準備を終えて街へと出かけた俺達は、まずは腹ごしらえという事で近くのレストランで昼食を食べていた。
そこで少し意外な発見があった。それはランサーが現代の食事にも対応していた事である。
ランサー達サーヴァントは、本来過去の時代に生きていた人物だ。
よって、現代の発達した食文化に対応できるのかと心配だったのだが、聖杯に招かれたサーヴァントは、聖杯によって現代の知識を与えられる為、現代の食文化にも対応できるらしい。
また、ランサーは該当スキルを所持していないので該当しないが、騎乗スキルを所持しているサーヴァントは自転車やバイク、飛行機等の操縦もなんなく行えてしまうとの事。
改めてみると、聖杯から与えられた知識というのは物凄く広い知識なんだなと思い知らされた。
最も、知っているだけなのと実際に食べたかどうかでは全くの別物だ。知識こそ与えられていたものの、実際に食べた事がない料理のメニューがずらっと並んでいて、どの料理を頼むか迷っていた姿は見ていて可愛かったし、実際に料理を口にした時のリアクションも、連れてきてよかったと思えるものだった。
「驚いたわ、暗夜と白夜の食文化が一つになっただけじゃなくて、見た目も味も比べ物にならない程進化していたのね」
時代の差、というのはとても大きいものだ。彼女が生きていた時代とは、食文化だけでも、天と地の差が出ているのだから。
「それに、現代の服装ってとっても動きやすいのね。わざわざ私の為に服まで揃えてくれるなんて、マスターは優しい人ね」
手足を軽く動かしながら、ランサーはお礼を言う。
現在のランサーの服装は、元々の服装ではなく、俺が買い揃えた普通の服装だ。
元々の服装だと、神秘的な雰囲気こそあるがやはり恰好が周囲に比べるとどうしても浮いてしまう。その為、近くの服屋で周囲の皆に合わせた服装を店員に揃えてもらった。
幸い、お金は爺さんが遺してくれたお金がある為服装を揃える位は軽い出費程度だったし、ランサーにも街を楽しんでもらいたいという個人的な我儘で、ランサーの分の服装を揃えたのだ。その結果、ランサーにも現代を楽しんでもらえているなら俺は今日街にランサーを連れて行って良かったと心から思える。
「士郎、ぼーっとしているけれどどうかしたの?」
「あ、あぁ嫌、なんでもないぞ! それより、この後行きたい所とかはあるか? 時間もあるし、好きな所に寄っていけるぞ」
「私は、特にここが行きたいとかはないから気を遣わなくても大丈夫よ。それより、貴方が楽しめているかどうか。気分転換なら、そこが一番重要でしょう?」
「いや、俺は別にいいんだ。この町の事はそれなりによく知っているし、俺よりもランサーにこの街を紹介してみたかったっていうのもあるからさ。他に何か食べたいものがあったら遠慮なく頼んでいいんだぞ」
「そう? じゃあ、このパフェというのを頼んでみてもいいかしら?」
「あぁ、イチゴパフェだな。ちょっと待ってろ」
ランサーがパフェに興味深々な様子なので、店員を呼んでパフェを注文する。
昼時だから客の多さで出来上がるまでに少しばかりの時間こそかかったものの、運ばれて来たパフェにランサーは目を輝かせていた。
「これがパフェという食べ物ね……とても甘くて、冷たくて美味しい。料理を食べた後のデザートとしてこれ程の食べ物が私達の時代にもあったらどんなによかった事か」
ランサーは口にしたパフェの感想をそう表現する。それ程までに感動してもらえたのならば、頼んで正解だったと士郎も口元を綻ばせた。
サーヴァントが人間ではないというが、こうしてみるとやはりランサーも一人の女の子だ。
可愛いものに興味だってあるし、美味しい食べ物を食べれば美味しいと感じ、喜んでくれる。
一緒に戦ってくれるからには、信頼関係だって大事だし、何より嫌々で戦って欲しくもない。
彼女自身、戦い慣れているだろうしそういう覚悟は俺よりよっぽど出来ているのだけれど、それでも一緒にいるからには楽しく過ごしてほしい。
甘いと言われればそれまでなのかもしれないが、衛宮士郎の行動原理は何時だって、人の為なのだ。
「御馳走様、とても美味しかったわ」
