第一話「成功」
パラレルワールドという言葉を知っているだろうか。
平行世界。異世界。御伽噺のような世界。
すべての平行世界が現実とようなものとは限らない。
もしも人間以外の種族が存在していたら...
もしも魔法が使えたら...
そんな世界に迷い込んだ、一人の少女の話。
とある草原地帯。
その上空には甲龍王ペルギウスの城《空中要塞ケィオスブレイカー》が浮かんでいた。
実際はプカプカ浮かんでいるだけのお城。
しかし、その光景は、近づくものに威圧感を与え、空からすべてを見渡せるという権力の強さを示しているようだった。
場所は変わり、空中要塞ケィオスブレイカー内部。
地下15階のエントランスホール。
多くの機械が運び込まれたその場所では、いつもはあまり怒鳴らないペルギウス様が怒声をあげていた。
「ルーデウス!魔力が足りないぞ!もっと送れ!」
空間転移実験。
この世界では禁忌とされている転移魔法を使い、自分の世界へと帰るための実験だ。
私が居るのは、部屋の中心部の床に描かれえている転移魔方陣の上。
じっと、実験が行われるその時を待っていた。
ふと部屋の端を見る。
機材の前ではルーデウスが必死に手をかざしていた。
「送ってますよ!」
上手くいかないのだろうか。
声からは焦りが感じ取れる。
彼なりに必死に頑張っているのだろう。
「くっ、このままでは...」
ペルギウス様も慌てていた。
その声が聞こえた時、私はふと思った。
(あぁ、今回は失敗かな)
実験にはよくあることだ。
また次だ。次頑張ればいい。
そう思った時、魔法陣は光り輝きだした。
*
--黒木 誠司--
12月半ば。
雪が降る肌寒い季節になった。
だが俺はいつも通りにそこへ向かう。
周りには白い壁。機械音だけが鳴り響く静かな空間。
その部屋のベットには一人の少女が眠っていた。
七星 静。
それが彼女の名前だった。
整った顔に綺麗な長い髪。
はたから見れば素直にかわいいといえる容姿。
それらを全て兼ねそろえていた、俺らの自慢の幼なじみだった。
彼女の顔を覗き込み、いつものように話しかける。
「今日も寒いね」
しかし、返事は帰ってこない。
少し顔を眺めた後、窓際の花瓶の水を変えて、椅子に座り本を読んだりして時間を過ごす。
これが俺の日課だった。
彼女が病院に搬送されたあの日から、俺は一日たりとも欠かさずに来ている。
雨の日も風の日も。雪が大降りになった日でさえも必ず行く。
しばらくして、足に何かが落ちてきた。
「いってぇ」
どうやら本を読んでいる最中に寝落ちしたらしい。
重いまぶたを擦りつつ顔を上げると、彼女が目を覚ましていた。
こちらに目を向けている。
驚きのあまりに、思わず大きな声をあげてしまった。
「お、おい!静!
お前っ...うっ...」
どれくらいの間彼女を待った事だろうか。
涙が止まらない。
手で拭っても拭っても、あふれ出てくる。
俺がもっとしっかりしてなきゃいけないってのに。
「やっど、やっどがえっでぎだぁ」
俺はわんわん泣いた。
目覚めた彼女はうつろな目を開けながらも必死に周りを見ている。
この場所がどこなのだろうか、そんな疑問に満ち溢れた顔をしていた。
やがて、また俺に目を向け、口を開ける。
「******!!」
なんて言ってるのだろうか、よく聞き取れない。
「*ぇ****ぁ...」
多分、舌が回っていないのだろう。
長い間眠っていたのだから、無理もないはずだ。
「お帰り」
久しぶりに出た涙を拭ってからそう告げると、彼女の顔はみるみる笑顔になっていく。
俺はこの笑顔が好きだった。否、今でも好きだ。
「ただいま」
また涙が出そうだ。
またこうして彼女と会話をしていることがこんなにも嬉しいなんて。
彼女は言葉を続ける。
「そう、やったのね」
だが、その笑顔は瞬時に終わりを告げた。
「?」
「いや、なんでもないわ。それより私はどのくらいの間眠ってたの?」
淡々と真顔で喋っていく彼女。
意識不明の重体に陥ってからもう三ヶ月は経っていた。
そのことを告げると「たった三ヶ月...」と驚いていた。
髪の毛は伸び、酷く疲れたような顔をしていても彼女は彼女だった。
俺の好きだった七星 静。
何一つ変わらない。
はずだ
だが何かおかしい、以前の彼女とは違うような気がするのだ。
あれだけの重症で、目覚めた時ににこんなにも冷静な人が居るのだろうか。
普通は混乱すると思う。
もしかすると、頭の打ちどころが悪くて逆に冷静なままでいられるのかもしれない。
あとで医者に聞いてみよう。
「やけに冷静なんだな」
「そうかしら。私は生きてることに驚いているわよ?」
冗談めかしてそんなことを言う。
「まぁ、俺も二人がトラックに引かれた時は死を目の当たりにしたよ。大切な人が二人も失われていく絶望感ってやつもね」
「でも生きてた...あの人には感謝しないとね」
運が良かったのかもね、と少し笑いながら話しをする彼女に頷き返す。
「そういえば誠司、秋人は?アキはどうしたの?」
篠原秋人、俺の親友であり、静の彼氏だったやつだ。
今はもう...
