ここで士郎が下す決断は、そのまま未来を大きく分ける。
選べる道は唯一つ。果たして、士郎が選ぶ道は?
アインツベルンの森を突き進む。
ライダーと共に新たに表れた敵の迎撃に向かったイリヤとライダーを放っておく訳にはいかない。
それに、このまま見送っただけでは取り返しの付かない事になる。
根拠こそないが、何となくそんな確信が士郎の中にはあった。
息が切れても走る。身体が酸素を求めて止まるように警告しても尚走る。
走り続けて頭が真っ白になりそうになりながらも走り続けて、ようやく追いついた。
追い付いた先では戦闘が繰り広げられている。そこで戦っていたのは……
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」
「はぁあああああああああああああ!!」
鳴り響く金属音、吹き飛ばされる周囲の木々。
その中心で戦っていたのは、セイバーとライダーだった。
圧倒的な実力を持つ二人は森の中で壮絶な戦いを繰り広げている。
セイバーがいる、という事は今ここにいる人物は……
「チッ、さすがに強い。アインツベルンもとんでもないマスターを送り込んで来たわね」
「当たり前でしょう、凛。私は10年間地獄のような修行を積んできたのだもの」
「あぁ、そう。けれどね、こっちだって生ぬるい修行を積んできた訳じゃないのよ!」
セイバーとライダーが戦っている傍らで魔術で応戦を行っているのは、イリヤと遠坂だった。
世話になった恩人と、唯一の実の妹がお互い殺し合っている。
そんな現状を見過ごせるはずがない。
「二人とも、何やってるんだ!」
息を整えながら叫び、二人を止めに入る。
俺がやって来た事に気付いた二人は、お互い攻撃を止めてこちらを振り向く。
「衛宮君、無事だったのね!」
遠坂が俺の無事を確認して安堵したのか、険しい表情を少しだけ和らげる。
やっぱり、遠坂は俺が思った通り、他人の心配が出来る優しい人間だ。
「遠坂!」
「さぁ、行くわよ。貴方も戦いに加わりなさい、衛宮君。貴方がいてくれればライダー達との戦いもすぐに決着がつくわ」
「遠坂……俺は……」
「気を付けろ、士郎。あの男は俺と互角の実力を持っている」
「セイバー……」
「桜も待っているわ、早く戻らないと心配しているわよ?」
しかし、遠坂の言葉を聞いて迷いが生じる。
戻れば、桜が待っている。藤ねぇも一緒に笑ってくれる。俺の周りの、大切な日常が待っている。
だが、遠坂はイリヤと戦っている。遠坂と共に戦うという事は、イリヤと戦うという事だ。
「何を言うの、シロウは私の家族よ。貴方達なんかに奪わせない」
「どの口が家族って言うのかしら? 衛宮君、騙されちゃ駄目よ」
「騙してなんかいないわ、凛こそシロウの何を知っているの?」
「貴方こそ、衛宮君の何を知っているの? あいつの周りの日常を平気で壊すのが家族なのかしら?」
「なんとでもいいなさい。やっと見つけた私の大切な家族を誑かして、都合のいいように扱おうとする凛に言われたくないわ」
「私は、誑かしてなんかいないわ!」
「どうだか。シロウ、私と一緒に来て……私と、きょうだいで一緒に戦いましょう」
イリヤも負けじと俺に手を伸ばす。
切嗣の実の娘、俺に遺された唯一の家族。10年間、一人ぼっちのまま耐えてきた実の妹。
しかし、イリヤと共に戦うという事は、遠坂と戦うという事だ。
「戻って来なさい、衛宮君!」
「シロウ!」
「衛宮君!」
遠坂とイリヤがどちらも必死に俺を呼ぶ。
双方は敵同士、どちらかにつくという事は、どちらかを裏切るという事。
「こっちだ、少年!」
「シロウ!」
ライダーがこちらに向かって手を伸ばす。
そのすぐ傍では、イリヤが不安そうにこちらを見つめている。
唯一残された大切な家族の手を取れば、遠坂は敵に回る。
今までの日常には終止符が打たれ、家族を守る為に戦う事になる。
「衛宮君!」
「戻って来い、少年!」
セイバーと遠坂がこちらに向かって手を伸ばす。
向こうに戻れば、藤ねぇや桜、慎二達とわいわいやっていた
日常がある。今まで出会った大切な人達がいる。
遠坂と共に戦う道を選べば、俺は日常を守る為に戦う事になるだろう。
しかし、それはイリヤと……唯一の家族と戦う事を意味する。
今までの日常を守る為に、大切な家族を見捨てる事になる。
どちらも、俺にとってはとても大切だ。出来れば、どちらとも争いたくないし
どちらかを切り捨てたくもない。
しかし、どちらかを選ばなければならない。どちらかを選び、どちらかを棄てなければいけない。
(誰かを助けるという事は、誰かを助けないという事なんだ)
爺さんが昔言っていた事を思い出す。全部を助ける事なんて出来ない。
片方を助ければ、必然的にもう片方を見捨てなければいけなくなる。
今この瞬間こそがそうなのだ。遠坂や学校の皆を守る為に、家族を見捨てるか。
家族を守る為に日常を見捨てるか。
俺に用意されているのは、その2択。どちらかを選び、どちらかを棄てなければいけない。
この選択は、俺の未来を大きく左右する。それでも、悩む時間なんてない。
今ここで、決断を下さなければいけない。日常か、家族か。
「遠坂……イリヤ……俺は…………俺は……………………」
選べる道は、一つだけ。
今まで築いてきた日常を棄て、切嗣の遺したものを守る為に家族と共に戦うか。
唯一の家族を見捨てて、今まで築いてきた日常を守る為に遠坂と共に戦うか。
俺が……衛宮士郎が選んだ選択は…………