Fate/if 運命の選択   作:導く眼鏡

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第18章:這いよる闇

「はぁ!? 謎のマスターにランサーもろともボコボコにされた!? え、ちょっと待って頂戴。ランサーってサーヴァントよね? マスターは人間なのよね? マスターがサーヴァントと正面から戦って圧倒出来るってどういう事よ!?」

 

聖杯戦争のマスターを名乗る謎の人物の襲撃を退けた士郎達は、遠坂と合流して経緯を説明した。

マスター相手にランサーが歯が立たなかった事、夜刀神について何か知っていそうだった事等、色々説明した結果返ってきた返答がこれである。

実際、サーヴァントと人間では途轍もない戦力差がある。マスターがサーヴァントと戦うという行為をしようものならば一瞬の間に殺されるのがオチだ。

だからこそマスターはサーヴァントのサポートに徹するのが聖杯戦争のセオリーだし、マスター殺しを得意とするアサシンが存在する。

マスターがサーヴァントと互角以上に戦えるというのは、その前提を覆す事になる。

アタッカーが強すぎるからサポーターを先に潰そう! としたらサポーターがアタッカーをしてきたような理不尽である。

もっと分かりやすく言えば、どこぞのワカメがサーヴァントを差し置いて大英雄並に暴れ回っているようなものだ。

 

「はぁ……私は実際に見た訳じゃないから漠然としかイメージが浮かばないけど、サーヴァントと互角以上に戦えるマスターって反則じゃない。どこのマスターよ? アサシン? それともバーサーカー?」

「それが、サーヴァントが姿を現さなかったからどの陣営なのかは分からない。手袋越しにぼんやりと赤い光が見えたからマスターなのは間違いないはずだ」

「あのね、それが偽装かもしれない……これを言いだすとキリが無いわね。関係者である事は間違いなさそうだし、現時点では暫定敵マスターとしておくわ」

 

実は言うと令呪っぽく赤い光を放つ手袋を嵌めておけば魔力探知が出来ない相手には充分な偽装となる。士郎はその手に疎い為、彼女はそれを警戒しているのだが……そんな事はなく、士郎が見たのは正真正銘令呪。つまりマスターの証だ。

 

「サーヴァント並のマスターってだけでも規格外。身体強化を施していると仮定してもいいけど、この目で見ないと何とも言えないわね。そんなマスターと組んでいるとなるとアサシンでもバーサーカーでも厄介極まりないわ」

「あれ、既に判明しているサーヴァントとマスターを外すのは分かるけどキャスターがさりげなく候補から外れているのは理由があるのか?」

「あぁ、貴方達が謎のマスターと戦っている頃に私達はキャスターと戦っていたのよ。マスターの姿は見れなかったけど、サーヴァントとマスターが別行動を取った挙句それぞれ別の陣営に喧嘩売るなんて真似、普通しないわ。だから除外してるの」

 

彼女が言うように、遠坂とセイバーはキャスターと戦っている。マスターが姿を現さない事はマスター殺しを警戒するなら常套手段である。そして謎のマスターがキャスターを従えているならば、キャスターとマスターが同時に連携して攻めた方がより確実に相手を仕留める事が出来る。別々に行動した挙句別陣営に喧嘩を売るメリットが無いのだ。

それならばキャスターと謎のマスターは別陣営、それぞれ別にマスターとサーヴァントがいると考えた訳だ。

 

「で、バーサーカーは燃費が悪いから温存している……という線も考えたけど、それよりはアサシンが控えていていざと言う時の切り札にしようと隠していた。こう考えた方がしっくり来るわ」

「なるほど」

 

展開された推理は筋が通っている。その線が濃そうだと士郎も考えている。

謎のマスターが従えているサーヴァントはアサシンだと言うのが士郎達の出した結論だった。

ちなみに、ランサーとセイバーは見回りの為部屋の外にいる為、会議には参加していない。

 

「さて、謎のマスターについてはここまでね。後は、これからの方針だけど」

「方針って言っても、他のマスターと戦うんじゃないのか?」

「あのね、闇雲に他陣営と戦っていっても消耗するだけよ? 消耗した所を他の陣営に叩かれたらそれこそひとたまりもないわ。 私達が他の陣営と戦っていたように、他の陣営同士で潰し合いだって当然ある。様子見して情報収集だって選択肢の一つよ」

 

遠坂の言う事も一理ある。何も全てのマスターと戦って勝たなければいけない訳ではないのだ。

しかし、様子見をするという事はどこかで一般人に被害が出る可能性があるという事でもある。それを士郎は見過ごす事等出来ない。

 

「それじゃあ駄目だ、何時何処で犠牲者が出てもおかしくない」

 

士郎が言うように、ニュースでは無惨に破壊された建物が映し出されていた。

恐らくサーヴァントによるものだろう。このまま何もしなければこの様な被害が更に発生する事は想像に容易い。

 

