転生・太陽の子   作:白黒yu-ki

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絆の剣

三葉虫の大怪人となったダロムは予想だにしていなかった事態に直面していた。今まで相対する人間の攻撃は拳銃が主だった。普通の弾丸が大怪人の肉体に通用するはずもなく、それらは全て強固な肉体が弾いてくれていた。それらの銃弾よりもやや強力そうな攻撃、以前部下の怪人に調べさせたところ電磁銃(レールガン)というらしいが、その攻撃も特に力を込めていない破壊光線で充分相殺できるものだった。

 

だが、今自分の体を貫いた攻撃はそのようなレヴェルのものではない。どのような武器を用いたのか煙幕によって視覚が奪われている為判別できないが、かなりの高威力を誇る武器のようだ。

 

「…気に入らんな」

 

自分が今対峙しているのはRXではない。ただの人間なのだ。ダロムにとって、如何にトレインがかつてのクロノスのイレイザーだったとしても、人間としてかなりの上位者としての能力を有していても、やはり所詮は人間なのだ。例えるならば、蟻が人に対して大きな傷を負わせる武器を持ち、敵意をもってそれを用いたようなもの。蟻がそのような武器を持っていなければ人は無関心でいられるだろう。だが人の命に大きな危害を加えるとなればそうはいかない。駆除ではなく殲滅の対象となり得る。正に相対するトレインやスヴェンはダロムにとってそのような相手として昇格を果たしたのだ。

 

ダロムは片手を振るう。

それまで煩わしかった煙幕が吹き飛び、殲滅対象の人間の姿が露わになる。

 

「やばい! トレイン、後ろに跳べ!」

 

スヴェンはそう叫ぶ。トレインとスヴェンが同時に跳躍した瞬間に足元の大地が隆起して持ち上がった。その塊はダロムの念動力によって空中で静止している。二人は背中に冷たい汗を感じていた。今までのダロムは怪人としての圧力を発してはいたが、今目の前にいる大怪人は強烈な殺意をも放っていたのだ。それは本能的なものなのか、思わず体が竦んでしまう。

 

「死ねい、人間どもが!」

 

ダロムがそう叫んで手をかざすと、空中で静止していた大地の塊が数百という数に割れ、刃のように鋭利な先端がトレインたちに向けられる。その絶望的な状況を前にしてもトレインやスヴェンの目に諦めの色は見られない。スヴェンは前に躍り出て無数の刃に立ち塞がる。

 

「トレイン! 俺が奴の的になる! 頼んだぜ!」

 

「…ちっ、全部は撃ち落とせねえからな!」

 

「まずは貴様から死ぬか。良かろう。蜂の巣になるがいい!」

 

無数の刃がスヴェンに明確な殺意をもって襲いかかる。トレインがボルティックシューターでの高速射撃を行うが、如何にトレインといえども刹那に数百という刃は撃ち落とせない。撃ち漏らしている刃がスヴェンへ迫っていた瞬間、スヴェンの新しい能力が発動した。

 

それは予見眼(ヴィジョンアイ)のように数秒先の未来を見るものではない。高い能力をもつ怪人を相手にするには、僅かな未来が見えるだけでは足りないのだ。未来の映像が分かっていても、怪人のスピードから逃れる事は困難なのだ。だからこそ、光太郎がいなくなってからスヴェンは予見眼以上の能力を得る為に特訓を重ねていたのだ。そして身につけたのがこの力。予見眼を上回る支配眼(グラスパーアイ)だ。

 

その効果は視覚で捉えたものを最大5秒間スローにするというもの。そして同時に自身はその中で通常通りに動く事ができるのだ。周りから見れば異常な速度で可動させることになる。よって肉体への負荷は大きいが、怪人との戦いでそんな事を言っていられない。幾多もの限界を超えなければ太刀打ちできない相手なのだ。

 

弾丸以上のスピードで襲いかかる刃を避けるのは、支配眼の能力の元にあっても容易ではない。それだけで体力と精神を擦り減らされる。そして視覚外にある刃は支配眼の対象にはならず、絶えず周囲に気を配らなければならない。背後の刃はトレインが幾つか撃ち落としてくれているが、それでも全てを撃ち落とせている訳ではない。