「死んだよ、トラックに引かれた次の日に。
俺は誰かが助けてくれたらしいけど、秋人と静は重症で、助けてくれた人は即死だったらしい...
そして、秋人は静より重症だったらしくてね。次の日には死んだよ。」
「そう...」
友人の突然の死は俺の心に突き刺さった。
「まったく、あいつ勝手に先に行きやがって...ホント馬鹿だよな」
「そう、よね...」
彼女は悲しそうな顔をしていた。でも泣かない。
彼氏が死んだってのに涙一つ流さない。
まるで死んでいることを既に知っていたかのように。
パンッ!と頬を打ち、気持ちを切り替える。
彼女はこちらを見て目をまん丸くしているが気にしない。
今は喜ぶべきだ。
俺は彼女と話をしている。
話すことができるのだ。
「ねぇ、私が眠っているこの三ヶ月の間に何かあった?」
「そうだな...」
思い出すと確かに色々あった。
二学期はイベントの多い学期である。
体育祭に文化祭、そして、もう少しすればクリスマスである。
「文化祭は私も出たかったわ」
文化祭では、クラスの出し物としてメイド喫茶をした。
彼女もメイド役として出るのは知っていたので、秋人と二人で楽しみにしていた。
「俺も楽しみにしてたんだよね~」
「なによもう...自分は楽しんできたくせに」
すねる彼女もまたいちだんと可愛い。
「あぁ、すまない」
確かに楽しかった。でも凄く楽しかったとは言えない。
三人でいろんなところを回りたかった。
雑談しながら、笑いあいながら行きたかった。
「少し、寒いわね」
「あぁもう冬だしな」
外を見ると雪が降っていた。
音もなく、シンシンと。
「雪、懐かしいわね」
彼女が唐突に呟いたその言葉は、俺の鼓動を早まらせた。
なぜだろうか。
やはり彼女はおかしいのかもしれない。
”ここは冬に雪など珍しくもないはずだ”
たった三ヶ月で「珍しい」などと言う人は居ないと思う。
もしかしたら、記憶のどこかが無くなっているのかも知れない。
「なぁ」
「あっ、そうそう」
俺の疑問は彼女の声によって遮られる。
「この手紙をある人に渡してきて欲しいの」
そう告げた彼女はベットの中から二通の手紙を取り出し、一通を渡してきた。
「これは?」
「ある人から頼まれてね。住所と宛名は書いてあるはずだから、そこに持って行ってくれないかしら?」
「なんで?」
そりゃそうだ、なぜ俺が持っていく必要があるのだ。
郵便屋にでも頼めばいいのに。
「託されたものだからね。本当は自分で行きたかったんだけど、この体だと時間がかかっちゃうじゃない?代わりに行ってもらえたらなぁって」
「そう、か...」
どうやら手渡さなければならないらしい。
だが俺の頭の中ではいくつもの疑問が生まれた。
”なぜ手紙があるのか”
”いつ書いたのか”
”誰から頼まれたのか”
今聞いても答えてくれないだろう。
この疑問は後から聞くことにして、先に手紙を渡しに行くことにした。
「渡した後に、私が会って話がしたいことも伝えてくれないかしら?」
「うん、わかった。他には?」
「んー、ないわ。」
そして体を起こそうとしたが上がらなかったのか、少し頬を赤くしてこちらを向く。
「お願いします」
「はいよ」
「ありがとね」
笑顔で告げられる。
やはり彼女の笑顔は美しいな。
それを見ることができたことだけでも十分な理由になった。
そして、その住所へと向かった。
*
--七星 静--
セイが部屋を出たのと同時に小さくガッツポーズをした。
実験は成功した。
嬉しかった。
「やってくれるじゃない!」
正直な所、成功するとは思ってなかった。
成功したとしても死んでると思っていたのだ。
それか、世界のどこかに転移して日本に帰れなかった可能性だってあった。
もしもお腹のところにぽっかりと穴があいていたらと思うと恐怖で震えが止まらない。
だが、こうして生きている。
元の自分の体に戻り、こうして誠司に会えている。
ルーデウスには感謝してもしれきれないだろう。
でもアキはやはり死んでいた。
転移しても長生きはできないだろうと思っていたけど...
