Fate/if 運命の選択   作:導く眼鏡

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第1章:運命の夜(前)

その時は、剣を振って稽古をしていた時にどこかにぶつけた傷だろうと思った。

俺の家には、切嗣(オヤジ)が残してくれた家宝「夜刀神」がある。

後輩である桜は勿論、剣道有段者とはいえ女性の藤ねぇには重くて扱えないらしく、

そのまま放置して埃を被せる位ならばと、俺が普段トレーニングに振っている。

おかげで、剣道では藤ねぇにも負けないしそれなりに強くもなった……と思う。

しかし、素振りとはいえある程度扱いなれている夜刀神を振っていて、

知らぬ内にどこかにぶつけるという事があるのか、とも思ったがそれ位しか心当たりが

なかった。だから、桜に言われて気付いた左手の痣の原因を、そう結論付けた。

 

「あぁ、大丈夫だ。多分知らないうちにどこかにぶつけただけだ」

「多分って……大丈夫なんですか、先輩?」

「大丈夫だって、今の所痛みとかも全く無いし、手だってこの通り正常に動く」

 

そう言って、目の前で手を握ったり開いたりしてみせる。

どこかにぶつけたというのも嘘みたいに、正常に動くし違和感もない。

 

「そう、ですか……」

「だから、何も心配する事はない」

 

そう言って、桜に心配させないようになだめる。

そう、何も心配する事はない。何も心配いらない。

 

「わかり……ました」

「それより、俺達も早くいかないと、遅刻するぞ」

「そ、そうでした!」

 

時計を見て気付いたのか、桜も慌て出す。

藤ねぇはテストの採点がどうのこうのとかで、急いでご飯を掻き込んだ挙句

一足先にバイクで走り去っていった。

朝食を食べ終えた後は、二人で学校に行ってそれぞれのクラスに分かれる。

しかし、左手に出来た痣は一体なんなのか。それが気になって仕方がない。

出かける前に包帯こそ巻いたものの、妙にその痣が気になってしまう。

 

「どうした衛宮、何か悩みでもあるのか?」

 

クラスメイトの一成が話しかけてきた。

彼は生徒会の会長を務めており、彼の頼みを何度か引き受けた事もある。

率直に言えば、一年の頃からの友人だ。

 

「あぁ、腕を知らない間にぶつけたみたいでさ」

 

そう言って、包帯を巻いた右手を見せる。

 

「ふむ、衛宮が怪我をするとは珍しい。だが気をつけなければだめだぞ。頼んでいた家電の修理は腕が治ってからで構わないから、ゆっくり休みたまえ」

「そんな必要は……って言いたいけど、一応安静にはしておく」

「うむ、それでいい」

 

一成と分かれて、それぞれの席に着く。

そして、何時もの授業が始まる。

 

 

 

 

 

授業が終わり、辺りも薄暗くなり始めた時。ふと下校中の桜を見かけたので声をかける。

 

「先輩?」

「よぉ、桜。今から帰りか?」

「はい、部活が終わったので。先輩も、これから帰りですか?」

「あぁ、生徒会の頼み事を手伝っていたからな」

 

桜と一緒に、談話を行いながら帰路に着く。

桜の兄であり、俺の中学校時代からの友人である慎二の話や、最近現れた金髪の外国人、弓道部での話。不思議な事に、会話は弾んでいた。

桜の家に着くまで会話は続き、気づけば屋敷の目の前にまできていた。

 

「今日はありがとうございます、先輩」

「あぁ、桜も部活とはいえ、あまり遅くならないようにな」

「ふふ、普段学校の手伝いやアルバイトで夜遅くに帰宅している先輩が言えた事じゃありませんよ」

「っと、それもそうだな。それじゃあ桜、また明日な」

「はい、また明日」

 

桜が無事屋敷に帰るのを見送る。明かりが点灯するのを確認した俺は、そのまま帰ろうとするが、その時奇妙な音が聞こえた。

キチキチキチ……聞いたことのない音だが、昆虫の羽音にも聞こえない事もない。

この辺にそういう虫でもいるのだろうか?

ふと気になって音の正体を探ろうと屋敷周辺を歩き回る。虫の知らせというやつなのか、

ここにいてはいけないという謎の胸騒ぎもする。

後輩とはいえ、人の家をこれ以上無断で歩き回るというのもどうかと思うので、音の正体が見つからなかったのを確認して帰ろうとした時だった。

 

「もし、そこの少年。この屋敷に何か用かね?」

 

屋敷の前に立っていたのは、見慣れない年老いた老人だった。

余程の高齢であろう見た目からは想像も出来ない凛とした目と、小さな身体から感じられる威圧感。

生きた年月の差を感じさせる威厳を放つこの老人は、何者なのだろうか?

