時は事故当日へと遡る
--黒木 誠司--
9月の初め。
そう、あの時はいつものように三人で帰っていた時だった。
その日は始業式。
夏が終わりをつげ、いつもより少し肌寒い日が始まろうとしていた。
「だから言ったじゃない!」
彼女、七星 静は怒っていた。
雨に
「天気予報では降るって言ってたから持っていこうとしのに、なにが『こんな晴れてんのに降るわけないだろ?あほか』よ!思いっきり降ってるじゃないの!
ねぇホント馬鹿なの?!馬鹿じゃないの?!」
「いや、だからそれは知らなかったんだって!」
必死に言い訳してるのは篠原 秋人。
俺の親友であり、静の彼氏である。
ここは俺が助け舟でも出すか。
「ま、まぁそのへんで...ほら雨も強くなってるから急ごうぜ?」
「「ちょっと黙ってて!!」」
はい、そうですよね。
二人の鬼気迫る表情に気おされてなんにもいえねぇ...
ふぇぇぇ、怖いよあいつら...
「はぁ...」
結局二人はそのままで放置しておくとして、傘をくるくると回す。
パラパラと雨が傘にあたるこの音は好きだ。
少し歩き、視線を感じた俺は後ろを振り向いた。
何か、いる。
「なんだあのデブ」
明らかに怪しい巨体が見えた。
ストーカーか何かだろうか。
ずっとこっちを見ている。
すっ、と前を向き、バレない様に横目で監視する。
「おーいお二人さん」
ひとまず二人に報告しようとしたが、まだ言い争っている。
「ぁ....ぁ......ぞ」
後ろからデブがなんかしゃべっているようだったがよく聞き取れない。
これはマジで危ない奴だな。
「近づくな」と警告しようと後ろに振り向いた瞬間、その巨体は走ってきていた。
額に汗を浮かべて、必死に。
まるで何かの焦りがあるかのように思える走り方だった。
「おい!」
二人に注意を呼びかけようとして前を向くと、秋人が静を抱いていた。
力強く、離さないように
「どうした?」
その時だった。
太い腕が伸びてきて、俺の襟首を引っ張っていった。
ぐんっ!
視界が急激に変わり、体が硬い何かに叩きつけられる。
「痛っ...」
どうやらコンクリートの壁に飛ばされたようだ。
「おい!おま」
さっきのデブだろう。
そいつに違いない。
そう思い文句を言おうと顔を上げて気づいた。
トラックが迫ってきていた。
そして、トラックの前にあのデブが、その後ろには二人がいた。
「...!!」
言葉を発しようとしたが遅かった。
ドンッッ!!!
鈍い音が聞こえたと同時に三人ははねられていた。
デブが一番前にいたおかげか、二人の体はトラックの進路の外にはじき出されるように飛んで行った。
そして俺らを庇ってくれたデブはトラックの進行方向に飛ばされている。
トラックは止まらない。止まるわけがない。
「やめろぉぉぉぉぉ!!!」
力の限り叫ぶ。
体が痛いが、そんなの気にしない。
だがその声が届くはずもなく、聞こえてはいけない音が聞こえたような気がした。
コンクリートに飛び散る血、肉塊。
そして俺の意識はそこで途絶えた。
*
次の日の午後、俺は目を覚ました。
鼻の奥にツーン、と消毒液のにおいがする。病院だ。
医者は、命に別状はなく、怪我もしていないことをすごく驚いていた。
「これは奇跡ですね」
そう言われ、退院が決まった。
だが俺は納得できなかった。
(奇跡なんかじゃないのに)
俺はあの人がいなければ死んでいた。
あの人が必死だったのは、俺らに身の危険が迫っていたからだと思う。
(家族の人にお礼しないとね)
あの状況で生きていたら奇跡だ。
それこそ、俺なんかと比べることのできないくらいの。
三人の安否を確認すべく、受付に向かう。
受付の看護師に二人ともこの病院で入院していると聞いたので行くことにした。
あの後、通りかかった人が救急車を呼んでくれたらしい。
もっとも、あの太っていた人は即死だったらしく、家族も葬式をしなかったという。
「よほど嫌われてたのかな」
そんなことを呟きつつ秋人の病室まで来た。
「誠司です。失礼します」
どうぞ、中から聞こえてきたので入った。
そこには秋人の家族全員と学校の担任がいた。
皆黙って下を向いている。
「おい...」
秋人を見ると何もないベットで横たわっていた。
点滴も、心拍数を測定する機械も何一つなかった。
「なぁ、秋人。もう起きてもいいんだぜ?なぁ、なんか言えよ」
こいつが何も答えてくれないことはわかっていた。
俺も言いたいことはいろいろあった。
「なぁ!お前が静を守っていくんじゃないのかよ!なんでそんなに早く死んじゃうんだよ!
