リハビリを始めて一週間が過ぎようとしていた。
もうすぐクリスマス。
だが私は、足がまだちゃんと歩ける状態ではなく、お医者さんにもクリスマスも病室で過ごすことを告げられていた。
そのことをセイに告げると、すごく張り切った感じで、
「じゃあ俺が!ずっとそばにいてやんよ!」
って言ってたけどどこかで聞いたようなセリフだったわね。
でも居てくれるのはありがたい。
クリスマス一人とかルーデウスに知られたら、絶対「ぼっち乙」とか言われるわよね。
あいつ一夫多妻の大家族だったし...
なんか無性にイライラしてきた。
「憂さ晴らしにリハビリでもしてこよう」
二階のリハビリルームに向かうことにした。
今日は一人で歩く。いつもの看護師さんは別の人の病室にいってるらしい。
周りに人はいなく、少しさびしい。
いつもはセイが来てくれるのだけど、今日は少し遅くなるみたい。
「あぁ~!暇だぁ~!!」
暇暇暇暇ァァァ!!!
...ハッ!
危ない危ない。危うく発狂するとこだったわ。
気持ちを落ち着かせ、リハビリを続ける。
両手で手すりを握り、右足、左足と交互に足を踏み出す。
「っん!...」
足が重い。
私が眠っていた三ヶ月という間は短いように思えていたが、元々あまりない筋肉はもっと衰えていた。
必死に動かそうとするがなかなか上手くいかない。
「まぁ、頑張るしかないよね」
そう自分に言い聞かせ、ノルマクリアを目指す。
一日5000歩。これでもきつい方だ。
(今日はいつもより少しでも多く歩こう)
顔を上げ、足に力をこめた。
その日の午後。
病室にセイがやって来た。
「来たよー」
病室のドアがあくのと同時に、少し高めの声で入ってきた。
病室に来るのがそんなに嬉しいのかしら。
「いらっしゃい」
書いている途中の小説を一旦休憩。
携帯の画面から顔を上げてセイを見ると、わずかながら汗をかいていた。
「何その汗。そんなに急いでどうしたの?」
するとセイは「え?」というような顔をした後、いかにも当たり前のように
「待ってたんでしょ?朝からずっと」
そんなわけないじゃないの...
でも少し...面白かったわね。
「ぷっ、あははははは
ちょっとセイ、いくらなんでもそれはないわよ」
我慢出来なかった。ひたすら笑った。
「えぇ?そんなぁ!急いで来たっていうのに!」
「あはははははは」
その日は、私が帰ってきて、初めて心の底から笑った日だった。
次の日も、また次の日も、リハビリしてはセイと会話して過ぎていく毎日。
毎日懲りずに来てくれるセイのお陰で退屈しなかったし、だんだん自分もセイが来てくれるのを楽しみにしていた。
そしてクリスマス。
例年通り、街に華やかな装飾がされているであろうその日は、病室で静かに過ごす予定だった。
お医者さんにも「安静に」と言われてたしね。
そういう予定だったはずなのに
「外に出ること、医者に許可とったぜ」
いつも通りの時間に来たセイは、開口一番にそんなことを言った。
「え?え?」
急に言われて頭の中が真っ白になる。
なんで許可が降りたのかもわからないし、今年は諦めていたのがまさか行けると言われるとは思っていなかった。
いやでも、それは...
「そういう嘘はいらな」
「本当だよ」
私の言葉を遮ってセイが続ける。
「本当なんだよ。
医者は知ってたんだよ。静がずっと頑張ったこと、知ってたんだよ」
「...」
「ひたすら前を向いて歩いている姿を皆知ってる。
毎日ノルマを上げていってたことも知ってる。ちなみに今は一日10000歩だろ?俺だって知ってるさ」
何も言えなかった。
急なことで少しパニックになっていたが、話してる内容は自然と耳に入ってきた。
それで余計に何も言えなかったのだ。
「そう...今年、クリスマスにどうしても行きたいところがあったから、そこに行きたかったの」
「うん」
「行けるとは思ってなかったから来年でもいいやって、そう思ってたの。
でもやっぱり今年じゃないといけない気がするんだ。
アキが居なくなっちゃった今年じゃないと」
「そう、なら今すぐ行こうよ。
大事な場所なんでしょ?そこは」
「うん!」
外は雪が降っているので厚着をしていこう。
すると、「ほら」とセイが肩を貸してくる。
「こういう時は男の役目ってね」
「いらないわよ別に、松葉杖有るんだし」
そう言って先に病室を出る。
セイは、「松葉杖...」と言いながらじっと私の松葉杖を睨んでいるようだった。
二人で並んで外に出ると、雪は思っていたよりも降ってなく、言葉で表すならば『しんしん』とそんな感じであった。
「さて、行きますか」