 

「えっと……用っていうか、俺は慎二の同級生で、桜をここまで送ってきた衛宮士郎という者です!」

 

咄嗟に出た自己紹介。桜と慎二の名前に反応したのか、老人の表情が僅かに変わる。

 

「ほう、慎二と桜の知り合いか。それは失礼したな」

「いえ、気にしていないので大丈夫です」

 

老人の表情は変わらぬまま、ゆっくりとこちらに歩み寄る。

 

「衛宮と言ったか。此度のアインツベルンの座の出来はどうじゃ?」

 

唐突に投げかけられた問いは、意味の分からないものだった。

座の出来? 一体何の事を言っているのだろうか?

けれど、アインツベルンという単語には昔聞いたような気もする……

 

「えっと……何の事ですか?」

「とぼけるでない、衛宮の元にアインツベルンが尋ねる事は道理。此度の聖杯の器はどれほどの出来かと聞いておる」

 

言っている意味が本当に分からない。聖杯の出来、と言われても何の事なのかさっぱり分からない。

その様子を見かねた老人は、がっかりしたように溜息をついた。

 

「ふむ、その様子だと本当に知らぬようだな。許せ、年寄りの勘違いじゃ」

「いえ、その……はい」

「儂は間桐臓硯。この屋敷でくたびれている。これからもうちの孫達とも善くしてくれ」

 

それだけ言って、その見た目からは想像もつかない足取りで老人は去っていった。

あの老人から感じられた威圧感は一体なんだったのか?

そもそも、聖杯だの出来だのと言われても、謎だらけでしかない。

 

「一体、何だったんだ……?」

 

気づけば、先程まで聞こえていた羽音のような音もすっかり止んでいた為、そのまま帰路についた。

すっかり遅くなってしまったし、最近はガス漏れ事故やら何やらで、人気も少ない。

早く帰って明日に備えよう。

すっかり静寂した周囲を見回しながら、帰り道を歩く。

冬となると冷え込むのか、おぞましい寒気が身体を通り抜ける。

 

「さすがに寒いな。早く帰って風呂を沸かさないと」

 

こういう日には暖かいお風呂に入って温まるに限る。

今日は生徒会の手伝いをして、桜を家まで送った。今日やる事といえば、家で剣を振って鍛錬するのと、ゆっくり休む位だ。

最近は物騒だし、何時どこで何が起きてもおかしくないから用心はしなければ。

 

「そういえば……」

 

老人が言っていたアインツベルンという単語をふと思い返す。

そう、昔切嗣(オヤジ)が話してくれた土産話の中に含まれていた単語だ。

 

 

 

 

 

「遠く離れた土地にそびえ立つお城には、お姫様が囚われていてね。僕の帰りをずっと待ってくれているんだ」

「囚われのお姫様? 爺さんはその人の所にいかないの?」

「何度も迎えに行こうとしているんだけどね、お城の守りは頑丈だし悪い人に追い返されて中々会えないんだ」

「それじゃあ、そのお姫様は何時まで待っても爺さんに会えないじゃないか」

「困った話だ。けれど勿論、僕は諦めるつもりはないさ」

「お姫様と爺さんが無事再会できるといいな! ……そういえば、そのお姫様って爺さんにとって大切な人なの?」

「あぁ、とっても大切だ。僕の大事な愛娘だからね」

「愛娘!? 爺さん、娘がいたのか!?」

「驚いたかい? 年は士郎より1歳上、士郎のお姉ちゃんだよ」

「へー……名前は何ていうの?」

「名前は…………、アインツベルンの……」

 

 

 

 

……それが、爺さんが一度だけ話してくれた土産話。

アインツベルンという魔術師の家系に囚われたお姫様の話。

確か、名前は……だめだ、思いだせない。

爺さんが亡くなる1・2年前位に話してくれたんだけど、肝心な所が思いだせない。

必死に名前を思いだそうと頭を捻っている時、何かが聞こえた。

 

 

……ィン

 

 

……どこからだろうか? 先程まで音が一切聞こえない静けさだったというのに、

刃物と刃物……具体的に言うと剣と剣がぶつかるような金属音が聞こえてくる。

 

 

……キィン キィン

 

 

歩みを進める毎に金属音は段々鮮明に聞こえてくる。

こんな時間に、一体誰が? 真剣は今のご時世、公に所持していれば

銃刀法違反で警察に捕まる。ではこの音は一体なんだろうか?