いつもいつもそうやって勝手に先に行くし!ふざけんなよ!」
どんなに叫んでも、俺の声以外の声が聞こえることはない。
あぁ、理不尽だ。
ゲームじゃないからやり直しもできないもんな。
喪失感ってこんな感じなのかな。
「...おばさん、秋人はいつ死にましたか?」
「...午前中よ」
俺の目が覚める前だったのか。
「あいつは...あいつは勇敢でしたよ。
自分の命より彼女を助けて、あいつが何もしなければ静も死んでいたでしょう。」
あの人のことはあえて言わない。
これがこの場での最善の答えだと思ったからだ。
「そう、ありがとうね誠司君。あの子の最後を見ていてくれて。」
そう告げたおばさんは泣き始めた。
「あの子は、あの子はまだ若いのに!なんで親より先に行っちゃうのよ!
なんで死んじゃったのよぉ...」
死。
その言葉が心に突き刺さる。
こんなにも身近な人が死ぬとは思ってなかった。
あいつらとはずっと一緒にいれると思っていた。
おばさんに続き、秋人の家族が次々に泣いていく。
場の空気に耐えられなくなった俺はその場を去った。
次は静の部屋に行こう。
死んでいない。死んでいてほしくない。
そんな思いが俺を駆り立てる。
早足で静の病室に向かった。
「誠司です。失礼します。」
今度は何も言われない。だが俺はそんなのを無視して入っていく。
静の病室は秋人と違って静以外に誰一人いなかった。
無論、その理由も知っているし、別に驚くほどでもない。
多分、静のおばあちゃんはもう帰ったのだろう。
「静!!」
俺はすぐさま静のベットへと走る。
たくさんの機械につながれている彼女は、まだ目を覚ましていなかった。
「良かった...生きてる」
彼女はまだ意識不明だが生きている。
その事実が、ただただ嬉しかった。
「秋人、恨むなよ」
俺は、彼女の手を握りしめた。
「秋人が守ったこの命。今度は俺が守ろう」
そう胸に誓い、彼女がいつ目覚めてもいいようにこの病室に通うことにした。
次の日からは学校に通いだした。
一人で登校し、何事もなく過ごし、一人で帰る。
周りにいつもの二人がいない。
俺の胸にはぽっかりと大きな穴が開いているようだった。
そして帰り際に、病院により静の病室へと向かう。
日が落ちたら帰る。
そんな毎日だった。
苦しくはなかった。
辛くもなかった。
でも、そんな負の感情に飲み込まれるのは嫌だった。
*
月日が流れ、体育祭が始まった。
もともと体を動かすのが好きな俺は100m走に出ることにした。
いざ自分の番が来たとき、俺は隣のやつに注意を向けた。
津田 理玖。サッカー部のキーパーをしている。
だが足は速く、プレイヤーとしても活躍できる将来有望の選手だった。
(秋人と同じくらいの速さだっけ)
秋人には負けられない
そう思うと不思議と力が出る。
「位置について、よーい...パンッ」
号砲とともに足に力をこめ、スタートダッシュで差をつける。
だが理玖は早かった。他走者を抜いていきトップに着く。
直線では勝てる見込みがない。
(カーブは貰った!)
