Fate/if 運命の選択   作:導く眼鏡

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長くなったので前編、後編に分けました。


第1章:運命の夜(後)

「…………ぅ、あれ?」

 

気がつけば俺は、倒れた場所と同じ所にいた。

倒れた所から動けず意識を失ったのだから、それ自体は自然なのだが不思議と痛みがない。

夢だったのかと思った。しかし、目をつぶれば身体を撃ち抜かれた感触が鮮明に蘇る。

あれは決して夢なんかじゃない。俺は確かに、撃たれた。

誰に? 知らない。 何の目的で? わからない。

少なくとも、あの公園にいた侍や騎士、そしてその傍にいた二人ではない。

根拠は全くないが、そんな謎の確信があった。

では、何故俺は無事なのか? 撃たれたはずの傷は塞がっている。

だが、足元に広がっている血溜まりが撃たれたという事実を証拠づけている。

一体何が起きていた? 誰に撃たれたのかも、何故撃たれた傷が塞がっているのかも

わからない。 分かるのは、撃たれた後に誰かに命を助けられた事位だ。

一体誰が? わからない。

何の為に? わからない。

俺を撃った奴はどこに? わからない。

 

…………わからない事だらけだが、このままここに留まっていてはまずい。

さっきみたいな連中に出会えば、俺はすぐさま命を奪われるだろう。

それに、この血溜まりと服に付いた血を見られれば何を思われるか。

 

「……帰ろう」

 

血が不足しているのか、思うように動かない身体を無理やり動かして、帰り道を歩いた。

 

 

 

 

 

 

自宅の一室で、俺はつい先程起きたとも思える光景を思い出す。

……あの戦いは、一体なんだったのか。

この街で一体何が起きているのか。

今の俺には、ここで何もかもやりすごすしかないのか。

考えれば考える程思考が泥沼に嵌っていく。

 

「……剣を振ろう」

 

そう思い至って、夜刀神が保管されている土蔵に向かう。

こういう時は、剣を振って頭をスッキリさせるに限る。

普段から、何か悩みがあったら剣を振って思考をリセットさせて、

それから新たに考え直していた。まるで夜刀神が導いてくれる

かのような、そんな錯覚をも感じている程、剣を振った後は案外あっさりと悩みが解決する。

今回の件も、剣を振って……そういえば、と切嗣(オヤジ)が言っていた言葉を思い出す。

 

 

この刀はね、この世に救いをもたらす唯一無二の刀なんだ

 

 

当時はその冗談じみた言葉を、幼いながらに半ば本気にしていた。

この刀があれば、あいつらとも戦えるのだろうか?

一瞬そんな考えが頭をよぎったが、すぐにそんな考えは消し去る。

あんな次元の違う戦いに介入するのは自殺行為だ。

普段、剣を振っているからこそ分かる。

あの領域は、今の俺では足元にも及ばない文字通り規格外だ。

あんな戦いに踏み込めば、何も出来ずに死ぬだけ……

だが、今この街で起きている謎の事態を、何もせず見ているだけでいいのか?

俺は今まで、何のために剣を振ってきた?

そんな思考が頭をよぎった時だった。

 

 

 

カランカラン

 

 

 

 

「っ!!」

武家屋敷に張り巡らされた、侵入者を知らせる鈴が鳴った。

それはつまり、この家の家主に害意を持った連中が入って来たという事だ。

誰が侵入してきた? 先程の騎士や侍?

それとも、俺を撃った……

幸い、家には俺一人しかいない。そして当の俺は、この閉ざされた空間である土蔵の中。

侵入者が俺に敵意を持って侵入しているのならば、俺を殺しにこの土蔵まで来るだろう。

或いは、気付かずに去ってくれるかもしれない。だが……

 

このまま土蔵でガタガタ震えていてもいいのか?

一番怖いのは、外に出た所で撃ち殺される狙撃。外で一度撃たれている以上、不思議ではない。

だがこのまま土蔵に篭っていても、何も変わらない。

何のために今まで剣を振ってきた?

俺が剣を持った理由。切嗣(オヤジ)が残してくれたひと振りの()

そうだ、衛宮士郎は……切嗣(オヤジ)がなれなかった正義の味方になると、

切嗣(オヤジ)の分まで、(正義の味方)を諦めず叶えるって。

その為に、俺は今まで剣を振って来たんじゃないか!

 

 

 

土蔵の扉を開く。辺りは、無人。侵入者の姿はどこにも見えない。

だが、近づいてくる殺気は、そこに誰かがいる事をものがたる。

足音が近づいてくる。しかし、周囲には何も見えない。

殺気が明確になってくる。そこには何も見えない。

なら、目の前で響く足音は一体、誰の……

 

キィン

 

気付けば、無意識の内に剣を振り上げていた。

見えない何かの攻撃を、弾いていた。

今の一撃は、確実に殺しに来た一撃だった。

明らかに重い一撃。姿こそ見えなかったが、

その感触はそこにナニカがいる事を証拠づけている。

 

「お前は何だ!?」

 

問いかけるが、返事は返って来ない。

当たり前かもしれないが、向こうからすれば返事を返す義理もない。

無言のまま、ナニカはこちらへと迫る。

姿こそ見えなくても、朧げながら感じる気配で、どこにいるかは分かる。

 

「はぁっ!」

 

見えないナニカに向かって、剣を振る。

しかし、その一撃はあっさりと防がれてしまう。

次の瞬間、脇腹に重い一撃が加わり、俺は土蔵の方まで飛ばされた。

 

「がっ……はっ……!」

 

あまりの衝撃に呼吸が出来なくなる。

切れていない、打撃だった事から相手の武器が鈍器だという事は分かった。

しかし、その一撃はあまりにも重く……一撃で衛宮士郎は動けなくなった。

 

ザッ……ザッ

 

ナニカが近づいてくる。俺を殺す為に。

俺は、このまま死ぬのか? 何も出来ず、ただ無意味に?

まだ、誰も助けられていないのに。俺はあの時、たくさんの人を見捨てた。

見捨てて生き残ったからには、助けなければならない。

それなのに、こんな所で……こんな訳のわからない奴に。

殺されてたまるか。死んでやるものか。

 

「ふざけるな……俺は……」

 

そうだ、衛宮士郎はこんな所で死ぬ訳にはいかない。

何も為さず、誰も助けられずに死ぬ訳にはいかない。

俺は、こんな所で……こんな奴に……

 

 

「お前なんかに……殺されてたまるかぁああああああああああああ!!」

 

 

瞬間、包帯を巻いていた左手の痣が光り輝く。

次の瞬間に視認したのは、見えないナニカを両断する青い女性の姿。

それは、一瞬の出来事だった。

その光景に、その女性の姿に、俺は思わず釘付けになり……言葉を失った。

 

 

 

 

 

「貴方が、私のマスターかしら?」


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