Fate/if 運命の選択   作:導く眼鏡

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安定して書く時間が取れず、不定期に……
・戦闘描写が苦手←New


第11章:疾風と清流(後)

場所は移り、学校の屋上。ランサーとアーチャーが対峙を果たしたのは、ふつうならばほとんどの生徒が来ない静かな場所だった。

当然、二人以外に人はいない。屋上にいるのは、ランサーとアーチャーだけだ。

それ以外の生徒は、教室で雑談をしていたり校庭でスポーツをしていたりと、屋上の二人に気付く様子はない。

 

その屋上で、人間のレベルを超越した次元の戦いが繰り広げられているにも関わらずだ。

 

「弓兵が接近されたら、何も出来ないとでも思ったの? 甘いよランサー」

 

薙刀で接近戦を試みるランサーを相手に、アーチャーは弓を持ってして応戦する。

弓兵の基本は、遠距離からの射撃だ。相手の攻撃が届かない遠方から矢を放ち、仕留める。

弓のアドバンテージは遠距離戦に集約され、その攻撃手段は矢を放つ事に尽きる。

故に、遠くからの攻撃を主とする弓兵が接近されれば、白兵戦に持ち込まれれば圧倒的に不利になってしまうのは必然である。

弓を以て矢を放つには、矢を弦に宛がい、弓を構え、狙いを定めて、矢を放つ。

簡略化するだけでも、これだけの動作が必要だ。当然、その動作を終えてようやく攻撃が出来るのだが、その間に剣や槍、斧の攻撃が何度襲って来る事か。

弓兵が近接戦闘を行えない訳ではない。しかし、圧倒的に不利であり、武器の達人を相手にするとなればとても接近戦で矢を放つ等、普通は出来ない。

 

そう、普通の弓兵ならばである。

 

 

「弓兵が接近戦を行えないとでも思ったのかい?」

「なっ、近接射撃……っ!」

 

突然放たれた高速の一撃を、寸での所で弾くランサー。

あろうことか、アーチャーはランサーの薙刀をいなしつつも近距離で弓矢を放ち、ランサーを攻撃している。

接近戦で弓兵が近接戦士相手に戦えない理由は、弓矢を放つ為に必要な動作を行うのに、多大な隙を晒さざるを得ないからだ。

だが、その隙が大幅に短縮されていたら。剣を振るかのような速度で弓矢が放たれるとすれば、そのハンデは無いも同然になる。

アーチャーが行っているのは、それだった。弓矢を放つ為の動作を簡略化し、それでいてしっかりと射撃を行っている。

狙いを定める為の集中がなければ、弓矢があらぬ方向に飛んで行く事等考えるまでもなく想定出来る。

しかし、アーチャーのそれはあらぬ方向に矢が飛ぶ事等全く無く、標的に向かってしっかりと矢が放たれている。

当然、ランサーもそれを受ける訳にはいかず、薙刀で軌道を逸らしてどうにか避ける。

この距離ならば本来、ランサーの方が有利だ。だが、アーチャーは近距離であろうと遠距離と変わらず、むしろそれよりも早く弓矢を放って変わらず攻勢に回っている。

ランサーが無理に攻めようとすれば、あの弓矢は容赦なくランサーの心臓を貫くだろう。

故に、ランサーは中々攻めに転じる事が出来ずにいる。

 

(距離が開けば、容赦ない一方的な狙撃が待っている。かといって接近すれば、近距離から一撃必殺級の矢が放たれる。物凄く厄介ね)

 

アーチャ-の放つ矢が、なんの変哲もない弓矢であるならば或いは、肉を斬らせて骨を断つという戦法を以てアーチャ-を仕留める事も出来ただろう。

しかし、アーチャ-が使っている弓、それから放たれる光の矢は一発でも直撃すれば、それだけで致命傷になりかねない。

そんな一撃を雨あられの如く放てるアーチャ-の武器こそ、アーチャ-の伝承、その源とも呼べる神器。即ち、宝具である。

宝具は、サーヴァントが持つ切り札のようなものだ。逸話が昇華された存在である宝具は、そのサーヴァントの代名詞とも言える。

アーチャ-が扱う弓こそ、アーチャ-の逸話、そして彼を物語る一品にして切り札。

すなわち、宝具。宝具による一撃はほとんどが一撃必殺級。

そんな一撃が次々と飛んでくるのだから、当然な事にランサーは攻撃を弾く事に全神経を注がざるを得なかった。

 

何十合、何百合と攻防が繰り広げられる中、ランサーは少しずつ接近しているにも関わらずアーチャ-に攻撃出来ずにいる。

その表情には焦り、苦悶も見え隠れしており、対してアーチャーは涼しげな表情をしている。

攻撃は最大の防御、とはよく言ったものだ。今のこの状況こそが、まさしくそれなのだから。

それに、このままの状況が続けばどちらに戦況が傾くか等言うまでもない。

 

