──生まれ落ちて17年。女の子から告白されるとは思ってもいませんでした。




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前作は完結できそうも無かったので消しちゃいました。


短編:ロリコンって言った奴、屋上

 

 ──可愛い女の子と恋人になりたい。

 

 男ならきっと、誰しも一度は体験してみたいと夢見ることだろう。

 可愛い彼女と手を繋いで下校したり、休日に少し見栄を張って遠出したり、お互いの家でテスト勉強とかしてその後しっぽりムフフ──いえ、何でもありません。

 ともかく、そんな少女漫画のようなコテコテの恋愛がしたいという欲求は、健全な男子学生なら大抵みんな持ち合わせているものだと確信を持って言える。かくいう俺もその例に漏れない。

 

 だが所詮、夢は夢。現実とは違う。

 

 スポーツ万能、学業優秀、片方もしくは両方を兼ね備え、それにある程度カオが整っているという前提がなければ、女の子から告白される可能性は微々たるものだ。

 一方の俺はといえば顔は至って平凡、勉強は中の上、運動神経もそこそこで、一応バスケ部のレギュラーだが部員自体が少人数のためお零れで入ったようなもの。そんな平凡なステータスしか持ち合わせていない。

 ようするに、俺には可愛い女の子が告白してくれるようなアドバンテージが1つもないと言える。言ってて悲しいが事実なので、あるがままを受け入れるしかない。

 そして、そんな平々凡々を体現したかのような俺は今、理解出来ない現状を突きつけられて困惑の渦中にいた。

 

 

「高木君! その……私と、つ、付き合って下さい!!」

 

 

 ──何で俺は可愛い女の子から告白を受けているのだろう?

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 時は少し遡り、これは今日の昼休みの事だった。

 公立高校ながら食堂の設置されている我が校の生徒たちは基本、昼食を食堂か購買か弁当で済ませている。そんな俺は食堂派。

 普段は一緒の食堂組の友人たちが、今日は挙って金欠のせいで食堂に行かないというので、俺は一人寂しくランチメニューを黙々と食べていた。

 そして、ランチも半分くらい食べ終えたそんな時だった。急に誰かに名前を呼ばれ、なんだなんだと口に入れていた食べ物を慌てて飲み込んでそちらの方を振り返った。

 俺を呼んだのは中田という、バスケ部マネージャーの一人だった。偉そうに腰に手を当てて鼻を鳴らしている姿は妙にサマになっていて、無性に腹立たしかったのをよく覚えている。こいつはよく雑用を俺に押し付けてくるので、俺の中での印象は宜しくない。むしろマネージャー陣の中では最低と言っていい。なのにこいつが一番よく俺に絡んでくるという……世の中、本当に上手く出来ていないものである。

 相手するのも面倒なのでサッサとご退場願いたかった俺は、何か用かと半目で訊ねた。そんな俺の心情を知ってか知らずか、中田は横柄な態度で放課後空けときなさいとだけ言い残して、要件はそれだけだとばかりに立ち去って行った。

 態度は鼻クソだし高慢さも目に余るものの、俺の意を汲んで早目に切り上げたので許してやらんこともない。感謝しろ。

 その後は簡単である。放課後、中田に連れられた先に女の子がいて、その女の子と二人きりにされたかと思いきや、いきなり告白されて今に至るというわけだ。

 

 さて、ではそろそろ思考を現実に戻そう。

 この告白してきた女の子には見覚えがあった。名前は確か三枝木(さえき)美里(みさと)。去年、高1のとき同じクラスだった女の子で、その愛らしさからクラスの中ではマスコットとして可愛がられていたと記憶している。今年は同じクラスにならなかったが、聞く話によれば去年と扱いは変わっていないらしい。

 しかし分からない。クラスの中心だった三枝木さんと俺との接点は皆無だったはずだ。話したことなんて記憶にないから数える程度だろうし、そもそも俺に好意を寄せる理由が無い。