「分かっているわ、だから危険度の高い、又は身近な所から対処していくの」

「危険度はまだ判断要素が無いからなんとも言えないけど、身近な所って言うと……慎二か?」

「えぇ、同じ学校に潜伏しているマスターで真っ向から対立している。彼との対決は避けられないわ」

 

判明している中で最も身近なのは慎二、アーチャ-の陣営だ。

遭遇する可能性が最も高い陣営である以上、真っ先に戦うなら彼等だろう。

イリヤとライダーの陣営はアインツベルンの森。距離は遠く、街の人達に危害を加えて回るかと言えばNo。諸事情で戦い辛いというのもあるが、優先して戦う程ではない。

陣営不明の謎のマスターは従えるサーヴァントの陣営が判明しておらず、キャスターも遠坂達が戦ったが、謎のマスターと同じく拠点が不明。優先しようにも探す宛が無い。

バーサーカー、アサシンのどちらかが謎のマスターと組んでいるとしても残り一組は完全に不明。無いとは思うが万が一謎のマスターとキャスターが同じ陣営だった場合残り二組が完全に不明という事になる。

故に、真っ先に対処するのはアーチャ-陣営に収束する。

 

「分かった、ただ……戦う前に話し合う時間をくれないか?」

「話し合う時間? 慎二と何を話すの?」

「遠坂と同じように、慎二とも分かり合えるかもしれない。だから話し合う機会位は欲しい」

「慎二と? いいけど、何を話し合うのよ?」

 

慎二と士郎は敵対している。だが、慎二は一度衛宮に「仲間になれ」と言っているのだ。あの時は戦う事になってしまったが、話し合いの余地はあると士郎は考えている。

突然不意打ちを仕掛けてきた相手とは仲間にはなれなくても、敵対はしなくてよいのではないかという訳だ。

 

「という訳で穏便に済むならそれに越した事はないと思っているんだけど……どうだ?」

「甘いわね、それで他の陣営と戦っている時に後ろから刺されたら目も当てられないわよ」

「仲間にしたらそうかもしれないけど、休戦位は出来ないか? 他の陣営が全滅するまで俺達は戦わないってやつだ。それなら向こうにも利があるはずだ」

「休戦協定って奴? それを慎二が守るかどうかなんだけど……信用出来るの?」

「それこそ、信用出来なかったらこんな話はしないぞ」

 

その通りである。が、遠坂としては普段の慎二の態度からイマイチ信用出来ない。しかし士郎がそこまで言うならと、彼女は折れた。

 

「…………はぁ、分かったわ。ただし交渉決裂したら即攻撃するわよ」

「分かってる。さすがに向こうが攻撃して来たらこっちだって反撃する」

 

こうして、士郎達はアーチャ-陣営と接触するべく行動を開始した。

ちなみに、士郎達が会議をしている間ランサーとセイバーも何か話をしていたようだが、会話の内容は聞けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、慎二達がいるだろう家まで来た訳だけど……妙ね」

 

学校で会って戦闘になった場合生徒に危害が及ぶ可能性がある、という事で慎二がいるだろう間桐家まで訪れた士郎達。しかし、慎二がいない……というだけならともかく、人がいる気配が一切感じられないのだ。

 

「単に留守なだけじゃないか?」

「違うわ、単に留守というだけなら防犯用に結界か何かがあってもおかしくない。けれど、結界の類どころか防犯の魔術の一切が無いのよ……それもこの屋敷が捨てられたかのように」

 

屋敷を捨てた、つまり間桐の拠点を捨てたという事は慎二達はここで待っていても来ないという事でもある。

となれば、これ以上ここにいても無意味。精々間桐の屋敷を漁って何か無いか探る位だが、そんな泥棒のような真似をする為にやってきた訳ではない。

 

「じゃあ、一旦帰って……」

「待って、士郎」

 

一度戻ろうと士郎が提案しようとした時、ランサーとセイバーが突然実体化した。二人とも臨戦態勢で、その注意は屋敷の中へと向けられている。

 

「どうしたのセイバー、屋敷は見ての通りもぬけの殻……え?」

「遠坂? ランサーにセイバーも……何か見つけたのか?」

「出来れば見つけたくなかったわね……気を付けなさい、あの中から何かとんでもない化物の気配が近づいてくるわ」

 

無音、しかし着実に近づいてくる何か。そのおぞましい気配に彼等は息を飲む。やがてその気配は屋敷の入り口へと到達し、開く扉と共に姿を現した。

 

 

 

「オォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 

全身がドロドロに溶けている異様な有様、こんなサーヴァントがいるのかと士郎は驚愕する。

 

「なるほどね、あれがやってきたから屋敷を手放さざるを得なかったって事……気を付けて、あの様子だとアサシンというよりはバーサーカーよ!」


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