「はぁ……はぁ……っ!」

 

攻撃を全力で防ぐ事に集中力を回しているランサーと、攻撃されないように距離を取りつつ攻撃させない為に攻撃をするだけのアーチャ-。

どちらが先に精神力をすり減らし、減衰を表わすかは当然ながらランサーだ。

そして、その隙を見逃すような敵ではない。

 

「消えろ!!」

 

ランサーの集中力が乱れた一瞬、その致命的な一瞬。

そこに放たれたアーチャ-の攻撃にランサーは対応が遅れてしまう。

薙刀で矢を弾こうとするも間に合わず、一瞬生じたランサーの隙を突いてアーチャ-が放った一撃は、ランサーの右肩を貫いた。

 

「ぐぅっ!?」

 

ランサーは肩を貫かれた衝撃で転倒し、アーチャ-と距離を開けてしまう。

その距離は致命的な距離だった。

今までこそ、辛うじて近接戦闘という形であったが為に攻防が成立していた。

しかし、ランサーは右肩を貫かれており、ランサーの薙刀が届く範囲にアーチャ-がいない。

対して、アーチャーは一方的にランサーを仕留める事が出来る距離。遮蔽物は周囲にはない。

 

「勝負ありだよ。僕達の勝ちだ」

「ラン……サー……」

「この距離から、僕が君を討つのに数瞬もかからない。君が僕を仕留めるには距離が足りない。勝負は決している」

「……っ」

「ランサー、君に恨みはないけど悪く思うなよ。これは聖杯戦争、最後の一組になるまでお互いに殺し合う戦いだ」

「えぇ、そうね」

 

アーチャ-の言葉に、ランサーは冷静な返答を返す。

この場でランサーがアーチャ-を相手に逆転する手段はない。

あるとすれば、ランサーのマスター……士郎がアーチャ-のマスターを先に仕留める位だが、アーチャ-の様子からそれも期待出来そうにない。

 

「言っておくけど、あんたのマスターが慎二を倒したとして、僕には何の痛手にもならない。だから君がここから逆転する手段なんて、残されていないよ」

 

アーチャ-の言葉、その前半の意味こそ分からないが、確かにランサーがここからアーチャ-に逆転してみせる手段は存在しない。

アーチャ-を相手に、ランサーは完全に詰んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……それも、一人であるならばの話だが。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!!」

 

突然放たれる一閃。

音速にも似たその一撃にアーチャ-が気付き、咄嗟に避けようとするも間に合わない。

 

「なっ……がぁ!?」

 

致命傷こそかろうじて避けたものの、完全に避ける事が出来なかったアーチャ-は、謎の一撃に右腕を斬りおとされる。

一体誰がアーチャ-に不意打ちをしたのか?

学校の屋上、ランサーからすれば、その答えは目の前を見れば瞬時に理解出来た。

 

「すまない、遅れてしまった」

「遅刻よ、セイバー。でも……助けてくれて、ありがとう」

「既に凛と少年が奴のマスターと思わしき人物を無力化している。こちらは2対1、どうするアーチャ-? 戦うというならば相手になるが」

 

突然現れた援軍はセイバー、ランサーのピンチに駆けつけたセイバーはアーチャ-の前に対峙している。

先程までは絶対的にアーチャ-が有利だった状況だが、突然の乱入によって完全に形成は逆転した。

 

「セイバー……くそっ!」

 

忌々しげに舌打ちをしたアーチャ-は屋上から飛び降りる。

 

「今は退いてやる、けどこれで勝ったと思わない事だね」

 

その言葉を去り際に吐いて、アーチャ-はそのまま姿を消した。

 

 

 

 

 

 

アーチャ-が去った後の屋上では、ランサーとセイバーがぽつんといるだけだ。

二人の他には誰もいない。しばらくの間、お互いが無言でいる静かな時間が流れる。

屋上のあちこちは戦闘の影響で悲惨な事になっており、誰かが見かければ即座に警察が出動して、事件として立ち入り禁止になるだろう。

 

「さっきは、ありがとう。貴方が来てくれなければ、悔しいけれど私はアーチャ-にやられていたわ」

 

ランサーがぽつりとつぶやく。

 

「気にするな。凛と少年が同盟を組んでいる間は、俺とランサーも仲間だからな」

「ふふっ……貴方が傍にいてくれるなら、心強いわね」

 

ほんの少しのやりとりが行われた後、再び無言の時間が流れる。

 

 

 

 

 

士郎と凛が気絶した慎二を連れて、セイバーとランサーがいる屋上にやってきたのはしばらく後だった。


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