「っと、もう食べ終わったのか。それじゃあそろそろ他の所も見て回ろう」
「ええ、それじゃあ貴方のエスコートを楽しみにしておくわ」
「エスコートって、俺はエスコート出来る程の人間じゃないぞ」
「そういう時は「かしこまりました、お嬢様」と言って手を差し伸べるのが男性側の礼儀よ、士郎」
「それって、何時の時代の礼儀だよ……」
その後も、公園を見て回ったり雑貨屋や本屋で買い物をしたりして時間を過ごした。
気付けば、あっという間に時間が過ぎていて既に日が沈みかけていた。
「そろそろ頃合いだな。今日は色んな所を回ったけど、ランサーは楽しかったか?」
「えぇ、とても楽しい時間を過ごせたわ。本当は貴方が気分転換をする為に外出を奨めたのだけれど、何故か私が楽しむ事になっていたわね」
「それでいいんだよ。ランサーだって女の子なんだし、こういう楽しみの一つでもあった方がいいだろ?」
「貴方はサーヴァントが何なのかをいまいち理解出来ていないみたいね……」
軽くため息を付くも、どうやらまんざらでもなさそうな様子。
やはり、この外出は正解だったようだ。
「もう、なんで売ってくれないのよ! お金ならここにあるじゃない!!」
と、いい雰囲気だった所に突然女の子の叫び声が聞こえてきた。
一体なんだろうか、と駆けつけてみると白い髪の小さな女の子がたい焼き屋の店主ともめていた。
「どうしたんだ、一体?」
「このお店の人が、たい焼きを売ってくれないのよ! お金ならここにあるのに!!」
そう言って、少女が握っていたお金を差し出す。そこにあったのは日本円ではなく、ユーロだった。
なるほど、子供に商品を売らないなんて差別にも程があると思ってしまったが、ユーロでは日本での買い物は出来ないだろう。
「だから御嬢ちゃん、うちは日本円しか取り扱っていないんだ」
「もう、なんでよ!!」
「あー、分かった分かった。とりあえずここは俺が代わりに払っておくから。君もそれでいいだろ?」
「え……いいの?」
「そりゃあ別にかまわないけど、お宅は大丈夫なのかい?」
「いいんですよ」
そう言って、3人分のたい焼きを購入する。
一つはもめていた少女用、もう一つは自分が食べる用、最後の一つは近くで見守っていたランサー用だ。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「どういたしまして。それと、そのお金は外国のお金だから、日本円に換金してもらわないとこっちだと使えないぞ」
「え、そうなの?」
「あぁ、だからこの近くの換金施設でちゃんと日本のお金に換えてもらうんだぞ」
「うん、ありがとう……所で、貴方のお名前は?」
「俺か? 俺は士郎、衛宮士郎だ」
「エミヤシロ?」
「違う違う、それじゃあお城の名前だ。衛宮が苗字で、士郎が名前だ」
「ふぅん……エミヤ……シロウ……エミヤシロウ……じゃあ、シロウって呼んでいい?」
「あぁ、いいぞ。それよりもうすぐ暗くなるから、あまり遅くまで外をうろついていたら危ないぞ」
そう言って、白い髪の少女と別れた。
どこか懐かしい雰囲気を感じたような気がしたが、あまり話し込んでいると今度は周囲からの目が厳しくなりそうなのもあるし、ランサーが待っていた為今話し込むよりはまた今度会った時にゆっくりと話そうと判断したのだ。
何故そう判断したのかは分からない。けれど、あの少女とはまた会える。そんな謎の確信があったのだ。
「~♪」
少女は鼻歌を口ずさみながら、日が沈んだ道を歩いている。
最近はガス関係の事故や謎の事件現場等、物騒な事件が多発していて人気の一切無い道を少女一人で歩くのは危険だが、少女はそんな危険を気にしないかのように歩いていた。
やがて、道の一角に差し掛かった所で少女は止まる。
「ライダー、出て来なさい」
少女がそう呼ぶと、何もない所から突然黒い馬と、馬に乗った金髪の騎士が現れた。
金髪の騎士は少女を静かに後部座席に乗せる。
「迎えに来てみれば、何やら機嫌がいいな。何か良い事でもあったのか?」
「うん、ようやく見つけたの」
「見つけた?」
「ライダー、今夜は出るわよ。ようやく見つけた手がかり、絶対に逃がさないんだから」