 そしてもう1つ困惑している理由がある。

 初めに俺は『可愛い女の子と恋人になりたい』と男なら誰しも思う……と、そう言った。そして目の前の三枝木さんはさっき言った通り、とても可愛い女の子だ。

 幼さを多分に残した顔立ちに、クリッと大きな瞳。軽いウェーブのかかった癖っ毛は肩口で揃えられ、その髪質は光の反射によって青味がかって見えるほど細く柔らかい。

 文句無しに美少女だ。誰に聞いたとしても可愛いと答えが返ってくるだろう。だが──

 

「えっと……三枝木美里さん、だよね?」

「……う、うん」

「返事を返す前に1つ聞いていいかな?」

 

 三枝木さんは小さく首を傾げてから首を縦に振った。所作の一つ一つが小動物を思い起こさせる。

 しかし、それに和んでいる場合ではない。俺はなるべく引きつらないような笑みを意識しながら、心の中にくすぶっていた疑問を吐き出した。

 

 

「身長……いくつ?」

 

 

 聞いた瞬間、三枝木さんは待ってましたとばかりに顔を輝かせる。

 ここまで来ると予想のついている人もいるだろう。

  そう、三枝木さんを指す『可愛い』と俺が最初に指した『可愛い』は──

 

 

 

 

 

「141㎝です!!」

 

 

 

 

 

 ──『可愛い』のベクトルが違う。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「実は私、去年から高木君のことが好きだったんです」

 

 混乱する頭に追撃のカミングアウト。

 俺の記憶が正しければ、先にも言った通り接点なんぞ無かったはずだ。

 え、何なの? 実は照れてて話しかけられなかったとかそんなパターンなの? まさかのひとめぼれとか? マジかよ、ふっくら炊きたて美味しいです。本当にありがとうございました。

 ……あれ、何の話だっけ?

 

 流石に馬鹿なことを考えすぎたと反省して、三枝木さんに目を向けると、何故か小さくシュンっと気落ちしてしまっていた。

 

「でも私、こんな人となりだから……高木君には受け入れてもらえないと思って告白に踏み込めなかったんです」

 

 低身長、童顔、柔らかそうな髪の毛。

 確かに、ランドセルとか背負っていても違和感はないと俺は思う。

 

「ん? なら何で今日、俺に告白してきたの?」

 

 ふと浮かんだ疑問。

 身長や顔立ちは整形でもしないとどうにもならない部分だ。特に三枝木さんはそれにコンプレックスを抱えている節が会話から読み取れる。そうそう適当な励ましなんかじゃ払拭できないだろう。

 その質問を受けた三枝木さんは、さっきまでの沈んだ顔から一転、喜色満面の笑みを浮かべて──

 

「だって高木君は『ロリコン』だって聞いたから! それなら私にもチャンスはあると思ったんです!!」

 

 ──とんでもないことを口走った。

 この時、きっと鏡を見てみれば『目が点になる』を直に拝むことができたのではないかと、後になっても思い返すほどの衝撃を受けた。

 

「……ごめん、もう一回言って?」

「高木君はロリコンなんですよね? なら私でも恋人になれるんじゃないなって思ったんです!」

 

 今日という日は本当に、俺の度肝を抜く事件ばかり起こってくれる。

 

「この時ほど小さい身体で良かったと思ったことはありません」

 

 しみじみ言われてしまったが勘違いしないでほしい。俺はロリコンではない。どちらかといえば、包容力溢れる年上の方が好みかなって思ったり思わなかったり……いえ、思います。

 ──いや、違うそうじゃない。今はそんなことどうでもいい。

 

「三枝木さん? 一体どこのどいつがそんなことを吹き込みやがりましたんですか?」

「あっ、高木君。そういう適当な日本語は控えた方がいいと思いますよ?」

「気をつけるよ。それで、誰が吹き込みやがったんだい?」

 

 少なくとも、特定の誰かが三枝木さんにピンポイントでデタラメを吹き込んだと見ていいだろう。

 もし学校中でそんな噂が流れているとしたら、駆逐すべき(たいせつな)馬鹿ども(おともだち)が間違いなく俺に教えてくれるはずだ。よって、その線は薄いとみていい。

 手掛かりはこの目の前の少女のみ。ロリコンなんて不名誉が散布されてしてしまう前に、早いとこ犯人を締め上げなければ……!