スタスタと、器用に松葉杖を使いながら目的地に歩いていく私にセイは口を開いた。
「そういえば、行きたいところってどこ?」
「決まってるじゃない。アキのお墓参りよ」
「なるほど。そりゃあそうか」
アキは確かに向こうの世界にもいた。でも、私より先に死んでしまっていた。
同じだ。この世界と同じ。
結局は、私より先に死んでしまう運命だったのかもしれない。
だからこそ、動けるなら一番先にアキに会いに行きたかった。たとえ死んでしまってもアキはあそこにいる。
絶対に。
「それで、どこにあるの?」
セイはずっと知っていたのか、少し笑いながら反対方向を指さした。
「早く言いなさいよね」
「あっはっは!...って、え?そこで怒られるの俺?」
「ほら、行くわよ」
「ふふっ」と少し笑いながら空いている片方の腕でセイの腕を引っ張り、もう一度目的地へと足を進めた。
*
--黒木 誠司--
静に腕を引っ張ってもらいながら拗ねた顔をしていた俺は、内心凄く嬉しかった。
今までなんとなく距離を置かれていた気がしていた。
だが、この頃の静は笑顔に嘘はなく、心から笑っているように見えるからだ。
しばらく歩いていると、場所は商店街に差し掛かってきた。
「綺麗だな」
「えぇ、そうね」
「まぁ、秋人のお墓参りもそうなんだが、俺は静ちゃんをここに連れてきたかったのさ」
「どうして?」
「病院ってどちらかというと質素な色合いでしょ?たまにはカラフルな彩りを見せたくてね」
「うん。ありがとう!嬉しいわ」
彼女は喜んでくれた。
ここの商店街のイルミネーションは毎年頑張っている。
去年はあまり気にしていなかったが、よく見ると本当に綺麗でつい足を止めてしまう。
「わぁ」
彼女の方も口を閉めることを忘れたまま上を見上げている。
商店街に立ち並んでいる全ての木に綺麗な色合いで飾り付けしていて、これを目的に他県から来る人もいるらしい。
今まで気にしていなかった分、毎年これを見れるのかと思うとちょっと嬉しい。
「さ、暗くなる前に早く行こうか」
腕時計を見ると、時間は午後四時を指している。
この時期にもなると、六時ごろには真っ暗になるときもあるので、早めに行っておきたい。
「もう少しだけ見ておきたいなぁ」
しかし、彼女の方はまだ動きそうになかった。
「きっと夜に見たらもっと綺麗だよ」
「お、そっちのほうも楽しみかも!」
「だろ?だから明るいうちに秋人に会っておこうぜ」
「わかったわ」
そしてまた歩き出す。
商店街を抜けて十分くらい歩くと目的の場所についた。
お墓だ。
「あ」
先にその場所にいた人はこちらを向いて話しかけてきた。
「お久しぶりね、静ちゃん」
秋人のお母さんであった。
もちろん偶然ではなく、俺が目的地を聞いた後に電話をして来てもらった。
「え?秋人のお母さん?あ、お久しぶりです」
彼女の方も、なぜここに秋人のお母さんが居るのか分からず、少し緊張しているようだった。
「すいません、おばさん。クリスマスなのに来てもらって」
「いいのよ別に。私も話したいこととかあったから」
横から肩を叩かれ、「ちょっと、どういうことか説明しなさいよ」と小声で言われるが、無視をしておく
「ごめんね、静ちゃん。これは私が言い出したことなの」
「え?」
「秋人はね、ずっとあなたのことを想ってたの。
自分がもうすぐ死ぬっていうときにも『あいつは無事だったのか?』って聞いてきてね...
私が『あなたが助けたのよ』っていうと『良かった』って
すごく幸せそうな顔をしていたわ。親の私でも初めて見たくらいにね...」
「そうでしたか...
すいません!私の...私のせいでアキを...うっ...」
そうか、彼女が最初暗かったのは秋人がいなくなって辛いという感情だけでなく、自分のせいで死なせてしまった、って抱え込んでいたからなのか。
俺は何にも知らなかったんだな。本当に何も
「違うのよ」
おばさんが発した言葉は彼女の泣いてうつむいていた顔を上に向かせた。
「私はそんなことを言うために来たんじゃないのよ」
「それならどうして...」
「ごめんなさい」
この一言は、彼女のみならず俺まで驚いてしまった。
「ずっと謝りたかったのよ。それこそ、秋人の前で」
どういうことか分からない。まだ頭が混乱している。
「私、いや、私たち夫婦はあの子を亡くしてから一度もあなたのお見舞いに行けなかった」
「あっ...」
「いえ、正式には行かなかったのよ。
忘れたとかそういうことじゃなくてね、純粋に行こうという気持ちはあったのに行動に移せなかったのよ」
「でも、でもそれは普通じゃないんですか?