 

状況は防戦一方。

どこかで攻勢に移らなければ、このままジリジリと体力を消耗させられるだけだ。だからこそトレインは浮遊する刃の数が減った瞬間の機を見逃さなかった。ダロムが新たに刃を形成させようとしているのを見て、瞬時にボルティックシューターで狙いを定める。今度の狙いは刃でなくダロム。

 

「いっけー!」

 

ボルティックシューターを使用してみて分かった事だが、発砲の際の衝撃というものがまるでなかった。反動がまるでない為、子供でも容易く扱えるであろうその銃を片手で構えつつ、もう片方の手の中にある愛銃ハーディスの銃口から銃弾が飛び出した。それらは刃に当たることなくダロムに直進していく。そしてそこでトレインはボルティックシューターを放った。

 

ダロムの目の前まで放たれていた銃弾、炸裂弾はボルティックシューターの光子の直撃を受けて大きな爆発を起こした。

 

「むっ!?」

 

間近で爆風を受けるダロムだが、そんなもので傷付く肉体ではない。爆煙を念動力で搔き消し、標的に刃を向ける。

 

…しかしその場にトレインとスヴェンの姿はなかった。逃げ出したと考えたダロムだったが、遠くから放たれた光子がその考えを否定した。光子がダロムの体を貫く。光子が放たれた方角に目を向けるが、燃え盛る木々があるだけで敵の姿はない。だがトレインの銃技はそんな環境にあっても変わる事がなかったのだ。木々のほんの僅かな隙間を縫って、視認できる限界の距離からの超遠距離射撃。恐ろしい念動力や破壊光線を放つダロムだが、それらが届かない距離まで離れれば脅威はないのだ。そしてその距離からの射撃をトレインの視力は可能にし、ボルティックシューターは無限の射程をもってその戦法に応えてくれる。だが一方向から射撃が続けば相手にも見切られる恐れもあるため、トレインは常に高速で動き回っていた。

 

「…このクソ暑いってーのに参るぜ。光太郎にはミルクでも奢ってもらうとするか!」

 

愚痴を零すトレインに、傍を走るスヴェンの視界に見知った人物が映った。思わずトレインを引き止め、そちらを見やる。

 

「セフィリア!?」

 

「セフィ姐!? 何でこんな所に!」

 

セフィリアはふらふらと燃え盛る山の中を歩いており、足元も覚束ない様子だ。セフィリアが歩く方角にはダロムがいる。トレインは慌ててセフィリアに駆け寄る。

 

「セフィ姐! 今のセフィ姐に怪人の相手は無理だ。早く山を降りた方がいいぜ」

 

「トレ…イン…?」

 

「…セフィ姐、泣いてんのか?」

 

セフィリアの瞳は虚ろだった。頰には涙が伝っている。

 

「…分かりません…あの人の姿を見ていたら…」

 

あの人とは誰の事なのか。ハッキリ言われた訳ではないが、トレインとスヴェンはそれが光太郎を差すものだと察していた。セフィリアはただじっと正面を見据えている。セフィリアの視力であれば遠く離れているダロムの姿も映っているのだろう。

 

そしてセフィリアは呟く。

 

「…私の中に…あの人との思い出はない。ですが、体が覚えています。あの人の為に戦いたい。あの人の…剣として…!」

 

セフィリアの姿がブレる。トレインたちの目の前に残るのはセフィリアの残像。トレインの目をもってしても追いきれぬ速さでセフィリアはダロムに向かって駆け出していた。記憶を失っていても、肉体は人間の限界値をとうに超えているのだ。記憶を消滅させた際、ダロムが遺伝子操作でセフィリアに怪人と同等の能力を与えていた。それが発揮されているのだ。だがそれを平然と見送る程トレインたちは呑気な性格を持ち合わせていない。すぐにセフィリアを援護できるように駆け出していた。

 

 

 

ダロムの正面にセフィリアが飛び出した。先程までいなかった人間が目の前にいる事に多少の驚きはあったが、その容姿にダロムは見覚えがあった。

 