理玖の後ろにぴったりとついて行った俺は得意のカーブで理玖を追い抜き、再び直線へ。
そのまま風を切るように走り、僅差で一位を取った。
「よし!」
「誠司はえーよ!」
「俺も負けてばっかりだったからな」
初めて負けたーと悔しがってる友人とともにゴール裏へとまわる。
「先輩!おめでとうございます!」
裏にまわった俺に順位カードを持ってきた女の子は可愛かった。
俺が独断と偏見で、一番可愛いのを10だとするとあの女の子は9。
なかなかである。
「早かったですね!見てましたよ!」
「あぁ、ありがとう」
「い、いえいえ!」
照れながら去っていく女の子は頬が赤かったように見えた。
「あの子もしかして...お前のこと狙ってたりしてな!」
「いや、流石にないでしょ」
「あるって!」
「だから...」
「なら俺、貰うよ」
「へ?」
さっきの子が気に入ったらしく、理玖はさっそく口説きに行った。
走っていた時よりも速いスピードで向かう。
(あいつ...本気で走れば俺より早いのかよ...)
手加減していたのは分かっていたが、ここまで早いとは知らなかった。
だが、走り切った達成感か、不思議と悪い気持ちはしない。
(さてと、次の競技に向けて準備しないとな)
そう思った俺は、自分の団のテントへと足を向けた。
その一週間後、文化祭が始まった。
正直行きたくなかった。
行く意味など無いようにに思えていた。
あんなに三人で楽しみにしていた文化祭を、自分一人で楽しめるわけがないと思っていたからだ。
「今日は休もう」
そう思い、二度目の眠りにつこうと思っていた矢先、一通のメールが届いた。
『先輩!今日お暇でしたら私とまわりませんか?』
「これは...」
メールの送信者はあの時の女の子であった。
名前を御堂 香織。俺は香織ちゃんと呼んでいる。
クラスや学年でもモテるらしく、なぜ俺に気があるのかよくわからない。
ただ悪い子じゃないことは確かだ。
どうやら体育祭の後、俺のクラスの女子から聞いてきたらしい(ちなみに理玖は速攻でフラれた)。
今では週に何度かメールを交わしているくらいだ。
「行く意味...できちゃったな。まぁ、せっかく誘われたんだしね」
結局行くことにした。
学校につくと朝から活気だっていた。
校門から校舎までの間には各部活動の出店が並んでおり、せっせと準備をしている。
文化祭が開始されるのは九時。
特に用事のない俺は教室で本を読んで過ごした。
そしてそのあと、体育館で開会宣言があった。
体育館では同じクラスのやつらがやけに盛り上がっている。
「なぁ、お前今日どこから行く?」
「そりゃあもう三年四組のメイド喫茶っしょ!」
「え?二組のにゃんにゃん喫茶じゃないの?」
「いやいや、お前ら何言ってんの?一組の女王様喫茶しかないよな?あんなの行くしかないよな!!!」
「「「お前...」」」
おいおい、喫茶店多すぎだろ...
しかも女王喫茶とか、一部の人間にしか需要無いと思うんだけど...
てか四組、なんで三組の俺らと同じメイド喫茶なんだよ
...
あれ?そしたら全部喫茶店ジャン?
三年を回るのはやめておこう。
そう香織ちゃんに伝えておかなければ。
体育館から出た俺は、集合場所へと向かう。
たしか、屋上だったはずだ。
屋上につくと先客がいた。
「あ!先輩!」
香織ちゃんが笑顔のままこちらに向かってくる。
眩しい。その笑顔は眩しいよ。
「早いんだな」
「ええ、自分から声をかけたのに遅れるわけにはいきませんから」
えっへん!と胸を(ないが)張ってドヤ顔を決める。
「今日のスケジュールは私に決めさせていただきました。終わった後に感想を聞きますからね?
