Fate/if 運命の選択   作:導く眼鏡

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第2章:潰える日常(後)

聖杯戦争、それは7人の魔術師が万能の願望器をかけて争う戦いである。

聖杯に選ばれた魔術師は、過去、未来における人の身に余る偉業を成し遂げた英霊をサーヴァントという形で使い魔として呼び出し、最後の一人になるまで殺しあう。

聖杯によって招かれるサーヴァントは7騎。

 

剣の扱いに優れたセイバー

弓による遠距離攻撃を得意とするアーチャ-

槍による白兵戦を得意とするランサー

乗り物にのって戦うライダー

理性を失う代わりにステータスが強化されるバーサーカー

魔術に優れたキャスター

暗殺を専門とするアサシン

 

以上の7騎が、それぞれの魔術師に召喚される。

この時、クラスの重複は起こらず、同じ聖杯戦争に同じクラスのサーヴァントが2騎存在するという事は本来起こりえない。

そうして、招かれたサーヴァントと共に、7人のマスターは聖杯を獲得する為に争い、殺し合う。

これが……この町で起きている、聖杯戦争の実態だ。

 

 

 

 

「という訳よ。おおまかな説明は済ませたけれど、それを聞いた上で衛宮君がどうするつもりなのか、聞かせてもらえる?」

「どうするって言われても……信じられないっていうか、その……」

 

そう、いきなり町で殺し合いが発生していて、それに巻き込まれましたなんて言われても飲み込める訳がない。

目の前のセイバーや、隣に座っているランサーが人間ではなく、過去に偉業を成し遂げた英霊だというのも、いきなり言われてはいそうですかと言えるはずがないのだ。

 

「はぁ、そういうだろうとは思っていたけれど……いいわ、もう少し詳しい話を監督役に話してもらいましょう」

「監督役?」

「そう、聖杯戦争を取り仕切る監督役の所にいくのよ。そこで色々聞きなさい。私が説明出来るのはこの位だし、あいつなら分かりやすく説明してくれるでしょうから」

 

聖杯戦争に監督役がいるのか、という疑問も一瞬感じたものの事態がいまいち掴めていない俺からしたら、監督役に話を聞くべきだというのは分かっている。

しかし、俺の為に周りに迷惑をかける訳にはいかない。

 

「俺はともかく、ランサーはいいのか?」

「えぇ、むしろ士郎は一般人も同然の状態なのだから、監督役に話を聞いた上で聖杯戦争に参加するかどうかを決めた方がいいわ」

「だから、俺の問題じゃなくて……」

「貴方の問題なのよ。私としては、当然叶えたい願いだってある。だけれど、その為に何の覚悟も出来ていない士郎を巻き込んだ所で死ぬだけ。だから、話を聞いた上で貴方がどうしたいのかを、貴方の意志で決めなさい」

 

正論の塊に、ぐうの音も出ない。

 

「それじゃ、決まりね。早速だけれど教会に行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

真夜中の教会……明かりがついていない礼拝堂に扉を叩く音が鳴り響く。

つかの間の静寂、礼拝堂側からの返事は返ってこない。

 

「綺礼、いるんでしょう? 入るわよ」

 

突如、扉が開け放たれる。

扉を開くと同時に教会に立ち入るのは、遠坂凛と衛宮士郎の二人。

ランサーは自分がいる事で、士郎の決意を揺るがしたくないという理由で。

セイバーはそのランサーを見張る目的で、教会の前で待っている。

 

「やれやれ、返事も待たずにいきなり土足で入りこむとは、我が弟子ながら困ったものだ」

 

礼拝堂の奥から聞こえて来た男の声。そこから顔を出したのは、神父の姿をした男性。

彼が、この教会で聖杯戦争の監督役を務めている人物なのだろう。その振る舞いは

不気味な程堂々としている。

 