ちょっとした好奇心、聞こえてくるのは向こうの公園から。

音の正体が気になる反面、早く帰った方がいいと本能が警告する。

だが、剣の扱いに心得がある俺には、この音の正体を確かめずには

いられなかった。

歩み続け、公園前までたどり着く。この先で行われているのがなんなのかを

確かめようと、顔を覗かせた。その先では……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉおおおおおおおおおおおおお!!」

「甘いっ!!」

 

 

そこで行われていたのは、次元違いの戦い。

赤い武者鎧を身につけた長髪の侍と、白い髪の少女を乗せた黒い馬を携えている金髪の剣士。

その二人が、目にも止まらぬ速さで剣を打ち合っている。

それは、俺や藤ねぇの剣道なんてものとは完全に次元が違う、命を賭けた戦い。

 

「セイバー、あいつの機動力に惑わされないで! 宝具の使用も場合によっては考えて!」

「ライダー、あのセイバー相手には機動力で戦いつつ、堅実に攻めましょう」

 

ライダーと呼ばれた金髪の騎士の後ろにしがみついている白い少女と、セイバーの後ろにいる聞き覚えのある声の女性が聞こえてくる。

一体、彼等はここで何をしているのか。少なくとも、俺みたいなのが介入出来る戦いではない。

介入しようものなら、待っているのは無意味な死。

目の前で行われているのは、それくらい非常識なやりとりだ。

 

「我が剣の雷、受けるがいい!」

 

金髪の騎士が禍々しい気配を放つ剣を掲げる。

その瞬間、信じられないことに剣の切先から目にも止まらぬ速さ……それこそ、見えたと思った次の瞬間

には、剣の切先から放たれた黒い雷が公園の茂みに着弾した。

着弾した周囲は黒い雷によって跡形もなく抉れており、あの剣から放たれた雷が

どれだけの威力を持っているかは容易に想像が付く。あんなのが当たれば、絶対に死ぬ。

しかし、その雷をあの赤い鎧の侍は避けていた。

雷が放たれる瞬間、驚異的な速度であれを避けてみせたのだ。

剣からあんな無茶苦茶なのが放たれた事も驚きだが、それを避けてみせたあの侍も只者ではない。

 

「甘いぞライダー、今度は此方から参る!!」

 

黒い雷を避けたスピードを維持して、侍が騎士に斬りかかる。

その斬撃は恐ろしく速い。剣道の有段者が一太刀を振る頃には、5回の斬撃が放たれている。

それ程の速さで連続攻撃が繰り広げられるが、金髪の騎士はそれを全て捌いてみせた。

 

「チッ、さすがに堅牢だな」

「その程度で私を倒せると思ったら、大間違いだぞ」

 

 

 

やりとりを見て確信した。あの赤い侍と、金髪の騎士は人間ではない。

人の姿こそしているが、あんな戦いは人間ができる戦いを逸脱している。

それを表すように、二人の周囲は、あちらこちらが抉れていて悲惨な状態になっている。

……でたらめだ。

あれと関わってはいけない。俺が関わっていい世界じゃない。

早くこの場を立ち去ろう。気付かれたら殺されかねない。

気づかれないよう、慎重に。しかしなるべく急いで。

公園の中央に立っている存在から少しでも早く逃げようとしたその時だった。

 

 

 

パキッ

 

 

 

「「誰だ!?」」

 

 

気付かれた!? 迂闊だった。

公園にいる人を逸脱した存在に気を取られて、足元の小枝に気付かず踏んでしまった。

俺は大慌てで全力疾走に切り替えてこの場から逃げ出す。

追いつかれたら殺される。いや、本当ならもうとっくに追いつかれている。

眼中になかったから追いかけていないだけなのか、それとも追いかける必要がないからなのかはわからない。

だが、振り向けばすぐ傍にあの、人を逸脱した存在が迫ってきている。そんな気がして振り向かずに全力で走った。

 

「はぁ……はぁ……もうすぐだ、もうすぐ家に」

 

公園からは大分離れた。まっすぐ、全力で家への道のりを走り続けた。

息も絶え絶えの状態で、何度も通った道を必要最低限の距離で走り抜ける。

家まではもう少し。このまま帰って……

 

 

 

タァン

 

 

「……………………ぁ」

 

唐突に鳴り響いた謎の銃声。

それが聞こえたと同時に、俺は倒れ込んだ。

気付けば、脇腹を撃たれていたのだ。

あまりの痛みに、身動きもとれない。

俺は……この、ま……ま……

意識が……遠く……

 

 

 

 

 

「嘘、な……が……」

 

すぐ傍で女性の声が聞こえる。

しかし、最早意識が朦朧としていて返事をする事も出来ない。

ふと、暖かい何かに包まれた感触がしたものの、

俺の意識はそこで途切れた。

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