しっかり準備しておいてくださいね!」
「あぁ、三年以外を頼む」
「きーこえーませーん」
「いや、だから、喫茶店以外をだな...」
「何か言いました?」
笑顔のままそう告げた彼女は「さあ、行きましょう!」と俺の手を引いて目的地へと向かっていった。
楽しかった文化祭が終わり、帰路に立っていた俺のもとに彼女が走ってきた。
彼女とはつい先ほど別れたばかりだった。
「はぁ...はぁ...」
「どうした?そんなに慌てて」
「せ、先輩」
ふーっと深呼吸をして一言
「今日はすごく楽しかったです。いつもみたいに変な目で見てくる人もいなくて、自由に遊べました。」
「それは良かった」
自分の行いが他の人に幸せを与えるのならそれでいい。
それは自分にとっても嬉しいことだった。
「あの...私、先輩に会ったあの時から...」
「香織ちゃん...」
「毎日が楽しくなったような気がします。気のせいかもしれませんが」
「香織ちゃん...?」
「嘘ですよ」
「好きです。付き合ってください」
時の流れが止まっているかのようだった。
風も止み、鈍感主人公おなじみの「え?なんて言ったの?」も通じない。
風さん!そこちゃんと仕事して!!!
「...」
「先輩...?」
「その返事はあとでするから、ついて来るか?」
「どこへ?」
「いいからいいから」
「?」
彼女の手を引き、俺はそのまま病院へと向かった。
静の病室に入ると、彼女は動きを止めた。
「先輩、この人って...」
「あぁ、お前も知ってるだろ?あの事件の被害者だよ。
そして俺の親友の彼女であり、幼馴染でもある」
「...」
「俺はさ、親友が守ったこの命を今度は俺が守ろうと思うんだ。だから君と付き合うことはできない。ごめんな
でも告白してくれたのは嬉しかったよ。ありがとう。」
はたから見ればくさいセリフだ。
でも俺にはこれ以上の断る理由がなかった。
でも、本当は付き合いたかった。
初めて自分に好意を抱いてくれた人だったからだ。
しかし、複雑な感情が俺の中では渦巻いていた。
「そうですか...
悔しいような、嬉しいような、複雑な感じですね」
「嬉しい?」
「だって先輩は私のことを嫌ってるわけではないのでしょ?付き合えないのはそれ以上の理由があったから。フラれてもこんなにすがすがしい気分なのは自分でもびっくりです」
彼女はいつもポジティブだった。
目の周りには涙が溜まっている。
多分俺の前では泣かず、誰にも見られないところで泣くのだろう。
「あ、あとから頼んでもオッケーって言わないんですからね!」
「あぁ」
「後悔しても遅いんですからね!」
「あぁ」
ぐずっ。と鼻をすする。
「私の初恋が先輩で良かったです」
その時の彼女の笑顔は一生忘れないだろう。
凄く幸せそうな笑顔だった。
こうして、俺に訪れそうだった春も見事に去って行った。
*
今、香織ちゃんとは、たまに話し合う仲で落ち着いた。
今日は「バスケ部のあの人かっこよくないですか?付き合ってみたいですね」などと恋の相談に乗っている。
実ればいいけどな。
確か、あいつ彼女持ちだったと思うけど。
「くっくっく」
「なんですか?その笑いは」
「いや、なんでも」
俺がこうやって笑えるのは香織ちゃんのおかげだな。
そうして帰りはいつものように病院へ向かう。
静のリハビリの手伝いでもしようかな、そう思いつつ。
津田 理玖のスペック
・顔 割とかっこいい
・運動神経 良い
・彼女いない歴 二か月
・特徴 話しやすい
御堂 香織のスペック
・顔 可愛い、それ以外に表せない
・彼氏 誠司に振られたが、やっぱりあきらめられない模様
(ほかの人とは長続きしない)
・特徴 ちやほやされるのが苦手
どうも、メダカの子です。
投稿ペースが遅い?すいません精進します。
優しく見守ってくれるとありがたいです。
過去編、もとい、事故のときの状況が筆者の妄想によって描かれております。
そして、誠司の恋愛は後につながってきます。
お忘れしないように。
ではでは、また次話で