 しかし、俺の適当な返事に不満を感じたのか、ぶぅーっと頬を膨らませて教えてくれない三枝木さん。ああもう、いちいち可愛いな。

 

「ごめんよ。それで誰がそんな事言ってたの?」

「ん、よろしいです」

 

 小さな胸を張り、満足気に頷いた後、しっかりと誰が言ったか教えてくれた。

 

 ──さて中田。テメェの血は何色だろうな?

 

「まぁ、あいつへの鉄拳制裁は後にするとして……一応はっきり言っておくけど、俺はロリコンじゃないよ?」

「……………え?」

 

 三枝木さんの顔から表情が消えた。ついでに目のハイライトも機能しなくなっている。まさか、ロリコンを否定してここまで落胆される日がくるとは思ったこともなかった。三枝木さんは俺の言った言葉の意味を理解して、顔をくしゃりと歪ませる。

 瞳をウルウルとさせて今にも泣き出しそうな様子を見てると、どうにも罪悪感がこみ上げてくるが俺にも今後の生活があるのだ。申し訳ないが、平穏な生活のためにキッパリと否定させてもらおう。

 

「……嘘だよ。世間の目が辛いから隠してるけど、本当は三枝木さんみたいな女の子は好みドストライクさ」

 

 あれれ〜、おっかしいぞ〜?

 何で俺は否定するはずが肯定しているのだろう。

 

「ほんとうですか!」

 

 あっ、止めて、そんなキラキラした目で見ないで。

 ああ、もうダメだ。ごめんよ皆……お兄ちゃん、もう取り返しのつかないところまで進んでしまったみたいだよ。弟妹いないけど。

 

「てか三枝木さん、何で俺なんかを好きになっちゃったわけ? 自分で言うのもアレだけど、いいとこなんか何一つないよ?」

 

 忘れそうになっていたが、これは確認しておきたい項目である。三枝木さんほどの容姿なら引く手数多……ではないだろうけど、俺よりも良い人は見つけられるはずだ。

 なのに俺を見出した理由を是非とも教えてもらいたい。

 

「そんな事ありません! その……私は高木君の優しいところをいっぱい見てきましたし、それに私も助けてもらったこともありましたし」

「優しい? 俺が?」

 

 ハッハッハー、笑わせてくれる。

 そんなこと今まで生きてきたが、学校の先生くらいにしか言われたこともない。それに助けられたとも言っているが、俺にそこのところの記憶はない。

 

「落し物を一緒に探してあげたり、風邪で休んだ人の分のノートを取ってあげたり、お弁当を忘れた人のために購買で何か買ってきてあげたり……それに私も、先生に頼まれた教材を運ぶの手伝ってもらいました」

「え、全部やって当然のことじゃない?」

 

 どの辺が優しいのかピンと来なかった。

 困っている人がいたら手を貸す。そんなこと幼稚園児でも知ってることだ。

 

「いえ、その『当たり前』を『当たり前』にやれる優しさはみんなが持っているものじゃないから……。それは高木君の美徳だと思います」

「……そういうもんなの?」

「そういうもんです」

 

 口に手を当ててクスクスと笑う顔は、高校生に見えないほどあどけないものだった。元々見えなかったけれども。

 

 

 ──キーンコーンカーンコーン。

 

 

 予鈴のチャイムが校内に響いた。

 さて──

 

「あの、高木君。そろそろ返事を……」

 

 ですよねー。要りますよねー返事。

 まぁ、応えは決まってる。同学年の女の子とはいえ、見た目は完全に小学生。加えて学年でもトップクラスに可愛い子と俺とでは比肩しうるに足りない。きっとこの子と付き合ったとしたら、俺は後ろ指を刺されまくる事だろう。何であんな奴が──、俺の方があいつより──と。

 だから──

 

 

 

「是非よろしくお願いします」

 

 

 

 ──その事は後々考えようと思います。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 さて、後日談。

 

 告白を受けたその日の部活、中田を呼び出した俺はロリコン扱いした理由を問い詰めた。

 暴力? 振るってないよ? 本当だよ? べ、別に何もしてないんだからね!

