太陽が顔を出し、朝日が周囲一帯を照らす。それは夜が明けて一日が始まる合図だ。
衛宮士郎は、窓から差し込む光に目を細めながらも、外の景色を観察する。
そこに広がるのは広大な森、辺り一帯を豊かな森が覆い尽くしていた。
「朝、か……何時もと違う環境での朝を迎えるのは、なんだか落ち着かないな」
「こんな大きなお城に泊まる経験なんて、滅多にないでしょうから当然よ」
なんとなく呟いた独り言に返事が返って来る。
その聞き覚えのある女性の声に振り返ってみると、ランサーが実体化していた。
「ランサー!?」
「昨日は大変だったわ。途中で見失ってしまったもの」
「その……ごめん」
「いいのよ、貴方がどうこうの問題じゃなかったもの。それより、これ」
ランサーは持っていたソレを士郎に差し出す。それは、家に置きっぱなしだった
爺さんから託された家宝、夜刀神だった。
「夜刀神……持って来てくれたのか!?」
「この刀は大切なものよ。決して、手放しちゃだめ」
「当たり前だ。爺さんの形見を手放すような事があってたまるか」
「ならいいわ。それで、昨日は彼女とお楽しみだったのかしら?」
そう言って、彼女の視線が部屋のベッドで眠っている少女……イリヤへと向く。
昨日は、イリヤの希望で同じベッドに入って就寝した。
眠る際に思い出話や、日本の観光、楽しいお祭りや海、山での魅力等、様々な事を語ってあげた。
その話を、イリヤは楽しそうに聞いてくれたしイリヤも、幼い頃に爺さんと一緒にクルミの芽を探す遊びをしていた事等、爺さんとの思い出を語ってくれた。
俺の知らない爺さんの一面を知れたが、爺さんは何を思ってアインツベルンへ入籍したのか、ますます気になる事が出来た。
そんなこんなで、二人で色々語っている内にイリヤが眠ってしまった為、大人しく自分も眠りについた。
昨日の夜のやりとりはそれだけで、決してお楽しみな出来事があった訳ではない。
「そんな訳ないだろ、からかうのもいい加減にしてくれ」
「あら、怒っちゃったかしら?」
「はぁ……」
からかって反応を楽しむようなランサーの仕草に思わずため息を吐く。
そんなこんなで、イリヤが起きて朝食の時間になるまで痴話話のようなやりとりは続いた。
「御馳走様」
朝食を終えて、それぞれの時間を過ごし始める。
イリヤはライダーと共に城の外を散歩しており、俺は城門で夜刀神を振っている。
「士郎、貴方はこれからどうするつもり?」
「……悩んでいる。遠坂への恩だってあるし、イリヤと一緒にもいてやりたい」
けど、それは許されない。聖杯戦争は殺し合いであり、遠坂もイリヤも、殺し合う関係にある。
本来ならば、俺だって二人と殺し合っていてもおかしくないのだ。
それがこのような奇妙な状態にあるというのは、ある意味では奇跡とも言える。
しかし、そんな状態は長く続かない。いつかはどうするかを決断しなければいけないのだ。
選べる道は唯一つ。俺は……
「ランサー、俺は……」
その先を言いかけたその時だった。
「士郎、伏せて!」
何かに気付いたのか、ランサーがこちらを押し倒すようにとびかかる。
それと奇跡的にすれ違うように、一発の銃声が鳴り響いて先程まで俺が立っていたすぐ傍の木が抉れた。
「なっ……!?」
「襲撃ね……気を付けて、士郎。敵はそう遠くない位置にいるわ」
遠距離からの全く視認出来なかった攻撃。銃声だった事から、銃による狙撃かと考えたが、そもそも森の木々に阻まれて狙撃出来るような場所じゃない。
なら、一体どこから? 辺りを見回しても人の姿は見えない。
「シロウ、大丈夫!?」
イリヤとライダーが駆けつけて来る。
銃声を聞きとったのか、城内にいた二人の使用人も城から飛び出して来た。
「お嬢様、敵襲です!」
「ここは危険、一度中に隠れて」
敵の襲来。穏やかな時間は唐突に終わりを告げ、
再び戦いが始まる。