「…女、まさか我らの支配下から逃れ、こうして五体満足で現れるとは驚いたぞ」

 

「…あなたは…敵ですか?」

 

「…なに?」

 

「…あなたはあの人の…敵ですか?」

 

「世迷い言か。まぁ良い。再び我らの傀儡とさせてやろう」

 

ダロムが手をかざすと、無数の刃がセフィリアを襲う。だがその刃はセフィリアに届く前に消滅していった。目の前の光景にダロムは目を見開く。セフィリアの体から、赤い妖気が立ち昇っていた。

 

「…あなたは…あの人の…敵!」

 

赤い妖気が形を成し、それがセフィリアの右手に集束されていく。

 

 

セフィリアの右手に形成されたのは、かつて世紀王が持つと言われていた魔剣。

 

そして自身の心の中でRXに手渡された絆の剣。

 

その剣はセフィリアの手の中で神々と光り輝いている。

 

 

「そ、それはサタンサーベル!?」

 

「あの人の敵は…私が倒します!」

 

 

 

 

一閃。

 

 

巨大な赤い真空波が雷雲を割った。雷雲の放電がセフィリアたちのいる山に降り注ぐ。その閃光の中で、セフィリアとダロムは高速で戦いを繰り広げていた。セフィリアの最初の一手で右腕を消滅させられたダロムは不利な戦況に陥っていた。如何に大怪人の肉体といえど、サタンサーベルに耐えうる強度はない。片手のダロムは徐々にセフィリアの攻撃を防ぎきれなくなっていた。

 

「くっ、なぜだ! 遺伝子操作で強化したとはいえ、大怪人へと戻ったワシをここまで追い詰めるなど!?」

 

怪人…それは人とは別次元の強さをもっている。謂わば、怪人は強さを求める者の理想像と言い換えても良いだろう。だからこそ、そこで強さの限界を迎えてしまう。だがセフィリアは違う。相手がどのような相手でも、あの人の為に、強くありたいと考えている。その想いが、セフィリアの強さの限界を取り払っていたのだ。それは心まで怪人になってしまったゴルゴムの怪人達にはできぬ芸当だ。人であるからこそ、更に上を目指していけるのだ。

 

「だが、このまま倒されるワシではない!」

 

ダロムはセフィリアから距離をとり、触角に莫大なエネルギーを集束させ始めた。

 

「ワシの力の全てを込めた破壊光線だ! この燃え盛る山ごと消してくれるわ!」

 

そのダロムの覚悟を受け、セフィリアもサタンサーベルを構える。

 

「ここにはあの人が…そして大切な仲間達がいます。そんなことはさせません」

 

セフィリアの想いに呼応して、サタンサーベルが脈動する。雷雲からの放電全てをサタンサーベルが取り込んでいく。

 

「死ねい!!」

 

ダロムの触角がセフィリアに向いた瞬間、真横から伸びてきた光子が触角を消滅させていった。思わぬ攻撃に、ダロムは光子が伸びてきた方角に忌々しく視線を向ける。その刹那、飛び込んだセフィリアはサタンサーベルをダロムの体に突き刺した。それは図らずも、RXのリボルクラッシュと同じ姿となっていた。

 

「ぐっ!? が、がはっ!」

 

サタンサーベルの巨大なエネルギーがダロムの体内から放出され、身体中がヒビ割れ、崩壊を始めていく。

 

「ま、まさか人間に敗れようとは…お、お許しください、シャドームーン…様…!」

 

サタンサーベルを引き抜き、距離を置くセフィリア。そしてダロムの体が爆散した直後、背後にいた敵を睨む。そこに立っていたのはピンクの鎧を着込むゴルゴムの剣士。剣聖ビルゲニア。セフィリアにかつての記憶はないが、自身が敗れた相手である。

 

「…ほう、まさか大神官を打ち倒すとは予想外だったな。やはりその魔剣は素晴らしい。やはりその剣の真の持ち主はシャドームーンでもRXでも貴様でもない。このビルゲニアだ!」

 

剣聖の妖気が辺りを包む。

 

「…あなたも…あの人の敵…」

 

セフィリアの意思を宿し、サタンサーベルの輝きは更に増していた。

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