 さておき、理由を聞いてみるとまぁ、怒るに怒れなくなってしまった訳だ。

 何でも最近、美里が落ち込んだ様子を見せていたらしい。食事も小さくなり、ため息も多い。いつもの明るさが息を潜めてしまっていて、見ている方も気分が沈んでしまうほどだったとか。そこで友達として何とか励ましてあげたいと思った中田たちがあの手この手で理由を詮索していったそうな。

 そうして聞き出してみると、中田と俺が部活後に雑用をしている場面を何度も目撃し、2人が付き合っていると誤解してしまったそうなのだ。

 その際の泣き出しそうな美里を見て、咄嗟に「私と高木は付き合ってない。あいつはロリコンだから私は眼中に無い」と嘘をついてしまったというのが事の顛末だそうだ。

 そういう事情があるなら仕方ないと、中田への制裁は厳重に釘を刺しておくだけに留めておいた。

 

 そして告白の日から数週間が過ぎて──

 

「タカ君。また放課後ねぇ〜!!」

「おう、また後でな〜」

 

 俺たちは円満な関係を続けていた。

 今ではお互いに名前を呼び合うまでに発展しているし、毎日とまではいかないけれども放課後デートだってしている。

 

 ──タカ君? 俺のフルネームは高木貴斗だから問題無い。

 

 美里は性格も良く気立ても良い。週に2回は弁当も作ってきてくれて、ここ最近は学校に行くのが楽しい毎日だ。

 人目があるというのに、思わず相好が崩れてしまう。

 

「おーおー、幸せそうだなぁ。ロリコン野郎」

「合法の相手が見つかってよかったなぁ。俺たちもテレビの取材で『いつかやると思ってた』って言わなくて済んでホッとしてるよ」

「で、今まで何回補導されましたか?」

 

 けれども表があれば裏がある。陰と陽。白と黒。

 幸せな事ばかりという甘いことなどなく、災難な事態も同時に起こってしまっていた。

 

 ──俺がロリコンだというデマが校内全域に散布してしまったのだ。

 

 俺がどれだけそれを否定しようにも、「だって三枝木と付き合ってんだろ?」と言われれば一発論破である。

 周りがそう認識してしまえば、個である俺の意見なんぞ聞いてはもらえない。当事者で本人なのに……おかげで、どこへ行ってもロリコン、ロリコンと陰口が耳に入ってくる。

 とはいえそれも最近、それを聞くたびに美里が幸せそうにするから別に良いかと思い始めてきた。順調に美里に染め上げられてきていると実感する毎日。それも悪い気はしないが、もし別れることになった時の事を思うとかなり不安になってくる。間違いなく致命傷となるだろう。そんなことは起こり得ないと祈るばかりだ。

 それと話は変わるが、俺がロリコンと呼ばれる原因の一端を担った中田の態度がかなり柔らかくなった。本人的にも、今回のことは思うところがあるらしい。

 そこのところは俺も気にしていないからいつも通りでいいんじゃないかと思うのだ。こんな可愛い彼女が出来たのも、全ては友人を励まそうとしてついた嘘から始まったもの。なら、俺たちが結ばれたのも中田(以下友人数名)によるところが大きい。

 その功績を称え、今までの悪業を全て許し、且つこれからも何かあれば救いの手を差し伸べてもいいと俺は思っている。

 ヤベェじゃん、俺マジ仏陀。

 それでも優しくしてくれるというのなら、俺も相応の態度で返そう。礼には礼をだ。

 

 ──あれ? そう考えると全然悪いこと無くない?

 

 何だよ幸せしかないじゃないか。そう考えると心の中に風が吹き抜けるようにスーッと晴れ渡っていく。何これ爽快。いいんだよでグリーンだよだわ。

 気分がすこぶる良くなった俺は、ニヤニヤと肩を抱く友人たちの肩に腕を回す。そして寂しいお前らにも幸せを分けてやるつもりで爽やかに告げてやった。

 

「お前ら、屋上」

 

 

 

 ──人生何があるか分からないと思いました、まる。

 

 

 

 

 





三枝木さんの容姿が気になる方は『百姫たん 鬼火』で検索してみて下さい。その子が、三枝木さんの容姿のモチーフになっています。

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