自分の子を死なせて生き残ってしまった、もう一人の子に対する憎しみってあると思いますよ」
確かに親ならその感情はあるだろうな。ま、俺は場合によるけど。
「えぇ、少なからずその感情はあるわ」
「なら」
「ならお見舞いに行かないの?違うわ。それは違う」
あぁ、そうか。おばさんは分かったのか、秋人の想いが。
「あの子がね、命を懸けて守ったあなたのことを憎んでしまった自分たちに非があるの。
確かにあの子は死んでしまったわ。もういない
でもね、あなたがいる。あの子が守ったあなたがいる。」
秋人の死は決して無駄じゃなく、一人の命を救ったのだ。
それをあの夫婦は現実に受け止めることができた、ということだろう。
「だから、これだけ言わせて
生きていてありがとう。元気な姿を見れて嬉しいわ」
「うわぁぁぁん」
彼女はおばさんに抱き着いていった。
見ていたこっちも泣きたくなる。熱くなった目頭を押さえ上を向いていることにした。
それから女性二人は数十分の間、秋人の話をしては泣いて、という行動を繰り返していた。
「ぐすっ。ん、そろそろアキにあいさつしなきゃね。無視されていて怒っているだろうし」
「じゃあ、私もそろそろ帰るわ。夫が帰ってくる頃だろうし」
「はい、今日はありがとうございました。お話しできてよかったです」
「私もよ、静ちゃん。今度夫と二人でお見舞い行くわね」
「はい!楽しみに待っています!」
「さようなら~」と手を振りつつおばさんを見送った俺らは、本題である秋人のお墓に足を運んだ。
「先にやるね」
「うん」
手でお墓の雪を払いつつ、線香をあげる。
「よう、秋人。元気にしてるか?
今ちょうどクリスマスでな、あの時よりもっと寒くなってるよ。
まぁ、風邪はひかないように気をつけるよ。また来るね」
ほい、と彼女に残りの線香とライターを渡す。
彼女は残った線香全部に火をつけ、供えていった。
「アキ、助けてくれてありがとう。
本当はちゃんと会って話したかったんだけど、こんな形でごめんね。
でもあなたのおかげで私がいる。この命、無駄にしないで生きていくわ。
だからね、ちゃんと見ていなさいよ!
私もまた来るわ。じゃあね」
そう言った彼女は、後ろを振り返り歩き出した。
急いで駆け寄る。
「もういいのか?まだ居ても良かったんだぞ?」
「いいのよ。話せただけでも嬉しかったわ。
セイも連れてきてくれてありがとうね」
「おう」
薄暗くなった空を少し眺めて、俺は決意した。
彼女を好きだという感情。これは口に出さないでおこう。
一番最初の気持ちのように、あいつのかわりに俺が守ろう。それでいいんだ。
「どうかしたの」
立ち止まった俺を見て、心配したようだ。
「いや、なんでもない。さ、戻るか」
「そうね」
俺らは、イルミネーションがより一層綺麗になったであろう商店街へ向かっていった。
*
--七星 静--
来た時より綺麗に見えるイルミネーションの下を通りながらふと思った。
「そういえば、もうそろそろ戻った方がいいんじゃない?」
若干暗くなってきたところだし、先生も心配するだろう。
しかし、セイは「大丈夫、大丈夫」といいつつ
「最後に、ここに行こうって決めていた場所があったんだよね」
と言って、行きとは逆に彼に腕を引っ張られる形となった。
彼が連れて行ってくれた場所は商店街の近くにある時計台であった。
ここからの景色は昔から好きだったのを覚えている。
「ほら、商店街みてみ。
下から見るのと違って、こっちもいいだろ?」
「わぁ」
本日二回目の「わぁ」が出た。
でも声が出るほど綺麗だった。下からだと自分の視界いっぱいに埋め尽くされていたイルミネーションはちっぽけに見えるが、住宅街の明かりも雪がいい具合に反射してより一層綺麗に見える。
今日一日だけですごい多くのことがあった。
「なにからなにまで、今日は本当にありがとうね」
「おう、喜んでもらえて何よりだよ!
またこういうの企画してもいいか?」
「ええ、あなたが苦じゃなければお願いするわ」
「よしきた!任せろ!」
セイには返しきれないような恩ができちゃったな。
本当にいい友達を持ったわ。ありがとう神様。
「さ、今度は本当に帰りますか」
「そうね。帰りましょうか」
そういって病院に帰ることにした。
次の日、病院の先生から「昨日はもう少し早く帰って来るように、君の友達には言っておいたんだけどなぁ」という出だしの説教タイムが朝から始まった。
「何が大丈夫よ」
これはきつく言っておかないとね。
そう思って、お医者さんの話を右から左へ受け流していった。
どうも、メダカの子です。
商店街のイルミネーション
いいですね、一度は見てみたいですね。
今回使用された某アニメのセリf...ゴホ
大好きです(唐突)
皆さんは病院の指示には従ってくださいね。
ではでは、また次話で