「アキ...」
彼とはよく口喧嘩をしていた。
幼馴染ということもあり、お互い好きだったということもあった。
最後に彼と話したのがちょっとした口喧嘩だなんて...
「なんで私より先に死んでるのよ...バカぁ...」
今頃涙が出てくる。
さっきセイに言われたときは、あまり真実を受け止めていなかったのか涙が出てこなかった。
「勝手なんだから...」
いつも三人で歩いて帰ったあの時間はもう戻らない。
アキとセイがバカなことやってる姿も見ることはできない。
だが泣いている暇などないのだ。
生きているこの命、大切にしなければならない。
ひときしり泣き終えたあと、今後の方針について考える。
「さて、これからどうしようかしら」
両親は今家にいるはずだ。とりあえず、連絡を取ることにした。
そばに置いてあった自分の携帯で家に電話をする。
少し長めのコールの後、電話に出たのはおばあちゃんであった。
「もしもし、七星ですが」
「私です。静です。
おばあちゃん?お母さん家にいない?」
「...静?おお、静かい?
目が覚めたんだね?良かったわ」
「本当に良かった」と電話ごしで泣いているおばあちゃん。
しかし、私の疑問は晴れない。
いつもこの時間ならお母さんが電話に出るはずだ。
「ねぇおばあちゃん。
お母さんやお父さんは?今に家にいないの?」
「なにを、何を言ってるんだい?」
ゾッと背筋に冷たさを感じた。
なにかおかしい。
嫌な予感しかしない。
「お母さんだよ?いないの?」
「忘れてしまったのかい?もしかして、記憶喪失ってやつなのかい?」
「いや、私の記憶は間違っていないよ。
忘れてなんかいない。忘れるわけないじゃない!」
ついカッとなる。熱い。頭に血が上っているのだろう。
「そう...よくお聞き。
”あんたの両親、つまり息子と奥さんはね、10年前の事故で死んでいるんだよ”」
「え...」
あの日、私が事故にあって転生した日。
確かに両親はいた。
何不自由ない家庭だった。
「だって、だってそんな...」
そんな訳ない、そう思っていた。
いつもの家族や友達がいる世界に帰れると。
そして、帰ってきたと思っていた。
「うん。うん。おばあちゃん。
また電話するね」
おばあちゃんとの電話を切る。
おばあちゃんの話だと、どうやら前の世界と違うのは両親のことだけらしい。
他のことは前と大差ない気がした。
そうか、ここが私が前にいた世界ではないのか。
「こんなにも不幸が続くのね。
これも運命なのかしら」
何も考えたくない。
少し眠りにつくことにした。
*
目を開けて外を眺めると、すでに日は落ちていた。
だいぶ寝てしまっていたらしい。
切り替えなきゃ...
ここは前にいた現実とは違う。
でも、それでも帰ってきたことに代わりはないのだから。
「そうね。まずは...」
これからの生活についてどうしようかしら。
一応バイトをしていたお金があるはずだがいずれは足りなくなるだろう。
ふと気づき、もう一通の手紙を取り出す。
「これで少しでも長生き出来ればいいのだけれど」
ルーデウスから貰ったものだ。
生活が危なくなったら使おうと思う。
まぁいわば切り札のようなものね。
「でもこれ、『彼女にお金をあげてください』とかだったらホントに貰えるのかしら。
見ず知らずの子にお金とかあげる人って、なかなかいないわよね...」
うん。
とりあえず、退院まではリハビリとこれまでのことを書き記していこうと思う。
世間的にはフィクションとして、私の中ではノンフィクションとして
「それにしても夢みたいな日々だったわね。
夢だったとは言えないけれども」
笑えてくる。
おとぎ話のような世界で過ごしてきた日々が現実だなんて。
「さて、まずはあの日ね」
向こうの世界にトリップしたあの日。
絶望の中、一筋の光を見つけたあの日。
私は携帯を起動させ、メモ帳に文字を打っていった。
黒木 誠司のスペック
・顔 普通
・運動神経 普通
・成績 普通
・彼女いない歴 人生を語れる
・特徴 The 普通
初めましてこんにちは
メダカの子です。
今回こちらの作品は、原作を読んでいる最中に思い立ったものでして、なるべく原作の雰囲気を壊さないように徹しております。
執筆ペースは遅いので気長に待ってもらえると嬉しいです。
おかしな部分がございましたら一報ください。修正いたしますゆえ
誠司の疑問は明かされることがあるのでしょうか!(ない)
キャラ設定がばがばなんで許してください。
ではでは、また次話で
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原作と違う点について、修正しました。