止めるだろう。だから、シャルデンは答える事ができなかったのだ。ポケットに手を入れ、それを握る。
光太郎が去ってから、シャルデンは宿敵であったベルゼーと、科学者のティアーユに相談を持ちかけていた。
「我々では怪人に立ち向かうことはできません。その為に、必要な事なのデス」
三人の前にあるテーブルの上に置かれている資料。それはゴルゴムのアジトでかつての同志ドクターが残した研究資料だ。それには怪人の因子に関する記録も記載されていた。
「ティアーユさん、貴女ならこの記録から怪人になる為の薬を作る事ができるのではありまセンか?」
「…結論から言います。それは可能です。ナノマシンに遺伝子を書き換えるプログラムを施し、それを身体に取り込めば身体に変化を起こすでしょう。ですが…ベルゼーさんの前では言い辛いのですが…」
ティアーユがその続きを言い淀んでいると、ベルゼーは表情を変えず「我らは既にそれを知り、受け止めている」と告げた。それを聞いたティアーユは悲しそうな表情を浮かべるも、話を続けた。
「この資料によると、怪人になってしまうと、思考も変化してしまいます。より強くあろうとする為に、攻撃性が増します。それは貴方の傍にいる人をも傷つける事になるかもしれません」
「…………」
「そして人という弱い肉体から怪人という強靭な肉体に変化をする際、激しい痛みが生じます。その時の苦痛で怪人になる前に命を落とす者もいたようです。時の番人の方々はその苦痛を乗り越えて怪人化を果たしたようですが、助かる保証もないのです。そして…怪人から人の姿に戻る際に大きな負担を強いられるのです。光太郎さんなら怪人から人へ戻す事もできますが、その行為は命を削る事になるでしょう。ベルゼーさんたちは寿命を縮めて人の姿を取り戻す事が出来たと言い替えても構いません」
「…シャルデン=フランベルクよ。私も怪人と対峙してその圧倒的能力差に打ちのめされた。我らがどのような敵を相手にしているのかも理解している。対等に戦うにはこの方法しかないのもな。だが…お前の体で怪人化に耐えれると思えぬ。既に体を病んでいるのだろう?」
「……お見通しデスか」
シャルデンは苦笑する。自分の命は永くはない。だからこそ、この命を意味あるものにしたいのだ。過去の自分はクロノスを倒す為であれば命も捨てる事ができた。だが今の自分は…。
「キョーコさんや南光太郎たちを守る事が、今の私の行動理念デス。その為にも、どうか協力して頂きたい」
ベルゼーとティアーユに対し、頭を下げるシャルデン。そのシャルデンの覚悟を受け止めたのか、ベルゼーは身を翻す。「研究の為の費用と設備は与えてやる」と告げ、ティアーユに視線を移す。その視線を受けたティアーユはひとつ大きな溜息をついた。
「…分かりました。二度と命を弄ぶ研究に携わらないと誓った私ですが、シャルデンさんがそこまで仰るのでしたら作りましょう。ですが、命は粗末にしないで下さいね。貴方が死んでしまってはキョーコさんも…光太郎さんも…私たちも悲しむ事になってしまいますから…」
ティアーユはそう言って眼下の資料に視線を落とした。
その怪人化を可能とするナノマシンが入ったカプセルを、シャルデンは握っていた。キョーコやジパングマンの制止を無視し、シャルデンは注射器にカプセルを挿入し、それを自身に打つ。
そして脈動する。
心臓が張り裂けるかのような血圧。ティアーユの言った通り、今まで味わったことのない激痛が全身を走る。ドクン、ドクンと全身が波打っている感覚。そして思わず膝をついてしまった。その衝撃でサングラスが地面に落ち、割れる。
「シャ…シャルデンさん……?」
キョーコがシャルデンの急な異変に戸惑い、声をかける。そこにいたのは今まで自分が知っているシャルデンではない。黒い蝙蝠のような翼を生やし、妖気を感じさせる程の圧を発する怪人であった。
新しい怪人はゆっくりと立ち上がる。
「だ、大丈夫ですか、シャルデンさん!? 何したんですか!?」
「…離れていて下さい、キョーコさん、マロさん。そしてできれば、これからの私の姿を見ないで頂きたい」