「それで、サーヴァントを召喚したもののあっけなく脱落して保護でも頼みに来たのかね?」

「馬鹿言わないで頂戴。ちょっと問題児が現れたから、アンタに何とかしてもらおうと訪ねて来ただけよ」

「ほう、凛が私を頼って来たのはこれが初めてだ。どれ、そこの少年がその問題児とやらかね?」

「えぇ、そうよ。聖杯戦争のせの字も知らないから、しっかり叩き込んでやって」

「ふむ、いいだろう。愛弟子の頼みとあらば、断る訳にはいかんからな」

 

遠坂と神父がやりとりを終えると、神父はこちらに向き直る。

 

「ようこそ、聖堂教会へ。君が7人目のマスターかね?」

「そのマスターなんてのにもなった覚えは無いし、俺は聖杯戦争に参加するとも言ってない」

「……なるほど、これは重症のようだな。ならば一から説明せねばなるまい」

 

そこから始まったのは、聖杯戦争に関する説明。それだけではなく、監督役の仕事として、神秘の秘匿を行ったり事件の処理を担当している事を聞いた。

この聖杯戦争が過去に4回繰り返されており、今回で5回目の聖杯戦争である事。

そこまではいい。問題は、次の言葉だった。

 

 

 

「聖杯を求めた魔術師達の殺し合いは、毎回大きな爪痕を残している。10年前に冬木を襲った謎の災害……あれも、聖杯戦争によって生み出されたものだ」

 

 

 

……は?

今、この男は何と言った?

10年前の災害が、聖杯戦争によって起こった?

 

「此度の聖杯戦争も、中々の曲者揃いだ。私とて、被害が広まらないように尽力はするが……下手をするとあれ以上の爪痕を残すかもしれんな」

「……なんだよ、それ」

「衛宮君……?」

「ふざけるな! あんなのがまた起こるだって!? どうしてそんなものの為に!!」

「それが、聖杯というものだ。どんな願いでも叶う万能の願望器……それを求めて争うとなれば、町一つが崩壊するなど簡単に起こり得る」

「……どうにか出来ないのかよ」

「簡単な話だ。君がマスターとして戦い、他のマスターとサーヴァントを全員倒せばいい」

「……は?」

「10年前の災害を繰り返したくないのであれば、君がマスターとなり、君のサーヴァントと共に他のマスターとサーヴァントを一人残らず倒せばいい。そうすれば、万能の願望器が邪な輩にわたる事もないし君の願いを叶える事も出来る」

「…………」

 

神父のいう事も最もだ。聖杯戦争による被害を食い止める為には、私利私欲で動いて周囲を巻き込む奴らを倒すしかない。

そうしなければ、10年前……あるいはそれ以上の被害が起こってしまう。

それだけは、だめだ。

それだけは……認める訳にはいかない。

 

「さて、私からの説明はこれまでだが……答えを聞こう。君は、一人のマスターとして聖杯戦争に臨むかね? それとも、この場で令呪を破棄し、聖杯戦争を降りるかね? 勿論、聖杯戦争を降りるのであれば私が責任を以て保護しよう」

 

聖杯戦争に挑むか、降りるか? そんなのは決まっている。

 

「俺は…………聖杯戦争に参加する」

 

その答えを聞くなり、神父は満足そうな笑みを浮かべる。

 

「いいだろう、これにて正式に、君をランサーのマスターとして認めよう」

 

 

 

 

 

 

 

教会を出ると、ランサーとセイバーの姿が見える。あの場でずっと待っていてくれたのだろうか。

 

「おかえりなさい、それで貴方の決断を聞かせてもらえるかしら?」

「……俺は、聖杯戦争に参加する。力を貸してくれるか、ランサー?」

「それが、貴方の選択なのね? その選択に、後悔はないって言い切れるかしら?」

「言い切れる。俺は絶対に後悔しない」

「……そう。なら、私は貴方を支え、貴方を勝利に導くわ。改めてよろしくね、士郎」

「あぁ、よろしく頼む」

 

ランサーと握手を交わす。

俺は逃げない。聖杯を不穏な輩に取らせるつもりはないし、10年前みたいな災害を決して起こさせない。

こうして、俺は聖杯戦争への参加を改めて決意し、一人のマスターとして覚悟を決めた。


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