Fate/if 運命の選択   作:導く眼鏡

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第10章:波紋を起こす風(後)

「よぉ衛宮、僕の弓道部に何か用でもあるのかな?」

 

弓道部の部室では、慎二が一人余裕そうな笑みを浮かべて立っている。

自分が優位な立場にいる時の慎二は、決まって今のような表情になる。

何も無しに慎二があんな顔をするとは思えないし、用も無いのに勝手に弓道部の部室に部外者がずかずかと踏み込まれて普通は笑わない。

 

「慎二、聞きたい事がある。お前は……」

「まぁ待てよ、衛宮。まずはゆっくりと話をしようじゃないか……お前がマスターだって事は知っているんだ」

 

マスターという単語、これが慎二の口から出たという事は……

間違いなく、慎二は聖杯戦争に関わっている。

間違いであって欲しいと願っていたが、淡い願いはあっさりと打ち砕かれた。

 

「慎二も、マスターなのか?」

「そう、僕こそ聖杯戦争の御三家、間桐のマスターとして選ばれたのさ。マスターの証だってほら、ここにある」

 

そう言って慎二が取り出したのは、一冊の魔導書らしき本だった。

あれが、マスターの証……となると、慎二はなんらかの方法でマスターの証である令呪をあの魔導書に移したという事か。

それならば確かに、腕に令呪があるか否かでのマスター捜査の目は掻い潜れる。

しかし、それをわざわざ見せびらかすという事はその利点を捨てるという事だ。

圧倒的なアドバンテージを捨ててまでして、慎二は何をしたいのだろうか?

 

「衛宮、友人のよしみだ。一つ取引をしようじゃないか」

「取引だって?」

「僕の仲間になれよ、衛宮。僕のアーチャーは確かに強い、けれど弓兵は遠距離攻撃でこそ真価を発揮する。そこで、衛宮のサーヴァントが盾になって接近戦を受け持って、僕のアーチャーがその間に仕留める。この陣形ならどんなサーヴァントが相手でも敵じゃないし、確実に優勝出来る。どうだ、悪い話じゃないだろう?」

 

利用してやるから仲間になれ、慎二はこう言いたいのだろう。

しかし、俺は遠坂と既に同盟を結んでいる。遠坂を放って、勝手に第三者と同盟を組むなんて事は出来ない。

 

「悪いが、俺は既に遠坂と同盟を結んでいる。遠坂に黙って、勝手に慎二の仲間にはなれない」

「あ?」

 

慎二の表情に明らかな不快感が表れる。

自分の思い通りに事が運ばなかった事で、慎二が先程まで浮かべていた笑みはあっさりと消え去った。

 

「なぁ衛宮、お前自分の立場が分かってんのか? 仲間になれって言ってんだよ。仲間にならないってんなら……」

 

慎二が魔導書を持っていない方の手、左手をゆっくりと上げる。

 

「危ない!!」

 

それと同時に、敵意を感じとったランサーが咄嗟に実体化して、突然外から飛んで来た一撃を撃ち落とした。

 

キィン!!

 

弾かれた攻撃は部室の備品を貫き、壁を砕いて穴を開けた。

その被害から、今の攻撃の威力が並のものではない事がわかる。

 

「士郎、大丈夫?」

「あ、あぁ……ありがとう、ランサー」

「……へぇ、それが衛宮のサーヴァントか。いい女じゃないか。どうだ衛宮、遠坂なんて見限って俺の仲間になれよ」

「不意打ちを仕掛けておいて、図々しい事を言うのね。言っておくけど、貴方のような人物より凛の方がよっぽど信用出来るわ」

「お前の意見なんて聞いてないんだよ。僕は衛宮に聞いているんだ」

 

慎二は、あくまで俺達を勧誘しようとする。

だが、慎二に背中を預けられるかといわれると、否だ。

今のやりとりだけでも、慎二に背中を預けようとは微塵も思わない。背中を預ける事が出来ない相手と、仲間にはなれない。

 

「断る」

「……おい、お前自分の立場をわかって言ってんのか?」

「断ると言っている。慎二、お前と一緒に戦う事は出来ない」

「そうかよ……だったら僕の仲間にならなかった事を後悔させてやるよ。アーチャー!!」

 

慎二が怒りを隠さず、叫び声をあげる。

それが合図となったのか、先程攻撃が飛んで来た方角から先程よりも鋭い光の矢が飛んでくる。

アーチャーと慎二が呼んでいた事、先程の攻撃から慎二のサーヴァントはほぼアーチャーで決定したようなものだ。

 

「くっ!」

 

ランサーが攻撃を弾く。しかし、続けざまに光の矢が飛んで来る為、反撃に移る事が出来ない。

 

「士郎、ここにいては的になるわ。向こうから死角になる場所に隠れて」

 

ランサーは敵の攻撃を迎撃するが、休みもなく攻撃が飛んで来る。狙われているのは、マスターである俺自身だ。

俺がここにいても、ランサーの足手まといにしかならない。ならば、一度建物から出て狙撃されない箇所に隠れるしかないのだ。

 

「ランサー、頼んだ」

 

女の子であるランサーに任せっきりにしてしまうのもどうかと思ったが、今の俺は丸腰。夜刀神も家に置いてきている。

そんな状態で戦おうにも、足手まといにしかならない。

よって、ここはランサーに任せるのが最善だと判断して弓道部の部室を後にした。

 

「逃がす訳ないだろう、衛宮。今すぐ追いついて吠え面かかせてやるよ!」

 

慎二が獲物を追いかけるように、俺の後を追う。

ランサーがそれを阻止しようとするも、飛んで来る狙撃が、ランサーが慎二に近づく事を許さない。

慎二が部室を出て衛宮士郎を追いかけた事で、部室に残ったのはランサー、そして部室内部を狙撃出来る位置にアーチャーがいる。

このまま放っておけば、アーチャーは士郎を狙撃出来る位置まで移動して、容赦ない狙撃を再開するだろう。

それをさせない為には、ランサーがアーチャーを直接叩くしかない。

ランサーは狙撃が飛んで来た方向、アーチャーがいる方向に真っすぐ駆け出した。

 

 

 

 

「やれやれ、弓兵相手に正面から向かって来るなんて……討ってやるよ、ランサー」


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