シャルデンはそう言い残し、バラオムへ向かって飛ぶ。
体内の遺伝子は間違いなく怪人のそれへと変化していた。力も、能力も、人であった時と比べ物にならない。だが理性は変わらず、人で居続ける事ができていた。シャルデンの道の力は血を操る事である。怪人の因子が理性を侵食する前に、血を操る事でそれを防いだのだ。
もう元に戻られないかもしれない。戻ったとしてもその場で命を落とすかもしれない。けれどもそれも構わない。
「ゴルゴムの神官よ。この世界の為に、貴方には死んで頂きマス」
「脆弱な人間が怪人になったとて、敵ではないわ!」
二人がぶつかり合う衝撃が、辺りの炎を散らす。キョーコとジパングマンはその激しい攻防にただ息を呑むことしかできなかった。怪人と化したシャルデンを見やり、キョーコは胸の前で手を握る。
「キョーコは…シャルデンさんがどんな姿になってもシャルデンさんの味方です。だから、ちゃんと勝って帰ってきて下さい!」
人を超えた戦いに、道の力を得たとしても太刀打ちできないこの戦いに、キョーコはただシャルデンの無事を祈った。
そして同じ頃、トレインとスヴェンは三葉虫の大怪人となったダロムを相手にしていた。ダロムの触覚から破壊光線が放たれるが、スヴェンの予見眼で先読みし、二人は破壊光線の軌道から逃れる。だがそれでもこちらの銃弾は当然通用せず、防戦一方だ。人と怪人とでは体力も違う。今は避ける事ができているが、いずれ体力を消耗し、ダロムの攻撃を受けてしまうだろう。
電磁銃を試すトレインだが、それもダロムの放つ破壊光線に簡単に相殺されてしまう。
「スヴェン、このままじゃDeathるな!」
「サムズアップしてる場合か! それにしてもゴルゴムの怪人って奴は本当にやり辛いぜ。銃弾も電気も通用しない。どうすりゃいいんだ」
ダロムが手を振るう未来が見えたスヴェンは思わず煙幕を張る。ダロムが行おうとしていたのは念動力。それを防ぐためにスヴェンは相手の視界を奪ったのだ。
その直後、真横から飛んでくる物体をトレインは察知して受け止める。
「これは…光太郎が使ってた銃か?」
先程の学校での怪人を退治する際、トレインは光太郎がロボライダーになってこの銃で倒すところを目撃していた。20キロ以上離れていた怪人の体を楽々貫いた銃だ。この銃と自分の銃技があれば、勝機はある。トレインはダロムがいるであろう方向へと銃口を向ける。ダロムに限らないが、怪人たちはその能力を過信し、人間相手に気配を消すことはしない。むしろ常に圧力を放っているのだ。視界に映らなくても、トレインレベルの強者であれば居場所くらい簡単に掴める。
トレインは銃弾に制限の無いボルティックシューターを目には止まらぬ速さで連射した。
RXと対峙するは最大のライバルであるシャドームーン。
殺気、佇まい、それらの全てがRXの記憶の中にあるシャドームーンそのものだ。
「人間に銃を与えたか。そうでもしなければ神官共にすぐ殺されてしまうだろうからな。だが結果は変わらぬ。RXよ、貴様に関わった事で、あの人間たちは命を落とすことになるのだ。そして、お前も私の剣の前に散れ」
シャドームーンは双剣シャドーセイバーを構える。
「信彦…いや、シャドームーンよ! 俺はお前を倒し、仲間たちも救ってみせる! 行くぞ!」
RXは跳躍し、瞬時にサンライザーからリボルケインを取り出し、シャドームーンと剣戟を交わす。
その応酬は既に人の目では見切れぬ速さだ。互いにそれを防ぎきれず、幾度か火花が走る。実力は完全に互角。ここでRXに迷いが生じてしまえば一気に形勢が傾いてしまう。RXには守るべきものがあるのだ。その為にも、親友と言えど敗れる訳にはいかない。
そしてそんな戦いを、遠くから見守る影があった。
記憶を失ったセフィリアが、RXの戦いを見つめていた。
「…光…太郎…さん…?」
セフィリアのその呟きは、激しい剣戟の波にかき消され、誰の耳に届くこともなかった。
まだ以前に比べて文字数が少ない気がしますが、ご容赦下さい。
それでも、やっと投稿できてホッとしてきます。
パソコンは使えなくなってますが、ケータイの方で頑張ります。